異世界冒険EX
平原での戦い②
「終わりだな」
そう呟くゴートの仲間であるバッドによる剣での攻撃に押されているフロリア。
バッドはこの世界では珍しい、剣も扱える魔法剣士だ。
だが、凄腕という程でもない。それこそ技量だけなら、フロリアの方が上だろう。
「っ……!」
だが、そもそもレイピアはあまり防御に向いた武器ではないのだ。
実戦では片方に受け流しの為の武器を持つはずだが、魔法を使うこの世界では左手は空けておかないとならない。
その上、フロリアの顔色も良くない。脇腹からの出血のせいだろう。
「何を遊んでるんだよ! 回復魔法を使えばいいだろ!」
ゴートが魔法を発動しようとしているのを見て、慌ててフロリアの所へと走る悠斗。
その悠斗に数瞬遅れて、ゴートがカードにタッチし、黒い巨大な球体が放たれる。
「うえ……強そう」
悠斗が思わず呟くほどに、その球体は異常な何かを感じさせた。
闇属性魔法ダークリベンジャー。
込めた魔力に今まで受けたダメージをプラスして放つ闇属性の上級魔法だ。
一度使用するとリセットされるが、ゴートはフロリアを倒す為にここ数年使用していなかった。
数年分のダメージがプラスされ放たれたそれは、今のフロリアには到底防げるものではない。
そして足止めしていたバッドがそれを確認し、フロリアから離れる。
「……やるしかない、か」
悠斗は何とか魔法よりも速く、フロリアの前に辿り着き、創造魔法を発動する。
ちなみに固有魔法はカード化出来ない。だがその代わりカードを出されていても制限を受けない。
この世界の仕組みとは別の出所の魔法だからだ。
「頼むぞ……」
創造するのはジークの盾。
魔法減退効果が付加されており、もともとの素材もドラゴンのブレスに耐えれる程のもの。
悠斗はしゃがみ込み、全身を盾に隠しながら盾を斜めに構える。
その数秒後、暗黒の球体が盾に衝突した。
「っぐぬぬぬ!」
凄まじい衝撃が悠斗を襲う。バラバラになりそうな体を何とか堪えさせ、終わりを待つ。
強化魔法を使用していなければ、すぐに潰されていただろう。
「ぬぬぬおおおららあああ!」
「……マジかよ」
ゴートの呟きと同時に、暗黒の球体は盾を滑り、上空へと消えていった。
普通の盾であれば簡単に破壊され、悠斗もフロリアも無事ではすまなかった。
悠斗の額に浮かんだ大粒の汗は、決して伊達ではない。
「っはあああ……手も肩も足も全身が痛い。もう……何やってんのさ? フロリア」
悠斗は少しだけ口を尖らせ、フロリアに言った。
あれだけ自信満々にしていたのだ、文句も言いたくもなる。それに力量的にも勝てる筈なのだ。
しかし、
「……あんたのせいでしょうが! 戦闘中に女神の指輪使うなら言いなさいよ! 斬り合いの中でモーニングスターやら逆刃刀やらのイメージが浮かんで来てまったく集中出来ないのよ! そのうえモーニングスターは血みどろで変なものついてるし!」
怒涛の勢いで逆に怒られてしまう。
そう、フロリアの女神の指輪と悠斗の女神の指輪はリンクしているのだ。
「あ……ごめん。忘れてた」
「ま、いいわ! さっき助けてくれたのだからチャラにしてあげるわ!」
「でも、元々この戦い自体、フロリアが原因じゃ……」
「はあ!?」
「いや、なんでもないです」
「ま、でもいいタイミングで来たわね。私一人で十分だと思っていたけれど、ちょっと手伝いなさい」
「それはいいけど……俺もカード出されちゃったからあんまり協力できないかも」
カデュがカードを出している以上、悠斗もカードを出したままだ。
その状態での戦いは悠斗には厳しい。
