究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第17話 仲間

 森を抜けた先に少しばかりの草原があった。そして、かつて町があったと思われる場所が目に入る。
  あったと思われる……というのも、既に建物と呼べるものは残ってはいなかったからだ。崩れた柱であったり、家の残骸などが転がっている。
  外壁もあったのだろうが、破壊され尽くされている。まるで戦争の後のような破壊の痕跡が残る風景に、少しだけ寂しさを覚える。
  だが、俺のちっぽけな感傷など知らん振りで、イデアはぐんぐんと廃墟の奥へと進んでいく。

「どうしたついて来い。ここは今、私の庭だ。遠慮することは無いぞ!」

 もちろんついて行く。やがて大きめの、辛うじて原型が残っている建物が見えてきた。それがまるでビルの様に見えたのは気のせいだろうか。
 中に入る。中はそこまで汚くは無かったが、普通に生活する分には少し不衛生に感じた。まぁ現状獣というか、鳥類的な存在の俺に、衛星管理なんてものが必要なのかはわからなかったが。
 ペンギンから鳥人となり、鳥的にはなったものの、心までは鳥にはなっていない。ミミズや虫を美味しそうだとは思っていないし。
 だから、そこらに転がっている食用と思われる肉も、随分と美味しそうに思える。周りに集っているハエの様な物体は、ちょっと困るが。

「どうした肉を見つめて? おおそうか! 肉が食いたいのか! 食いしん坊め! 男子は肉を好むと言うが、それはすぞらにも当てはまるのだな」

 何故か嬉しそうにハエの集った肉を手に取り、見せびらかすように掲げる。持ち上げた肉からは、黒っぽい液体が滴り落ちて、一瞬でも美味しそうなんて思ったことを後悔させる。

「ちょっと待ってろ、すぐに食わせてやるからな!」

 そう言って左手の紋章を発動させて、床の一部に組んであった組み木に火を点けた。一瞬で完璧な焚き火の完成だ。だが。
 ここ、建物の中なんですけど。ってか、その肉もう駄目でしょう?
 俺はイデアから肉を奪い取り、指を刺す。

「イデア……さま。この肉は腐っている。虫が湧いている。なんか汁が出てる。これはもう駄目だ」

「なんだと……通りで最近腹の調子が悪いと思った。だが食べ物は腐り掛けが美味いというではないか」

「それはプロが意図的にやるからいいんだよ。これは腐っている。人間の君が食べるものでは無い。ちょっと待ってて」

 俺はその肉を持ったまま外に出て、森に戻った。俺のスピードはかなり強化されていたようで、5分ほどで森まで戻ることが出来た。
 さて……都合よく普通の動物が見つかってくれるといいんだけど。


***



 一時間後、俺は大きな鹿を背負って、イデアのアジトに戻った。イデアは鎧を外して上下、体にフィットしたスーツだけというかなりラフな格好になっており、草葉を積み重ねた自然のベッドに仰向けになっていた。

「貴様どういうつもりだ、私の食事を……ん? それは鹿か?」

「うん。ちょっと大きいけど、食べられると思うよ」

「これ食えるのか?」

 と訝しげな視線を送ってくる。それを無視して、とりあえず解体を始める。さっきの汚肉(おにく)よりましだろう。丁度腕に生えている爪で、不器用ながらに切り裂いていく。
 大分無駄が多くなったが、これならば二日は食料に困らないのではないか。
 焼いた肉を美味しそうに頬張るイデアの姿を見て、少し頑張った甲斐があったなと思う。焼いただけで味付けも何もしていないのにこの喜びよう。
 いったいどれだけ不味い飯を食っていたのだろう。

「フッ。なかなかだったぞ。何が食えるか食えないか、城から出たら何もかもわからなかったからなモグモグ」

 そう言って、次の肉を焼き始める。おいおいどんだけ食べるつもりだよ。前言撤回。一日くらいしか肉は持たなそうだ。
 しかし……城から出たと言ったが、イデアは何故城を出たのだろう。

「何故私が城を出たのかって?」

「うん。少し気になってね」

「フッ! すぞらが知りたいのなら話してやろう!」

「あ、そうだ。一応協力者として、君のプロフィールも知りたいな」

「ふむ、いいぞ。ぷろふぃーるとやらも話してやろう」

 イデア・エル・ローグランド、14歳。ローグランド皇族の6番目の子供にして第三王女。
 3歳の頃には既に総合的な戦闘力で王宮兵士を圧倒するなど、天才的な才能を見せたそうだ。

「私は凄かったのだぞ。5歳で既に国でナンバー2の実力者だったのだからな」

「へぇ、そりゃ凄い。で、そんなナンバー2がどうしてこんな廃墟で暮らしているんだ?」

「一月くらい前の話だ。エッシャー兄とルキス姉に呼び出された。私に縁談があるのだとな」

 フレンドリーファイヤーおじさんこと、エッシャー第二王子は記憶に新しい。ルキスは第一王女だったか。

「だから私は言ってやったのだ。縁談ならばルキス姉の方が先だろうと。もう22歳だ、手遅れになる前にとな」

 ガルム派なのだというルキスの方は、何度か見たことがある。優しい雰囲気の女性だった。お淑やかそうだけど、そうか、まだ未婚なのか。ほうほう。それは良い事を聞いたぞ。

「でも、年齢の話なんてして、怒られたんじゃないか?」

「ああ、とても怖かったぞ。笑っているのに怖いと思ったのは初めてだった。それで姉様の指示に従って、このウルドの森にやって来た。マスマテラ・マルケニス。ここからもっと西に行った先に屋敷を構える……通称コレクターと呼ばれる男が私の相手だった」

