異世界冒険EX

たぬきち

アイギスの空間にて②

 周囲からの冷たい視線をものともせず、俺は話を続ける。

「……どの世界もそうだが、異端を恐れるのが民衆だ。ずっと少年の姿のアッシュ、そして元魔王のクレアさん。二人が差別を受けるのは当然だった」

「…………」

「アッシュから相談を受けたニルギリはすぐに行動に移した。新たな魔王を生み出したのだ。その結果、民衆はすぐに手のひらを返した。魔王討伐をお願いします、ふざけた話だ」

 まぁ、わざとミスして呼び出したニルギリや、魔物をけしかけて来たアイギスもふざけた奴らだが。

「それでもアッシュは引き受けた。ただ、代わりに自分達だけの土地がほしい、そこで家族三人だけで暮らすからと訴えた。国王はそれを受け入れた」

「……愚かだったよ、僕は」
  
 アッシュは一つため息をつく。

 まぁ結果だけ見ればその通りだ。大事な人がいるならその側を離れるべきではないのだ。

 ……俺も言えたものじゃないけどね。

「そして約束通り魔王を討伐して帰ってきたアッシュを待っていたのは、お墓になったクレアさんだった」

「…………」

 そこで一呼吸入れると、アイギスと茜を除いて全員が俯いていた。

 それぞれ思うところがあるのだろう。

「おい」

 アイギスがさっさと続けろと目で催促してくる。仕方ない。

「アッシュは激怒した。必ず、かの邪智暴虐「悠斗くん」

「ごめんなさい。激怒したアッシュはまず仲間を問い詰めた。アッシュは仲間に護衛を頼んでいたのだ。その為に魔法錬金を使い、いくつもの固有魔法が付加されたアクセサリーを渡し、万全を期していた」

 まぁ自作自演の魔王討伐だからな。一人でも楽勝っていうのもあったのだろう。

「しかし、ゲインとアイラは国王に呼び出しを受け、仲間の一人を残して城へと向かった。残りの一人は仲間の頼みだ、と頑として残った」

「アイツは国王直属じゃないから……」

 ゲインが言い訳めいた言葉を口にする。

 ……むかつくなあ。自覚するべきだ。クレアの死はこの二人にも責任があることを。

「確かにゲインとアイラは国王直属の親衛隊だった。それでも仲間の頼みを放り出して呼び出しに応じるなんてびっくりだけどね。結局のところ、自身の地位と仲間を秤にかけて、自身の地位を選んだだけだろ」

 残りの一人は逆に仲間の頼みを取った。ただそれだけだ。

 もちろん、立場の違いで断りやすいのはあっただろうが。

「……アイツに任せえておけば、大丈夫だと思ったんだ……」

 ゲインはそう言って苦渋に顔を歪ませる。まるで、それが仕方のない決断だったように。

 だからだろうか、

「……おい。聞いてないぞ。そんな話」

 アッシュが静かに怒っている。立ち上がり、問い詰めるようなことはしなかったが目には怒りが宿っている。

 まあ気持ちはわかる。

「案の定、国王は残りの親衛隊から軍、賞金稼ぎ、果ては盗賊、山賊とてつもない軍勢をクレアに差し向けた」

「……アッシュ、すまない」

「ごめんなさい、アッシュ」

 ゲインとアイラがアッシュに向けて頭を下げるが、アッシュは目を閉じて怒りに耐えている。

「それに気付いたゲインとアイラが戻ってみると、家は焼け、大地も焼け、人間も焼け、まさに地獄絵図といった風景が広がっていた」

 ……まぁ一番の原因はニルギリとアイギスなんだけどね。

 とはいえ、それを言って揉める時間が勿体無い。

「生きているのは数人の男と仲間の一人とクレアさん。ゲインとアイラがホッとした瞬間、クレアさんは自分で心臓を突き刺した」

「…………」

「男の手元を見ると、小さな子供が抱えられていた。当時のアッシュと同じ赤い髪の子供。二人は後ろから男達を殺し、子供を助けたが、クレアさんは助からなかった。回復魔法も効果は無く、即死だった」

