異世界冒険EX
丘の上の戦い②
「……さて、と」
敵は鎧の男に、魔女の女、筋肉二人に、フレアとセリエにアッシュとニルギリ。
全部で八人。ちょっと多すぎるな。どうしたものかね……。
「<<リゼクション>>」
と、俺が考えているとニルギリが何らかの魔法を唱える。
瞬間、身構えるがこちらに変化は無い。
ということは……。
「マジかよ……」
倒れていた何人かが起き上がり、立ち上がる。
まだ倒れたままの奴もいる為、蘇生魔法ではないようだ。
「俺は……」
獣人の男が呟く、渋い声してるな。羨ましい。俺も声変わりを迎えればきっと……今のままでは迫力がなぁ……。
「アルル……」「テルル……」
同じ顔した少年と少女が互いに顔を見合わせ、目に涙を浮かべながら抱きつく。
……困ったな。こういう相手はちょっとやりにくい。
「危ないところでしたね」
「全くだ」
「まだお腹が痛い気がするのにゃ」
「まだワシは死ぬわけにはいかん」
次々に立ち上がる青年、魔族が混じった少年、猫の獣人、じじい。
いい加減にしてくれ。というか、もしかしてこの場合……。
瞬間、世界が震える。空が真っ赤に染まり空間に亀裂が走る。
「やっぱりかよ!」
おそらく死にかけで存在の容量が薄くなったところで、俺の制限解除が行われ、その後復活した事で存在の容量が元に戻りこんなことになってるのだろう。
「さあ! 世界が壊れるのが嫌なら早く神木悠斗に制限を!」
ニルギリが叫ぶ。
アイギスに向けた言葉だろう。中々考えたものだ。くそやろう。
こいつは確かに生存ルートを消したくなる。
「茜! アッシュとかいうガキと戦士風の男と魔女、ニルギリ、後近くの雑魚二人とジジイは俺が抑える! 茜は残りを急いで片付けてくれ!」
「りょーかい。任せて」
茜が頼もしく頷く。
ここまできたら仕方ない。あまりあの異能は使って欲しくなかったが、急がないと。
「燃えろ!」
腕を振った瞬間、丘一面に炎が生まれる。この炎は瞬時に生まれるため回避する術は無い。
んだけどね……。
「駄目か」
案の定これでやられる者はいない。反射させてくる者、周囲の分子を操り温度を下げる者、水の膜を作り防ぐ者と防ぐ方法は違っても、皆一様にダメージは無い。
だがこれはただの目くらましだ。
「茜」
「うん」
茜に指輪から取り出した瞬神の靴を渡す。
単体でのバトルでも大活躍だが、こうした大人数のバトルでこそ更に活躍するのがこのネタ装備だ。
何故なら集団戦なら一つの位置に固定されずに済むから。
「一人目っと」
フレアの後ろに一瞬にして現れた茜がフレアに手を伸ばす。
「<<熱量操作>>」
フレアが周囲の分子を操ろうと固有魔法を発動する。だが、
「何故だ!?」
発動はしない。いや、正確に言えば相殺している為にそう見えるだけだ。
奴の固有魔法は鑑定で調査済み。当然、魔法錬金でその固有魔法は付加してある。
俺が奴の逆に分子を操作すれば熱量は変わらない。
「残念!」
茜がフレアに触れた瞬間、フレアの体が力なく崩れる。
「二人目っと」
茜の体がまた消失し、次はセリエの背後に出現する。
この二人はもう鑑定済みなので容易い。固有魔法もどちらとも相殺可能な能力だ。
「アッシュ様……」
セリエもまた茜に触れられた瞬間、その場に崩れ落ちる。
固有魔法だけに頼ろうとするから、こうなるんだよ。全く。
「な、なによあれ!?」
「だ、大丈夫だよ。テルル。僕の復讐連鎖なら……」
うんうん。もしかしたら防げたかもしれないな。
その魔法壁がもっと狭ければ。
「三、四っと」
瞬神の靴は対象にした相手の背後に転移する神器だ。あれだけ魔法壁の中に空間があれば入れる。
自分だけを囲むようにしていればもしかすると防げたかもしれないな。
「<<鉄の乙女>>」
