Duty
chapter 9 調査 -3
3 7月6日 後悔と殺意①
賑わいを見せる街中の商店街。
休日ということもあってか、いつも以上に活気に溢れていた。
行き交う人々は、世間話を交わしたり、芸能人の噂を立てたり、どこの店で何を買うといった計画を話したり、皆が浮かれ顔の軽い足取りで歩を進めている。
その中に二人、そんな気分にはなれない人間がいた。
一人は茶髪でおしゃれにセットされた髪型、チャラチャラとした恰好の男子。その隣にはいかにもギャルといった女子が並んでいる。
金城蓮と仲居ミキである。
3年1組A軍の二人は今学期の初めまで豊かな楽しい学園生活を謳歌していた。
しかし、自分たちの友を含めたクラスメイトが立て続けに死んでいる。
それからというものどう足掻いても金城もミキも心から浮かれた気分になどなれはしなかった。
ドンッ――と歩く金城の肩に誰かがぶつかった。
「おい! いてえなっ! なんだてめー、女連れて歩きやがって」
宵崎高校とは別の高校生らしい、いかにも不良といったその男たちは肩がぶつかった金城に喧嘩を売ってきた。
「わりい……喧嘩する気分じゃないんだわ。謝るから帰ってくれ」
金城は重い溜息をつくと、不良たちにそう告げた。
隣でミキは金城に隠れるように不良たちを睨みつけている。
「はあ? ははは! 雑魚かよお前! だっせー奴だなあ! ぷははは!」
今の金城はそんな安い挑発に乗るような気分になど、なれはしなかった。
こんな不良数人など現在の金城たちが置かれている状況と比べたら、微塵の興味すら示せない、道端の石ころ同然の存在であった。
振り返り歩き出そうとした金城に不良たちは背後から蹴りを繰り出した。
金城は思わず前方へ仰け反る。
「おらあ!」
「雑魚がよ、かっこつけてんじゃねーよ! 謝るなら金よこしやがれ」
呟くように金城は答える。
「お前らにやる金なんて持ってねえよ」
ミキが金城の背中の靴跡を払った。
「お前さっきから生意気だな、ああ!」
不良たちは無抵抗の金城を掴み挙げ、路地裏へと入って行った。
「金城!」
そして、そこで激しく殴る蹴るを繰り返す。
金城は何の抵抗も見せず、やられっ放しだった。
ミキはどうすることもできずに、ただ黙って金城が殴られる様を見ていることしか出来ずにいた。
行き交う人々はそんな暴行を見ているのか、いないのか、また見て見ぬフリなのか、違う世界で行われている出来事のように通り過ぎていく。
不良たちは気が済んだのか、ぐったりした金城を見下し去っていこうとした。
そのとき不良のうちの一人が怯えるミキを視界に捉えた。
「あれ~。よく見たらこの子結構可愛くない」
「俺、ケバイ女は無理だわ」
「じゃあ化粧落とさしてからヤればいいじゃん」
「そうだな。お前さー、とりあえずは俺たちと来いよ」
「こんな雑魚君よりマシだぜ」
ミキは怯えた表情でそこから動けずに居た。
不良のうち一人がミキの腕に掴みかかる。
「や……やめて! 離せ!」
不良に囲まれ、掴まれたミキは抵抗することすら出来ない。
「この女、生意気だな」
「いやでも生意気なタイプのほうが興奮しね?」
「言えてるわ。なんか泣かせたくなる」
ミキは必死にもがき続ける。しかし、男数人の力に女性が敵うわけも無く。
「くそ! 離せ!」
「さ! 俺たちと行こうぜ!」
そのときだった。路地裏から苛立ちを含ませた静かな声が聞こえた。
「俺の友達だ、手出すんじゃねえ」
薄暗い路地裏の奥で、静かに金城が立ち上がった。
そして、陰りを見せる眼差しで友人を怯えさせたケダモノを視界に捉えた。
「はあ?」
「おいおい! 雑魚君は黙ってろよ!」
「お前弱いんだから、女の前だからって恰好つけんなって」
「安心しろよ雑魚君。この女ならヤッてポイだからさ!」
刹那。
金城の脳内で何かが再生された。
――鮮血に……
染まる友――
狂い――
笑いながら――
堕ちていく……
友――
そして、ブチッと何かが切れる音がした。
数人の不良たちがまるで残骸か何かのように捨てられている。
