外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第24話 道徳的な人間(2)

「なるほど…。それで私に相談し、取り返しのつかない事になる前に、何とか事態を収拾したいという訳ですか。」

 どこか遠くを眺めるような目で、聡は独り言の様に呟く。その様子に疑問を持つマリウスだが、今の彼には良い返事が返ってくるのを願う事しか出来ない。だが最後にと、悪あがきのつもりで言葉を紡ぐ。

「あぁ、そうだ。何も悪い事をしていない奴らが、ある日突然、不幸のドン底に落とされるのは、道理に合わねぇ。俺の村の住人に手を出させたくねぇ。…まぁこの通り、俺がサトシに依頼した理由は、ただ自分の嫌な事をされたくねぇっていう、ただの我儘なんだが、どうか引き受けてはもらえないか?」

 真っ直ぐ自分を見つめてくる双眸に、思わず聡は思考の海から引き上げられ、ハッとさせられる。

-この人の目は、アイツ・・・と同じ、自身の愛する者、愛している世界を守りたいっていう者の目だ。…しかし、その考えは、実務上において正しいものなのだろうか?-

 聡が、なんちゃらとかいう貴族を始末するのは簡単である。最悪、数十年彼が身を隠せば、ほとぼりは完全に冷め、その後は永遠に問題とならないだろう。しかし貴族の当主を1人消せば、その分家督争いやらなにやら、騒ぎが大きくなりそうで、迂闊に手が付けられないのが現状である。

「…!」

 ここまで考えて、聡はギョッとしてしまう。何故ならば、その考え方はまるで、心を無くした、ただの機械的なものであったからだ。
 慌てて目を瞑り、首を振りながら、聡は自身に言い聞かせる。

-俺は人間を辞めるつもりは無い!『例え酷い目にあっても、死ぬ訳じゃない。貴族を殺せば、家督争いとかで、より被害が甚大になる』なんて、何があっても取っちゃいけない選択肢だ!-

「い、一体どうしたんだ?急に驚いた顔をしたり、首を振ったりして。」

 その声に目を開けると、やはり真っ直ぐな視線が聡に向いている。

「いえ、何でもありません。それよりも、依頼の件ですが…。」

「い、いや、別に今すぐに答えを出さなくても「協力させていただきます。」って、え!?今、何て言った!?」

 マリウスの言葉に被せるように、引き受ける旨を伝える聡。おかしな様子の聡に、若干無理があったかと思っていたマリウスは、唐突の返事に聞き返してしまう。

「いえ、ですから、変な名前の貴族を、どうにかするのを協力しますと言ったんですよ。」

「ま、マジか…。」

 緊張していた全身の筋肉を弛緩させ、ソファーにだらしがなく沈み込むマリウス。
聡に協力を承諾させる事を、よほど勝率の低い賭けだと思っていたのだろうか。

「マリウスさん、まるで、休日のお父さんみたいな格好してますよ?」

 その格好を、聡は笑いながら揶揄うが、マリウスは聡の言葉に過剰に反応し、ガバッと立ち上がって叫ぶ。

「お、お父さんだと!?サトシ、まさかお前、イルマに惚れたから、協力する気になったのか!?確かにアイツはそろそろ結婚を考えても、おかしくはない歳だが、まだ14だぞ!?見た感じ、サトシにイルマは大分心を開いている様子だし!!この村に、俺のお眼鏡に叶うイルマの結婚相手なんて、今は居ないし!!だ、だがしかし、協力する条件として、イルマを嫁にくれとか言われたら、断わる理由が私的なものしか無くなってしまうし!!だが、だが!!」

「落ち着け!!」

『スパーン!!』

 目をグルグルと回しながら、早口で捲し立てるように詰め寄ってくるマリウスを、聡はアイテムボックスから取り出した、彼のお手製スリッパで頭を引っぱたく。

「痛っ!…あ、すまん。」

「いや、大丈夫です。マリウスさんがよっぽどイルマさん・・の事を大切に思っているのが、良く分かりましたから。」

 態々聡は、イルマに頼まれた呼び捨てではなく、『さん』付でマリウスセンサーに反応されないように気を付けつつ、気にしてない事を揶揄うことで示す。

「むう…。」

「親バカだな〜とか思ってないですから、そんな顔しないで下さい。…まぁ、協力する事についての、報酬は後々決めていきましょう。勿論、人道に反する様な要求はしないので、ご安心下さい。」

 別段急ぐ事でもないので、報酬の話は後回しにしようと提案する聡。

「いや、それは分かってはいるが、うちのイルマは、贔屓目抜きで可愛いし、イルマもサトシの事を悪く思っていないようだから…あ、はい、何でもありません。」

 再び面倒な話を蒸し返そうとするマリウスに、ニッコリと笑顔を向け、その手では先程のスリッパをいじる聡。その視線に気付き、慌てて居住まいを正すマリウス。

「さて、どうやってアホ貴族を消しましょうか?」

「け、消す!?」

「あ、違いました。」

「だよな〜。まさかそんな物騒な言葉が飛び出てくるとは思って無かったぜ。」

「焼却処分でした。」

「なるほど、なるほど〜。焼却処分か〜。って、それほぼゴミ扱いになってるじゃねぇか!」

 聡も冗談が言える程度には余裕を取り戻し、漸く、名前もよく分からない貴族の消毒作業・・・・の話し合いが始まるのだった。

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