テルルと呼ばれていた少女の両手が棘つきの金属製の板に変化する。
あれは、ちょっと危ないな。
<<DF UP LEVEL3>>
茜を挟み込むようにテルルの両腕が閉じられる。
しかし、完全に閉じることはなく茜の体に触れた瞬間止まっている。
そしてテルルは言葉を発する事も無くその場に倒れた。
「余所見とは余裕だね」
「まあね」
俺もまたアッシュ、ニルギリ、戦士と魔女と筋肉だるま二人、ジジイ相手に奮戦していた。
茜の様子を見ながらも邪魔されないように適度に攻撃し、回避、防御する。
無理する必要は無いとはいえ、厄介な相手が一人。
「喰らいなさい」
ニルギリだ。
鋭い槍の攻撃に加え、絶対防御とやらの効果が洒落にならない。防ごうという素振りさえ見せない。
目を狙おうがそのまま突っ込んでくる。怖い。しかも、俺が使っているのは破断の太刀だというのに。
「おい! 神木! さっきから無視しやがって! 聞いてるのか!?」
「僕は新城司、覚えてるだろ?」
他にうざったいのがこの二人。どこで知ったか知らないが、俺のクラスメイトの名を騙っている。
別にどうでもいいが、もう少し似せて来いよ。体格とか骨格とかそういうのいじる魔法も探せばある……おっと。
「いいのかい? そんな物騒な武器振り回してあの二人に当たっても」
こいつも地味に侮れないな。アッシュ。
力はそうでもないが、剣の腕はもう一人の戦士の男と同じでかなりの腕だ。加えて魔法のレベルも高い。
「だから……偽者だろううがどうみても!」
「……そんな訳……あ、そうか」
アッシュとやらは二人を見て少し呆然とした後、少し顔を赤くして攻撃を止める。
自分だけでなく、残りの奴らにもそう指示する。
「鑑定でみてくれ。あれならはっきりするだろう」
「いいのか? お前の方も見るかもしれないぞ」
「構わない」
何が狙いかわからないが、とりあえずやってみよう。どうせオークAとインキュバスCとかだろうけど。
<<鑑定>>
名前:田沼 護
性別:男
種族:人間
職業:中学生
レベル:100
好きな食べ物:カレーライス
好きな音楽:電波系
好きな映画:特撮物
好きな言葉:一番
好きな異性:森羅茜
・
・
現在の精神状態:焦燥 憎悪
体力:100000/100500
魔力:530000/530000
物理攻撃力:16600
物理防御力:17500
素早さ :12000
魔法攻撃力:35500
魔法防御力:39000
運 :3000
スキル: 炎属性魔法 風属性魔法
固有魔法: 我田引水Ⅴ……他者に与えられたプラスの効果を自分のものにする。
名前:新城 司
性別:男
種族:人間
職業:中学生
レベル:100
好きな食べ物:だし巻き卵
好きな音楽:流行のもの
好きな映画:流行のもの
好きな言葉:モテる
好きな異性:森羅茜
・
・
現在の精神状態:憎悪 緊張
体力:790000/800000
魔力:9000/9000
物理攻撃力:43900
物理防御力:32600
素早さ :53000
魔法攻撃力:15000
魔法防御力:26600
運 :9000
スキル: 強化魔法
固有魔法: 愛執染着Ⅴ……発動時、視界に入った人物が自身に何らかの感情を抱いていた場合、それを愛情に変え、増幅させる。
なるほどなるほど……まじか。
ご本人か。そういえばチラっとアイギスが何か言ってたなあ。忘れてた。
ていうか、相変らず茜モテるなあ。まあ当然か。やっぱり憎悪はその辺りが関係してるのかねえ。それにしても、
「……なんでこんなになってるの?」
「鍛えた」
誰にとも無く尋ねると、アッシュがそっぽを向きながら答える。見間違いかも知れないが、未だに少し顔が赤い。
