究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第22話 再来の王子

 さて、最強の切り札をあっけなく失ったナイト・プリースト。後が無い恐怖から自らの肩を抱き下を向きながら絶望の色に染まった顔を地面に向けている。これだけ戦意を喪失している相手に意味があるのかはわからなかったが、とりあえずコイツには新しい俺の体の実験台になってもらおう。

 どうだろう、まずはこのヒレの様な羽の様な、立派な腕の威力から試そうか。魔力で硬化させればかなりの破壊力になるだろう。しかし俺の本体としての感覚は胸部のコアにあるのだが、目はどうやら頭部こと、上の口にあるようだ。もちろん、物体として目玉がはめ込まれている訳ではない。ガンダムでいうところのメインカメラ的なものが、頭部に存在するのだろう。そういえば、モビルスーツもメインカメラが頭部で、コックピットは胸や腹の位置にあるのだったな。初めてそれを知った時はびっくりしたものだ。コックピットは顔の部分にあると思っていたからな。
 だが、言われてみれば、今回の体は確かにロボットぽい。肉体としての感覚はさっきも言ったとおり、円だ。コアにしかない。骨で出来たドラゴンの部分を動かす感覚は、ゲームでキャラクターを操作するのに似ていた。あれも、自分の体である指でコマンド入力をして、ゲーム内のキャラクターを操作している。そういった二度手間感が、今回の体にはあった。だが幸い、ゲームは得意な方だ。

「さて……ん?」

「ぐあ……? ぐぐぐぐぐぐ」

 突如ナイト・プリーストが苦しみだした。体がぶくぶくと沸騰したように膨張し、そしてザクロの様に弾けた。いきなりのことに、思わず驚く。

「なんだ? 自爆か?」

「いや……」

 奴の体が異常に膨れる前、別の奴の魔力を感じた。俺は既に血と水分が混じった液体となり地面に染み込みつつあるナイト・プリーストを見下ろした。きっと、何者かに殺されたのだろう。ふと、もしガルムに刻まれた刻印が発動したら、こんな風になるのだろうなと思った。
 この死に方は俺の融合への対策だ。こいつの召喚能力やゴーレムの作成能力を俺に奪われたら不味いと思ったのだろう。だが、一応融合は使っておくか。

『人形作製』を習得
物質と魔力でゴーレムを作成する。別途「設計図」が必要となる。

 今すぐ使えるタイプのスキルではなかったが、とりあえず面白そうなスキルゲット。そして、大した質量を融合出来なかったためか、今回は肉体の変化はなし。

「フッ、なんだかよくわからないが、敵の守りは打ち止めか? ならば屋敷に突撃するぞ」

 なんだかよく解らないのに突撃しようなんて思わないでくださいイデア様。とりあえず、自分のステータスを確認しておく。これは大事。


固体名:七瀬素空 魔力数値:32100
種族名:合成魔獣

所持EXスキル
《捕食融合》

所持魔法
なし

所持スキル
《融合》《真紅眼》《暗黒核》《冷却保存》《空中浮遊》《死施錠(デッドロック)》《人形作成》

耐性
なし


 まさに強大な力だ。特に魔力が倍近くまで上昇している。ここまで魔力を上げてしまえば、単純な戦闘では負けないだろう。ついでに、仲間のステータスも確認しておく。


グレートコング 魔力数値:18900

イデア・エル・ローグランド 魔力数値:1200



 戦力を確認したところで、俺達は侵入するべき屋敷を見る。日本では見ないタイプの屋敷だが、とても豪華だ。豪華だからこそ、なんだか浮いて見える。
 さっきは非合法に塀を破壊して侵入したが、今回は玄関から侵入させて貰おう。イデアが活き活きとジークセイバーⅡで扉をぶち破る。薄暗い中に、念のため俺から入る。
 俺のゲーム等から得た勝手なイメージだが、屋敷と言うのは扉を開くとまず、吹き抜けのロビーやら階段やらがある筈だ。だが、この屋敷は違った。二階の高さまで吹き抜けなのは同じだが、階段も何もない。
 扉を開けると、まるで教会のように赤い絨毯が真っ直ぐと伸びている。そして、一番奥の壁の高い位置にはステンドグラスがあり、カラフルにこの建物に光を取り入れている。
 だが、その奥の壁に備え付けれた巨大な水槽には、見たことのないモンスターがまるで捕らわれているかのように沈んでいた。その様子は水族館というよりは、理科の実験室にあったホルマリン漬けを思い出させる。その水槽の前にはいくつかの長机があり、その上には本やらペンやら水晶やらが散らかっている。

