Duty
chapter 19 絆 -4
4 9月16日 絆
雷鳴轟く宵崎高校の屋上。
静間と五十嵐、東は驚き目を見開いていた。
霧島たちの背後から御影零の声が響いた。
「充兄さん!」
霧島は驚き振り返った。
御影零はドアを思い切り叩き開け、慌てて『神谷陽太』と『胡桃沢桜』に駆け寄ろうとした。
「寄るな!」
静間は拳銃を御影零へと向けた。
「ガキが……! 黙っていれば普通の人生を生きれたかもしれないのに! 以前には『審判』を使って私を脅しに掛けようとしやがって! 私が全ての鍵を握っていることも知らずにね!」
御影零は静間を睨んだ。
「御影充の呪いだとでも思っていたか? 馬鹿が! 心霊なんて非科学的なもんすら夢見るようになったのか、哀れなクズめ」
「……」
「いい? お前の愛する充は死んだの。もうこの世にはいないの! いい加減に目を覚ましなさい。御影零」
御影零は全てを蹴散らすように叫んだ。
「哀れなのは貴方のほうよ!」
静間は眉間に一層の皺を寄せ御影零を睨んだ。
「何も見ようともしていないくせに、わかったような口きかないで……いい加減に目を覚ましなさい……!」
静間は舌打ちをした。
そして、トリガーに指を当てた。
「不愉快だ。お前から死ね。御影零」
そのとき、暗雲を切り裂くような雷鳴とともに空から滴が降り出した。
そして、硬直していた『神谷陽太』がゆっくりと口を開いた。
『俺の娘を侮辱するな!』
周囲にいるもの全てが目を見開いた。霧島も衝撃を受けた。
その声は神谷陽太の声ではなかった。
誰か別の。
まるで大人の男が乗り移ったような声だった。
静間も信じられないとでもいうような目で神谷陽太を見つめていた。
「……馬鹿な」
御影零はハッとして『神谷陽太』に向かって声をかけた。
「お父さん! お父さん、また意識が戻ったの!」
「お父さん……だと」
霧島が感嘆の声をあげた。
「そんな……神谷陽太の霊媒体質は、御影充へと捧げられたものでは……?」
霧島は誰にも聞こえないような声で呟くと、それをかき消すほどの声で静間は叫んだ。
「ふざけるな! そんな……馬鹿なことがあるはずない! お前、どうしてあの人の声を出している! どうして『御影徹』の声を発している! 答えろ、神谷陽太!」
『お前はこれ以上さらに家族を苦しめるのか? ……お前は再び『充』を殺すというのか!』
「!」
静間の手が震え始めた。
拳銃に込められていた力が解けていくのを感じた。
「黙れ……黙れ……黙れ! 充がなんだ! あんなガキは私には関係ない! 私は『審判』を実行しなければならない! それだけが私に課せられた『Duty』だからだ!」
『そんなことをしてもお前の苦しみは消えない!』
静間の瞼が震え始めた。
「ふざけるな! 何を言っている! 私は……私は苦しんだことなど、今まで一度もない! 私は……私にとって充はただの無様な肉塊にしか過ぎない! 私は――」
『お母さん』
その声に静間が拳銃を落とした。
どっと嫌な汗が噴き出るのを感じた。
身体中が硬直して、なお震えが止まらなくなった。
胃液が込み上げてくる。
視界がぐらつく。
「どうしてだ……」
静間は全てが理解できなかった。
今、目の前にいる『女』から、どうして『あの子』の声が聞こえるというのだ。
一時だって離れずに、自分の耳に纏わりつき、いくら削ぎ落そうとしても消えない、『あの子』の声が……。
『胡桃沢桜』は焦点がつかめないような瞳を浮かべ、再びゆっくりと口を開いた。
『お母さんのせいじゃないよ』
静間は既に持っていない拳銃の引き金を引こうとした。
「黙れ……」
『お母さんは、悪くない』
「黙れ……」
『僕は知っているよ。お母さんはいつだって僕のことを見守ってくれていたよね』
「黙れっていってんだろが!」
静間は再び瞼が熱くなるのを感じた。
#精神的外傷__トラウマ__#だった。もうこの感覚は二度と味わいたくなかった。
何かが自分の中から込み上げてくる。
それは液体となり眼球の脇から絞り出される。
そして、胸の中に鉛が形成される。
とてつもなく重い鉛が。
CT検査にも映らない。
手術をしようとも取れない。
いらない、鉛が……。
そして、この理解できない感情が。
ああ、誰かこれを取ってくれ。
こんな#感情__もの__#は、人間には……私にはいらない。
『胡桃沢桜』は静間の前までゆっくりと歩いてきていた。
「やめろ……来るな……」
『……』
「お願いだ……やめてくれ……私は……」
『……』
そして、ゆっくりと静間に抱きついた。
『お母さんが僕を嫌いでも、邪魔だと思っていようとも、興味がなかろうとも』
「……」
涙が溢れ出た。