一度、女神の指輪に戻し、防御魔法をすり抜け後、手に再び取り出す事で相手のガードをすり抜けるびっくり技ももう使えない。
細かいところまでは女神の指輪の存在が知られていない以上、バレていないだろうが、防げた時と防げなかった時の違いを考えれば対策は簡単である。
そして、そんな状態の悠斗の遠距離での闘い方は限られている。
弓や銃などの遠距離系の武器を創造し、使うしかない。
だが、それらの武器は風魔法に対して相性が悪すぎる。
やはり魔法を覚えないとカード戦ではどうしても不利になってしまうのだ。
「大丈夫よ。あんたの仕事は一つだけ。私に魔力を注ぎなさい」
「……え? そんな事しても無駄なんじゃないか? 俺の魔力は俺にしか使えないんだし」
「普通はそうね。ま、いいからさっさとしなさい。私のとっておきを見せてあげるから」
フロリアはそう言うと、正面に手を向ける。
「流すよー」
とりあえず言われたとおりに魔力を流してみる流されやすい悠斗。
「…………なるほど」
悠斗が魔力の流れを見ていると、彼自身の魔力が徐々に変化し、フロリアの魔力と混ざっていく。
簡単に言うと悠斗の魔力がフロリアの魔力へと変換されている。
「行くわよ! 混合魔法<<CHAOS>>」
残されていた手札の五枚、その全てを同時に発動し、巨大な一つの球体を作る。
混合魔法とは複数の魔法を混ぜ合わせ、放つ魔法だ。
今回は、四種の攻撃魔法や付加魔法に加え、CHAOSのカードを使うことで発動する一撃だ。
それに悠斗の魔力を混ぜ合わせる事で、更にえげつない事になっている。
実はこの魔法を発動すれば勝てる自信がフロリアにはあった。
だが、悠斗が来るまではいつ女神の指輪で邪魔されるかわからない為、使えなかったのだ。
集中が乱れてしまえば発動は出来ても、制御が上手くいかず、自滅してしまう可能性がある。
もしも、悠斗が来るのがもう少し遅ければフロリアは死んでいたかもしれない。ある意味、カデュに感謝である。
「あれはやべえぞ! おい!」
ゴート達がフロリアの魔法に気付き、バラけてこちらへと向かってくる。
その表情は鬼気迫るの一言である。
彼らは初めてみる魔法だが、その練りこまれた魔力を見ればどれだけ危険なものかはわかる。
邪魔する為に攻撃魔法を発動するが、悠斗の盾によって簡単に防がれてしまう。アイギスの攻撃を防ぎきった悠斗を舐めてはいけない。
当然、ほとんどの観衆は一目散に逃げ出し、残されたのはゴート達と悠斗とフロリアだけだ。
そしてだんだんと大きくなる球体を見て、悠斗もまた表情を強張らせる。
こ、これ暴発したら俺達も死ぬんじゃ……。悠斗の脳裏に最悪の光景が浮かぶ。
バッドが辿り着きフロリアに斬りかかるが、それも悠斗が逆刃刀を使い受け流す。
近距離での戦いで今の悠斗に勝てるのは、そうはいないだろう。
たとえ心ここにあらずの状態だろうと。
「終わりよ。死になさい……!」
フロリアが上空へと球体を放つ。
それと同時に座り込むフロリア。流石に魔力切れ寸前のようだ。
「まてまてまてまっまっままmちrにめれmれあ!」
その様子を見て悠斗は走った。力の限り走った。フロリアを抱えて。
こんな状態で発動した魔法の制御ができるはずが無い。そう考えたのだ。
しかし、
「ちょっと……大丈夫よ。アンタが時間を稼いでくれたから、安定化まで終わったわ。もう制御は必要ないわ。狙いは指示する必要はあるけどね」
フロリアが額の汗を手で拭きながら呟く。
確かにその言葉通り、球体は空中に浮かび上がるとゴート達にだけ夥しい数の魔法の弾丸を浴びせだした。