「……そういうことか」

 アッシュが絞り出すような声で呟き、肩を落とす。

 昔は真っ赤だった髪も心労で灰色になっている。

 流石に本当の仲間だと思っていた二人に記憶操作は使えなかったのだろう。彼自身も知らない、わからないことが多かったようだ。

 ……もしも仲間が残って居れば子供も奪われること無く、助けられたかもしれない。

 だが、二人が後ろから来なければ子供も助けられなかったかもしれない。

 実際に子供が助かったのは二人のおかげではある。だが、二人がもう少し早く戻っていればクレアさんも助けられた。

 ……複雑だなあ。

「その後、時間停止の固有魔法でクレアさんの時間を止め、民衆を騙すためにお墓だけ建て、生き返らせる方法を探した」

 ……疲れ切ったアッシュの目に少しだけ光が戻る。

 もしかして……。

「ニルギリの協力の元、他の世界へも探しに行った。そこで俺の存在を知ったようだな。だが、結局は見つからず国王への復讐も終えたアッシュは諦める寸前だった。自分も死んで一緒になろうかと考えていた」

「……ふーん。ボクなら「ストップ。茜」「あい」

 茜が何事か口を挟もうとするが、それはまだ早い。

「それを察したニルギリは今回の計画を持ちかけた。……なんてことはない。今回の騒動は、ただのアッシュの延命の為の狂言って事だ。茜を巻き込んだもんだから本当に世界が崩壊しかけたけどな」

 そんなくだらない事に俺達を巻き込みやがってからに。

 特に茜を巻き込んだことは許せない。許すつもりもない。

「でも、まだニルギリがなんで持ち掛けなかったのかわからないんだけど? 大事にしたくなかったって事ならわかるけどアッシュの願いが叶ってほしくなかったって……」

 アイギスが渋い顔でこちらを見る。どうやら長々と話を聞かされたのに、自分の疑問が解決せず、機嫌が悪いようだ。

「それはおそらく、他の世界に渡ったり一緒に冒険したりしてるうちに、また好きになってしまったって事じゃないか? アッシュの願いはクレアさんの蘇生。でも、それが叶ってしまうと……ニルギリは……」

「あー……」

「……ふーん」

「…………」

 特に反論は無いようだ。

 大体当たりか。女神にも恋愛感情というかそういう気持ちがあるんだな。

 意外だ。そういうのは超越したような存在かと思ってたけど。

「……私はどうなってもかまいません。ですがアッシュだけは……」

 ニルギリが頭を地面にこすり付けるように下げる。

 まあ、ニルギリだけは生かしておくわけにはいかない。今回の主犯だし。殆どの原因だし。

「……僕はいい。それよりこの二人は今回の計画には関係ない。助けてやってくれないか?」

「「アッシュ……」」

 内心複雑そうな表情を浮かべるアッシュ。

 まあ、でも確かに実際に計画に関わってない以上、この二人にまで罰を与えるのはどうなんだろうか。

 ……違うか。最後の最後、アッシュを助けに来た時点で計画に関わったに等しい。

「アイギス、どうするんだ?」

「んー……まあ、ニルギリは当然、存在の抹消だろうね。他三人はまあ、他の女神の手駒として使おうかな。そこそこ強いし」

「甘くない? 常にお腹に槍刺しとくべきだよ」

「……茜ちゃんって意外と厳しいよね」

「だって悠斗くんを……」

「まあ気持ちはわかるけど、アッシュは女神に唆されただけだからね。この辺が妥当でしょ。あ、一応言っておくけどアッシュ。お前が死んだら娘も殺すよ?」

「……うわあ」

 ドン引きである。

「そんな!? 娘は関係ないじゃないか!?」

 案の定、アッシュは絶望したような表情でアイギスを見る。

 アッシュに自殺されないように、なんだろうけど……。茜に厳しいとか言っといて自分は外道じゃねえか。

 ていうか、もしかして俺達が悪役みたいになってるんじゃなかろうか?