『僕は、お母さんが大好きだ』
ああ、やはり……天気予報は嘘だったじゃないか。
今日の天気は雷雨だ。
「いやあああああああああ!」
静間は崩れ落ち、目からは大粒の涙が溢れ出ていた。
その瞬間、ぴんと張られていた糸が切れ、ふっと力が抜けたようにして、陽太と桜はその場に倒れた。
霧島と御影零は駆け寄り、陽太と桜の肩を揺すり声をかけた。
霞むぼやけた視界を開くようにして、陽太と桜は目を開いた。
「霧島……俺は……?」
「大丈夫だよ。神谷君」
霧島は、地面に這いつくばる静間の姿を見つめ、
「全て終わった」
と呟いた。
御影零が静間のもとまで歩き、首元から掛けていたロケットを外し目の前に投げ捨てた。
「一生分後悔し続けて、一生分苦しんでから、死になさい」
ロケットのなかの写真は笑顔の男と少年と少女、そして無表情の女、4人が写った家族写真だった。
まるで身体中の水分が枯れるかのほどに、静間は地面に這いつくばって慟哭していた。
そんな姿の静間を見つめて、陽太と桜は目を伏せた。
やっと、だ。
終わったんだ。
『審判』は終わったんだ。
そのとき、大きな雷鳴が轟いた。
そして、雲間に光る雷鳴のなかに一筋の硝煙が上っていた。
音は雷鳴にかき消された。
しかし、確かに銃が発砲されたということだけはわかった。
「え……」
陽太と霧島はその銃と銃口の先を見つめた。
五十嵐の持つ銃から硝煙が上がっていた。
そして、その銃口の先には腹から大量の血を流す静間がいた。
「……え、え」
静間は苦しそうな吐息を漏らしていた。
そして、2発目、3発目、4発目……。
サプレッサーの中に消える発砲音が響いた。
身体中から血を流し、静間は手を伸ばした。
その手は御影零が落としたロケットを掴もうとしていた。
五十嵐と東は、血だらけの静間のもとまでやってきて、その手を踏みつけた。
そして、静間の頭に銃口を当て、発砲した。
脳漿が雨に汚れ飛び散った。
陽太たちの怯える眼差しは、その光景から目を離すことができなかった。
東が落ちている拳銃を拾い、そして、五十嵐の持つ拳銃が陽太たちに向けられた。
「ひどいことだ。審判実験は失敗。我々の苦労は全て水の泡だ。よって、手順に従い『役立たずのゴミ』の排除は完了」
五十嵐の冷たい言葉に続き、東も口を開いた。
「続いて、『実験サンプル』の排除を開始する」
再び大きな雷鳴が轟いた。
雷鳴轟く宵崎高校の屋上。
静間と五十嵐、東は驚き目を見開いていた。
霧島たちの背後から御影零の声が響いた。
「充兄さん!」
霧島は驚き振り返った。
御影零はドアを思い切り叩き開け、慌てて『神谷陽太』と『胡桃沢桜』に駆け寄ろうとした。
「寄るな!」
静間は拳銃を御影零へと向けた。
「ガキが……! 黙っていれば普通の人生を生きれたかもしれないのに! 以前には『審判』を使って私を脅しに掛けようとしやがって! 私が全ての鍵を握っていることも知らずにね!」
御影零は静間を睨んだ。
「御影充の呪いだとでも思っていたか? 馬鹿が! 心霊なんて非科学的なもんすら夢見るようになったのか、哀れなクズめ」
「……」
「いい? お前の愛する充は死んだの。もうこの世にはいないの! いい加減に目を覚ましなさい。御影零」
御影零は全てを蹴散らすように叫んだ。
「哀れなのは貴方のほうよ!」
静間は眉間に一層の皺を寄せ御影零を睨んだ。
「何も見ようともしていないくせに、わかったような口きかないで……いい加減に目を覚ましなさい……!」
静間は舌打ちをした。
そして、トリガーに指を当てた。
「不愉快だ。お前から死ね。御影零」
そのとき、暗雲を切り裂くような雷鳴とともに空から滴が降り出した。
そして、硬直していた『神谷陽太』がゆっくりと口を開いた。
『俺の娘を侮辱するな!』
周囲にいるもの全てが目を見開いた。霧島も衝撃を受けた。
その声は神谷陽太の声ではなかった。
誰か別の。
まるで大人の男が乗り移ったような声だった。
静間も信じられないとでもいうような目で神谷陽太を見つめていた。
「……馬鹿な」
御影零はハッとして『神谷陽太』に向かって声をかけた。
「お父さん! お父さん、また意識が戻ったの!」
「お父さん……だと」
霧島が感嘆の声をあげた。
「そんな……神谷陽太の霊媒体質は、御影充へと捧げられたものでは……?」
霧島は誰にも聞こえないような声で呟くと、それをかき消すほどの声で静間は叫んだ。
「ふざけるな! そんな……馬鹿なことがあるはずない! お前、どうしてあの人の声を出している! どうして『御影徹』の声を発している! 答えろ、神谷陽太!」
『お前はこれ以上さらに家族を苦しめるのか? ……お前は再び『充』を殺すというのか!』