その魔法の属性は通常のどれでもなく、複数の属性で構成された新しい魔法だ。
雷を纏った岩や、水を纏った炎、通常では考えられないような魔法が次から次へとゴート達を攻撃していく。
その名の通り、混沌と言った魔法のようだ。
ゴート達も必死にカードを発動し、複数の防御魔法を発動しているが、そのどれもが一瞬で壊されていく。
「っぐうう!」
まずはゴートの左腕が消し飛ぶ。
これで左腕をなくしたゴートには、もうカードを発動する事ができない。
次はバッドだ。
魔法剣士とはいえ、もともと魔法的な素養があまりないバッドはすぐに魔力が尽きてしまった。
「ぐああぁああ!」
バッドは両腕を消し飛ばされた。
次にファウルに集中砲火が始まる。
攻撃魔法のカードが多かった彼は、攻撃魔法による防御を行っていた。
が、攻撃力が低い代わりに速度が異常に早い光魔法。その光魔法の速度で落ちてくる炎の岩を誰が防げるだろうか。
ファウルの左腕が千切れ飛ぶ。
最後に残ったのはカデュだ。
「い、嫌だ! 嫌だぁ!」
彼は防御魔法や回復魔法が得意な為、当然カード化している魔法もそれ系統が多い。
もしもそんな彼が、もっと要領がよく動けていれば他の三人を回復させたりしながら、もう少し粘れていたかもしれない。
しかし、彼は小心者だった。
とにかく、自分を守ろうと防御魔法をどんどん発動し、回復魔法も自分にだけ使った。
しかし、彼の魔力もいずれは尽きる。
彼もまた左腕を消し飛ばされた。
「っくそがああああ!」
「ああああああ!」
「ぐおおおぉぉ!」
「痛い! 痛いよ! やめてくれえええええええ!」
もはや誰一人防ぐ事が出来ず、それでも止まらない攻撃の中、四人の断末魔が響き渡る。
えげつないフロリアに少しだけ引いている悠斗が違和感に気付く。
「あれ……あのシフォンだったっけ? いなくない?」
「あら? 本当ね」
荒れ狂う攻撃のドサクサに紛れ、いつの間にかシフォンが姿を消していた。
フロリアは次の標的である彼女を探したが見つからず、やむなくそのままゴート達に集中砲火を浴びせた。
「……えげつねぇ」
悠斗が苦い顔で呟くが、フロリアは素知らぬ顔で攻撃を続ける。
そして、悠斗の方を振り向くと呆れたように口を開いた。
「もう一度言っておくけれど、勇者を倒し、人間の数が減るように仕向けるのが今回の任務よ? 間接的な大量殺人と変わらないわ」
「ぐぬ……それは……」
「それに、さっきジークもレオナも殺してなかった?」
「え? いや、あれは死んでないはずだよ。俺が創造してるのはアイギスとの修行で使った非殺傷効果のある武器のはずだし」
「なっ!?」
それを聞いたフロリアは悠斗が倒したはずのジーク達のほうを見る。
「呆れた……。見なさい」
「え?」
そこには無傷のジークとレオナ。
そして魔力が切れたのか、座り込んでいるシフォンがいた。
「えええええっ! それアリかよ!」
「あんたさあ……学習しなさいよ。回復魔法があるんだから殺すしかないの。わかった?」
そう言ってCHAOSの狙いをジーク達に変えるフロリア。
ゴート達がいた場所は既にただの大穴となっており、ゴート達の体は完全に消え去っていた。
「待った! もうシフォンも魔力切れみたいだしさ――」
悠斗が慌てて止めようとした時には、既に集中砲火が始まっていた。
容赦の無い攻撃に悠斗の顔も更にひきつってしまう。
「……元仲間だろ? 少しは、その、温情っていうか……」
「……わかってるわ。殺しはしない。ちゃんと見なさい」
「え?」
そう言われ良く見てみると、ジークの盾がフロリアの魔法を弾いている。
