最強家族のまったりライフ

もちろう

25話 魔法の訓練③



『ひどいではないかクルスっ!』

「あっ!忘れてた!」

『忘れてたとはなんだ!?』

やばっ。声に出てたか。
いやでもしょうがないじゃん。朝からカリスが見当たらなかったんだもん!…………まあ忘れてたのは確かだから一応謝っとこう。

「ごめん、カリス…………。」

『…………今回だけだぞ!』

素直に謝ったのが功を奏したのか俺が謝ったのを見てカリスが少しだけ逡巡したあとに二つ返事で許してくれた。

「ありがとう。ところでカリス、朝見当たらなかったけどどこにいたの?」

『む?朝か?朝は少し小腹が空いたもんで魔物を狩りに行ってたな。それで戻ってきたらちょうど部屋の前でクルスたちが輪になっていたから何事か訪ねようとしたらいきなり消えてしまったのだ。』

うわぁ……………ちょうど転移するときじゃん。なんてタイミングの悪い。それは悪いことしたな。

「ご、ごめん…………。」

『うっ、ま、まあ私が何も言わずに外に出ていったのが悪いのだから。それにもう済んだことだ。だからもう謝るな!後ろのメイドから怒気が滲み出てきているからっ!!私殺されるからっ!』

見るとカリスが青い顔をして慌てた様子で俺を宥めにかかっていた。なにやらケリルが原因らしい。疑問に思いケリルの方に振り返る。だがそこにいるのは先ほどと同じようにニコニコと微笑みを浮かべるケリルがいるだけだ。何なんだ?

「ふふふ、どうしました?クルス坊っちゃま?」

「あ、いえ何でもないです。」

何か聞いちゃいけない気がしたので誤魔化した。あとこのままだとカリスのSAN値がお空の彼方に行ってしまうので話を逸らそう。

「そ、そういえば次はギムルが教えてくれるんだよね?」

「え、あっそうですね。ギムル、既に私が担当する属性は教えてしまったので、次をお願いしますね。」

「畏まりました。坊っちゃま。私が担当する属性は火と時空です。それと、本来あのバカシェーラが教えるはずだった無魔法も担当させていただきます。」

あのバカって…………シェーラのメイド間、執事間での評価が気になるところだ。

「よろしくギムル!」

『む?そういえばクルス達はここに来て何をしているんだ?』

「俺の魔法の練習だよ。」

『そうなのか。面白そうだな。見ててもいいか?』

「別に見てても面白いものでもないと思うけど、カリスがそれでいいならいいよ。」

『うむ。それではクルス、頑張るのだぞ。』

「うん!ありがとうカリス。」

そう言うとカリスはケリルの近くへ飛んでいった。

「では早速始めましょうか。まずは無魔法からですね。坊っちゃま、"魔力弾"のやり方は覚えていますか?」

「うん、大丈夫だよ。早速やってみるね。あ、でもその前に。」

俺は無魔法を教わる前に未だに俺の周りをクルクルと回っている黒い球体改めて"黒盾球"に元に戻るよう念を送ると黒盾球はズブズブと地面の中に潜っていった。

「あの球体は魔法だったのですね。見たことのない魔法です。」

「うん。俺もできたときはびっくりしちゃったよ。じゃあ、改めてやってみるね。」

ええと、たしか魔力を一点に集中させて100分の1くらいに魔力を圧縮させて放つんだっけか。
俺は先ほどシェーラに教わったことを頭の中で反芻させながら指先に魔力を集中させ、魔力が指先に集まる側から圧縮させていった。そして、圧縮させるのが少し辛くなってきたと思ってきたところで魔力の集中を一旦止め、指先を地面に向け、心の中で魔法名を呟いた。

━━━"魔力弾"━━━

ピュンッ

一瞬だった。俺には最初何が起こったのか分からなかった。俺がまだ生まれて間もない頃に一度だけやったデ◯ビームのような光線が指先から出ると、次の瞬間には地面に1センチにも満たない小さな穴ができていた。

ううん…………。たしかに凄い速かったけど、他の属性魔法と比べるとあんま派手じゃないし強そうには見えないな。

『いえ、マスター。そんなことはありませんよ。』

え?そうなの?

『はい。先ほどのマスターが放たれた魔力弾の射線上には偶然ミスリル鉱石があったのですがそれを加工前のものとは言え容易く貫いています。』

ミ、ミスリルってあれだよね、よくラノベとかにある。

『そのミスリルです。鉄や鋼などより遥かに頑丈で魔力伝導率が高く、魔法防御も高いという夢の希少鉱石のミスリルです。ちなみにミスリルで作った武具は国宝に指定されることもざらにあるそうです。』

そんなものを簡単に貫いちゃったんだ…………。無魔法って意外と凄い魔法だったんだ。

『いえ、魔力弾とは通常相手に魔力の塊をぶつけて衝撃を与える魔法です。決して対象を貫いたり、ミスリルを貫通する威力が出るものではありません。
この結果を引き起こせたのは単にマスターが魔力を込めすぎたことと、それが可能になるほどの魔力を圧縮させる技術があったからだと思います。』

え?そんなに魔力は込めてないはずだけどなぁ。
せいぜい1000くらいの魔力だと思うけど?

