第31話 異界結界の中で

神夜がマリオルを倒す前……神夜が魔王ヴァーミリアン達を中心に《異界結界》貼った頃まで遡る。その《異界結界》の中では…………

「ヴァイロス！こんなことはもう辞めるんだ！」

「いい加減うるさいな。そんなに止めたいなら力ずくで止めてみなよ。」

「陛下。やっぱりダメです。」

「いや、これでいいんだ。神夜によるとあの男にヴァイロス達は操られている。神夜があの男を倒すまでの時間稼ぎをすればいい」

「アハッ！そんなこと無理に決まってるじゃん。あの方は魔神様なんだ。神様だよ？人間が勝てるはずないじゃないか。」

「ま、魔神だと……！」

「可哀想にねぇ。姉さんがこんなことに巻き込むからあの男は死ぬんだよ。ねぇ、分かる？姉さんのせいで死ぬんだ。つまり姉さんが殺すんだよ」

「っ！」

「陛下！耳を傾けてはなりません！操られている者の戯言です！」

「分かっている。全員すぐに戦闘ができるようにしておけ、」

「はい。」

ヴァーミリアンの指示を受け、いつでも戦闘が開始できるように、武器を構えておく。

「バルマ、ブリオン、カフィル。準備はいいかい？」

「もちろんだ」

「出来ております」

「当たり前だぁ。あいつと決着つけてやらァ」

バルマ達八魔柱将も武器を取り出し、構える。序列7位のブリオンは槍を構え、序列4位のバルマは双剣、序列2位のカフィルは大鎌を構える。

互いの間に静かだが重い空気が流れる。

先に動いたのは過激派のカフィルだった。カフィルは真っ直ぐにヴィナスに向かってくる。それと同時に全員が動き始めた。

魔王ヴァーミリアンは魔王ヴァイロスと
1位のヴィナスは2位のカフィルと
3位のフォルデムと5位のルイガスは4位のバルマと
6位のシュレイルと8位のフィースは7位のブリオンと対峙する。

全部で4つの戦局が生まれた。

そこでヴァーミリアンから声がかかる。

「私たちのやるべき事は足止めだ！決して無理をするな！そして、死ぬな！」

それに対しヴァーミリアン側の八魔柱将たちは返事をする。

「「「「「はっ！！」」」」」

逆にヴァイロスはこういった。

「邪魔者を消す時が来た！全力を尽くせ！」

「「「はっ！！」」」

そして、ついに両者がぶつかりあった。


「ヴァイロス……絶対にお前を止める！」

「やらるものならやってみなよ！」

ヴァイロスが剣を持ち出し駆ける。
それに応じてヴァーミリアンも自身の剣を持って対応した。

そこからはしばらく剣戟が続いた。
周りから見れば、拮抗しているように見えるが…………

(まずいわね。だんだんスピードが上がっているけど、もう少しで限界に達してしまう。けど、ヴァイロスは……)

ヴァーミリアンはヴァイロスの顔を見るがまだまだ余裕そうな顔をしている。

(それなら！)

ヴァーミリアンは力でヴァイロスの剣を弾き距離をとる。

「《炎柱》！」

ヴァーミリアンは炎中級攻撃魔法《炎柱》をヴァイロスに向かって放つ。
しかし…………

「なっ！」

既にヴァイロスは崩れた身体を逆に円運動で力を逃がし、体制を立て直し、その場から移動していた。

「《サンダートルネード》」

そして、移動した場所から放ったのは、雷上級攻撃魔法《電雷》と風上級攻撃魔法《風嵐》を複合した風雷複合攻撃魔法《サンダートルネード》だ。
風で竜巻を起こし、その中に雷を落とす。それを常に発生させ風の力で切り裂き、雷の力で焼く。魔王であるヴァーミリアンとてまともに喰らえばタダでは済まない。

「なら！《砂鯨》！」

すると、地面から土で出来た巨大な鯨が現れ、《サンダートルネード》を潰してしまった。これは地上級攻撃魔法の《砂鯨》だ。地面の土や砂を使い、それに鯨の形を象らせ、その巨大な身体で相手を押し潰したり食らうという魔法だ。