しかし、その余波や衝撃で徐々にダメージは蓄積しているようではあるが。
「あとは……」
とはいえ、盾を構えているのは人間だ。衝撃が手を痺れさせ、いずれは持っていられなくなるだろう。
後ろのレオナも防御魔法を発動しているが、無数の魔法の弾丸の前には紙のようなものだ。
カウンター系の防御魔法も発動していたが、そのカウンター攻撃も更なる攻撃により打ち消される。
この魔法を防ぐ手段は彼らにはなかった。
「じゃ、悠斗。あいつらを横から殴って気絶させてきなさい」
そして、未だに抱かれたままだったフロリアはやっと自分の足で立つと、笑顔でそう言った。
「……俺に死ねと言ってるのか? 防御魔法ふら持ってないんだぞ? この魔法の雨の中じゃ死んじゃうに決まってるでしょーが」
悠斗は真面目な顔で反論する。確かにその通りだが、一つだけ彼は忘れている。
「さっきジークの盾使ってたじゃない」
「あ、なるほど」
「……はあ」
呆れてため息をつくフロリアだが、良く考えて欲しい。
悠斗はまだ九歳なのだ。多少、馬鹿でもしょうがないというものだ。
それに修行の七十年を足したとしても、今度は七十九歳だ。多少、頭の回転が鈍くなっても仕方ないだろう。
「<<強化魔法 ALL  UP   LV.2 >>」
悠斗は再び強化魔法を発動し、全ての能力を二段階上げる。
感覚が研ぎ澄まされ、あんなに速く感じたフロリアの魔法も……やっぱりまだ速い。
「うう……戦争かよ……」
それでも、避けれないものは盾で弾きながらジークたちに近づいていく。
それを受けてレオナが迎撃の魔法を発動するが、単発の魔法じゃ今の悠斗には当然当たらない。
「くそっ!」
ジークも攻撃しようとするが、右手で盾を構えているため、カードを生成することが出来ない。
慌てて左手に持ち替えようとした瞬間、一気に距離を詰めた悠斗がカードにタッチした。
「大人しく寝ていなよ」
神速の斬撃がジークを襲う。悠斗がタッチしたのは二枚、横薙ぎと振り下ろしの二連撃。
「……っ!」
ジークのこめかみと後頭部に衝撃が走り、ジークは声を出すことも無く倒れる。
「……よし」
その瞬間、フロリアは狙いを上空に変える。
しかし、当然ギリギリ打ち出された分の魔法がジークたちへと襲いかかる。
「ぐぬぬっと!」
悠斗はジークの盾でそれを防ぎつつ、カードをタッチする。
ナイフで襲いかかろうとしたレオナに、悠斗の後ろ回し蹴りがヒットする。
「くっ!」
「何で邪魔するかなぁ」
何とか堪えたレオナだが、フロリアの魔法を防ぎ終わった悠斗の続く攻撃にあえなく沈められた。
「………ふう」
二人が倒れ、残りの一人も魔力切れで動けない。
「私の勝ちね!」
フロリアが勝利の声と共に祝砲とでも言いたげに、派手な攻撃を上空に打ち上げる。
光と炎と雷か。花火みたいだ。
……茜に会いたいな。
「ごめんね」
仕方ないことだが、女性の腹部を三度も攻撃してしまった悠斗は、少しだけ罪悪感を感じ謝罪する。
そして三人を創造魔法で創造したロープで縛りあげ、強化魔法を解除し、座り込んだ。
悠斗の魔力もギリギリだった。
「はあ……疲れた。これもっと強いはずの勇者なんて倒せるのかねえ」
でも、倒さないとな。悠斗はそう考えながら大の字に倒れこみ、空を見上げた。
「……いつまで続くんだアレ」
未だに続いてるフロリアの魔法を見て、なるべくフロリアとは敵対しないようにしようと誓った悠斗。
「………」
そして、それと同時にフロリアと一緒なら倒せるかもしれない。そんな風にも思っていた。
そう呟くゴートの仲間であるバッドによる剣での攻撃に押されているフロリア。
