究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第14話 むしろまた0から人生を始めてみようか

 小鳥の囀りが聞こえる。暖かな日の光は草木に反射して、薄緑色の温かい空間を造りだしている。

「うぅ……あうあ」

 ここはどこだ?
 そんなことを呟こうとして、口が全く動かないことに気が付く。だが、口があることはわかった。さっきまでは……無かったはずだった。それを言うなら、目もそうだ。さっきまで目も無かったはずなのに。今は辛うじて見える。

 今、目に見えている状況を信用するならば、森だ。それも日本の森の様な、陰気な感じの森ではない。おとぎ話にでも出てくるような、キラキラしていて、静かでふわふわしたような、そんな森だ。
 まるで自分が絵本の物語の主人公になったような錯覚を起こしそうだ。だが、俺こそがこの綺麗な森の異物なのだと、眼球を必死に動かした先を見つめて気が付く。
 あるのは、俺を中心とした血の跡。どうやら、大きな岩にもたれかかるようになっているらしい俺の体。幸い、眼球を動かしただけで、体の『だいたい』を観察できた。腕は二本生えている。どっちも骨しかなかった。そして、下半身がない。ヘソの辺りから先が無い。

 さて、今はどういう状況だろう。頭はクリアーになってきていたが、同時に全身に鈍い痛みが浮き上がってくる。なんかこの感じは怖い。歯医者で麻酔が切れてきた時の怖さに似ている気がする。だが、今は体の痛みを恐れている時ではない。思い出せ。俺はどことも知らない場所で、カラスに突っつかれていた……筈。だが、あの独特で不愉快な音を奏でていた扉が見当たらない。
 つまり、俺は移動しているということだ。だが、どうやって移動を? まさかカラスが運んだ?

 俺はもう一度自分自身の体を見つめる。いやいやないない。いくら異世界とはいえ、カラスが人間の上半身を運ぶなんて……。


固体名:七瀬素空 魔力数値:8800
種族名:合成魔獣

所持EXスキル
なし

所持魔法
なし

所持スキル
《融合》《真紅眼》《暗黒核》《冷却保存》《嗅覚》

耐性
なし


 勝手に真紅眼のスキルが発動したようで、俺のステータスが表示される。
あ、アレ……減ってる!? スキルとか結構減ってるんだけど。まぁ、無理やりな融合に体が耐えられず、結局崩壊したしなぁ。けれど……この復活は一体どういうことなのだろうか。体が再生した……と考えたいところだけど……多分俺の顔、もう人間の顔じゃないんだよなぁ。それは動かそうとした時の違和感や、感覚的な鼻や眼球を感じる位置などからわかる。

「あああううぁあぅ……あああぅわう」

 だんだんと動くようになってきた口を動かして、声を出そうとしているのだが、どうも俺の知っている口じゃないようなのだ。知っている口……なんていうと、かなり変なんだけど。そうとしか言い様が無い。口が違う。これは恐らくなのだが……融合が勝手に発動したと考えるのが妥当なのではないだろうか。
もちろん、俺の体が知らない内に再生能力を得ていて、核が損傷しない限り何度でも再生できるようになったと考えることも出来る。
 いくつか手に入れたスキルは、この前の戦闘直後に融合に耐え切れなくなった体が崩壊した際に無くなったのだと推測できるが、果たしてあそこから再生なんて出来るのだろうかという疑問は残る。

 なので、俺はこの移動と再生に関して、次のように考えた。

 まず、体が崩壊した俺は、融合で得た魔物の力で完全には死んでいなかったのだが、見た目が完全に死体だったor心臓が止まっていた等の理由から、あの城のどこかに置かれていた。或いは晒されていた。
それを、死体だと思ったカラスが食べに来た。奴等はスカベンジャーな所があるからな。そして、ここで俺の意識はブラックアウト。
 そのままカラスは俺を腹に収めたまま移動。まぁ、一匹のカラスが俺を食べきった訳ではないだろう。それこそ、俺の体の中の、俺の核となる部分を食べたカラスが居たはずだ。
 そしてこの付近でカラスは魔物に食われる。何がトリガーかはわからないし、もしかしたらカラスと魔物が対峙した時点での話かも知れないが、恐らく俺の融合が発動。