「じゃあ移動中に脱走したんだ?」

「いや、移動中に襲撃を受けた。だがその襲撃の実行犯が問題でな」

「問題?」

「エッシャーの配下であるマッドネス隊の奴等だった。さらに、魔物と徒党を組んでいた」

「魔物と……? エッシャーの部隊が?」

 なんだアイツ等、繋がっているのか。

「じゃあ、エッシャーが魔物側と通じていて、国を滅ぼそうとしているってこと?」

「いや……エッシャー兄がガル兄を裏切るとは思えない……つまり」

「ガルムが魔物と通じている?」

「そういうことになる。その証拠を掴めば、ガル兄を失脚させることが出来る。そうすればミスラ姉が次の王だ。だから私はマスマテラの屋敷を襲撃しようと考えている。この一ヶ月、ずっと準備を進めていたのだ」

 ミスラとは、第二王女のミスラ様のことだろう。ガルム王子の派閥とは対立関係にあるらしい。確か、この前の防衛戦では援軍を送ってくれなかったんだよな。
 などと考えている内に、イデアの話は進む。

 どうやらミスラとイデアの目的は、ガルムの失脚のようだ。ガルムは王子としてかなり優秀なようで、このまま行けば国民の総意で国王決定なのだという。
 それを阻止するには今回の事件、疑惑は絶好のカードだ。が。

「やっぱり俺はクラスの人間が心配だよ……」

「なんだ、女でもいるのか?」

「まぁ、そんなとこ」

 適当に答える。まぁ嘘ではあるのだが、意地だ。意地。

「おっ、コイツなかなか隅に置けないじゃないか。流石肉食系鳥類だ。で、どんな娘なのだ?」

 なんで食いついて来るんだコイツ、女子かよ。いや、女の子だったな。意外とこういう話が好きなのだろうか。

「里澄って子でね。太い眉毛がチャームポイントの気の強い子だよ。俺にメロメロなんだぜ?」

 適当に盛る。ゴメン里澄、この責任は必ず取るから。ラーメンでも奢るよ。

「そうか。ならばお前のモチベーションの高さにも納得がいく。将来を決めた相手がガル兄の手中となってはな」

「いや、そういう訳ではないけれど」

 冗談だし。

「ま、しばらくはその女の事は忘れておけ。仮にも《王女》の家臣となったのだ。他の女が心に居るようでは、私も気分が悪いからな」

「わかったよ。俺は惚れっぽいからね。イデア……様に従うことに、何の迷いも無いさ」

「良い。良いぞすぞら。その選択、決して後悔はさせない。それになすぞら。やっぱり、マスマテラ・マルケニスの屋敷に、お前は来るべきだと私は思う」

「それはどうして?」

 マスマテラ・マルケニス。俗に言う貴族という奴だそうだ。この世界の貴族が俺達の貴族と同じシステムなのかは解らないが、とにかく、王族から許可を得て、専用の領地を持っている。
 古くは王族の分家筋らしい。さらに重要なのはその『コレクター』と呼ばれるそいつの収集癖だ。代々のマルケニス家長が収集してきた貴重なスキルを持つモンスターやアイテムが地下に保管されているのだという。様々な実験が行われていたという噂もあったようだ。

「なるほど……そのモンスター達と融合出来れば」

「ああ、すぞら、貴様は最強の存在となる。そしてその力を私の為に使えるぞ?」

「イデアの為に使うかはともかくとして、かなり魅力的だね」

 ならば乗らない手はないか。カッパーロードみたいな強い奴、そう何度も戦える相手じゃないしな。

「とにかくだ。作戦はある。後は実行をいつにするかだけなのだ」

「聞こうか、作戦」

 レアモンスターか。凄くワクワクする言葉だ。

「フッ、作戦も良いがな。その前にはっきりさせておくことがある」

「えっ、何何何!? イキナリ俺の顔を手で掴んで……え」

 突如俺の顔を両手で掴んだイデアは、ずずいっと顔を近づけてくる。そして、その艶やかな唇を、俺のクチバシの先端にそっと触れさせる。
 感覚は無い。クチバシだから。が、これは……。キスというヤツなのではないだろうか。

「えっと……これは何かな」

「さ、流石は女持ち。こここ、こんな状況だというのに冷静だな」

「そうでもないんだけどね」

 心臓がバクバクしている。

「これは誓いだ。私とお前が仲間になった証の様なものだ」

「仲間……か」

 仲間という言葉を繰り返してみる。不思議な響きだった。そんなものが俺なんかに出来るなんて。

「わ、私もずっと一人で活動してきてな。すぞら、お前が初めての仲間で……。この誓いも初めてだったのだが……不満か?」

 このタイミングで不安そうな顔をしないで欲しい。もちろん、不満なんて無かった。

「いや。不満なんて少しも無いさ。最高」

「フッ、そうか。それはよかった」

花の様な笑顔で笑うイデア。かわい。

「さて、それじゃあ作戦を話そうか」

 生まれて初めて仲間が出来たところで。イデアは嬉々として、マスマテラ・マルケニス襲撃の話を始めるのだった。

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