異世界冒険EX
平原での戦い
「随分と時間が掛かったわね」
「ごめん、ごめん」
岩の流星群を弾き終わったフロリアへと近づくと、小言を言われてしまった。
隠れていた仲間に気づいてもいなかったくせに偉そうだなぁ。
俺はギルドで不自然に盛り上がり、他の冒険者をここに誘っている三人を見ていた。
それに、フロリアが入ってきた後その三人の内一人が外へ出て行くのも見ていた。ゴート達を呼びに行っていたのだろう。
ゴートの影からこそりと戻ってきてたし。
怪しいとは思ったが確信には至らず、三人もその後は普通に観戦していたので、俺も観戦していた。
が、ゴートの指示の後、一人が弓を放った。
それを見て俺はメモ帳とペンを固有魔法で創造し、メモ帳にゴートの仲間はこちらで倒すこと、その為の時間稼ぎをして欲しいことを書いて女神の指輪で吸い込んだのだ。
「倒すのはギルドで顔も知ってたし、すぐだったんだけどね。何か真剣な話ししてるみたいだったからね」
「待ってた?」
「うん。……痛っ!」
フロリアの容赦ない突込みが俺の顎先に見舞われる。油断していた。
思わず座り込んだ俺は、慌てて顎をさすりながら立ち上がる。
敵が攻撃してきてたら死んでたぞ。
「あんなの時間稼ぎに決まってるでしょ!?」
「えー……本音に感じたけどなあ」
「……ま、まあ、ちょっとはね」
「ま、それよりさっさと倒そうぜ。あんまり時間は無いんだし」
「そうね。でも、この戦いも必要なのよ」
俺とフロリアはそれぞれ構えなおし、四人に向き合う。
どうせなら残りの四人も不意打ちで倒しても良かったな。
「ちっ。何だあのガキは。……まあいい。おい、回復だ」
怪訝な表情を浮かべたゴートがシフォンに回復を促す。
「わかった。けど、そろそろキツい」
シフォンはカードにタッチし、投げ飛ばされた三人に回復魔法を使用する。
……って、え?
「何か知らんが目の前に飛ばしてくれて助かったぜ」
「まてまてまて! それはないだろー! おーい! くらえ!」
アイツら卑怯だ。倒れたらもう除外だろうが、普通。
慌てて逆刃刀を投げつけるが、簡単にジークの盾に弾かれてしまう。
「あいててて……」
「一体何が……?」
「あのガキ……」
妨害むなしく、倒れていた三人は起き上がる。
そして、その様子を見ていたフロリアは思わずため息をつく。
「……あんたって……馬鹿?」
くそう。反論出来ない。
◆◇◆
「ガキが一人加わったが……強いのか? バッド」
「わからん。いきなり後頭部に強い衝撃を受けて、気付いたらここにいた」
「ファウル」
「俺も同じだ」
「カデュ」
「俺はファウルがやられたのを見て、カードを出そうとした瞬間、一瞬で間合いを詰められて……後は同じだ」
ゴートは立ち上がった三人に質問するが、あまり情報は得られなかった。
「……まあいい。七対二だ。俺とバッドとファウルはフロリアをやる。ジーク、レオナ、カデュはガキをやれ」
「フロリア相手に三人で大丈夫なのか?」
「もうあのカード達で終わりの様だし、矢には毒も塗ってある」
フロリアの強さを知るジークが思わず、ゴートに尋ねる。
それに対し、ゴートはニヤリと自信満々の笑みを浮かべる。
確かにフロリアは調子が悪そうにフラついている。手元のカードも残すところ五枚だけだ。
「ガキの攻撃方法はどうやら物理のようだが、例え魔法かあってもジークの盾と鎧なら問題ないだろ? シフォンは全体を見ながらサポートをしてくれ」
「「わかった」」
三人ずつの二チームに分かれ、シフォンがそれぞれのサポートをする作戦のゴート達。
それを見て悠斗達は、
「お、都合よく二手に分かれるみたいだ」
「あら? それは本当に好都合ね」
「じゃあ、俺らもそうしようかね。急造のチームプレイなんて出来るわけないからな」
「こっちが片付いたらそちらも私が終わらせるわ。だから、それまで粘りなさい」
「あいあいさー」
悠斗は粘れと言われたが、カードを出されてはお仕舞いだ。当然のように突っ込む。
手に逆刃刀は無く、素手のまま。
「……近距離タイプの魔法か? それとも、まさか素手での格闘?」
ジークが困惑しながらも盾を構え、呟く。
その後ろにはレオナが待機し、更にその後ろにカデュと呼ばれた男が待機する。
その配置から、ジークは盾と鎧で攻撃から守る防御役、レオナは中距離からナイフ投げや、防御魔法などのバランス役、一番後ろのカデュが魔法役といったところだろう。
「一旦、様子を見る。俺の盾で防ぐから二人は防いだ後の追撃の準備をしてくれ」
ジークの指示に二人は頷く。
しかし、ナイフを抜き準備をしたのはレオナだけだ。
カデュはどの魔法が必要になるかわからなかった為、カードを出さなかった。
それが命取りだった。
「<<ALL UP LV.1>>」
悠斗が強化魔法を発動する。
悠斗の身体能力、感覚、思考力、全ての能力が一段階強化される。
消費魔力が多く短期決戦にしか使えない魔法だが、効果も段違いだ。
