異世界冒険EX
フロリアとメアリー
「で、大丈夫なの?」
「…………」
倒れたメアリーをアッサムに頼み、俺とフロリアは荒れた戦場跡に佇んでいる。
側にはアルフとエレナもいる。
「とりあえず、アルフ達は帰っていいぞ。また明日、ギルドで」
二人が居ては話しにくいことも多い。
それを察したのかわからないが、二人は素直に頷き、帰っていく。
「とりあえず私達も女神の空間へ向かいましょう」
「わかった」
フロリアの提案を受け、アッサムに空間への転移を頼む。
  一瞬にして世界が揺らぎ、女神の空間へと転移する。
「アッサム」
「フロリア。そろそろ限界だ。選択しないと」
「わかってるわ……」
深刻そうな顔で会話する二人。
全力で置いてけぼりにされている訳だが、どうしたものか。
あまり他人の事情に首を突っ込みたくはないけれど、放っておくのもどうだろう。
「説明が欲しいんだけど」
「……私はちょっと考えるから、アッサム。お願い」
「わかった」
フロリアはそう言うと真っ白な空間にぽつんと置かれたベッド、そこに寝かされたメアリーの元へと歩いていく。
アッサムは話の内容をまとめているのか、腕を組み、難しい顔で唸っている。
やっぱり聞きたくなくなってきたなぁ。
「……この世界では七年前の事だ。勇者パーティーに挑戦したパーティーがいた。フロリアとその両親、それからあの三人」
ややあってアッサムは口を開いた。
「その話は聞きました。三人は棄権し、フロリアのご両親が亡くなられたと」
「……それなんだが、おかしいとは思わないか? 王族が揃って戦うなんて」
「……? それは死ぬとは思っていなかったとかでは?」
「いや、勇者パーティーを知るものならフロリアはともかく、その親は殺されるとわかっていた」
……この言いようから察するに勇者パーティーは親を狙って殺しているのか?
だからアロードは俺たちに攻撃してこなかった……?
っと、今はそんな事を考えてる場合じゃないか。
「それでも倒さないといけないと思ったのでは?」
フロリアは力を持つ者の義務だとかなんとか言っていた。
あれが両親からの教育だと考えると、親の二人も同じ考えだろう。
「それでもおかしいだろう。一歩間違えれば王族の血が途絶えてしまうのだから。フロリアはパーティーから外すべきだった」
「……でも、結構ギリギリだったらしいですし、フロリアがいないと辿り着くのも不可能だったのでは?」
「そうだな。それもある。だが、もっと簡単な理由もある」
そこまで言うとアッサムは俺の目をジッと見てくる。
何だ? 何を察せと言うのだ……?
「はぁ……メイドが料理が下手なんてあり得ると思うか? 主人と同じ階の隣同士の部屋なんてあり得ると思うか? ……ここまで言えばわかるだろ?」
……え? 料理下手なメイドなんていくらでも……あ、これは漫画とかアニメか。
……そう言われるとおかしいな。
部屋が隣同士なのも真面目なメアリーを思えば断るはずだ。
えーとつまり……。
「……はぁ。メアリーはフロリアの妹だ」
呆れたようにため息をつくアッサム。
いや、もう少しでわかったんだって。
まぁ、それはそれとしておかしいだろう。あの胸の差は。姉妹逆ならわかるけど。
……と、冗談はともかく。
そういうことか。まだ一人残っているからこそ、フロリアとそのご両親は戦ったのか。
そして妹だからこそ、フロリアとメアリーの距離感はメイドと主人の距離感ではないのか。
「……でも、メアリーの方は全然そんな感じしなかったけど? あくまで仲のいいメイドと主人って感じで」
「それはそうだろう。メアリーの記憶はフロリアのメイドになってからしか、存在しないのだから」
「え?」
「……フロリアは今十六歳だ。つまり、両親を殺されたのが九歳、そしてメアリーはその時七歳だ」
アッサムは少し目を瞑り、悲しげな表情を浮かべる。
「フロリアは勇者パーティーに復讐する事だけを考えることで耐えた。耐えるしか無かった。……だがメアリーは耐えられず、何度も自殺未遂を繰り返した。だからフロリアは私と契約し、女神の手下になる代わりにメアリーの記憶を封印したんだ」
「……なるほど。でも、封印するより消去してあげた方が良かったんじゃないの?」
「フロリアの希望はメアリーが耐えきれる年齢になった時には、取り戻せるようにして欲しい、だ。だから、消去ではなく封印になった」
「………………」
「だが、そのせいで記憶を思い起こさせるような事があると、メアリーは頭痛を感じるようになった。その頻度と程度はどんどん上がっていき、今日遂に倒れてしまった。という訳だ」
