究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第5話 幼馴染の忠告

 歓迎会は、城のテラスにて行われた。テラスに出た俺達は、全員が全員、例外なく驚嘆した。城からの圧倒的な景色にである。街並とか、星が綺麗とか、そういった想像を超える景色だった。東京では、日本では決して見ることが出来ないであろう風景。
 さながら星空の様に輝く街並みは、ここに人の営みがあるという事を確かに感じさせる。そして、本物の星空も負けてはいない。三つもある月が、ここが地球では無いことを物語っている。
 だが、そんな事よりも。圧倒的な存在感を放つものがあった。それは天まで延びる木だった。東京タワーやスカイツリーより、さらに大きい。距離的にはここから何キロも離れているようだが、それでも、近くに感じてしまう程の大きさだ。

「あれは神樹イグドラシル。この世界が誕生する前から生えていたと言われる木だ。有史以来、様々な魔物があの木を倒そうとしたことがある。だが、とうとう倒すことは出来なかったようだよ」

 どうやら、高さも2000メートルあるらしい。物理的にありえるのか不安だったが、魔力や魔法なんかがある世界だ。地球とは物理法則が違うのかもしれない。いや、既に生態系も大分違うのか。

「さぁ、今日は疲れただろう。料理人も食材も最高の物を用意させた。存分に楽しんでくれ」

 そして、宴が始まった。


***



 もちろん一緒に話す奴なんて居ない俺は、一人でこの世界の飯を食べていた。様々な料理があったが、何気にパンが一番美味かった。ある程度腹が膨れたところで、俺は人間観察に移る。王族の人間はとっくに引き上げたようで、一人もテラスには残っていなかった。この場にいる異世界人は給仕をしているメイドくらいか。うん、本物のメイドは良いな。無駄な愛想を振りまかないのが逆に良い。

 と考えていると、俺の向かいにドンとトレイを置き、腰掛ける人物が居た。
 快活な笑顔と健康的な肢体、髪型はポニーテールという活発という単語が現実世界に侵食してきたような姿の女子。篝夜蛍(かがりやほたる)、このクラスのカーストのトップグループにいる人物である。

「いやぁ、さっきは災難だったな」

 まるで昔から仲が良かったかのように気さくに話し掛けて来た。こうやって色んな奴と仲良くなっていくのか感心する。昔から変わらない……いや、高校に上がり陸上を極めた事でさらに自信をつけた勝気な瞳は、吸い込まれそうになるくらい魅力的だった。

「本当に。でもまぁ、女子に怪我人が出なくて良かったよ。俺もすぐに回復してもらえたし」

 なんでも俺が気絶した後、回復魔法のスキルを持つ女子達が回復してくれたらしい。俺なんかにもそんなことをしてくれる女子がいたことに驚いた。是非名前を教えて欲しかったのだが、誰も教えてくれなかった。そんな、俺の回復をしたことを人生の汚点みたいにするなよと思ったが、気にしないことにする。
 ちなみに久住の火傷は回復しきれなかったらしく、王宮の医療班に回されたのだとか。そういえば、まだ帰って来てないな。

「まぁ、良かったよ。あれで死人とか出てたら、お前マジで終わってたって」

 それはわかるが……コイツは一体何を言いに来たのだろう。

「何しに来たんだ? って顔してんな」

「実際そう思ってたよ」

「あ? 用が無かったら向かいに座っちゃいけねーのかよ。随分と偉くなったもんだなー」

 存外にキレてる。思春期か。切れる刃か。怖くて言葉選びが慎重になるわ。

「いや別に。俺の正面はいつでも開いているから」

「そういやいつも一人だったなお前」

「悪かったな」

「怒るなって。どうどう。しかし、こうして話してみても昔と変わんねーし、なんで友達作んねーんだよ? っておい、なんだ、なんで泣いてるんだ?」

「篝夜、お前は昔から人の心をナチュラルに抉ってくるヤツだな」

 作らないんじゃない。出来ないのだ。言わせるな馬鹿。

「そ、そうか。これからは寂しくなったら私に話しかけて来いよ。な、な? だからまず泣くの止めろって。これじゃいじめてるみてーだろーが」

 男らしい台詞で慰められてしまった。昔の篝夜はもっとこう……女の子らしかった気がするんだけどなぁ。一緒に折紙を作った記憶がある。中学は別々だったから、高校でまた見かけたときはびっくりしたものだ。身長は俺と同じ170cmあって、しかし手足は恐ろしく長い。陸上部のエースで、まるっきり別の世界の人間という感じだった。

