究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第3話 俺はモンスターを融合召喚するぜ

 訓練場とやらに移動し、ガルム王子が呼び出したジャック・ダナトスという人物からこの世界での戦い方についてレクチャーを受けていた。なんでも戦士育成機関のトップらしい。強面にライオンのような髭、ムキムキの筋肉に鎖帷子を巻きつけた怖そうなオッサンだ。
 彼が言う事によると、スキルは発動したいと口にしたり、思ったりするだけで発動するらしい。そして魔力は本当に俺が考えていた《気》と同じようなもので、イメージでコントロールできるらしい。感覚を掴めば敵の魔力を察知したりも出来るようになるのだとか。
 しかし、やたらと「イメージしろ」と連呼されるな。どうやらこの世界の戦い方はかなりアバウトなようだ。
 傘立ての様な箱に無造作に放り込まれた模擬専用の刃のついていない剣を一人一本渡される。姫の掴んだ剣はすぐさま刀身が輝きだした。それを見たジャック・ダナトスは拍手をした。

「おお、流石勇者様ですな。説明が不要なようだ。この様に、武器や鎧にも魔力を流し込むことが出来る。それにより、装備の能力値も上がる。当然魔力コントロールで身体能力も上昇するぞ! 魔力が高い=強いと言われるのはこの辺が由来だな。単純に多くの魔力を戦いに回す事が出来る」

「流石姫だぜ」
「姫川さんすごーい」

「当然よ!」

 と、男子からも女子からも賞賛され、気分よさそうにドヤる姫。俺もハイハイさす姫さす姫と思いながら、自分の能力について考えていた。俺ごときにも優しく接してくれる常識人でクラス副委員長の宮本君に聞いたのだ。このクラスの状況を。
 聞くところによると、魔力トップ3は姫の2500、仙崎ゆとりの1000、そして篝夜の900だという。そして、恐ろしいことにその三人を除く女子の平均が800ほど。男子の平均は500程度らしい。なんと男子の方が弱いのだ。そんなところまで現実世界の力関係を持ってこなくてもいいというのに。

「さて、では実戦訓練だ」

 一通り魔力のコントロールを学んだところで、唐突にダナトスが叫んだ。そうしてダナトスが指を鳴らすと、俺達がいるのとは反対側の柵が開く。そして中から大型犬が現れた。だが、その姿は異様だった。漆黒の毛皮にギラギラと赤い目を鈍く輝かせ、体には毒々しい紫色のオーラを纏わせている。どう見ても普通の犬ではない。

「城周辺の森に生息する魔物、その名もブラックファングだ。こいつらを練習台にして基礎を身に着けてもらう。スキルもバンバン使って構わんぞ。使わないと覚えんからな。習うより慣れろだ。さぁ、その力をガルム王子の前で見せる時だ!」

 どうやらダナトスさんは実践派の人間のようだ。
 解き放たれた10匹ほどのブラックファングはじりじりと警戒しながらも、確実に距離をつめてくる。
その赤く濁った輝きを放つ目を見て、話なんて通用しない、まさしく魔物なのだと理解した。ああ、なんというスパルタ。男子はいきり立ち、女子は若干ビビッているようだった。かくいう俺は、正直かなりビビっている!

「私は火の魔法を使用……魔力を開放します」

 凛と澄んだ声が響き渡った。その声の主、姫の周囲に幾何学的な魔法陣が浮かび上がる。腕を伸ばし、手をブラックファングの方に狙いをつけるかの様にかざす。

「――ファイア!」

 その叫びと共に、姫の手の平から一発の火球が放たれる。その火球は猛スピードで飛んで行き、一匹のブラックファングに命中。途端、体を包むように燃え上がる。苦しそうな悲鳴を上げながら地面に体を擦りつけ火を振り払おうとするブラックファング。だが、間に合わなかったらしく、やがて動かなくなる。

「ふぅ……意外に難しいわね。けど、流石私。なんとか出来たわ」

 その一声(ひとこえ)で、クラス中が騒ぎ出す。

「姫スゲー!」
「姫ちゃんカッコいい!」
「よーし私も!」

 なるほど、ああやって叫んだりした方がイメージを掴み易い=威力も上昇させやすいってことか。まぁ俺魔法スキル持ってないんだけどね。持ってないんだけどねっ。
 攻撃用の魔法を使うには、火魔法、水魔法、雷魔法、土魔法、風魔法又は姫の勇者の魂のように、魔法を扱えるスキルが必須となる。このスキルを発動し、魔力を消費することで初めて魔法は発動する。
 これらの魔法は練習すれば様々な形を取ることが出来るらしい。
 例えばさっきの姫は火の魔法を弾丸の様に発射したが、敵全体を覆う波の様にしたり、炎の竜巻を作り上げることも、練度によって可能らしい。だが、逆に言えばスキルというのは、足がかり的な物に過ぎないということだ。俺の融合だって、きっと何か強い使い方があるハズなのだ。 

 やがて、先陣を切った姫に続き、各々クラスメイト達がブラックファングを囲んでいく。
地面をめくれ上がらせる魔法を使う者。
水の魔法を使う者。
強化された武器で戦う者。
様々だった。

 俺も早速融合を試そうと思い、傘立てに余っていたもう一本の剣を取り出した。融合、つまり物と物を合体させて、より強い物を作る能力だよな。ゲームで言うところの合成とか、錬金術に近いモノと予想した。このスタンダードな剣と、サーベルみたいな剣、二つを合体させてみよう。

