俺は5人の勇者の産みの親!!

快晴シャリラ

第2話 謝罪の気持ち

 
 俺は、その時間の授業の内容が全く理解できなかった。
 ホメオスタシスだとか、クロマトグラフィーだとか、なんか適当な文字が羅列する世界にたった一人取り残された難民なんだ、俺は。
 流されていく人々を横目に見ながら溜息をつく。

「リュート」

 横にいたのは、先ほど手を叩いてしまったカノンだった。
 もじもじしながら、彼女はエータを見つめる。
 何かを察したのか、ゆっくりと何も言わずに立ち上がったエータは、そそくさとしながら教室を出て行った。

 カノンと二人きり。
 時が止まったように見つめ合ってしまう。
 なんだろ、様子が変だぞ?

「江夏さん……えっと、その……」

 先ほど叩いてしまった女性を前に萎びてしまう俺。
 何かを言おうとするが、上手く口からは出てこない。
 グダグダと時間を浪費していると、彼女の指がゆっくりと俺の唇に触れた。

「カノン、でしょ?」

「……。カノン……さん」

「ダメ! カノン!」

「カ……ノン……」

 あぁ、ダメだ。
 こうやって俺は犬みたいに手懐けられてしまう。
 入学式からずっとこの調子が続いているような気がする。
 ここは、やはり一回噛み付いてあげないと気がつかないのだろう。

「カノン!!」

「なぁにぃ〜?」

 カノンはにこりと笑うと、美しい白い歯を見せながら頭を揺らす。
 ぴょんと跳ねると、俺の横に寄って顔を見上げる。

「……悪かったよ、ごめん」

 俺は下を向くと、赤くなる顔を見せないように、出来るだけ髪で隠す。
 が、彼女はそれを予期していたように、初めから下から覗き込んでいた。

「ふふ、リュートって本当にわかりやすくて可愛い、大好き」

 カノンは俺に抱きつくが、今まで見せていたようなあからさまな拒絶をしないようにした。
 俺だって男だ、抱きつく行為自体は嫌では無かった。

 彼女は素直なんだ。

 それを否定するなんて、まるで個人の尊厳を傷つけているみたいでどこか歯痒い。
 本当に、こんなんでいいんだろうか。

 ゆっくりとカノンの肩に手を回す。
 ……柔らかい。
 女の子ってこんなに可愛くて愛しいものなんだ……。
 やっぱり、カノンってめちゃくちゃ可愛い……。


 バチン!!!!


 いつかの音よりも、かなり高い音を立てながら俺の右腕が空を切る。

 空に舞い上がる右腕、遠心力というやつでくるりと回転する俺の体。
 ものすごい力で発射されたカノンの右手は、何事もなかったかのように真っ白だ。

「誰が触っていいっていたの、愚か者!!」

 カノンはいきなり戦闘態勢に入ると、ビビり上がった俺は後ろに仰け反って机に頭を打つ。

 は、は、はぁ!?
 な、何今の?
 完全に俺がいけなかったのか?
 肩に触れたのがいけなかったのか?!

 頭を抑えながら悶える俺は、怒りを覚えてカノンに向けてガンを飛ばす。
 このクソ女! ぶん殴ってやる!
 俺はぐっと力を込めて右手の拳を強く握った。
 と、目の前に映った小さな手。
 そこにはいつも優しく触れてくれた柔らかいカノン手があった。

「これでおあいこだね、リュート」

 ふふっと笑うと、いつもの可愛いカノンがそこにいた。

「お、おう……」

 怒りをかき消すほどの凄まじい威力を持つ彼女の笑顔。
 その笑顔に免じて、今回だけ、今回だけは許してやろうと思う。

 カノンに手を引かれて立ち上がると、そのままに抱きつかれる。
 何もできない俺は、肩には触れないように出来るだけされるがままにした。

「これからもよろしくね! リュート!」

「……。ああ、うん」

 不本意ながらも、なんとなく気が引けたのか、カノンの意見に初めて承諾した。
 カノンは、俺がそっぽを向いて天井を見るのを確認すると、カノンは一気に後ろに振り返る。
 何を見ているのかはよくわからんが、可愛い女の子に抱きつかれてるんだ、今日はまあまあいい日だったとカウントしとくか。

 ◆◆◆◆◆◆

 窓の外の人影。

 私は、その影を見逃さない。
 やはり来たわね、嫉妬かしら?

 リュートに抱きついてるのを見せつけてあげてるんだから、そろそろ諦めなさい?

 あらあら、逃げるのね、てっきし乗り込んでくるのかと思ったけど……。

 ふふふ……!
 勝った……!!!!

 つづく。

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