異世界冒険EX
悠斗の願い
「あ、そうか!」
俺は結界に閉じ込められて数時間程度を魔力回復に使い、それから脱出方法を考えていた。
ダラダラしている間に結界の外で何かやっていたようだが、どうでもいい……うん。
脱出方法だってすぐ思いついた。うん。まあ、ついさっきだけど。
「魔力無効で消してもいいんだけど、それだとね……」
ちょっと調べてみた限りでは結界には絶えず、魔力が流れている。しかも、一人分じゃない。
今の制限がかかった状態じゃちと厳しい。
そこで、
「転移結晶~!」
どっちの声を出すか迷ったが、昔の猫型タヌキロボットの声を真似する。
そして、取り出した転移結晶を砕き、青白い光が俺の体を包み込み視界が暗転する。
次の瞬間にはアイギスの姿が見えた。
成功だ。
「やあ、アイギス。忙しそうだね……」
「ああんっ!?」
目の前のアイギスは荒みきっていた。髪は乱れ、目は血走り、手だけが周囲に浮かんだキーボードとタッチパネルを操作している。
「なんだ悠斗か……って悠斗かよ!」
「うん。悠斗だよ」
おかしな突っ込みを入れられてしまったが、とりあえず肯定しておく。
頭がいかれてしまった人の話は否定しちゃいけないからね。
「何だよ、もー。せっかく心配して、大急ぎで管理権の奪取を進めてたのに」
「それはまた……どうも」
こんなネトゲ廃人みたいな状態になるまで、頑張ってくれたと考えるとちょっと照れくさいけど嬉しい。
「とにかく無事に脱出できたならちょっと地球に戻ってよ」
「え? そりゃまた何で?」
「ニルギリの奴が地球に二十体もの魔王を送りこみやがったんだよ!」
「マジかよ……」
……とんでもないことする奴だな。魔王一人でも一日あれば一国位は落とせる位の強さだぞ。
それが二十体か……あ、その為に俺を呼び出そうとしてたのか?
ちくしょう。感動を返せ。
だがまぁ、我が愛しの故郷の為とあってはやらざるを得ない。だが、
「うーん……ちょっと待ってくれ。確定未来使うから」
魔王が二十体。九割九分九厘勝てると思うが、念には念を入れたい。
あれ? そう言えば……。
「あの時警察署で確定未来が使えなかったって事は、不可能だったって事だよな? でも、現に今は脱出出来てる。どういうことだ?」
「そりゃあれだろ。悠斗、あの時ステータスに制限掛かってたじゃん。だから多分、使えなかったんじゃない?」
「魔力量は足りてたぞ? ギリギリ」
「それだけじゃない。魔法攻撃力もある程度は無いと使えないし、それに魔法攻撃力が足りてても対象次第では使えない事も多い」
……すげえ便利だと思ってたのに。何か色々と制限があるみたいだ。
「対象次第ってどういうことだ?」
「例えば……そうだな。悠斗が私と戦うで、確定未来を発動させようとしても発動しない」
「ん? どういう事だ? 別に戦う位ならいつでも出来るだろ」
殺せ、とかなら不可能だけど。
「対象の魔法防御力を超えないと発動しないんだよ」
「あー、なるほど……」
つまり自分より格下相手にしか使えないって事か。
「更に」
「まだあるのかよ」
どんどん出て来るな。それならそうと、最初に説明してくれればよかったのに。
「今回のように王都へと向かう、といった行動の場合、それに関わる人間の魔法防御力全てを超えないといけない」
「……つまり、俺が王都へと向かう上で邪魔になる存在全ての魔法防御力を俺の魔法攻撃力が超えないといけないって事か」
「うん。全然違うね」
呆れたように首をかしげるアイギス。仕方ないだろう。なんか話がごちゃごちゃしてるし。
「今回ならまあ、転移結晶を使って、それから私が王都に向かわせれば終わりでしょ? 邪魔になる存在なんていないじゃん?」
「でも、発動しなかった」
「そう。何故なら邪魔する存在だけじゃなく、関わる存在全ての魔法防御力を超えないといけないからだよ」
そういう事か。なる程……。
「つまり、アイギスの魔法防御力を超えられなかったから発動しなかったって訳か」
「そそ」
「そいうことなら俺が警察署で使った時に教えてくれよ」
少し口を尖らせながら愚痴ると、アイギスは深く、更に深くため息をつく。
「……これは悠斗に確定未来を与えた時に言ったはずなんだけどね……」
「マジかよ」
全然記憶にない……まぁ色々と忙しかったしね。しょうがないね。うん。
「てっきりその辺りも欠点消去で消すのかと思ってたよ」
「あー……出来るか微妙だな。少なくともあの時点では魔力量が足りてないな」
「まあ、とにかく無事に戻って来てくれてよかったよ。てなわけで、早く行こうか」
アイギスからの圧力が強まる。そんなに地球がヤバいのだろうか。
ていうかそもそも確か……。
「地球の方は時間が止まってるんだったよな? じゃあ魔王が入ったとしても無駄じゃないか? というか、入れないだろ」