バッドはこの世界では珍しい、剣も扱える魔法剣士だ。
だが、凄腕という程でもない。それこそ技量だけなら、フロリアの方が上だろう。
「っ……!」
だが、そもそもレイピアはあまり防御に向いた武器ではないのだ。
実戦では片方に受け流しの為の武器を持つはずだが、魔法を使うこの世界では左手は空けておかないとならない。
その上、フロリアの顔色も良くない。脇腹からの出血のせいだろう。
「何を遊んでるんだよ! 回復魔法を使えばいいだろ!」
ゴートが魔法を発動しようとしているのを見て、慌ててフロリアの所へと走る悠斗。
その悠斗に数瞬遅れて、ゴートがカードにタッチし、黒い巨大な球体が放たれる。
「うえ……強そう」
悠斗が思わず呟くほどに、その球体は異常な何かを感じさせた。
闇属性魔法ダークリベンジャー。
込めた魔力に今まで受けたダメージをプラスして放つ闇属性の上級魔法だ。
一度使用するとリセットされるが、ゴートはフロリアを倒す為にここ数年使用していなかった。
数年分のダメージがプラスされ放たれたそれは、今のフロリアには到底防げるものではない。
そして足止めしていたバッドがそれを確認し、フロリアから離れる。
「……やるしかない、か」
悠斗は何とか魔法よりも速く、フロリアの前に辿り着き、創造魔法を発動する。
ちなみに固有魔法はカード化出来ない。だがその代わりカードを出されていても制限を受けない。
この世界の仕組みとは別の出所の魔法だからだ。
「頼むぞ……」
創造するのはジークの盾。
魔法減退効果が付加されており、もともとの素材もドラゴンのブレスに耐えれる程のもの。
悠斗はしゃがみ込み、全身を盾に隠しながら盾を斜めに構える。
その数秒後、暗黒の球体が盾に衝突した。
「っぐぬぬぬ!」
凄まじい衝撃が悠斗を襲う。バラバラになりそうな体を何とか堪えさせ、終わりを待つ。
強化魔法を使用していなければ、すぐに潰されていただろう。
「ぬぬぬおおおららあああ!」
「……マジかよ」
ゴートの呟きと同時に、暗黒の球体は盾を滑り、上空へと消えていった。
普通の盾であれば簡単に破壊され、悠斗もフロリアも無事ではすまなかった。
悠斗の額に浮かんだ大粒の汗は、決して伊達ではない。
「っはあああ……手も肩も足も全身が痛い。もう……何やってんのさ? フロリア」
悠斗は少しだけ口を尖らせ、フロリアに言った。
あれだけ自信満々にしていたのだ、文句も言いたくもなる。それに力量的にも勝てる筈なのだ。
しかし、
「……あんたのせいでしょうが! 戦闘中に女神の指輪使うなら言いなさいよ! 斬り合いの中でモーニングスターやら逆刃刀やらのイメージが浮かんで来てまったく集中出来ないのよ! そのうえモーニングスターは血みどろで変なものついてるし!」
怒涛の勢いで逆に怒られてしまう。
そう、フロリアの女神の指輪と悠斗の女神の指輪はリンクしているのだ。
「あ……ごめん。忘れてた」
「ま、いいわ! さっき助けてくれたのだからチャラにしてあげるわ!」
「でも、元々この戦い自体、フロリアが原因じゃ……」
「はあ!?」
「いや、なんでもないです」
「ま、でもいいタイミングで来たわね。私一人で十分だと思っていたけれど、ちょっと手伝いなさい」
「それはいいけど……俺もカード出されちゃったからあんまり協力できないかも」
カデュがカードを出している以上、悠斗もカードを出したままだ。
その状態での戦いは悠斗には厳しい。
一度、女神の指輪に戻し、防御魔法をすり抜け後、手に再び取り出す事で相手のガードをすり抜けるびっくり技ももう使えない。