「……死ななければいいだけの話だ」

「……わ、わかった」

 色々と言い合っていた二人だが、表情すら変わらないアイギスに何を言っても無駄だと察したアッシュ。

 しかし、一度うなだれた頭が再び起き上がり、俺と茜を見る。

「……一つお願いがあるんだ」

 何を言い出すんだこの馬鹿は。そんな事言える立場じゃねーだろ。

 ……ま、予想通り。予定通りだけど。

「神木悠斗、森羅茜、どちらかわからないけれど、蘇生の能力持ちなんだろ? 頼むからクレアを、俺の妻を生き返らせてくれないか?」

 よし。ここからが俺にとっての正念場だ。

「それが無理なら能力に制限を掛けたように、感情にも制限を掛けられないか?」

 アッシュはそう言って一筋の涙を流す。俺に言うなよ、アイギスにそれは言え。

 にしても感情に制限ねえ……。

 アイギスをチラリと見ると、つまらなそうにアッシュを眺めている。出来ない事はなさそうだが、やりたいわけでもないようだ。

「もう正直辛いんだよ。この感情……愛情を持っていたくないんだ。この感情を持ったまま生きるのは辛すぎる。それに、今回の原因だってこの感情じゃないか。……愛情なんて向かう相手がいないのなら邪魔なだけだよ」

「…………はぁ?」

 あ。空気が変だ。茜の辺りから冷気を感じるぞい。支離滅裂なアッシュの発言に怒ったのだろうか。

 立ち上がった茜は、ゆらりとアッシュに近づくと真っ直ぐにその瞳を見る。

「……じゃあ、諦めるんだね? クレアさんの事は。例えボクがクレアさんを生き返らせなかったとしても、その感情があれば任務の間に他の蘇生の方法を探す事は出来るんじゃないかな? 愛情がなくなればそれも出来ないんだよ?」

 ……ちゃっかりネタバレしやがってからに。これはガチギレしてるみたいだ。

「…………」

「大事な人のことを忘れて……それで本当にアッシュ君は生きていられるの?」

「…………」

「ボクは……例え制限を掛けたって悠斗くんが居ない世界なんて耐え切れないよ。だってボクにとっての世界は、悠斗くんが居て初めて存在するんだ。アッシュ君は受け入れるんだ? クレアさんの居ない世界を」

 睨むようにアッシュを見る茜。その視線に押されていたアッシュは一度目を閉じると、今度は挑むように茜の目を見る。

「わかってるよ! そんなの無理、無駄だって! でも、でも、もう辛いんだ! 少しでもこの胸の痛みが軽くなるなら制限を掛けてほしい! ただそれだけなんだ!」

 感情を爆発させ、立ち上がるアッシュ。顔を真っ赤にし、茜に向かい吠える。

「お前らにはわからないだろうよ! 大事な人が居ない世界で生きる辛さが! だってお前らにはいるもんな? 失ったことも無い……いや、そうか。失っても生き返らせれるもんな!」

「ボクは……一度悠斗くんを失ってしまったよ」

 熱く吠えるアッシュに対し、茜は冷静に答える。

「……でも、君みたいに諦めたりしなかったし、感情に制限を掛けるなんて馬鹿な事は考えなかった。だって、その感情だけがボクを生かしていたんだから。……悠斗くんに会いたい、ただそれだけがボクを世界に繋いでいたんだ」

