俺は5人の勇者の産みの親!!

快晴シャリラ

第1話 平和な日常

 
「リュート!! おっはよ!!」

 カノンは俺の横に座る。
 露出度が高い服を着て来た彼女は胸元をわざと強調する。
 誘ってるのか?

 俺は、わかりやすく不快な顔で拒絶するものの、この女は一切気づかない。
 いや、気づいているのに御構い無し。

 桜の木は、昨日と比べて緑がかっている。
 みんな散ってしまったのだと、少しだけ寂しい気持ちになる。
 頭の中で詩を書いてみようと目を瞑るが、きゃいきゃいとうるさい少女が俺の腕を引っ張る。
 ……こいつさえ横に来なければ、さらに感傷的な思考に落ち着く事が出来たのに。

「なぁ、江夏さん。あまり近づかないでくれないか? 周りの目を気にすることもできないのか?」

 真剣な表情で、さらに怒りのトーンで叱りつけるが、彼女は一切動じない。

 鋼の根性を持った黒髪の少女は、これでもかと俺の体を触りまくる。

「いやーん、この引き締まった体! かっこいいわぁ!」

「おい! 来んなっつったろバカ野郎!」

 カノンの顔を掴むと、グリグリと掌底を押し付ける。
 彼女の顔は崩壊寸前ながらも、俺の顔にキスをしたがって離れない。

 すると、俺の後ろでドカンとカバンを置く音がする。
 カノンがちらりと目をやる。
 誰か来たのだろうか、俺も彼女の目線の先を見る。

「……なぁ、これは一体どういう状況なんだろうな、親友の季本龍斗。朝からイチャイチャとしやがって、リア充は良いよなぁ、昨日の夜はどうだったよ?」

 そこには昔からの大親友の瑛太がゴミを見下すような目をして立っていた。

「待てよ、エータ。こいつが俺に付きまとっているだけだ。俺はこいつと断じてイチャついてないぞ!?」

 俺は抱きつく女を引き剥がそうとするが、人間じゃないほどの握力で腕を掴まれて離れない!
 あ、いててててて!

「えー、何言ってんのリュート! 私たち恋人同士なんだからいーじゃなぁい!」

 カノンはもう一回俺にキスをしようと飛びついてくるが、 無慈悲な俺は可愛らしい顔を掴んで外に押し出す。
 手に伝わる唇の感触が気持ちいい。
 女の子の唇って、案外柔らかくて薄いものなんだな……。
 いや、そんなことは本当にどうでもいい!

「助けてくれよエータ! こいつをひっぺがせ!」

 俺は必死で叫んだ。
 エータに助けを乞うことは正直感に触るが、この際仕方ない。
 右手を伸ばして、エータのオレンジ色のパーカーを掴もうとするが、ヤツはヒラリと避けやがった!

 エータは、何も言わずに去っていく。
 その後ろ姿は、妙に映画のワンシーンのように見えた。
 それから、彼は右手を上げて横に手を振った。
 中指が立っている。

 そうか、童貞の恨みというヤツだ、これが。
 じゃあな、エータ。
 達者でな……。

 じゃねぇよ、助けろよエータァァァァ!!

 ズブズブ。
 ズブズブズブズブ。

「ねぇ、リュートー! 今日どこか行こうよぉ〜!」

 飲み込まれていく。
 彼女からの独裁的な愛に溺れながら、今日も気持ちの悪い1日が始まるんだ。

 別に、カノンは可愛いとは思う。
 背は少し低いけど、おっぱいも大きいし、黙ってればお嬢様のような風格があるのに、動かしてみれば猛獣のそれだ。
 彼女が右手を上げれば、俺は彼女の元へと行かなければならない。
 そんなルールができる前までに、できるだけこいつとは距離を置きながら別の男になすりつけなければ。

 第一、なぜこんなに俺ばっかり固執してベタベタしたがるのか理由がわからない。
 入学式の時、まるで色々な生徒に見せびらかすような告白をして、きっと俺とカノンが付き合っていると思っている奴ばかりだろう。

 言い遅れた、俺とカノンは付き合っていない。

 これは全てカノンの一方的な愛なのだ。
 手を繋ごうと指に指を絡ませようとするわ、どさくさに紛れてキスをしようとするわ、昨日だって会って初日で家まで来ようとした。

 何を焦っているんだ、カノンは。

「江夏さん。本当にやめてほしい」

 俺は、怒りと決意を手の震えで伝えてみる。
 まぁ、流石に察してくれるだろう。
 その手をカノンが確認したのは目の動きでわかる。
 間違いなく伝わった、しかし彼女はさらに大きな言葉の布で俺のことを包み込もうとする。

「えー、今日がダメなら、明日どこかにいこうよ?」

 震える手を握ろうとカノンは綺麗な手を伸ばす。
 美しい女性の指が俺の指の隙間に入り込むと、何かが切れたのか、怒りが収まらなくなってしまった。

 ばちん!

 俺とカノンの手のひらが鳴らした音だ。
 人間を平手で殴るのは、痛くて気持ちが悪い。
 だがしかし、もっと気持ち悪いものを見つけてしまった。

「……あーあ、リュート、やっちゃったね」

 それは、カノンの笑顔であった。
 叩かれたにも関わらず、ふふふと笑ってみせた。

 ハッとして、辺りを見渡す。
 あたりから発せられる殺気を帯びた熱視線が俺の体を貫いていた。
 それに気づくと、何も言わずにカノンから少しずつ離れる。
 何かが起きる……怖くなったのだ。

 女に手をあげるのは、そんなに駄目なことか?

 その行動を見ていた周りの大学生たちが、静まるとすぐにひそひそ話を始める。
 熱視線の次は聴覚攻撃か、悪趣味な連中だ。

「……わかるだろう? もう、近寄るなよ」

 俺は荷物を持って立ち上がると、エータの横に座る。
 瞬間、彼は拳を握る。
 修羅のような顔をした彼の姿を、俺は目に焼き付けた。

「いったぁ!」

 エータの拳が俺の頭上に突き刺さる。

 エータの顔が怖い。
 そして、何も言わずに教科書を開き、シャーペンを握った。
 そんなに駄目なのか、女の子に手を挙げちゃあ...!
 相手はストーカーだぞ!?

 こんな、こんな大学生活、耐えられない!!

 桜が舞い散って、花びらがなくなる理由がなんとなくわかった。
 みんなにピンク色の姿を晒すことが耐えられないからだ、きっと。

「あぁ、どうか、俺に平和な日常をください」

 そう呟いて、手を組んで祈ってみる。
 まぁ、あの女は追ってくるんだろうな。

 ◆◆◆◆◆◆

 悩んでる悩んでる、やっぱり私の演技は最高ね...!
 あまりにも上手くいったから、正直拍子抜けしちゃうわよ、リュート?
 あらあら、友達に殴られてやんの。

 そう、私の事だけを考えて?
 ヒロインは、私だけで十分でしょう?

 私は日記にペンを滑らせる。
 ふふっ、リュートって意外と扱いやすいかも。
 こんなに踊るようにペンが動くのは久しぶりだわぁ。

『4月8日、快晴。私、カノンは本日もリュートとの接触に成功しました。彼はとても元気です』

 これから楽しくなりそうね、リュート!

 つづく。

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