「いや、それが……ニルギリの奴が……」
何やらバツが悪そうな顔でゴニョゴニョと歯切れの悪いアイギス。これは嫌な予感がする。
この女神がアホな事をやらかした時はいつもこうだ。
「その、ちょっと一時期忙しくてさ、ニルギリに地球の管理任せてたんだよね。おかげで積みゲー消化できたんだけど……」
「は?」
な、何を言ってるんだこの女神。自分が管理してる世界を他の奴に任せた、だと……。ていうかゲーム積んでんじゃねえよ。
「いや、ほら、悠斗だって夏休みの宿題、茜ちゃんに手伝って貰ってたじゃん」
「いやいや、スケールが違うだろ! え? ていうか管理って別の女神でも出来るのかよ?」
「まあ、ニルギリは私が教育したからね。というか……他の女神もそうだけど」
「じゃあ、どの女神も基本的な所は出来る。みたいな感じなのか」
「そそ。でも、そのせいで基本的なベースが私の世界のパクリなんだよねー」
……そう言えば今まで行った異世界も、確かに違うところも多かったが、似ているところも多かったな。
それはアイギスが教育していたからなのか。
「と、それで? 今はアイギスが管理してるんだろ?」
「うん。でも、なんかちょっと仕組み変えられてて、ニルギリの方からも操作できるようになっちゃってたみたい」
「は?」
てへぺろ。と、舌を出すアイギスのその舌を掴む。
それで許されるレベルは明らかに超えている。
「いあい! いあいよ!」
「それお前、バックドア仕込まれてるじゃねーか!」
「ゆうおのうせにむうかしいおおしっけるだん」
なんて言ってるんだこの女神は。湿気る団って何かすげー嫌な団だな。
キノコが団長な気がする。
「なんあだんだんいもいよく……」
「何に目覚めてんだよ!」
今のは何となくわかった。慌てて思いっきり強く舌を引っ張り、そして放す。
「ヴオオ!」
女性とは思えない声を上げて、アイギスは倒れた。
ようやく悪は滅んだ……。
「今のは痛かった……今のは痛かったぞーっ!」
しかし、アイギスは立ち上がるとカリスマ性に定評がある宇宙の帝王の真似をする。
もうやだこの女神。
「それで地球はどうなってるんだよ!? 茜は?」
「今はまだ魔王達も本格的に暴れてないからそんなに被害はないよ。せいぜい数千人位? 茜ちゃんは日本に現れてた魔王倒して、今は家でケーキ食べてるよ」
……マジか。まあ、当然と言えば当然か。俺だって過去に負けてるからな。茜には。
俺より弱い奴に負ける訳がない。
「それでも、茜を危険に晒したのは間違いないんだから反省しろよ」
「あい、とぅいまてーん!」
「…………」
第十二次人神戦争の始まりだった。
俺に掛けられた制限もここでは消えている。
……呼び出すのは蒼い炎、近くにいるだけで肌が焼け、常時回復魔法を使わなければ俺自身、そのまま焼かれてしまうだろう。
そんな炎を生み出す。燃え尽きろ……。
「四重結界」
だが、アイギスの声が響くと同時に俺の周囲から酸素が消失する。
創造魔法を使い酸素を生み出すが、それもまたすぐに消失していく。
アイギスの使用した結界は四つの結界の重ね掛けのようだ。
一つ目の結界が外からの酸素の供給を防ぎ、二つ目の結界が魔力消失、更に不壊、再生となっている。
流石は女神、こんなの茜位しか他に出来ないだろう。
「やってくれる……」
だが、俺が結界に手を触れるとたちまち結界は消失する。まだ甘い。
「む。あ、そうか。異能か」
「アイギスにはバレてるからな。隠すこともない」
一瞬、驚いた顔をしたアイギスが納得したように頷く。
だが、よく考えればこのまま戦っても、得どころか魔力の無駄だな……。
「……今はこんな事してる場合じゃない、か」
現在も地球では魔王共が暴れているはずだ。茜以外がどうなろうと知ったことではないが、それでもまあ、なるべく早めに終わらせた方がいいだろう。
「そうそう。じゃあどこから行く? 日本はもういないから別の所に戻すよ?」
「どこでもいい」
「りょーかい」
言うと同時にアイギスの体の下に大きな魔方陣が展開される。当然これもただの演出だ。
「《溢れ出る無限の魔力を糧に彼の者を氷結の大地へと送りたまえ……┃世界転位(チェンジ・ザ・ワールド)」
長えな。無駄に。
俺の体が虹色の光の粒子となり、少しずつ消えていく。マジで面倒だなこの女神は。
綺麗だけど怖えわ。
ニタニタと笑うアイギスの顔を眺めていると、いつの間にか転移は終わっていた。
「寒い……」
辺りに見えるのは氷。もうものの見事に氷。そしてその中にそびえ立つ氷の城。
おそらく魔王城だろう。
「ここは後回しでいいか」
周囲に人の姿はないし、他の所を優先すべきだろう。
あの糞女神は嫌がらせでここに送ったに違いない。南極か北極かの二択だな。
とりあえず、
《欠点消去》
《確定未来》《魔王達を殺す》
……うーん……発動しないか。条件が曖昧だからか?