「嘘だっ!」

「…………」

 なんだこの展開。生き返らせるのを交換条件に色々とアッシュに押し付けようと思ってたんだが、口を挟む隙がない。

 というか、茜。照れるから。アッシュとは別の理由で顔が真っ赤になっちゃうから。

「…………」

 とりあえず話を整理しよう。

 アッシュは亡くなったクレアさんの為に、復活の方法を探したけど見つからず、もう諦めて自分も死のうとした。

 が、今はアイギスのせいで死ぬ事も出来ないから、せめて辛くないように感情に制限を掛けようとしている。

 茜はそれが許せないのか?
 まあ、茜は案外熱いところがあるからなあ。

 俺的にはどうでもいいんだけど……。

 早く元の世界に戻って茜とイチャイチャしたいなあ。

「一度、ボクは失敗した。大事な悠斗くんを失ってしまった。でも、諦めなかった。そして、いやだからこそ取り戻す事が出来たんだ」

「じゃあ、やっぱり君が……!」

 アッシュがすがる様な目で茜を見る。それに対して茜は俺にチラリと視線を向ける。

 話していいかの確認だろう。……まあ、しょうがない。もう遅いし。俺は深く頷いた。

「ボクの異能は生殺与奪。触れた対象に死を与えることも生を与えることも出来るんだ」

「……そんな異能、聞いたこともない……」

 どうやら異能そのものは知っていたようだ。

 が、調査するにはアイギスを避けては通れない。詳しくは調べられなかったのだろう。
 
 まあ、茜の異能ほど優れたものは俺もほとんど知らないけどね。

「ボクが作った異能だからね……正確に言えば進化させたが正しいかな」

「なら……それなら……本当に、クレアは……」

 アッシュの目に光が宿る。……ここだな。

 まずは……流石に条件について言わないのは卑怯か。

「あー……、死を与える方は触れるだけでいいんだが、生き返らせるにはいくつか条件が必要だぞ?」

「条件?」

「まず死体に欠損が無いこと。死後三日経っていないこと。後は、魂が存在していること」

「……魂?」

「そうだ。死んだら魂は次の命に転生して生まれ変わるんだが、死んで数十分間程は体を離れないし、例え離れても結界で覆っていれば閉じ込めることが出来る」

「……じゃあ、無理じゃないか。結界でなんて覆ってなかったし」

 またうなだれるアッシュ。急に打たれ弱くなったなあ。

「……やっぱり諦めるんだ。最低だね」

 茜がそれを冷めた目で見る。茜は強いなあ……。

「アッシュ、死体の時間を止めてるのならもしかすると魂が残ってるかもしれないぞ」

「そ、そうかな」

「それに最悪、俺の異能を使えばさっき言った条件は全てクリアできる。安心しろ」

 慌ててフォローを入れる。ここでコイツに諦められたら全てが無駄になる。

「……悠斗くん?」

 優しくアッシュの肩に手をやる俺を、茜が怪訝そうな顔でこちらを見る。仕方ないだろ。茜がムチ役なら俺がアメ役をしてやらないと。

「まあ、なんだ、大事な人を思う気持ちはわかるからさ……。協力してやろうぜ」

「悠斗……」

 チョロいもんである。フルネーム呼びじゃなくなってるし。

「ならなんであの時止めたの?」

 あの時とは俺がアッシュ達の過去の話をしていた時の事だろう。予想こそ出来ていたがあの時はまだ、

「アッシュの処遇がわからなかったからな。無罪放免なら敵に回る可能性もあったし、交渉材料として残しておきたかった」

「ふーん……」

「まあ、でも! もちろん生き返らせるのは、アッシュがこちらのお願いを聞いてくれたら、だけどな!」

「やっぱりね」

 茜は小さくため息をつく。当たり前だ。ただで協力なんてするわけがない。

「……なんだ? 僕に出来ることならなんでもやるよ!」

「簡単だよ? この指輪をしてほしいだけ」

 そう言って女神の指輪を使い、鎖をイメージした禍々まがまがしい指輪を取り出す。

「……なんだこの指輪?」

「ま、嵌めてみてよ。きっと似合うよ」

「いや、なんの指輪なんだよ?」

 明らかにうろたえるアッシュ。いいからさっさと嵌めろよ。

「あれ? さっき僕にできることなら何でもするって……? やっぱりその程度なのかな」

 茜が冷たい視線でアッシュに言う。

 ナイスフォロー。茜。愛してるよ。

「わ、わかった」

「お待ちください!」

「ニルギリ……?」

 ちっ。

 アッシュが指輪を嵌める寸前で、それまで静観していたニルギリが声を上げる。

「それは奴隷の指輪です。指輪の内側に自分の名前を彫り、奴隷にしたい対象がそれを自ら身につけることで契約が完了します。指輪を嵌めたものは指輪に彫られた名前の方の命令に対して、反することが出来ません。たとえ、命を失うことになっても」