「……なるほどね」
そこまで言うとアッサムはフロリアの方に視線を移す。
同じように俺もフロリアを見ると、メアリーの手を両手で握り、うなだれている。
「………………」
「……決めたわ」
しばらくそのまま考えていたフロリアは、顔を上げると、そう呟きアッサムに手招きをする。
「消去か、それとも記憶の復活か、どうするんだ?」
呼ばれたアッサムは素直にフロリアの元へと歩いていく。
「……復活よ」
「いいんだな? あの時の二の舞になるかも知れないぞ?」
アッサムはフロリアの元まで辿り着くと、真剣な表情でフロリアの顔を見る。
「……あの頃はまだ、私はメアリーの支えになれなかった。でも、今は違うわ」
そう言って睨み返してきたフロリアに、アッサムは満足そうに頷く。
そしてメアリーの頭に手を置き、何かを呟く。
「…………メアリー」
「………………………」
アッサムが何かを唱え終わり、メアリーから少し離れる。
すぐにフロリアはメアリーに呼びかけるが、反応はない。
「……メアリー」
「ん……」
しかし何度か繰り返していると少しだが反応があった。
そして五回目の呼びかけ。
「……メアリー」
「……フ、フロリア様? ……あれ? 違う……お姉……ちゃん?」
ぱっと目を開いたメアリーはキョロキョロと辺りを見回し、そしてフロリアに視線を戻す。
「……そっか。私……やっぱり――」
「ごめんなさい、ちょっとだけ……ごめんなさい」
何かを言いかけたメアリーをフロリアは優しく抱きしめる。
その目には涙が浮かんでおり、なんとも言えない空気が辺りを包む。
おかげで居心地が悪い。
「メアリー……メアリー」
「………………」
何度も妹の名を繰り返すフロリアの背中に、ゆっくりと腕が回される。
「大丈夫……メアリー、何も心配いらないわ。全て私が終わらせるから」
「…………お姉ちゃん」
「もう計画も出来てるの。勇闘会に参戦するAランクパーティーの八割は私の協力者。これからまだ増えるわ。そして――」
「やめよう……お姉ちゃん。無理だよ」
今度はメアリーがフロリアの言葉を遮るように、告げる。
回された腕はまだ優しくフロリアを抱きしめている。
「私も……あいつらが憎いよ。今すぐにでも殺しに行きたいぐらいに。でも、でも危ないよ。お姉ちゃんまで殺されたら私は……」
「メアリー……」
……困ったな。
フロリアもそうだが、女神からの命令がある以上、勇者の討伐は決定事項だ。
だけど、妹からこんな事言われては流石に士気は下がってしまうだろう。
俺としてもメアリー、フロリア、二人の協力がないと勇者を殺せる自信はない。
「……駄目よ。勇者は殺さないと。だって私はこの国の王女なんだもの! 国民が悲しんでいるのに放っておくことなんて出来ないわ」
メアリーから離れたフロリアは、メアリーの肩に手を当て真っ直ぐに目を見る。
その目には強い決意が見える。良かった。
「……わかりました。では、私もお供します。メイトとしてではなく、この国の第二王女として」
その瞳を真正面から見返したメアリーは、悪戯っぽい笑みでそう告げる。
「……アンタ、最初からそれが狙いだったのね」
「メイドの時は何度頼んでも駄目って言われてしまっていたので」
笑い合う二人に、疎外感を感じる俺。
何だろうこの空気。何だかクライマックスに向かってる感じはわかるんだけれど、どうも気分が乗れない。
例えるなら漫画とかのクライマックスで、ラスボスとの戦いを前に、お互いの気持ちを伝え合い、やる気を漲らせる主人公とヒロインを眺めるちょっと前に仲間になった脇役みたいな。
そんな感じ。
「……盛り上がっている所、申し訳ないのですが!」
だか、俺は脇役で終わるつもりはない。空気をぶち壊してでもだ。
「そろそろ情報の共有をお願いしたいんだけど? アロードとかの能力とか、フロリアの計画とかさ」
「…………」
「…………」
「…………」
三つの冷たい視線が俺に突き刺さるが、負けない。
だって俺は別に間違った事は言っていない。
「……わかったわ。空気の読めない悠斗に説明してあげるわ」
「私は少し記憶の整理をしてますね」
「私は……筋トレでもするか」
三者三様、思い思いの行動に移る。
フロリアは紙とペンを指輪から取り出し、俺の元へと歩いてくる。
メアリーはベッドの上で目を瞑り、小声でなにか呟いている。
アッサムはバーベルをどこからか生み出すと、それを持ちながらスクワットを始めた。
……邪魔した俺が言うのもなんだけど、切り替え早すぎだろ……。
「…………」
