Duty
chapter 17 転生 -3
3 9月2日 母と子⑤
深夜。
陽太は眠れずに2階の自らの部屋からキッチンへと下りてきた。
冷蔵庫から飲み物を取り出しコップに注ぎ一気に飲み干す。
乾いた喉が潤うのと同時に、脳が冴え渡り、昼の惨劇が思い浮かぶ。
陽太は思わず吐き気を催し、蛇口から水を出しながら吐き出した。
「陽太?」
そのとき、誰かが自らの名を呼ぶ声を聞いた。
はっとして、声のした方を向くと母である神谷波絵が立っていた。
暗い中ではあるが、彼女が寝ぼけ眼ではないことがわかった。
どうやら波絵も起きていたようである。
「眠れないの?」
波絵は穏やかな口調で陽太に尋ねた。
「ああ、母さんも?」
「ええ」
そう言いながら食器棚からコップを取り出し、ミネラルウォーターを注いだ。
「陽太も飲む?」
「俺はもう飲んだから、いらない」
頷くと波絵は一口飲んだ。
陽太は吐いてしまったこともあるのか、どことなく気まずくなり部屋へ戻ろうとした。
そのときだった。
「陽太、最近学校はどう?」
波絵から久しぶりに学校のことを尋ねられた。
「え……」
陽太は今まで通り無理をしてでも嘘をつくような一言を発することができなかった。
言葉が何も出てこなかった。
「楽しい?」
背を向けたまま波絵は続けた。
「……」
「陽太のクラスの子、自殺したんだってね?」
陽太の背に脂汗が滲んだ。
「大丈夫?」
「……」
陽太は何も答えられなかった。
「出席日数が足りているなら別に無理して通うこともないのよ? 受験勉強は家でもできるんだから」
「大丈夫だよ」
陽太は喉から声を必死に絞り出したが、少し大きい声になってしまったようで、波絵は身体をびくつかせた。
「ごめん母さん」
「……陽太、あのね母さんね……」
「……」
波絵はコップをテーブルに置くと、そのままそこに椅子に座った。
「母さん、陽太に頑張れとか、しっかりやれとか、そんなことしか言ってあげられてなくて。陽太は陽太なりに大変なのにね……」
陽太は波絵のほうへと振り返った。
「母さん。俺は……俺は……」
「なに?」
「……なんでもない。ごめんもう寝る」
陽太は再び波絵に背を向け歩き出そうとした。
「母さん、俺は大丈夫だから。死んだりしないから」
そういい残し、部屋へと歩いていった。
残された波絵はしばらく呆然とテーブルの上のコップを見つめていた。
そうすると、棚に置いてあるロケットへと手を伸ばした。
それを掴むと胸に抱き寄せるようにして、優しい声でつぶやいた。
「きっと大丈夫。貴方ならうまくやれるわ」
彼女は穏やかな微笑みに満ちていた。
深夜。
陽太は眠れずに2階の自らの部屋からキッチンへと下りてきた。
冷蔵庫から飲み物を取り出しコップに注ぎ一気に飲み干す。
乾いた喉が潤うのと同時に、脳が冴え渡り、昼の惨劇が思い浮かぶ。
陽太は思わず吐き気を催し、蛇口から水を出しながら吐き出した。
「陽太?」
そのとき、誰かが自らの名を呼ぶ声を聞いた。
はっとして、声のした方を向くと母である神谷波絵が立っていた。
暗い中ではあるが、彼女が寝ぼけ眼ではないことがわかった。
どうやら波絵も起きていたようである。
「眠れないの?」
波絵は穏やかな口調で陽太に尋ねた。
「ああ、母さんも?」
「ええ」
そう言いながら食器棚からコップを取り出し、ミネラルウォーターを注いだ。
「陽太も飲む?」
「俺はもう飲んだから、いらない」
頷くと波絵は一口飲んだ。
陽太は吐いてしまったこともあるのか、どことなく気まずくなり部屋へ戻ろうとした。
そのときだった。
「陽太、最近学校はどう?」
波絵から久しぶりに学校のことを尋ねられた。
「え……」
陽太は今まで通り無理をしてでも嘘をつくような一言を発することができなかった。
言葉が何も出てこなかった。
「楽しい?」
背を向けたまま波絵は続けた。
「……」
「陽太のクラスの子、自殺したんだってね?」
陽太の背に脂汗が滲んだ。
「大丈夫?」
「……」
陽太は何も答えられなかった。
「出席日数が足りているなら別に無理して通うこともないのよ? 受験勉強は家でもできるんだから」
「大丈夫だよ」
陽太は喉から声を必死に絞り出したが、少し大きい声になってしまったようで、波絵は身体をびくつかせた。
「ごめん母さん」
「……陽太、あのね母さんね……」
「……」
波絵はコップをテーブルに置くと、そのままそこに椅子に座った。
「母さん、陽太に頑張れとか、しっかりやれとか、そんなことしか言ってあげられてなくて。陽太は陽太なりに大変なのにね……」
陽太は波絵のほうへと振り返った。
「母さん。俺は……俺は……」
「なに?」
「……なんでもない。ごめんもう寝る」
陽太は再び波絵に背を向け歩き出そうとした。
「母さん、俺は大丈夫だから。死んだりしないから」
そういい残し、部屋へと歩いていった。
残された波絵はしばらく呆然とテーブルの上のコップを見つめていた。
そうすると、棚に置いてあるロケットへと手を伸ばした。
それを掴むと胸に抱き寄せるようにして、優しい声でつぶやいた。
「きっと大丈夫。貴方ならうまくやれるわ」
彼女は穏やかな微笑みに満ちていた。
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