そんな路地裏から金城とミキは出てきた。
「なんか久しぶりに頭空っぽに動けたって感じ! スッキリした~!」
ミキは金城の屈託の無い笑顔を久しぶりに見た気がした。
「たまには運動も必要ってことじゃん?」
ミキも金城につられて笑みが零れた。
「考えても、思い悩んでも、帰ってこない」
「……うん」
「たぶん……まだ『審判』は続く、よな」
「……うん。そう、かもね」
「だったら、もう俺の友達は誰も死なせない」
「……」
「俺たちがこれから考えていくことはそれしかないだろ」
「そうだよ! 金城もアタシも、皆、もう大丈夫だよ!」
「安心しろ。お前たちは俺が守るから」
ミキは嬉しそうに頷いた。
そのとき金城とミキの前方で見覚えのある影が動いた。
遠くの書店前で雑誌を片手に動くその人物は確かに金城もミキも見たことのある人物であった。
金城が首を傾げながら呟いた。
「あれって……伊瀬だよな」
平森の友人である3年1組C軍の伊瀬友昭が店頭に並ぶ雑誌をパラパラと捲りながら立っていた。
何故であろうか、その様子は雑誌を読んでいるというふうには見えなかった。
目は虚ろで目の前の空間を見つめているような。
「伊瀬、アイツ……なにやってんだ?」
「ねえ金城。アイツなんか変じゃない?」
その瞬間、金城はその雑誌を丸め、自らが持っていたバッグに詰め込んだ。
そうそれは万引きであり、立派な『罪』である。
「!」
金城とミキからサッと一気に血の気が引いた。
金城は何かを考える暇も無いうちに伊瀬に向かって走り始めていた。
そして伊瀬の腕に掴みかかった。
「え!」
伊瀬は急に腕を掴まれたことに驚き、はっとして、金城だということに気が付いたようであった。アワアワと動揺して焦点を掴めなくなっていた。
「お前! 何してる!」
金城は伊瀬からバッグを奪い、中身に仕舞われていた雑誌を店頭に返した。
「馬鹿じゃねえのか、……こんなことしたら……」
そのうち伊瀬の瞳からぼろぼろと涙がこぼれ始めた。
「は……? お、おい。どうしたんだよ、伊瀬」
大粒の涙はただただ地球の重力に従い、地面へと急速に落下していった。
賑わいを見せる街中の商店街。
休日ということもあってか、いつも以上に活気に溢れていた。
行き交う人々は、世間話を交わしたり、芸能人の噂を立てたり、どこの店で何を買うといった計画を話したり、皆が浮かれ顔の軽い足取りで歩を進めている。
その中に二人、そんな気分にはなれない人間がいた。
一人は茶髪でおしゃれにセットされた髪型、チャラチャラとした恰好の男子。その隣にはいかにもギャルといった女子が並んでいる。
金城蓮と仲居ミキである。
3年1組A軍の二人は今学期の初めまで豊かな楽しい学園生活を謳歌していた。
しかし、自分たちの友を含めたクラスメイトが立て続けに死んでいる。
それからというものどう足掻いても金城もミキも心から浮かれた気分になどなれはしなかった。
ドンッ――と歩く金城の肩に誰かがぶつかった。
「おい! いてえなっ! なんだてめー、女連れて歩きやがって」
宵崎高校とは別の高校生らしい、いかにも不良といったその男たちは肩がぶつかった金城に喧嘩を売ってきた。
「わりい……喧嘩する気分じゃないんだわ。謝るから帰ってくれ」
金城は重い溜息をつくと、不良たちにそう告げた。
隣でミキは金城に隠れるように不良たちを睨みつけている。
「はあ? ははは! 雑魚かよお前! だっせー奴だなあ! ぷははは!」
今の金城はそんな安い挑発に乗るような気分になど、なれはしなかった。
こんな不良数人など現在の金城たちが置かれている状況と比べたら、微塵の興味すら示せない、道端の石ころ同然の存在であった。
振り返り歩き出そうとした金城に不良たちは背後から蹴りを繰り出した。
金城は思わず前方へ仰け反る。
「おらあ!」
「雑魚がよ、かっこつけてんじゃねーよ! 謝るなら金よこしやがれ」
呟くように金城は答える。
「お前らにやる金なんて持ってねえよ」
ミキが金城の背中の靴跡を払った。
「お前さっきから生意気だな、ああ!」