倒れたメアリーをアッサムに頼み、俺とフロリアは荒れた戦場跡に佇んでいる。
側にはアルフとエレナもいる。
「とりあえず、アルフ達は帰っていいぞ。また明日、ギルドで」
二人が居ては話しにくいことも多い。
それを察したのかわからないが、二人は素直に頷き、帰っていく。
「とりあえず私達も女神の空間へ向かいましょう」
「わかった」
フロリアの提案を受け、アッサムに空間への転移を頼む。
  一瞬にして世界が揺らぎ、女神の空間へと転移する。
「アッサム」
「フロリア。そろそろ限界だ。選択しないと」
「わかってるわ……」
深刻そうな顔で会話する二人。
全力で置いてけぼりにされている訳だが、どうしたものか。
あまり他人の事情に首を突っ込みたくはないけれど、放っておくのもどうだろう。
「説明が欲しいんだけど」
「……私はちょっと考えるから、アッサム。お願い」
「わかった」
フロリアはそう言うと真っ白な空間にぽつんと置かれたベッド、そこに寝かされたメアリーの元へと歩いていく。
アッサムは話の内容をまとめているのか、腕を組み、難しい顔で唸っている。
やっぱり聞きたくなくなってきたなぁ。
「……この世界では七年前の事だ。勇者パーティーに挑戦したパーティーがいた。フロリアとその両親、それからあの三人」
ややあってアッサムは口を開いた。
「その話は聞きました。三人は棄権し、フロリアのご両親が亡くなられたと」
「……それなんだが、おかしいとは思わないか? 王族が揃って戦うなんて」
「……? それは死ぬとは思っていなかったとかでは?」
「いや、勇者パーティーを知るものならフロリアはともかく、その親は殺されるとわかっていた」
……この言いようから察するに勇者パーティーは親を狙って殺しているのか?
だからアロードは俺たちに攻撃してこなかった……?
っと、今はそんな事を考えてる場合じゃないか。
「それでも倒さないといけないと思ったのでは?」
フロリアは力を持つ者の義務だとかなんとか言っていた。
あれが両親からの教育だと考えると、親の二人も同じ考えだろう。
「それでもおかしいだろう。一歩間違えれば王族の血が途絶えてしまうのだから。フロリアはパーティーから外すべきだった」
「……でも、結構ギリギリだったらしいですし、フロリアがいないと辿り着くのも不可能だったのでは?」
「そうだな。それもある。だが、もっと簡単な理由もある」
そこまで言うとアッサムは俺の目をジッと見てくる。
何だ? 何を察せと言うのだ……?
「はぁ……メイドが料理が下手なんてあり得ると思うか? 主人と同じ階の隣同士の部屋なんてあり得ると思うか? ……ここまで言えばわかるだろ?」
……え? 料理下手なメイドなんていくらでも……あ、これは漫画とかアニメか。
……そう言われるとおかしいな。
部屋が隣同士なのも真面目なメアリーを思えば断るはずだ。
えーとつまり……。
「……はぁ。メアリーはフロリアの妹だ」
呆れたようにため息をつくアッサム。
いや、もう少しでわかったんだって。
まぁ、それはそれとしておかしいだろう。あの胸の差は。姉妹逆ならわかるけど。
……と、冗談はともかく。
そういうことか。まだ一人残っているからこそ、フロリアとそのご両親は戦ったのか。
そして妹だからこそ、フロリアとメアリーの距離感はメイドと主人の距離感ではないのか。
「……でも、メアリーの方は全然そんな感じしなかったけど? あくまで仲のいいメイドと主人って感じで」
「それはそうだろう。メアリーの記憶はフロリアのメイドになってからしか、存在しないのだから」
「え?」
「……フロリアは今十六歳だ。つまり、両親を殺されたのが九歳、そしてメアリーはその時七歳だ」
アッサムは少し目を瞑り、悲しげな表情を浮かべる。
「フロリアは勇者パーティーに復讐する事だけを考えることで耐えた。耐えるしか無かった。……だがメアリーは耐えられず、何度も自殺未遂を繰り返した。だからフロリアは私と契約し、女神の手下になる代わりにメアリーの記憶を封印したんだ」
「……なるほど。でも、封印するより消去してあげた方が良かったんじゃないの?」
「フロリアの希望はメアリーが耐えきれる年齢になった時には、取り戻せるようにして欲しい、だ。だから、消去ではなく封印になった」
「………………」
「だが、そのせいで記憶を思い起こさせるような事があると、メアリーは頭痛を感じるようになった。その頻度と程度はどんどん上がっていき、今日遂に倒れてしまった。という訳だ」
「……なるほどね」
そこまで言うとアッサムはフロリアの方に視線を移す。