 俺の目はその付近にあるソファーに腰掛ける人物。エッシャー第二王子に釘付けとなった。屈強な筋肉と巨大な体躯、そして某牛丼が大好きな正義超人を思わせるタラコ唇、だがしかし剃り込みの入った厳ついボウズ頭でチンピラ臭をかもし出す、とても王子とは思えない姿。
 こんなところで会うのはちょっと予想外だった。だが、イデアは別段そうは感じなかったのだろう。不敵にエッシャーに語りかけた。

「臆病者のエッシャー兄がこんな所まで来ているとはな。どういう風の吹き回しだ?」

「おいおい、妹の結婚なんだぜ? 祝いに来ちゃ悪いのかよ?」

「可愛い私の晴れ姿が見たかったのなら仕方が無い。だが、生憎私はここに結婚をしに来た訳ではないのだ」

「ふはは、そりゃあいい。俺だってお前みたいな生意気な餓鬼に本気で縁談を持ちかけたわけじゃないさ」

 なんだか火花がバチバチ散っているな。こわいこわい。

「だが、驚いたぜ。まさかこんな糞生意気な小娘に味方する魔獣が二体もいるなんてな」

「フッ、降参するなら今のうちだぞ? 今なら城の便器を全部べろで掃除するだけで許してやる」

 ちなみに俺から補足しておくと、この世界のトイレ事情は現代日本ほどではないが、かなり発達している。本当の中世ヨーロッパの様なことはない。いやぁ、パリが汚物だらけだったって聞いた時は流石の俺もショックを隠せなかったなぁ。

「ち、戦闘力だけの馬鹿が……だが、お前に従う魔獣なんてどうせ大したことは……ふぁっ!?」

 紋章の力とやらで俺とコンボイの戦闘力……じゃなかった魔力数値を確認したのだろう。ぶっと鼻水を出しながら驚愕していた。

「き、キラーパンダの倍はあるじゃねぇか……どうなってやがる」

「どうした? 震えているのかエッシャー兄? 奥歯がガタガタ音を立てているぞ?」

「たたたたたたたたたた立てててねぇししししがたがたがたがたがたがたがた」

 いや落ち着けよ……マジで。キャラ変わりすぎだろうが。なんだか哀れになって来た。このままだとマジで失禁しそうな勢いだったし、マスマテラ・マルケニスも未だ姿を表さないので、本題に入ることにした。

「久しぶりだなエッシャー第二王子、俺のことは覚えているか?」

「い……いや、初めて会ったと思うが?」

「何!? 俺はお前から受けた仕打ちを忘れたことは無いぜ?」

「……。いやすまん、本当の本当にマジでお前に関する記憶が無いんだが……」

 再び震えだすエッシャー。

「いやいや、お主さっきその骨の様な姿になったんじゃから、相手が覚えてなくても無理はないと思うぞい?」

「あ、そうだった」

 そういえば最後に会ったのは人間の時だったな。すっかり忘れていた。ビビらせてすまない第二王子。

「融合……本来は召喚師用の僕(しもべ)強化スキル。通常魔物洗脳スキルや支配スキルを併用して戦うスキルだ。だが、まさか魔物と自分自身を融合さえる馬鹿がいるとはねぇ」

 突如、どこからともなく女の声が聞こえた。小刻みに振動するエッシャーが座るソファの奥。その向こう側の研究用の机の奥から女が歩いてきた。
 黒い髪を雑に一本でくくり、目にかけた眼鏡のレンズの向こうから神経質そうな目が覗いている。化粧を施しているようだが、目の下の不健康なくまが隠せていない。世界感にそぐわない真っ白な白衣を着込んだその女性はカツカツと音を立てながらエッシャーが座っているソファまで歩いてきた。
 その女性からは異質な感じは全くしない。駅ですれ違うOLの様な、普通感がある。その女性はイデアではなく俺の方を見ると、不敵に微笑んだ。

「初めまして七瀬素空君」

「俺のことを知っているのか?」

 「ええ……ガルム様が貴方達を異世界召喚したことは知っているわ。そしてお城の防衛戦でのあなたの活躍もね。何せフロストデビルをけしかけたのは私なんだもの」

「何者だお前。只の人間じゃないよな?」

「あら、あらあら、これは失礼。自己紹介がまだだったわね」

 その女は悪びれた様子もなく、エッシャーの正面のソファに腰掛け足を組んだ。

「私は大場愛(おおばあい)。ああでも、マスマテラ・マルケニス、こう名乗った方が良いかしら?」

「マスマテラ・マルケニスが……女!?」

「どういう……事だ?」

 遂に姿を現したマスマテラ・マルケニス。だがその正体は女。いや、それよりも大場って名前は。日本人? 俺が口を開こうとした瞬間、まるでヤケクソにでもなったかのようなエッシャーの声が木霊する。