なるほど。確かにステータスがおかしい。レベルに対して高すぎるし、そのレベルも割と高い。
「ふーん……」
「神木! やっと気付いたようだな。あの時の恨み晴らさせてもらうぞ」
「僕もだ。茜ちゃんには到底敵わないだろうが、君を倒して茜ちゃんが僕に憎悪でも何でも感情を向ければ……」
なるほど……。さっき見た固有魔法か。確かにいい能力だ。
まあ、無駄だろうけどな。
「ていうか、俺がお前らに何かしたか?」
憎悪って程恨まれる事なんてした記憶が無いんだけど。
いやマジで。
「お、お前、あれだけのことをして忘れやがったのか? ゆ、許さん!」
「……倒す、じゃ足りないな。殺そう」
二人の目に殺意が宿り、少しずつ近付いてくる。マジでなにやったんだ俺。
「ちょっ、待って。何やったか教えて。お前らの勘違いかもしれないし」
「煽るのが上手だね。神木。……そんなに知りたいなら教えてあげるよ……! 一年目の冬、お前が僕に何をしたか!」
「俺は一年目の春だ! まだお前とも仲良くしてやろうと思ってたのに!」
同時に喋るなよ。わかりにくい。まあ、でも……。
チラッと茜の様子を見ると何だか巨人を殺したところみたいだ。
時間を稼ぐのはいい事か。
「お前はマラソン大会で! 一緒に走ろうと僕に言っておきながら置いていきやがった! 更に! ゴールすると僕に甲羅をぶつけ、結局僕は四位に終わった!」
待って。いや待って。
記憶に無いし、甲羅って何だよ。何で俺がマラソン大会で甲羅持ってるんだよ。絶対ゲームかなんかの記憶と混ざってるだろ。
「俺は席替えのときだ! お前は俺の隣の席になると、ため息をつき他の奴に代わって貰った。それもあの川上と!」
あ、こっちは記憶あるわ。茜の隣になれなかったからつい。
「そのせいで俺はカンニングに協力させられ、バレて出席停止になった! 内申に響くだろうし、絶対に許さない」
うーん……それは自己責任でしょ。
協力しなけりゃ良かっただけの話だし。でもまあ、新城に比べればちょっとはわかるな。
「それに町の人を石にしやがった!」
「してねえよ!」
(悠斗……お前……)
(いや、やってねえから。そもそも石化とか出来ねえし)
とんだ濡れ衣である。どう考えてもこちらもゲームか何かの話だろ。
「記憶いじったからかなあ……」
小さくアッシュとやらが呟く声が聞こえる。そうか、あいつも記憶操作系の能力持ちか。
気になるし、ついでに見ておくか。
名前:神崎 誠
性別:男
種族:人間
職業:高校生
レベル:653
好意を持っている人物:クレア
好きな食べ物:クレープ
好きな音楽:バラード系の曲
好きな映画:SF系
好きな言葉:ありがとう
・
・
・
現在の精神状態:安定
体力:1000000/1000000
魔力:1932060/3620000
物理攻撃力:3500000
物理防御力:1580000
素早さ :2599000
魔法攻撃力:3500000
魔法防御力:2900000
運 :300000
スキル:火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 闇属性魔法 光属性魔法 武器術 格闘術 強化魔法 回復魔法
固有魔法:魔法錬金Ⅹ……名称、及び効果を把握できた他者の固有魔法を装備品に付加できる。付加した固有魔法は好きな時に発動できる。
瞬間回復……ダメージを受けた瞬間、回復する。
魔法反射……魔法による攻撃を反射することが出来る。
魔法強化……使用する魔法の威力を上げることが出来る。
防御無効……発動後十秒間、視界に入れた相手の防御力を無効にする。(物理、魔法共に)
物理強化……物理的な攻撃の威力を上げることが出来――「悠斗くん!」
「おっと!」
鑑定している途中、ニルギリの姿が消えた。