 後に、俺の意識が戻る。

 この説は俺の所持スキルに知らない『嗅覚』というものが増えていることから思いついた。あながち間違っていないのでは無いだろうか。しかし、思いのほか今の俺はポジティブだ。
 実質俺が死んでいるにもかかわらず発動した融合のスキルに恐怖を全く感じないわけでは無かったが、それよりも、またチャンスを貰ったことの方が嬉しい。
 一度はもうあれで終わりだと思ったのだ。だが、もう一度。姫川の為に戦うチャンスを得た。そう思うことにした。


***

 さて、体は動かず。両腕は骨、もちろん使い物にならず。下半身無し。これじゃオナニーもできやしない。はっきり言って今の俺はこの世界に来た時よりも無能。いや、死を待つだけの雑魚だ。莫大な量の魔力はあるものの、どのようにしたらいいのかはさっぱりわからない。
 いや、寧ろ、この膨大な魔力のお陰で未だに命を繋いでいるのかもしれなかった。この世界に来た時よりも遥かに強くなっている。なんか精神が振り切っている感じがする。生まれ変わったような、いや寧ろ、全く別の存在になったような。
 とにかく、この状況から脱する為には更なる融合が必要だ。だから俺は融合素材が来るのをじっと待つ。死にかけの俺自身が囮だった。

 そして、今回はあの戦いの時とは別のアプローチを試そうと思っている。
 あの時の融合は結果から見て大失敗だった。ケルベロスやBファングは上手くいっていたのに何故俺だけ駄目だったのかを、考えてみる。もちろん、魔物+人間という不自然さ、アンバランスさが悪かったというのもあるかもしれない。
 だが、恐らくなのだが、あの融合の失敗点は、失った手足を補っただけの融合だったのがいけなかったのではないかと思う。戦隊ロボの様な、部分合体だったのが崩壊の原因なのではないか。だからこそ、融合した部分で定着していなかった部分から崩れ始めた。
 狙うは本当に本当の融合。つまり、混ぜ混ぜ融合だ。戦隊ロボの変形合体じゃない。モンスター育成物やカードゲームの融合だ。
 これは多分イメージでどうとでもなる。実は、あの戦いの時、俺は失った手足にパーツを足すイメージで融合を発動した。次はパレットに絵の具を混ぜるようなイメージで発動する。
 もちろん怖さもある。今度こそ完全に自分が自分では無くなってしまうのではないか。けれど、やれるだけのことはやりたい。少なくとも、こんなボロボロの状態は嫌だった。
 この中途半端さは、恐らく俺の未練によるものだ。俺はまだ、人間としての自分を心のどこかで捨て切れていないのだろう。だから、体は人間に近づけようとして、途中で止まっている。それがこの今の俺の体の状況だ。多分、物理的な質量が足りていない感がする。人形を作っていたけれど、材料が途中で無くなった様な、そんな中途半端さがある状態だ。

 それは駄目だ。まぁ、最終的には『人型』を目指したいけれども。元の『七瀬素空』への未練は捨てよう。今は邪魔にしかならないのだから。


***


 嗅覚のスキルは便利だ。周囲にいる生き物の様子が、手に取るようにわかる。さっきは小型の魔物が近づいてきたのがわかったが、コチラに姿を見せる前に消えた。もしかしたら仲間を呼んでくるかもしれないが、なるべくならば強い魔物を所望したい。美女系の魔物を切望する。サキュバスとか吸血鬼とかね。美少女系の魔物の姿になるのも一興だろう。

 だが、その数時間後に俺の期待は無残にも打ち砕かれることとなる。木々を押しのけてやってきたのは巨大なダチョウ型のモンスターだった。まるで絶滅動物のディアトリマだ。怖っ。えっぐいビジュアル。


エンペラーバード 魔力120
 なんでも食べる鳥型の魔物。縄張りに侵入されると物凄いスピードで近づいてくる。


 大した魔物じゃないなぁ……デザイン的にも全然好みじゃないし。そして、今は俺の魔力量の方が強い。だから、魔力を込めれば理論上耐えられるはず。

「キェエエエエエ」

 重低音の鳴き声。鋭く太い爪が地面に叩き付けられる度、軽くなった俺の体がビクンと跳ねているようだ。
 正直、融合したくは無いが、このまま耐えるというのも怖い。見てよあのでっかいクチバシ。敵を殺す為だけにあるだろ絶対!