同じように俺もフロリアを見ると、メアリーの手を両手で握り、うなだれている。
「………………」
「……決めたわ」
しばらくそのまま考えていたフロリアは、顔を上げると、そう呟きアッサムに手招きをする。
「消去か、それとも記憶の復活か、どうするんだ?」
呼ばれたアッサムは素直にフロリアの元へと歩いていく。
「……復活よ」
「いいんだな? あの時の二の舞になるかも知れないぞ?」
アッサムはフロリアの元まで辿り着くと、真剣な表情でフロリアの顔を見る。
「……あの頃はまだ、私はメアリーの支えになれなかった。でも、今は違うわ」
そう言って睨み返してきたフロリアに、アッサムは満足そうに頷く。
そしてメアリーの頭に手を置き、何かを呟く。
「…………メアリー」
「………………………」
アッサムが何かを唱え終わり、メアリーから少し離れる。
すぐにフロリアはメアリーに呼びかけるが、反応はない。
「……メアリー」
「ん……」
しかし何度か繰り返していると少しだが反応があった。
そして五回目の呼びかけ。
「……メアリー」
「……フ、フロリア様? ……あれ? 違う……お姉……ちゃん?」
ぱっと目を開いたメアリーはキョロキョロと辺りを見回し、そしてフロリアに視線を戻す。
「……そっか。私……やっぱり――」
「ごめんなさい、ちょっとだけ……ごめんなさい」
何かを言いかけたメアリーをフロリアは優しく抱きしめる。
その目には涙が浮かんでおり、なんとも言えない空気が辺りを包む。
おかげで居心地が悪い。
「メアリー……メアリー」
「………………」
何度も妹の名を繰り返すフロリアの背中に、ゆっくりと腕が回される。
「大丈夫……メアリー、何も心配いらないわ。全て私が終わらせるから」
「…………お姉ちゃん」
「もう計画も出来てるの。勇闘会に参戦するAランクパーティーの八割は私の協力者。これからまだ増えるわ。そして――」
「やめよう……お姉ちゃん。無理だよ」
今度はメアリーがフロリアの言葉を遮るように、告げる。
回された腕はまだ優しくフロリアを抱きしめている。
「私も……あいつらが憎いよ。今すぐにでも殺しに行きたいぐらいに。でも、でも危ないよ。お姉ちゃんまで殺されたら私は……」
「メアリー……」
……困ったな。
フロリアもそうだが、女神からの命令がある以上、勇者の討伐は決定事項だ。
だけど、妹からこんな事言われては流石に士気は下がってしまうだろう。
俺としてもメアリー、フロリア、二人の協力がないと勇者を殺せる自信はない。
「……駄目よ。勇者は殺さないと。だって私はこの国の王女なんだもの! 国民が悲しんでいるのに放っておくことなんて出来ないわ」
メアリーから離れたフロリアは、メアリーの肩に手を当て真っ直ぐに目を見る。
その目には強い決意が見える。良かった。
「……わかりました。では、私もお供します。メイトとしてではなく、この国の第二王女として」
その瞳を真正面から見返したメアリーは、悪戯っぽい笑みでそう告げる。
「……アンタ、最初からそれが狙いだったのね」
「メイドの時は何度頼んでも駄目って言われてしまっていたので」
笑い合う二人に、疎外感を感じる俺。
何だろうこの空気。何だかクライマックスに向かってる感じはわかるんだけれど、どうも気分が乗れない。
例えるなら漫画とかのクライマックスで、ラスボスとの戦いを前に、お互いの気持ちを伝え合い、やる気を漲らせる主人公とヒロインを眺めるちょっと前に仲間になった脇役みたいな。
そんな感じ。
「……盛り上がっている所、申し訳ないのですが!」
だか、俺は脇役で終わるつもりはない。空気をぶち壊してでもだ。
「そろそろ情報の共有をお願いしたいんだけど? アロードとかの能力とか、フロリアの計画とかさ」
「…………」
「…………」
「…………」
三つの冷たい視線が俺に突き刺さるが、負けない。
だって俺は別に間違った事は言っていない。
「……わかったわ。空気の読めない悠斗に説明してあげるわ」
「私は少し記憶の整理をしてますね」
「私は……筋トレでもするか」
三者三様、思い思いの行動に移る。
フロリアは紙とペンを指輪から取り出し、俺の元へと歩いてくる。
メアリーはベッドの上で目を瞑り、小声でなにか呟いている。
アッサムはバーベルをどこからか生み出すと、それを持ちながらスクワットを始めた。
……邪魔した俺が言うのもなんだけど、切り替え早すぎだろ……。
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