不良たちは無抵抗の金城を掴み挙げ、路地裏へと入って行った。
「金城!」
そして、そこで激しく殴る蹴るを繰り返す。
金城は何の抵抗も見せず、やられっ放しだった。
ミキはどうすることもできずに、ただ黙って金城が殴られる様を見ていることしか出来ずにいた。
行き交う人々はそんな暴行を見ているのか、いないのか、また見て見ぬフリなのか、違う世界で行われている出来事のように通り過ぎていく。
不良たちは気が済んだのか、ぐったりした金城を見下し去っていこうとした。
そのとき不良のうちの一人が怯えるミキを視界に捉えた。
「あれ~。よく見たらこの子結構可愛くない」
「俺、ケバイ女は無理だわ」
「じゃあ化粧落とさしてからヤればいいじゃん」
「そうだな。お前さー、とりあえずは俺たちと来いよ」
「こんな雑魚君よりマシだぜ」
ミキは怯えた表情でそこから動けずに居た。
不良のうち一人がミキの腕に掴みかかる。
「や……やめて! 離せ!」
不良に囲まれ、掴まれたミキは抵抗することすら出来ない。
「この女、生意気だな」
「いやでも生意気なタイプのほうが興奮しね?」
「言えてるわ。なんか泣かせたくなる」
ミキは必死にもがき続ける。しかし、男数人の力に女性が敵うわけも無く。
「くそ! 離せ!」
「さ! 俺たちと行こうぜ!」
そのときだった。路地裏から苛立ちを含ませた静かな声が聞こえた。
「俺の友達だ、手出すんじゃねえ」
薄暗い路地裏の奥で、静かに金城が立ち上がった。
そして、陰りを見せる眼差しで友人を怯えさせたケダモノを視界に捉えた。
「はあ?」
「おいおい! 雑魚君は黙ってろよ!」
「お前弱いんだから、女の前だからって恰好つけんなって」
「安心しろよ雑魚君。この女ならヤッてポイだからさ!」
刹那。
金城の脳内で何かが再生された。
――鮮血に……
染まる友――
狂い――
笑いながら――
堕ちていく……
友――
そして、ブチッと何かが切れる音がした。
数人の不良たちがまるで残骸か何かのように捨てられている。
そんな路地裏から金城とミキは出てきた。
「なんか久しぶりに頭空っぽに動けたって感じ! スッキリした~!」
ミキは金城の屈託の無い笑顔を久しぶりに見た気がした。
「たまには運動も必要ってことじゃん?」
ミキも金城につられて笑みが零れた。
「考えても、思い悩んでも、帰ってこない」
「……うん」
「たぶん……まだ『審判』は続く、よな」
「……うん。そう、かもね」
「だったら、もう俺の友達は誰も死なせない」
「……」
「俺たちがこれから考えていくことはそれしかないだろ」
「そうだよ! 金城もアタシも、皆、もう大丈夫だよ!」
「安心しろ。お前たちは俺が守るから」
ミキは嬉しそうに頷いた。
そのとき金城とミキの前方で見覚えのある影が動いた。
遠くの書店前で雑誌を片手に動くその人物は確かに金城もミキも見たことのある人物であった。
金城が首を傾げながら呟いた。
「あれって……伊瀬だよな」
平森の友人である3年1組C軍の伊瀬友昭が店頭に並ぶ雑誌をパラパラと捲りながら立っていた。
何故であろうか、その様子は雑誌を読んでいるというふうには見えなかった。
目は虚ろで目の前の空間を見つめているような。
「伊瀬、アイツ……なにやってんだ?」
「ねえ金城。アイツなんか変じゃない?」
その瞬間、金城はその雑誌を丸め、自らが持っていたバッグに詰め込んだ。
そうそれは万引きであり、立派な『罪』である。
「!」
金城とミキからサッと一気に血の気が引いた。
金城は何かを考える暇も無いうちに伊瀬に向かって走り始めていた。
そして伊瀬の腕に掴みかかった。
「え!」
伊瀬は急に腕を掴まれたことに驚き、はっとして、金城だということに気が付いたようであった。アワアワと動揺して焦点を掴めなくなっていた。
「お前! 何してる!」
金城は伊瀬からバッグを奪い、中身に仕舞われていた雑誌を店頭に返した。
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