「盾相手ならコイツだ!」
悠斗は飛び上がると、創造魔法を使い武器を創造する。
その武器は……モーニングスター。
柄頭の形状が星型に見えることからその名が付けられた打撃武器だ。
今回のモーニングスターは柄頭を鎖で繋いだフレイル型だ。
「いっけえええええええ!」
悠斗は振り上げたモーニングスターを、渾身の力を込めて振り下ろす。
対するジークも慌てて上空に向けて盾を構える。
「物理だろうと魔法だろうと、この盾なら大丈夫な……!?」
ジークは簡単に防げると考えていた。
何故なら彼の持っている盾は、その辺の冒険者が持っているような普通の盾では無い。
物理と魔法の両方に強いドラゴンの歯を加工して作り上げたものなのだ。防げないはずが無い。
だが、彼は距離を間違えていた。
悠斗の移動速度が上がり、ジークの予想より近くに来ていたのだ。
更に悠斗が飛び上がった為、なおさら距離 が掴めず、慌てて盾を上空に向けたのだ。
一方で悠斗は上空からジークの頭の位置を確認し、勢い良く振り下ろしている。
それも攻撃の寸前で武器を創造する事で、武器の間合いも掴ませていない。
間合いの把握が出来ていなかった時点でジークの敗北は決まっていた。
「っぐわああああああ!」
モーニングスターの鎖が盾に引っかかり、棘付きの鉄球が振り子のようにジークの頭を叩いた。
棘つきの鉄球と盾に挟まれたジークの頭から、鈍く、嫌な音が響く。
同時に血しぶきが舞い、草原の緑を赤く染める。
「ああああああああ!」
あまりの痛みに叫ぶジーク。
その声にレオナが慌てて駆け寄るが、その行為は戦いの中では命取りだ。
「ごめんね」
その隙を逃すことなく悠斗がモーニングスターを横なぎに払う。
鎖が巻き付き、棘付きの鉄球がレオナの腹部を叩いた。
「ああああああああいいいいいったああた!」
女性とは思えない程のレオナの絶叫が響く。
肋骨が砕け、腹部から突き出ている。
内蔵が潰れたのか、口からも血を吹き出しレオナは倒れた。
「大丈夫、だよな?」
悠斗はバツが悪そうな顔をした後、残りの一人に向けて武器を構える。
女神の指輪でモーニングスターは戻し、創造魔法で再び創造した逆刃刀だ。
モーニングスターはグロすぎたようだ。
「ち、近づくな!!」
カデュは今になって、慌ててカードを生成する。
その数七枚。
その瞳には恐怖が宿っており、ただひたすら逃げる隙を伺っている。
悠斗も当然カードを生成するが、強化魔法は既に発動している為、攻撃方向の上下左右と袈裟切り方向だけを生成する。
魔法カードはなし。
「ま、ここまで来れば関係ないね」
既に距離は詰めている。
この近距離なら魔法だろうが、なんだろうが一緒だ。悠斗は躊躇なく攻撃に移る。
「終わりだ」
先手必勝。この距離で悠斗の斬撃を防げるのはアイギスぐらいだろう。
左から右への横なぎのカードを左手でタッチし、行動に移る悠斗。
悠斗の右腕に握られた逆刃刀が、カデュのこめかみに向けて振るわれる。
「ひぃっ!?」
一方でカデュもカードにタッチし、防御魔法を発動する。
カデュが発動したのはカウンターシールド。
与えた攻撃と同じ速度で、同じ攻撃を返す盾を出現させる魔法だ。
敵の攻撃が速ければ速いほど、威力が高ければ高いほど効果が高い。
消費魔力も少なく、コスパがいい魔法と言える。
だが、
「っぐううううううう! 痛い! 痛いよ!」
悠斗の逆刃刀はカウンターシールドをすり抜け、カデュのこめかみにヒットした。
しかし、気絶させるには至っていない。
「微妙にズレたか!」
衝撃に倒れるカデュに対し、悠斗は追加で振り下ろしの攻撃をタッチする。
「終わりだ!」
悠斗の渾身の攻撃が迫る。
だが、カデュは既に防御魔法のカードをタッチしていた。
悠斗は知らないことだが、カデュの手札には防御魔法しかない。
目の前で潰れたトマトのようになったジークや、腹部が潰れ、骨が突き出たレオナを見て、恐怖したからだ。
だからこそ、攻撃を食らった時点で次の防御魔法を押すことが出来た。カードを選ぶこともせず、どれでもいいからと押すことで。
「う、うわあえああ! く、来るなぁ!」
しかし、先程の防御魔法は何故かすり抜けた。
今度もそうなるかも……と、カデュに不安がよぎる。
「ちっ!」
しかし、カデュから数センチの所で悠斗の逆刃刀は止まっていた。
カデュが発動したのはマジックアーマー。全身を魔力の鎧で守る魔法だ。
「う、うわああああああ!」
なんとか追撃を防いだカデュは一目散に逃げ出した。ゴート達の方へと。
「ちょ待てよ!」
距離を取られるのはまずい。悠斗は慌てて視線をそちらに向ける。
「……マジかよ」
視線を向けた先の光景を見て、思わず呟く悠斗。
どうやらゴート達のほうも終わりを迎えようとしているようだ。
「面倒な事になりそうだな、ほんと」
フロリアの敗北で。
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