細かいところまでは女神の指輪の存在が知られていない以上、バレていないだろうが、防げた時と防げなかった時の違いを考えれば対策は簡単である。
そして、そんな状態の悠斗の遠距離での闘い方は限られている。
弓や銃などの遠距離系の武器を創造し、使うしかない。
だが、それらの武器は風魔法に対して相性が悪すぎる。
やはり魔法を覚えないとカード戦ではどうしても不利になってしまうのだ。
「大丈夫よ。あんたの仕事は一つだけ。私に魔力を注ぎなさい」
「……え? そんな事しても無駄なんじゃないか? 俺の魔力は俺にしか使えないんだし」
「普通はそうね。ま、いいからさっさとしなさい。私のとっておきを見せてあげるから」
フロリアはそう言うと、正面に手を向ける。
「流すよー」
とりあえず言われたとおりに魔力を流してみる流されやすい悠斗。
「…………なるほど」
悠斗が魔力の流れを見ていると、彼自身の魔力が徐々に変化し、フロリアの魔力と混ざっていく。
簡単に言うと悠斗の魔力がフロリアの魔力へと変換されている。
「行くわよ! 混合魔法<<CHAOS>>」
残されていた手札の五枚、その全てを同時に発動し、巨大な一つの球体を作る。
混合魔法とは複数の魔法を混ぜ合わせ、放つ魔法だ。
今回は、四種の攻撃魔法や付加魔法に加え、CHAOSのカードを使うことで発動する一撃だ。
それに悠斗の魔力を混ぜ合わせる事で、更にえげつない事になっている。
実はこの魔法を発動すれば勝てる自信がフロリアにはあった。
だが、悠斗が来るまではいつ女神の指輪で邪魔されるかわからない為、使えなかったのだ。
集中が乱れてしまえば発動は出来ても、制御が上手くいかず、自滅してしまう可能性がある。
もしも、悠斗が来るのがもう少し遅ければフロリアは死んでいたかもしれない。ある意味、カデュに感謝である。
「あれはやべえぞ! おい!」
ゴート達がフロリアの魔法に気付き、バラけてこちらへと向かってくる。
その表情は鬼気迫るの一言である。
彼らは初めてみる魔法だが、その練りこまれた魔力を見ればどれだけ危険なものかはわかる。
邪魔する為に攻撃魔法を発動するが、悠斗の盾によって簡単に防がれてしまう。アイギスの攻撃を防ぎきった悠斗を舐めてはいけない。
当然、ほとんどの観衆は一目散に逃げ出し、残されたのはゴート達と悠斗とフロリアだけだ。
そしてだんだんと大きくなる球体を見て、悠斗もまた表情を強張らせる。
こ、これ暴発したら俺達も死ぬんじゃ……。悠斗の脳裏に最悪の光景が浮かぶ。
バッドが辿り着きフロリアに斬りかかるが、それも悠斗が逆刃刀を使い受け流す。
近距離での戦いで今の悠斗に勝てるのは、そうはいないだろう。
たとえ心ここにあらずの状態だろうと。
「終わりよ。死になさい……!」
フロリアが上空へと球体を放つ。
それと同時に座り込むフロリア。流石に魔力切れ寸前のようだ。
「まてまてまてまっまっままmちrにめれmれあ!」
その様子を見て悠斗は走った。力の限り走った。フロリアを抱えて。
こんな状態で発動した魔法の制御ができるはずが無い。そう考えたのだ。
しかし、
「ちょっと……大丈夫よ。アンタが時間を稼いでくれたから、安定化まで終わったわ。もう制御は必要ないわ。狙いは指示する必要はあるけどね」
フロリアが額の汗を手で拭きながら呟く。
確かにその言葉通り、球体は空中に浮かび上がるとゴート達にだけ夥しい数の魔法の弾丸を浴びせだした。
その魔法の属性は通常のどれでもなく、複数の属性で構成された新しい魔法だ。
雷を纏った岩や、水を纏った炎、通常では考えられないような魔法が次から次へとゴート達を攻撃していく。