「なんだって……!? 本当か?」

「……どうだろうね。もし俺が違うといったら信じるのか? ニルギリじゃなく俺を? まあ、裏切ってた様なもんだしそれもしょうがないけど」

「……どうやらまだお前よりは、ニルギリのほうが信じられるみたいだ」

 アッシュはチラリとニルギリの顔を見ると、そう言った。

 ふーん……。

「で、嵌めるの? 嵌めないの?」

 俺が尋ねると、アッシュの顔は苦渋にゆがむ。結局避けては通れない選択なのだ。

 ま、嵌めてしまえばクレアさんが復活したとしても、俺の命令で俺の代わりに異世界冒険の始まりだ。

 単身赴任に近いかな。あっはっは。

 他の女神の指令もあるだろうし、忙しくなるだろうけど俺には関係ない。

 ……俺はやっと解放されるわけだ。長かったなあ……。


「わかった。嵌める」

「アッシュ!?」

「しょうがないだろ? これは地獄の底に落ちてきた一本の蜘蛛の糸だ。たとえ、毒が塗ってあろうと掴むしかない」

「ひどい言われようだな……じゃあ、さっさと嵌めろ」

 アッシュが右手の人差し指に嵌めていた指輪を外し、代わりに奴隷の指輪を嵌めようとした。

 その瞬間、

「ちょっと待ったあああああ!」

「すみません、起きてます!」

「……っ!」

 突然の叫び声にいつの間にか寝ていたアイギスが飛び起き、ニルギリも震えだす。

 俺を含めて茜と女神二人以外の全員が戦闘態勢を取る。

 ……なんだ今の大声は。

「おう!」

 何もなかったはずの空間から突然、渋いおっさんが現れた。所々白髪が混ざっているがそれがいいアクセントになっている。おっさんというよりおじ様とでも言おうか。

 いや、何かむかつくからおっさんでいこう。

「お前ら面白そうなことしてるじゃないか?」

「……誰?」

「茜ちゃん! 私の上司でありますです!」

 アイギスが緊張している。

 アイギス自身は怒られた事無いらしいがキレたら洒落にならないらしい。

 ……まあ、確かにちょっとやばそうだ。俺も手に汗がにじんでいる。アッシュも落とした指輪を気にする余裕もなく、おっさんを見ている。

 茜はなんで平然としていられるんだろうねえ。

「……それで、ご用件はなんですか?」

 アイギスがいつになく緊張した面持ちで尋ねる。まあ、あいつは身に覚えがありすぎるだろうからなあ。

「ああ……悠斗、お前は今回の戦い楽しめたか?」

「はい? いや、楽しいも何も……任務なんでしっかり終わらせられたなあ、としか」

 俺は一度として戦いを楽しいなんて思ったことは……うん。まあ、それは置いといて、このおっさんは何を言い出すんだ。

「我は面白くなかったのだ……。悠斗一人ならともかく森羅茜まで来ては負けるはずがないからなぁ……」

 勝手な事言うなあ。ていうか、見てたのかよ。

「そこでどうだ? もう一度戦わないか? 今度は他の世界の奴らも集めて!」

「ちょっ! 何言ってるんですか! せっかく問題が解決したのに!」

 アイギスが慌てて止めに入るが完全に及び腰だ。言ってる事はもっともなんだからもっと強気で行けばいいのに。

「いいではないか。我も暇なのだ。それにアイギス、今回の原因はお前の部下の管理不行き届きじゃないか? これは罰を考えないとな」

「そんなあ……」

 アイギスは今にも泣き出しそうなほどにしょぼくれる。

 可哀想だが、いい加減こいつに罰を与えないと成長しないよ。うん。

「だが、悠斗達が勝てば全て不問にしよう」

「悠斗! 頼んだよ!」

 ……はあ。そう来たか。

 顔を上げたアイギスの顔には笑顔が浮かんでいる。信頼と言えば聞こえはいいが、俺が負けるとは微塵も思ってもいないのだろう。

 ……負けてみようかな。

