一台の車から

Restive Horse

12.二馬力の帰還 (シトロエン 2cv)

「ガタッ、ゴトッ」

今日は土曜日。
2cvを預けた工場に取りに行く日だ。
僕は元気になって帰ってきてくれことを願った。

電車を降りて、工場に向かって歩いていくと、段々と鼓動が高鳴り始めた。




工場について、中を覗くとポツンと僕の赤と黒の2cvチャールストンが止まっていた。
僕は見つけた瞬間、

「周りといっしょでなくていい。
他の人がこの車を認めてくれなくても僕はかまわない。
僕がおかしな人と言われてもかまわない。
一生こいつに乗っていく。
僕が死ぬ最後の日まで一緒にいよう。」

と、思った。
2cvに近づくとおじさんが「きたか。」といって、店の中にいれてくれた。




直したところは電話で話したとおり、点火コイルとキャブレターだけだという。
修理代を払い、おじさんが2cvのエンジンをかけた。
短くセルモーターを回し、一発で602ccフラットツインは目を覚まし、元気よくアイドリングしはじめた。

おじさんが降りると、手には黒い輪が沢山入っている袋をもっていた。

「そうそう。
これはハンモックシートのかえのゴムね。
これから長い付き合いになりそうだし、プレゼントするよ。
換え方はシートを外してカバーをとれば、すぐに交換できるから。」

といって、ゴムをくれた。




エンジンが温まり、礼をいって2cvに乗り込んだ。
クラッチをきり、一速にいれ、サイドブレーキを解除する。
クラッチをミートさせながらアクセルを踏んだとき加速が少し緩やかだった。
左右を確認し、もう一度挨拶をしてから公道にでた。
走り出したらすぐに二速に入れてアクセルを踏み込む。
今までよりも力強い加速をした。
ソレックスのキャブレターが勢いよく空気を吸い込み、シリンダー内に混合気を送り込む。
キャブレターのオーバーホールは結構効くみたいだ。

今までよりも元気な姿で戻ってきた2cvに僕は満足していた。
三速に入れるとき、ミッションにガタがきはじめていることを思い出し、慎重になった。シフトノブをまっすぐに引き、シンクロメッシュを動かす。
スッと入れるとクラッチをミートさせさらに加速させた。
信号が赤になったので減速しはじめた。
ブレーキはいままでと変わることなく、おとなしく停車した。




家まで帰ってきて、エンジンを止め僕は2cvを
降りてから

「お帰り。」

といって、鍵をしめた。

「文学」の人気作品

コメント

コメントを書く