『マスター。前にも説明したかと思いますが、この世界の一般人のステータスはばらつきはありますがだいたい100程度です。戦いを専門としている冒険者達でやっと1000に届くかどうかというところなのです。ですので普通は1000も魔力を消費したら一般人は言わずもがな、大抵の冒険者でも一瞬で魔力枯渇状態になりますからね。』

うそぉ………。ティオからの新情報に驚いているとギムルが近づいてきた。

「さすが坊っちゃまです。こうもあっさりと魔力弾を習得してしまうとは。」

「もともと魔力操作のスキルを持っていたからね。自分の力じゃないよ。」

うん、本当に。だってイリス様からもらった力だもん。俺は何もしてない。ただとっても運の悪い死に方をしただけだ。

『そうそう、だから私に感謝しなさ━━』

ブチッ━━

《『あっ………。』》

なんかイリス様のような声が聞こえた気がしたけどきっと空耳だよね。

《いや、ご主人様。確かに聞こえたような………。》

あーあーきーこーえーなーいー。

「ご謙遜を。その魔力操作のスキルも坊っちゃま自身の力なのですから。自信を持って良いのですよ。」

「ありがとうギムル。それじゃあ無魔法もできたから次の魔法お願い。」

「畏まりました。ですがその前に、もうすぐ正午ですので先に昼食をいただいてからに致しませんか?」

空を見ると太陽がもう真上に来ていた。そういえば集中してたから気がつかなかったけどお腹空いたな。

「うん、そうだね。ちょうどお腹空いてきたし。あ、それなら姉さん達と母さん達も呼んでこなきゃ。」

そういえば姉さん達どこ行ったんだ?そう思ったので試しに大声で呼んでみた。

「レレナ姉さーん!ルーナ姉さーん!母さーん!レスティアお母さーん!」

「「「呼んだ(かしら)?」」」

「何………?」

「うわあ!!!」

すると後ろから声がして俺はたまらず声を上げて驚いてしまった。いつの間に……。

「どうしたのクルス君?大声なんか出して。」

「い、いやもうすぐお昼だってギムルが言ってたから。」

「もうそんな時間なのね。」

レスティアお母さんは空を見上げて今気づいたかのように呟いた。

「本当ね。それじゃあ一旦帰ってお昼にしましょうか。」

そう言う母さんからはさっきの暴走の影は見当たらない。良かった、もう落ち着いたみたいだ。

「賛成~!」

「お腹空いた…………。」

レレナ姉さんもルーナ姉さんもお腹が空いたようだ。

「そういえば姉さん達はどこに行ってたの?」

俺はふと気になったので姉さん達に聞いてみるとふふんと(ない)胸を張って答えた。

「「美食探検よ!」」

「美食探検?」

「そう!ここに着いたときから凄い美味しそうな血の匂いがしていたの。あれは絶対美味しい血のはずよ!」

「ええ………あの匂いは間違いなく美味しいはずよ………。」

「それで私とルーナはその血を持つ魔物を探していたの!」

そうだった。二人はヴァンピルフだもんね。血の匂いには敏感なのか。

「それで見つかったの?」

「ううん。まだよ。だからお昼を食べたらまた探検するつもりよ!」

「あれ?俺に闇魔法教えてくれるっていうのは?」

俺がそう聞くと二人ともピタリと止まり慌てたように話し始めた。

「もっ、勿論忘れてないわよ。ねっ!ルーナ!」

「え、ええ………忘れてない………忘れてない………忘れて………ない?」

いやルーナ姉さんなんで疑問形?
まあ別に急いでる訳じゃないから忘れててもいいんだけどね。

「あ、あーお腹空いたなー。早く帰りましょ!」

レレナ姉さん、別に怒ってないから露骨に話逸らさなくてもいいよ。

俺達はまた来たときと同じようにギムルに転移魔法で家まで送ってもらった。その時にまた誰が俺と繋ぐかとなったが、その時にはもう俺はギムルとカリスと繋いでいたのでみんな悔しそうにしていた。なぜ来たときみたいにケリルと繋がないでカリスと繋いだのかというと、なんか姉さん達の争いに一緒になって参加していたので怖くなったからだ。
まあそんな事があったが無事家まで転移できた。

「さて、それじゃあ 食堂に行きましょうか。」

家に着くと母さんが皆を食堂へと促した。食堂か…………そういえば久々に行くな。この頃は母さん達が忙しかったのもあって姉さん達の部屋で一緒に食べてたから、食堂の存在を忘れかけてたよ。

「食堂なんて久しぶりだね。」

「そうね…………この頃はクルスと一緒に部屋で食べてたから…………。」

どうやら姉さん達も同じ心境のようだ。

「私達が忙しかったのもあるけど食堂に行ってもカレイドかセーラしかいなかったのはそういうことだったのね。ごめんなさいね、一緒になれる時間が少なくて。」

レスティアお母さんは最近の様子を思い出して俺達に申し訳なさそうにしていた。
まあ、それだけお仕事を頑張ってるんだからしょうがないよね。

「気にしないでいいわよ。この頃お仕事大変なんでしょ?」

「い、いや、お仕事っていうよりもセーラの美酒探しを手伝わされて時間がとれないっていうか………。」

え゛!!

「あっ!ちょっとレスティアっ!それは秘密だって言ったじゃない! 」

「しょうがないじゃない!娘達とクルス君の好感度のためよ!大人しく生け贄になりなさい!」

「この裏切り者ーー!」

女の友情とはなんて儚い…………。

《女の人って怖いですね~。》

いや、ノイントも女の子なんだけど。

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