「あ、ああああ! 思い出したぜええええ! 融合と七瀬素空ああ! 確か融合に失敗して中央広場に晒されていたはずだぁ!」

 失礼にも俺を指差しながら、叫ぶエッシャー。今頃思い出したのか。しかも、お前のせいで割りと重要な会話が中断された。今いいところだったんだって。

「なんだ、魔力数値30000とかになってるから焦ったが、それならガルム兄に貰ったこいつが役に立つぜぇ!!」

 エッシャーがまるでガッツポーズの様に、俺に右手の甲を見せてくる。そこにはイデアのものとは違うが、明らかに紋章と思われるものが刻まれていた。その紋章が光り輝く。

「ぐっ、なんだこれは……!?」

 突如胸が苦しくなる。上の口こと、ドラゴンの頭から、怪獣のような悲鳴が漏れる。胸の部分にあるコアである俺の口からも、苦しい悲鳴が。

「馬鹿な!? まさかまだガルム兄の刻印が残っていたのか!?」

「ガルム兄の刻印は強力でなあ……体を作り変えたくらいじゃ消えたりはしないのさ。さあ、砕け散れ奴隷!!」

 そうして、今の俺の体たるコアは砕け散った。元々ちょっと熟れすぎた果物感のある姿、砕けるというよりも潰れるように、中身を盛大にぶちまけてしまった。まさにZA☆KU☆RO!!

「あっははははは! いくら強力な魔物であろうと、心臓を破壊されれば生きてはいけまい!」

「すぞら!?」

 イデアの悲痛な声が響く。彼女は恐らく後悔しているだろうな。自信満々に「もうガルム兄の刻印の影響はない」と言っていたし。いくらイデアでも、泣いてしまうかも。でもまぁ、それは俺が本当に死んだらの話なんだけど。

「悪いけどエッシャー。この程度で死ねていたら、俺は今ココにいないよ」

「は……はぁ!?」

 なんせ、ゴミの様になって、カラスに食われたって生きていたくらいだ。死施錠のスキルなんてなくたって、今更心臓を砕かれたくらいでは死なない。まるで掃除機に吸われるかのように再び骨竜の胸の辺りに戻っていく飛び散った俺。それらは混ざり合い、再生する。再融合しなくて済む分、死施錠も便利かな。

「ば、馬鹿な……心臓を潰されたんだぞ?」

 再び、まるで着信中の携帯電話の様に小刻みに震えだすエッシャー。まぁ、再生するとは言っても、痛く無い訳ではない。今のは本当に痛かった。それに、こいつはガルムが心臓に刻んだという刻印に干渉してきた。つまり、その気になれば姫川達にも同じことが出来るということだろう。

 生かしておく訳には行かなくなったな。

「ははは、相変わらず臆病で短絡的ねエッシャーは。そもそも見るからにアンデッド型の彼に心臓破壊なんて通用するはずがないでしょう? 魔力が続く限り動き続けるのがアンデッドよ? あーあ、これでもう刻印は使い切っちゃったね……」

 饒舌にしゃべるマルケニス。始めはエッシャーを嘲笑するような喋り方だったが、「あーあ」の辺りから声色が冷徹なものに変わった。まるで悪役が失態を犯した部下を切り捨てるときのようで、不気味だった。

「これでガルム様が素空君に対抗する手段が完全に断たれた訳ね。どう責任を取るつもり?」

 震えていたエッシャーはハッと顔を上げ、まるで死神でも見るような怯えた顔でマルケニスを見つめた後、俺やイデアの方を放心した表情で見つめてくる。

「や、やってやる……ああ、やってやるさ! 俺がこの三人を始末すれば問題ないんだろ!!」

「まぁ、出来たらだけど? わかっているわね? これはあなたが招いた結果よ。ちゃんと責任はとるのよ」

 あくまでも挑発的なマルケニス。エッシャーは意を決したように立ち上がり、ソファの横に転がっていたハンマーを手に持つ。
 マルケニスに聞きたいことが山ほどあったが、先にコイツだ。このエッシャーという男が居ると、話が一切進まない。

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