「!」
静間の手が震え始めた。
拳銃に込められていた力が解けていくのを感じた。
「黙れ……黙れ……黙れ! 充がなんだ! あんなガキは私には関係ない! 私は『審判』を実行しなければならない! それだけが私に課せられた『Duty』だからだ!」
『そんなことをしてもお前の苦しみは消えない!』
静間の瞼が震え始めた。
「ふざけるな! 何を言っている! 私は……私は苦しんだことなど、今まで一度もない! 私は……私にとって充はただの無様な肉塊にしか過ぎない! 私は――」
『お母さん』
その声に静間が拳銃を落とした。
どっと嫌な汗が噴き出るのを感じた。
身体中が硬直して、なお震えが止まらなくなった。
胃液が込み上げてくる。
視界がぐらつく。
「どうしてだ……」
静間は全てが理解できなかった。
今、目の前にいる『女』から、どうして『あの子』の声が聞こえるというのだ。
一時だって離れずに、自分の耳に纏わりつき、いくら削ぎ落そうとしても消えない、『あの子』の声が……。
『胡桃沢桜』は焦点がつかめないような瞳を浮かべ、再びゆっくりと口を開いた。
『お母さんのせいじゃないよ』
静間は既に持っていない拳銃の引き金を引こうとした。
「黙れ……」
『お母さんは、悪くない』
「黙れ……」
『僕は知っているよ。お母さんはいつだって僕のことを見守ってくれていたよね』
「黙れっていってんだろが!」
静間は再び瞼が熱くなるのを感じた。
#精神的外傷__トラウマ__#だった。もうこの感覚は二度と味わいたくなかった。
何かが自分の中から込み上げてくる。
それは液体となり眼球の脇から絞り出される。
そして、胸の中に鉛が形成される。
とてつもなく重い鉛が。
CT検査にも映らない。
手術をしようとも取れない。
いらない、鉛が……。
そして、この理解できない感情が。
ああ、誰かこれを取ってくれ。
こんな#感情__もの__#は、人間には……私にはいらない。
『胡桃沢桜』は静間の前までゆっくりと歩いてきていた。
「やめろ……来るな……」
『……』
「お願いだ……やめてくれ……私は……」
『……』
そして、ゆっくりと静間に抱きついた。
『お母さんが僕を嫌いでも、邪魔だと思っていようとも、興味がなかろうとも』
「……」
涙が溢れ出た。
『僕は、お母さんが大好きだ』
ああ、やはり……天気予報は嘘だったじゃないか。
今日の天気は雷雨だ。
「いやあああああああああ!」
静間は崩れ落ち、目からは大粒の涙が溢れ出ていた。
その瞬間、ぴんと張られていた糸が切れ、ふっと力が抜けたようにして、陽太と桜はその場に倒れた。
霧島と御影零は駆け寄り、陽太と桜の肩を揺すり声をかけた。
霞むぼやけた視界を開くようにして、陽太と桜は目を開いた。
「霧島……俺は……?」
「大丈夫だよ。神谷君」
霧島は、地面に這いつくばる静間の姿を見つめ、
「全て終わった」
と呟いた。
御影零が静間のもとまで歩き、首元から掛けていたロケットを外し目の前に投げ捨てた。
「一生分後悔し続けて、一生分苦しんでから、死になさい」
ロケットのなかの写真は笑顔の男と少年と少女、そして無表情の女、4人が写った家族写真だった。
まるで身体中の水分が枯れるかのほどに、静間は地面に這いつくばって慟哭していた。
そんな姿の静間を見つめて、陽太と桜は目を伏せた。
やっと、だ。
終わったんだ。
『審判』は終わったんだ。
そのとき、大きな雷鳴が轟いた。
そして、雲間に光る雷鳴のなかに一筋の硝煙が上っていた。
音は雷鳴にかき消された。
しかし、確かに銃が発砲されたということだけはわかった。
「え……」
陽太と霧島はその銃と銃口の先を見つめた。
五十嵐の持つ銃から硝煙が上がっていた。
そして、その銃口の先には腹から大量の血を流す静間がいた。
「……え、え」
静間は苦しそうな吐息を漏らしていた。
そして、2発目、3発目、4発目……。
サプレッサーの中に消える発砲音が響いた。
身体中から血を流し、静間は手を伸ばした。
その手は御影零が落としたロケットを掴もうとしていた。
五十嵐と東は、血だらけの静間のもとまでやってきて、その手を踏みつけた。
そして、静間の頭に銃口を当て、発砲した。
脳漿が雨に汚れ飛び散った。
陽太たちの怯える眼差しは、その光景から目を離すことができなかった。
東が落ちている拳銃を拾い、そして、五十嵐の持つ拳銃が陽太たちに向けられた。
「ひどいことだ。審判実験は失敗。我々の苦労は全て水の泡だ。よって、手順に従い『役立たずのゴミ』の排除は完了」
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