その名の通り、混沌と言った魔法のようだ。
ゴート達も必死にカードを発動し、複数の防御魔法を発動しているが、そのどれもが一瞬で壊されていく。
「っぐうう!」
まずはゴートの左腕が消し飛ぶ。
これで左腕をなくしたゴートには、もうカードを発動する事ができない。
次はバッドだ。
魔法剣士とはいえ、もともと魔法的な素養があまりないバッドはすぐに魔力が尽きてしまった。
「ぐああぁああ!」
バッドは両腕を消し飛ばされた。
次にファウルに集中砲火が始まる。
攻撃魔法のカードが多かった彼は、攻撃魔法による防御を行っていた。
が、攻撃力が低い代わりに速度が異常に早い光魔法。その光魔法の速度で落ちてくる炎の岩を誰が防げるだろうか。
ファウルの左腕が千切れ飛ぶ。
最後に残ったのはカデュだ。
「い、嫌だ! 嫌だぁ!」
彼は防御魔法や回復魔法が得意な為、当然カード化している魔法もそれ系統が多い。
もしもそんな彼が、もっと要領がよく動けていれば他の三人を回復させたりしながら、もう少し粘れていたかもしれない。
しかし、彼は小心者だった。
とにかく、自分を守ろうと防御魔法をどんどん発動し、回復魔法も自分にだけ使った。
しかし、彼の魔力もいずれは尽きる。
彼もまた左腕を消し飛ばされた。
「っくそがああああ!」
「ああああああ!」
「ぐおおおぉぉ!」
「痛い! 痛いよ! やめてくれえええええええ!」
もはや誰一人防ぐ事が出来ず、それでも止まらない攻撃の中、四人の断末魔が響き渡る。
えげつないフロリアに少しだけ引いている悠斗が違和感に気付く。
「あれ……あのシフォンだったっけ? いなくない?」
「あら? 本当ね」
荒れ狂う攻撃のドサクサに紛れ、いつの間にかシフォンが姿を消していた。
フロリアは次の標的である彼女を探したが見つからず、やむなくそのままゴート達に集中砲火を浴びせた。
「……えげつねぇ」
悠斗が苦い顔で呟くが、フロリアは素知らぬ顔で攻撃を続ける。
そして、悠斗の方を振り向くと呆れたように口を開いた。
「もう一度言っておくけれど、勇者を倒し、人間の数が減るように仕向けるのが今回の任務よ? 間接的な大量殺人と変わらないわ」
「ぐぬ……それは……」
「それに、さっきジークもレオナも殺してなかった?」
「え? いや、あれは死んでないはずだよ。俺が創造してるのはアイギスとの修行で使った非殺傷効果のある武器のはずだし」
「なっ!?」
それを聞いたフロリアは悠斗が倒したはずのジーク達のほうを見る。
「呆れた……。見なさい」
「え?」
そこには無傷のジークとレオナ。
そして魔力が切れたのか、座り込んでいるシフォンがいた。
「えええええっ! それアリかよ!」
「あんたさあ……学習しなさいよ。回復魔法があるんだから殺すしかないの。わかった?」
そう言ってCHAOSの狙いをジーク達に変えるフロリア。
ゴート達がいた場所は既にただの大穴となっており、ゴート達の体は完全に消え去っていた。
「待った! もうシフォンも魔力切れみたいだしさ――」
悠斗が慌てて止めようとした時には、既に集中砲火が始まっていた。
容赦の無い攻撃に悠斗の顔も更にひきつってしまう。
「……元仲間だろ? 少しは、その、温情っていうか……」
「……わかってるわ。殺しはしない。ちゃんと見なさい」
「え?」
そう言われ良く見てみると、ジークの盾がフロリアの魔法を弾いている。
しかし、その余波や衝撃で徐々にダメージは蓄積しているようではあるが。
「あとは……」
とはいえ、盾を構えているのは人間だ。衝撃が手を痺れさせ、いずれは持っていられなくなるだろう。