かと思うと、瞬時に俺の背後に周り込んだニルギリはその手に握られた槍で俺の背を突いてくる。
茜の声でそれに気付いた俺はギリギリで回避し、ニルギリから距離をとる。
「油断も隙も無いな」
「護君、今だ!」
アッシュの声が響くと同時に俺の体から力が抜ける。
「あいつの固有魔法か!」
確かさっき見た田沼の固有魔法は相手のプラスの効果を自分のものにする魔法だったはず。
まさか女神からの補正まで対象とはな。不味いな、これ。
「司君は固有魔法を常時発動! ニルギリ、ダグラス、ゲイン、アイラは僕と一緒に神木悠斗を捕らえる! 他の者は二人組を作り、背中を合わせろ! そして、森羅茜とは接触しないよう気をつけながら魔法や銃等の遠距離攻撃で牽制!」
なかなか的確で嫌な指示を出す。瞬神の靴も転移と一緒だ。転移先に何も無い状態でないと悲惨な事になる。
それに茜の異能も少しはわかっているようだ。まあ、わかったところでどうしようもないがね。
ちなみに異能とはアイギスの世界へと、別の世界から来ることで得られるものだ。固有魔法と色々と違っているが、今はそんな事を考えている場合じゃないか。
《我田引水》
魔法錬金を使用し、田沼の固有魔法を発動する。これで何とか……駄目か。
結局また向こうが使用するだけだ。魔力の無駄だし、急に変化する方が対応が難しい。
どうしたものかね。
そんな事を考えていると田沼と新城が俺を無視し、茜へと話しかける。
「茜ちゃん! あの時……初めて会った時から好きなんだ! あの時に貰ったポ○リの味は一生忘れないと思う!」
「そう……」
「新城……お前……」
おや? 田沼は知らなかったのか。明らかに狼狽えている。
「あ、茜! 俺も実はお前が好きだったんだ! あの時お前だけが笑わないでくれた! そんなお前の優しさに俺は……」
どの時か知らないが、こいつらは何で今そんな事を言っているのか。
茜は今、猫の獣人と青年、角の生えた少年と銃を使う男達の攻撃によって受け答えする余裕はない。
そんな事もわからないのか。だが、まあ気持ちはわかる。茜は可愛いし、優しいからな。
だが!
……よく言えたものだな。俺の前で。この俺の前で。
少しだけイラッときたぞ。少しだけなぁ。って、あ。
◆◇◆
「面倒だなぁ」
残り四人。
あまり魔力は使いたくない。だからこそ異能を使ってるんだけど。思ったより動きがいいのが二人。銃を使ってる男の人と猫っぽい人だ。
男の人は他にも弓や変な手裏剣など多種多様な武器を使ってくるし、猫の人は単純に動きが読みにくい。後の二人はそれぞれサポートと魔法タイプみたいだ。
このままじゃ、やられはしないけど倒せないかも知れない。
どうしようかな。
「茜ちゃん!」
「茜!」
誰だか知らないけど、気安く名前を呼ばないで貰いたいね。本当。結局、誰なんだろ、あの二人。
何か急に告白してきたし、ポ○リなんてあげた覚えないし。
悠斗くんは何してるんだろ。
「二人は知らないだろうけどさ、ボクは悠斗くんの事が大好きなんだ。だから、ごめんね」
ボクも罪な女の子だなぁ。またつまらぬものを切ってしまったよ。
にゃんちゃって。
「知ってる! でも、それはどうせ魔法か何かのせいだろ? 前から怪しいと思っていたけどここに来てハッキリした! 君は操られてる!」
「そ、そうだ! 俺も前からおかしいと思ってたんだ! こんな女みたいな顔した奴が茜と付き合ってるなんてありえねえ! 茜には俺みたいな頼り甲斐のある……」
はぁ……聞くに堪えないなぁ。……悠斗くんの指示とは違っちゃうけど、あの二人を先にやっちゃおう。
流石に激おこだよ!
って、あ。
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