自衛隊 異世界転移日報

タケダ

自衛隊 中東へ派遣

自衛隊。それは専守防衛を理念とした日本国の防衛組織。
自衛隊には主に三つの任務がある。
【防衛出動】これは他の国家から侵略を受けた場合に、我が国を防衛するために武力を持って撃退することである。
【治安出動】国内において警察力では対処不可能と判断された騒乱などの場合、自衛隊を持ってして鎮圧することである。
【災害派遣】国内や海外において、天変地異によって多くの人の基本的人権が蔑ろにされる恐れがあるとされた場合、自衛隊を派遣し、復興に力を注ぎ尽力することである。


日常生活で砂地を見ながら生活する人は少ないだろう。勿論日本国内でだが。しかしながら今、自分が居るところはまさに砂漠のど真ん中。周りには白い壁を基調とした、民家が数件ポツンと建っているだけだ。
しかし、そんな中、灰色のコンクリートで構成された要塞の内側には、砂漠だというのに緑色を主とした斑模様の人達が汗水垂らして働いている。
そう、ここは普通の場所ではない。
日本国下の自衛隊中東難民キャンプである。
自衛隊が中東にいるのは何故か。数週間前に巻き戻る。
突如として勃発した中東の国々の争い。それを解決するためアメリカ合衆国が戦争に介入した。
日本政府はアメリカにホイホイと連れられるように、戦争に口を出してしまった。それが後に面倒くさいことの引き金となってしまう。世界各国から非難の嵐が巻き起こったのだ。
「いつも口は出してくるのに何もしない日本が何の用ですか?」
「本当に平和を目指しているなら、自衛隊に解決してもらいたいものですねぇ。」
売り言葉に買い言葉。政府は挑発に乗ってしまい、勢いで自衛隊を中東に派遣。与党の圧倒的議席で法案を通し、陸上自衛隊と航空自衛隊を主体とした難民キャンプを王国内の領地、「カートル」にアメリカ軍の協力のもと多数の戦争難民を保護する駐屯地兼航空基地を設立した。という経緯だ。
日本国内では「戦闘地域に自衛隊を駐屯させるのは危険だ」だとか、「憲法九条に乗っ取って」など世論は派遣反対に傾いていた。
正直いうと俺もイスラエル王国に派遣と聞いたときには愕然とした。

「失礼します」
「ご苦労、早速だが座ってくれ」
重厚な造りの部屋の中を、一歩一歩慎重に歩き椅子に腰かける。
「君は確か・・・」
「はい、自分は第十普通科連隊所属の小松原 海斗一等陸尉であります」
俺は今、東京都市ヶ谷にある防衛省に来ている。用件はまだ詳しく知らないが、目の前にいる上官の顔つきからして、異動だろうか。
「小松原一尉、わざわざ北海道から来てもらったのには理由がある」
「はぁ」
上官は数瞬間をおいて話始めた。
「防衛省から直接君に異動命令を通達する。・・・、場所はイスラエル王国だ」
ん?上官は確か日本国内の地名以外を言ったような。
「申し訳ありませんがもう一度宜しいですか?」
「中東のイスラエル王国、カートルに異動してもらいたい」
かーとる?どこそこ。しかもイスラエル王国って戦争中だったような・・・
「驚くのも無理はない。先日、自衛隊は中東へと人道支援を行うと決定した」
「人道支援ですか・・・」
「そうだ。そして第一陣として君には参加してもらいたい」
当たり前だが拒否権など無い。そして異動する日時、場所、方法が書面が俺に渡された。いや、押し付けられたといった方が正しいが。
最後には決まり文句の
「君の検討を祈る」
が上官から言われた。



そして今、俺は陸上自衛隊イスラエル王国派遣部隊の小隊長として砂漠の中を高機動車で疾走している。乾いた風と舞い上がった砂が運転中のフロントガラスに叩きつけられている。
先程、近くの小都市の市長へと挨拶へと行く任務をしてきたばかりで、俺と部下たちは疲労困憊していた。
「小松原一尉。しっかし疲れましたねー」
助手席から馴れ馴れしく話しかけてくるのは、同じ小隊の部下である山口三等陸曹だ。彼は隊内でも有名な現代戦おたくで、あまりの自衛隊好きがそのまま職業に直結した変わり者だ。
「山口。一尉にそのような言葉遣いはどうかと思うが?」
口を挟んできたのは、同じく小隊員の櫛一等陸曹だ。この小隊では風紀委員のような役割をしている。

中東派遣部隊は特異な編成で構成されている。陸自部隊の大きさは二連隊程度の戦力であり、かつほぼ全ての職種が揃っている。まず、普通科は二個大隊、機甲科、高射特科、航空科はそれぞれ一個大隊。陸自の精鋭揃いの特殊作戦群はゲリラ対策として一個小隊、第一空挺団は駆けつけ警護要員として一個中隊が派遣される、いささか過剰戦力としても認識されるような部隊が第一陣として海上自衛隊の元、派遣された。
一方、同じく派遣された航空自衛隊も空将補を筆頭とした、一個飛行隊が付属として派遣されている。