後ろのレオナも防御魔法を発動しているが、無数の魔法の弾丸の前には紙のようなものだ。
カウンター系の防御魔法も発動していたが、そのカウンター攻撃も更なる攻撃により打ち消される。
この魔法を防ぐ手段は彼らにはなかった。
「じゃ、悠斗。あいつらを横から殴って気絶させてきなさい」
そして、未だに抱かれたままだったフロリアはやっと自分の足で立つと、笑顔でそう言った。
「……俺に死ねと言ってるのか? 防御魔法ふら持ってないんだぞ? この魔法の雨の中じゃ死んじゃうに決まってるでしょーが」
悠斗は真面目な顔で反論する。確かにその通りだが、一つだけ彼は忘れている。
「さっきジークの盾使ってたじゃない」
「あ、なるほど」
「……はあ」
呆れてため息をつくフロリアだが、良く考えて欲しい。
悠斗はまだ九歳なのだ。多少、馬鹿でもしょうがないというものだ。
それに修行の七十年を足したとしても、今度は七十九歳だ。多少、頭の回転が鈍くなっても仕方ないだろう。
「<<強化魔法 ALL  UP   LV.2 >>」
悠斗は再び強化魔法を発動し、全ての能力を二段階上げる。
感覚が研ぎ澄まされ、あんなに速く感じたフロリアの魔法も……やっぱりまだ速い。
「うう……戦争かよ……」
それでも、避けれないものは盾で弾きながらジークたちに近づいていく。
それを受けてレオナが迎撃の魔法を発動するが、単発の魔法じゃ今の悠斗には当然当たらない。
「くそっ!」
ジークも攻撃しようとするが、右手で盾を構えているため、カードを生成することが出来ない。
慌てて左手に持ち替えようとした瞬間、一気に距離を詰めた悠斗がカードにタッチした。
「大人しく寝ていなよ」
神速の斬撃がジークを襲う。悠斗がタッチしたのは二枚、横薙ぎと振り下ろしの二連撃。
「……っ!」
ジークのこめかみと後頭部に衝撃が走り、ジークは声を出すことも無く倒れる。
「……よし」
その瞬間、フロリアは狙いを上空に変える。
しかし、当然ギリギリ打ち出された分の魔法がジークたちへと襲いかかる。
「ぐぬぬっと!」
悠斗はジークの盾でそれを防ぎつつ、カードをタッチする。
ナイフで襲いかかろうとしたレオナに、悠斗の後ろ回し蹴りがヒットする。
「くっ!」
「何で邪魔するかなぁ」
何とか堪えたレオナだが、フロリアの魔法を防ぎ終わった悠斗の続く攻撃にあえなく沈められた。
「………ふう」
二人が倒れ、残りの一人も魔力切れで動けない。
「私の勝ちね!」
フロリアが勝利の声と共に祝砲とでも言いたげに、派手な攻撃を上空に打ち上げる。
光と炎と雷か。花火みたいだ。
……茜に会いたいな。
「ごめんね」
仕方ないことだが、女性の腹部を三度も攻撃してしまった悠斗は、少しだけ罪悪感を感じ謝罪する。
そして三人を創造魔法で創造したロープで縛りあげ、強化魔法を解除し、座り込んだ。
悠斗の魔力もギリギリだった。
「はあ……疲れた。これもっと強いはずの勇者なんて倒せるのかねえ」
でも、倒さないとな。悠斗はそう考えながら大の字に倒れこみ、空を見上げた。
「……いつまで続くんだアレ」
未だに続いてるフロリアの魔法を見て、なるべくフロリアとは敵対しないようにしようと誓った悠斗。
「………」
そして、それと同時にフロリアと一緒なら倒せるかもしれない。そんな風にも思っていた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
310
-
-
52
-
-
11128
-
-
337
-
-
3
-
-
75
-
-
221
-
-
35
-
-
0
コメント