「……ですが、次は十秒で終わりますよ? アクセサリー類も取り上げてますし、戦術のパターンも連携も記憶で見て把握してますし。今度は俺も遊んだりはしませんし」

「ふむ。……そうだなあ。そこのアッシュとやらは魔法錬金の魔法が使えるのだろう? ならばまたアクセサリー類は作ればよい」

「待った! そもそも俺は戦う気は無い。せっかくクレアが生き返るかもしれないんだ、邪魔しないでくれ!」

 黙っていたアッシュが叫ぶ。そうだそうだ。もっと言え。

 お前らは俺の代わりをしてもらわないといけないんだ。

 こんな所で消すのは……。

「……クレアとやらの魂は我が持っておるんだがな? いくら悠斗の異能でも我から取り上げるのは不可能だぞ」

「「なっ!?」」

 あー駄目な流れだコレ。当然のように俺の異能も知られてるようだし。不味いな。何とか軌道修正出来ないか……。

「アッシュ達が勝てば渡そうじゃないか。それでハッピーエンドだ」

「……そーですね。じゃあアッシュ、負けてやるから指輪嵌めろ」

「八百長はいかんぞ。悠斗よ」

「そうだよ! 悠斗!」

 アイギス……変わり身早すぎだろ。とはいえなあ……やる気が……。

「とは言ってもモチベーションが上がらんだろうからな。悠斗が勝利したなら、前から言っていた望みを叶えてやるぞ?」

「悪いな。アッシュ」

 右手には破断の太刀、左手には神槍ゲイボルグ。

 破断の太刀を一振りし、ゲイボルグを投擲とうてきする。流石に長時間は持てないが、一瞬ならば能力を相殺し、俺でも持てる。

 防御不能の斬撃と死を運ぶ槍がアッシュに襲い掛かる。

 今のアッシュは身動きが取れない。それにアクセサリー類もない。

 終わりだ。

「待て。それはないだろ」

 ……ちっ。駄目か。

 何でもないようにおっさんが間に割って入り、受け止め、弾く。

 弾かれた槍はカランと音を立て、地面に転がる。

「戦いは半年後だ。それまで仲間を集めるもよし、自分の力を上げるもよし、可能な限り戦力を整えてくるがいい」

「わかった。場所は?」

 半年後は長いが、まあアッシュ達が俺達のレベルまで強くなるには必要だろう。……それでも負けるつもりはない。

 俺の願いを叶えれるのはあのおっさんだけなのだから。このチャンスは絶対に逃さない。

「ここだ。女神の空間ならどれだけの存在が集まろうと壊れることは無いからな」

「……了解した。だがその前に悠斗達の記憶も見せてもらいたい」

 アッシュがおずおずといった様子でおっさんに話しかける。

 何言ってんだあの馬鹿は。

「ふむ。確かに片方だけが戦力の予想がつくのは面白くないか……。悠斗?」

「断る。別に能力ぐらいなら教えてもいいが、俺の記憶には茜のいろんな姿があるからな。死んでも見せられん」

「ボクもちょっと……。でも、悠斗くんのは見たいな」

「そこは我が上手くカットしておいてやるから。な? 見せてもらうぞ」

「……っ!?」

 ……頭から何かが抜き取られた。ちっ。わけがわからん。

 例え女神の力でも効かない筈なんだけどな。

 まぁ茜の方は無事みたいだし。いいか。

「……まあ、悠斗の方だけでもいいか。それじゃ始めるぞ。まずは悠斗と茜の出会いからだ」

「あ、待ってください。私の記憶もお使いください」

 アイギスが手を揉みながら、上目遣いでおっさんを見る。

 あざとい。

 てか、茜ぐらいの年齢ならともかくアイギスの見た目でそれをやられても……ギリか。

「そうだな。細かい所の補完に役立つかも知れん。じゃあ、はじめるぞい」

 ぞいておい。おっさん。

「異世界冒険EX」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く