「あうああぁぁあ、ううおう」

 俺は覚悟を決める。この際、どんな姿になろうが構わない! 目をかっ開いて『暗黒核(ダークマターコア)』のスキルを発動する。口の中でガムでも噛むように魔力を練りこむ。イメージとしては、吹き矢の要領だ。「フッ」っと闇の魔法を打ち出して、敵を一撃で倒す。
 しかし、まだ完全に馴染んでいなかった為か、魔力を口から上手に吐き出すこと叶わず、まるでゲロの様に黒い靄が口から溢れ出してくる。その靄はまるで生者を地獄へ引き摺り下ろす死神の様にどろどろと、且つ俊敏にエンペラーバードの足元を取り囲む。
 その暗黒に触れた途端、白目を向いて硬直するエンペラーバード。ここで気が付いたのだが、闇属性ってどういう効果があるのかイマイチ解らなかった。「前に説明したわよね?」そんな姫の小言が耳に浮かび上がってきた。
 別に悪いことをしてもいないのに悪いことをした気になるその幻聴を振り払い、動きを止めたエンペラーバードを睨みつける。 融合のスキルを発動させたのだ。
 一瞬、エンペラーバードは苦しそうに白目を細め、光の粒子となる。心の中で「ごめんね」と粒子となって俺の胸の辺りに吸い込まれる敵に謝罪する。いいや、ここは「いただきます」だろうか。

 そして、すぐにやってくるだろう痛みに備える。同時に、念じる。

 まぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜ


***

スキル《空中浮遊》習得。
 ほんのちょっと、気持ち、浮けるスキル。


EXスキル《捕食融合(プレデターフュージョン)》習得
 対象を自分自身に融合させ進化するスキル。


***



 目が覚めた。痛みは無い。どころか、かなり体調も良い。どうした、やっぱりまぜまぜが良いのか?
 立ち上がる。どうやら人間とは大分見た目が異なっているということが、今の動作からわかる。だが、キメラ形態の時のような、不自然な感じはしない。寧ろ、人間とは全く違うだろう体の動かし方を、自然に俺の頭が理解している。いや、もしかしたら俺が人間の感覚で動かそうとした脳信号が上手い具合に変換されているのかもしない。
 しかし、かなり身長が低いな。世界が広くなった気がする。何か俺自身の姿を確認できるものを……。

「キュッ!? キュッキ!」

(お、あったぜ!)と言ったつもりが、なんだか変な声だったな。やっぱ鳥型になっているのだろうか。ともかく、水溜りを見つけた。これを覗けば。

「ギュウッ!? ピェエギュラアア」

 おいおい嘘だろう……。

 その水面に映っていたのは、愛くるしいマスコット的なペンギンだった。


固体名:七瀬素空 魔力数値:8820

種族名:合成魔獣

所持EXスキル
《捕食融合》

所持魔法
なし

所持スキル
《融合》《真紅眼》《暗黒核》《冷却保存》《空中浮遊》

耐性
なし


 嗅覚のスキルが消滅したが……おめでとう。融合は新しく《捕食融合》にパワーアップしたよ。元の融合も残っている。効果を見る限り、自分を強化するための融合はこっちを使えってことか。しかし、なんで今更新しいスキルに? 変な使い方をしていたから、スキルも変化を遂げたのだろうか。

「キュッキュッキュ」

 俺はペンギンの姿で笑う。いいさ、この際、研究し尽くしてやる。この融合を。そして使いこなす!! もう後戻りできないところまで来たんだ。地味にショックだったペンギン化だが、逆に吹っ切れた。ここからだ。俺の「融合」使いとしての戦いの道ロードはここから始まるんだ。そうだ、やってやる。どんどん融合して、最強の生命体になってやろうじゃねぇかああ!!

「キュピエエ」

 でも、早く人間になりたい。いや、人型になりたい。

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