「ええと……イメージイメージ。剣と剣……融合せよ!!」

 なんとなく、剣同士が交じり合う様子をイメージしながら、念じてみた。すると、二本の剣は輝きを放つ。そして、輝いた二本の剣は重なり、俺の手元に納まった。

 成功か? やがて光が引いていく。そこに現れたのは。

 「な、何だコレ……」

  俺の手に握られていたのは細長い鉄の塊。しかも、河川敷に何年も放置されていた何かのパーツの様に、茶色く変色している。どうやら錆びているようだった。それに、何やら臭う。

 「プハッ、お前……何してんだよ」

 運悪くその光景を久住に見られていたようだった。その久住のクズ仲間である大田と毛羅も一緒だった。最悪だ。

「オイオイ見ろよこれ」
「おっ、ゴミ野郎のスキルはゴミを生み出すのかな?」
「ゴミは所詮ゴミなんだなぁ」

 散々な言われようだった。だが事実。俺は悔しさに胸が押しつぶされそうだった。俺のスキルは、使える物と使える物を融合してゴミを生み出すスキルなのか? いや、普通は違うだろう。

 「いや……まだだ、まだ終わらんよ」

 立ち上がる俺。

 「あはは、ウケるわ! あんまゴミ増やすと王子様に怒られるぞ」

 「ま、まぁ見てろって」

 悔しさと情けなさで言葉が震える。ここいらで名誉挽回しなくては。さっき現実世界の力関係を引き摺っているといったが、姫がトップなのは別にいい。だが、久住達にまでこの世界で舐められたままというのは流石に嫌だった。俺だってこうなった以上、人並みの異世界ライフを送りたいのだ。

 「よし、君達でいいか」

 さっき姫にやられたブラックファングの焼死体と、その側で、必死に立ち上がろうとしている足を全て切断され達磨状態にされたブラックファング。この二体で……。

「ええと、どうせなら格好良く口上を言おう。 暗闇恐れぬ猛犬達よ……今一つとなれ――融合!」

 二体が光り輝き、粒子となって螺旋を描き、交じり合うように一つとなる。元々死体と瀕死体なのだ。もし失敗してもダメージは薄い。
 しかし、合わさった光は見る見る内に大きくなり、その大きさが5メートルを超えたところで光が消えていく。

「お、おい嘘だろ」
「何したんだよ七瀬」

「はは、上手くいったようだなぁ!」

 目の前に現れたのは巨大なケルベロスだった。どこから来たのか頭がさらに一つ増え、三つの頭を持つブラックファングとなった。体もかなり大きくなっている。成功した! どうやら融合はモンスターに使うスキルだったようだな。雑魚と雑魚を組み合わせて強い魔物に進化させる。ちょっと主人公ぽい能力じゃね?

「グルルゥゥゥ……グァッ!!」

 だが喜びも束の間。ケルベロスの中央の頭部はひとしきり唸った後、口を開き、そして火球を発射した。

「ちょっ!? お……ぐぎゃああああああああああああ」

 その火球は俺の近くに居た久住に直撃。燃え盛る体で倒れ込んだ。

「た、助け……お助け」
「大丈夫か久住ー!」
「誰か、誰か水をー」

 その痛ましい様子を見て、少しだけ胸が空いた。いいや、寧ろザマァwとさえ思う。主人の気持ちを汲んで、攻撃してくれたのかもしれない。なかなか主人思いのモンスターじゃないか。そうだ、今後一緒にやっていくなら何か名前をつけようか。そうだな――

 だが、そんな嬉しい気持ちも、次に聞こえて来た声によって霧散する。

 「逃げろ七瀬ぇ!!」

 本宮君の声が聞こえた。何から? と考えたとき、右脇から物凄い衝撃が来る。

「ぎゃあああああああああ」

 そのまま体が宙に浮き、そして元居た場所から10メートルくらい飛ばされる。落下して、ようやくケルベロスの前足で引っ叩かれたのだと気が付いた。そして、同時に理解した。融合の、残念な真実に。

――ああ、そうか。

 融合。合体させて強化するだけで、別にそれを操れる訳じゃないのか。おいおいおいおいマジか。騒ぎに気が付いたクラスメイト達が慌てだすのが聞こえる。そりゃそうだ。気が付いたら訓練場の隅に超強い魔物が出現しているんだからな。体長5メートルのケルベロスなんて動物園に行ったって見られやしない。

 「お前ら逃げろ! コイツは今のお前らの敵う相手じゃない!」

 クラスメイトを逃がしながら、ダナトスは部下と思われる若い兵士に指示を飛ばしていた。俺はまだ立ち上がることが出来ずに居た。横たわり、苦痛に顔を歪めながら、事の顛末を見守っていた。とんでもないことをしてしまった。そんな罪悪感だけが、ざわりと胸の中で渦巻いている。

「これは、酷いことになったね」

 訓練を見守っていた第一王子は、少しだけ愉快そうに言った。

「申し訳ありません。クラスの人間の不始末は私がつけます」

 その横にいた姫が剣を両手で握る。

「七つの魔法よ……同時に剣に宿れ……そして開放――オーロラソード!!」

 全属性の魔法の力を宿し虹色に輝く剣をケルベロスに向かって投擲する姫。ケルベロスは回避行動を取る暇さえ与えられず、虹色の光の中に消えていった。
 俺は感動半分、悔しさ半分にため息をつきながら、意識を失った。

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