「ま、実際話しかけたかったけどさ。正直滅茶苦茶話しかけ辛かったよ。篝夜、変わりすぎだって」

「お前も変わったって」

「え、マジで?」

「うん。死んだ人間みたいな目してる。怖ぇんだよ目が」

「酷すぎる」

「冗談だって。冗談」

なんだ死んだ人間って……。 ひとしきり笑った後、コップに口をつける篝夜。その様子を見て、悟る。

「それで、本当は何の用があるんだ?」

「あぁ?」

「何か用件があってきたんだろう? じゃなきゃ、俺に話しかける理由が無いだろう。何かの罰ゲームでもあるまいし」

「あーそういうところは鋭いのなお前。うん……まぁ。お前にだけ言うってのも、変な話なんだけどよ」

 少しだけ迷った後、決意したように続きを話す篝夜。

「お願い……じゃあねえよなコレは。もっとこう……そう、これは忠告だ」

「忠告?」

「そう。忠告だ。いいか素空。お前、これ以上余計な事はすんじゃねー」

「余計なこと?」

「ああ。いや、ううん。言い換えたほうがいいか。もっと具体的に。璃緒を刺激するような事をしないで欲しいんだよ。璃緒、みんなを引っ張っていかなくちゃって思い込んでて、凄い追い込まれてる」

「とてもそうは見えないけれど」

 むしろ気合入ってるなーくらいに思っていた。

「狩野が居なくなった事だって、ああ見えて随分気にしてるんだよ。お前がどうなろうが、私は知っちゃこっちゃ無いぜ。けど、姫は真面目で、クラスの委員長なんだよ。だから、余計な事に構っている時間はねぇ。だから、こうしてやらかしそうなヤツを牽制してるんだ」

 酷い言われようだったが、この上なく正しい判断と言わざるを得ない。正常で真っ当な判断力だ。俺がコイツでも、多分そうする。

「なあ、篝夜はどう思ってるんだ」

「あぁ? どうって。何を」

「今回のこの、異世界召喚ってヤツをさ」

「ああそれなぁ。うん。正直意味わかんねーよ。夢なら覚めてくれって感じ」

「そうか……」

「璃緒も真面目に受け取り過ぎなんだよな。好きにしたいヤツはそうすればいいし、戦いたい奴は戦えばいい。みんながやりたいようにやればいいと、私は思うぜ。どうせあの王子様だって、璃緒以外には興味ないんだろうしさ」

「俺たちはおまけってか」

「そうだろ? 気が付かなかったか?」

 そういえば、狩野君が変な事を言っていたな。ガルム王子がうそつきだと。いじめっ子オーラがあると。何か関係があるのだろうか。

「でもま。今は璃緒に頑張ってクラスをまとめてもらうしかないんだよ。私等は何も知らない。何もわかんねー状況だ。ヘタこいてクラスがばらばらになったら、目も当てられねー。それは私も璃緒も望む展開じゃない。だから……」

 最後に篝夜は怖い顔でこちらを睨む。そこから先は、言われなくてもわかる。

「へいへい。余計な事はしませんよ。誓うよ」

「わかってくれたか。ならいい! 何、魔力100でも気にすんな! 鍛えればなんとかなるって!」

 最後に俺の心を抉って、トレイを手に立ち去る篝夜。人の懐に入るのは上手いが、同時に精神的な攻撃まで行っていくヤツだ。油断できない。

 しかし、余計な事……か。俺はどうにかして《融合》の有効活用方法を見つけたかったのだが。どうしたもんかね。

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