そして今まさに海上自衛隊の補給艦である「ましゅう」型補給艦の「かすみがうら」がキャンプ内に併設されている港に到着しようとしているため、キャンプ内では海上自衛官がいそいそと作業をしている。
俺たちは高機動車を駐車場に置き、このキャンプ最高指揮官である、「陸将補」に報告するため足取りを隊舎へと進めていた。
「失礼します」
目の前には白髪を生やした、五十代後半の男性が力強く立っている。
「それで、首尾はどうだ?」 
代表として俺が口を開く。
「はい、先方は我々、自衛隊の事を少なくとも悪く思っている様子はありません」
実際には普通のおもてなしを受け、典型的な挨拶をしただけだが。
「ふむ。わかった、任務に戻ってくれ」 
それだけしか聞かないのか。周りの部下は特に反応することなく、ちょっとした挨拶を終えたあと無難な対応で部屋を出た。
「一尉。一応任務は終了しましたが、どうしますか?」
山口三曹が聞いてきた。俺は少し考えたあと
「昼飯にでもするか」
こう提案したのである。まぁ、何の変哲もないコミュニケーションだ。これも大事な自衛官の仕事だ。
「はい!そうしましょう」
「山口。腹が減ってるのか?」
「いや、ただなんとなく」
グゥー。絶対腹が減ってるだろ。
自衛隊の食堂では和食、洋食ともができる設備が完備されている。運動量が激しい自衛隊では、質よりも量が重視されるので作り手の自衛官はてんやわんやだ。
「おっ、今日のメニューは鯖味噌か、うまそうだな」
「美容にもよさそうですね」
同じ小隊の石川陸士長がいち早く人数分の椅子を確保し、彼女は急いでカウンターへと注文しに行く。そんなに慌てなくても飯は逃げないと思うのだが。
目の前には櫛、隣には山口、斜めには石川という配置だ。
「さてと、俺も頼むか」
「自分もです」
山口も立ち上がった、その瞬間だった。突如として揺れがキャンプを襲った。建物内の設備がガタガタ揺れ、物が落ち始めた。
「いいか!そこを動くな!収まるまで待て!」
大声で室内にいる自衛官に指示を出す。
「結構でかいし、長いですね」
三十秒ぐらいだろうか。揺れはようやく静まっていった。
「各員、部隊員の状態を掌握。その後、直属上司に報告!」
まずは隊員の安全を第一に考え、班員を掌握する隊員達。
「点呼!」
「山口、櫛、石川とも無事を確認しました」
『ピンポンパンポン』
お馴染みの放送が流れる前の音が流れ、その後に男の声が響き渡る。
『小隊以上の各部隊長は、隊員を把握し陸将補まで報告せよ』
『ピンポンパンポン』
「いいか、君達はこの場で待機。俺は報告に行ってくる」
「了解しました」
食堂を尻目に、先程までいた陸将補執務室へと小走りに自然となる。しかしながら、頭には不可思議なことがこびりついて離れない。それは果たしてここ、中東で地震・・・は起こるのか。ということだ。
ここが日本ならば地理的にプレートとプレートの間にあるため、たいして大きな事態とはならないはずだ。だが中東はアラビアプレート上にあり、ユーラシアとアフリカの間からは離れてある。
「小松原君、報告ありがとう」
陸将補の声で思考の暗闇から現実へと引き戻される。
「はっ、現時点では自衛官に被害はありませ」
「陸将補!」
報告に重なるように他の自衛官が入室してきた。
「なんだね?」
息も切れ切れにまくし立てる。
「機甲科の戦車および装甲車においてC4IシステムのGPSが機能しません!」
「はぁ?」 
陸将補は困惑して、額から血の気が引いて行く。
次には高射特科の隊長が入る。
「高射特科のGPS座標入力システムがダウンしました」
そして今度は通信科の責任者だ。
「地震の後より防衛省との連絡がとれません!また、他の軍事基地と回線が通っていません!」
極めつけは航空自衛隊の空将補からだ。
「こちらは航空自衛隊です。そちらは陸上自衛隊さんですか?」
「は、はい。それで何でしょうか?」
「航空自衛隊現在地表示システムがロストしました。そちらでは何か心当たりはありますでしょうか?」
「はい。こちらでも全ての部隊のGPS機能が喪失しています。他にも通信科と防衛省との連絡が途絶しています」 
「そうですか。ありがとうございます」
明らかに俺の目からも陸将補が今にも倒れそうな瀕死の顔つきをしている。
「陸将補っ!」
「今度は何だっ!」
机を拳で叩き付け、顔は先程の蒼白な様子から、真っ赤にして部下を睨み付けている。
「外をみてくださいっ!」
「あぁ?」 
「いいから!」
しぶしぶ陸将補はブラインドを上げる。外から眩しい日の光が差し込んでくる。
「なっ、何だあれっ!」
陸将補のリアクションはその場にいた自衛官の心内を代弁していた。
何故なら、先程まで数件の民家しか存在しない砂漠が、草や木が生えている草原へと、そして長い壁に囲まれた城塞都市が出現したからである。









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