「ちぃ！《魔眼》！」

ヴァイロスは魔眼を使った。魔眼は人それぞれで違うが、同じものもある。ヴァイロスは魔力を見る魔眼だ。そして、その力を使い、砂鯨の魔法の核を見つける。

魔法の核とは魔力が最も集中しており、そこを中心に魔法は形成されている。
その核を潰されると魔法はその状態を保てなくなり効果を失ってしまう。

ヴァイロスはその核に向かって魔法を放つ。

「《闇円錐》！」

闇中級攻撃魔法《闇円錐》。これは闇の力を物質化させ鋭い円錐形にして、攻撃をするものだ。通常ならば人の頭の2倍くらいしかないのだが、ヴァイロスが作った《闇円錐》は高さが10メートル以上ある巨大なものだった。

そして、その《闇円錐》をヴァイロスは殴った。

殴られた《闇円錐》は勢いのまま《砂鯨》に刺さり核を貫いた。
そのまま、砂鯨はただの砂に戻ってしまう。

2人の魔王の戦いはほぼ拮抗していた。


一方、序列1位のヴィナスと序列2位のカフィルの戦いも激しいものになっていた。


「《ファイアバレット》！」

「《ウォーターメイス》！」

「《サンダーボルト》！」

「《サンドウォール》！」

下級や中級の魔法はもちろん、上級や王級、帝級の魔法すら飛び交っていた。
辺りは魔法の嵐になっていた。

「むう、腕を上げたかカフィル」

「ふん。お主こそなまったのではないか？」

「ぬかせ！」

ヴィナスは剣を片手に走り出す。それに対し、カフィルも大鎌を持って走り出した。
剣の刃と大鎌の刃がぶつかり合って火花を散らす。

「やはり早いな」

「まだまだ行くぞ」

ぶつかり合う剣と鎌。
これはほぼ互角だった。
カフィルのすくい上げるように下からの攻撃をヴィナスは状態を仰け反らせて避け、そのまま足を蹴りあげる。カフィルはそれをスウィングさせた鎌の柄で受け止める。
その勢いを利用しカフィルが攻撃をする。
また、ヴィナスがそれを避け攻撃する。
ずっとそれの繰り返しだった。

こうして、序列1位とマリオルの力によって限界まで引き上げられた力を持つカフィルの戦いは長期戦にはいる。




フォルデムとルイガスが対峙しているのは序列4位のバルマだ。

「前回の借り。返させていただきますぞ！」

「ルイガス。我らの仕事は足止めだ。本当にあの神夜とやらが信用できるかは分からんが、今は信じるしかあるまい」

「神夜殿は悪い方ではありませんぞ。ただ少し闇があるかと思いますが、それでもいい方です。神夜殿なら大丈夫でしょう。それよりもバルマを止めましょう」

「ああ」

2人は改めてパルマを見る。

「作戦会議はおしまいか？さっさと始めようぜ！」

バルマは双剣を構え、駆け出す。
それに対し、フォルデムは棍を構え、ルイガスは斧を構えて迎え撃つ。

「《魔炎鳥》！」

バルマは己のユニークスキル魔属性魔法の魔上級攻撃魔法《魔炎鳥》を放つ。

「《熔壁》！」

フォルデムは自身のユニークスキル熔属性魔法の熔上級防御魔法《熔壁》を使う。
《魔炎鳥》と《熔壁》がぶつかり合って、どちらも消えてしまう。

そのままバルマが突っ込んできてルイガスに双剣を突き立てるが、

「甘く見られては困りますぞ！」

それを斧で防ぎバルマの腹に向かって蹴りを入れる。

バルマはそれを腕をクロスして防ぎ後ろに下がる。そこにフォルデムが棍を叩きつけてきた。

「お見通しなんだよ！」

しかし、双剣によって防がれてしまう。

フォルデムは避けられて直ぐに後退しルイガスの隣に立つ。

「2人でもなかなか難しいですな。前よりも強くなっている。」

「ああ、これが操られて限界まで引き出されている力というものなのだろう。バルマにここまでのポテンシャルがあるとは」

2人はバルマのポテンシャルに感心しながら敵をみる。

そこから2対1の戦いが始まった。



そして、全ての戦局が動き出してから10分ほどした頃、突然、過激派の魔族達が呻き出す。

「な、なんだ！」

「ガァァァァァァァァ！！！」

突然のことに困惑しながらヴァーミリアン達は警戒態勢にはいる。

「ああああァァァァァァ………………」

最後の呻き声と共に4人は倒れてしまった。
それと同時に神夜が張っていた《異界結界》が解けた