なら、《地球に存在する魔王達を殺す》
……よし、出来た。普通に可能みたいだな。
確定未来で見た未来では一体ずつ殺していたが、それだと少し時間がかかる。まあ、俺がそうしようと思っていたからだけど。
だが、敵の能力はわかったし、魔力を吸収するような能力はなかった。なら、こっちだ。
《マップ》
世界中に魔力を広げていく。今の俺なら地球全体に広げ、地球を魔力で満たすことが可能だ。
《鑑定》
そして、感知した魔王達の能力を見る。
物理に弱い者、逆に強い者、魔法に長けた者、ある属性に弱い者、様々だ。
詳しく見ても、問題になりそうな奴はいないな。
「じゃあ、やるか……って、あれ?」
いつの間にか景色が変わっている。味気ない氷の世界から、良い匂いがする見覚えのある部屋に。
「…………」
というかこの部屋は……茜の部屋だ。
机の上に置かれた写真立てには俺と茜が写っている。懐かしい。中学の入学式のやつだな。可愛い。
「やあやあ。悠斗くん」
「茜……え? これはどういうこと?」
後ろから声をかけられ、振り向くと茜がベッドに腰掛け笑っている。
可愛い。押し倒したい。戸惑う茜が見てみたい。テーブルに置かれたケーキの皿を舐めたい。
「何か悠斗くんの魔力を感じたから」
「……あー」
マップか。あれを使った時に、逆に感知されてしまったのか。
「いつもだったらすぐボクの所に戻ってくるのに、今回はずいぶん遠くだったから……。何か厄介ごと?」
「うーん、まあ、そうといえばそうなんだけど……」
どうしようかな。説明してもいいけど、茜には少しでも危険な事はしてほしくないんだよなぁ。
「そう言えば北海道の方に何か居たから消しといたけど、もしかして関係してる?」
たぶん魔王なんだろうなぁ。電気つけっぱだったから消しといたみたいに言ってるけど。
「……実は今回、転移した先の女神がこっちの世界に魔王をばらまいたらしくてさ、その駆除をする所」
「何か虫みたいな扱いだねえ」
茜は少し考える様な素振りを見せたあと、パンと手を打つ。
「よし! ボクも手伝うよ!」
その眩しい笑顔につい頷きたくなるが、駄目だ。過保護と言われようとなるべく俺だけで片付けたい。
「いや、大丈夫。もう終わるところだから」
「えー? 久々に悠斗くんと冒険出来そうだったのになー」
残念そうな表情の茜だが、こればかりは仕方ない。
「もう世界中に魔力を満たしているから、後は魔王のいる場所にそれぞれの弱点に対応した魔法を発動させるだけだよ」
俺はどれだけ離れていようと、自身の魔力がそこにあれば魔法を発動出来る。
まあ、どうやら茜も出来るみたいだけど……。
「え? それだと魔王の周囲にいる人達も巻き込まれない?」
茜が片眉を吊り上げ聞いてくるが、それは仕方ない。
「それはしょうがない。必要な犠牲だよ」
魔王の傍にいるなら遅かれ早かれ死ぬだろう。なら、そんなこと気にしてもしょうがない。
「いや、駄目でしょ。そうだなぁ……」
目を瞑り、黙り込む茜。
こっそりキスしたらどうするんだろう? 怒るかな。いや、そんなに怒らないだろ。
「…………」
ゆっくりと顔を近付けていく。
茜の透き通るような肌に、薄い唇。それに俺の唇が触れるか触れないかの所でパッと茜の目が開く。
「っ……悠斗くん!?」
「……い、いや、ほら……心配して覗き込んだだけだよ? ホントだよ?」
真っ赤になって距離を取る茜に、慌てて弁明する。……惜しい所だった。
「そ、それで何を考えてたんだ?」
「あ、えーと……」
(こ、ここからは私が説明しよう)
頭の中でアイギスの声が響く。いつもの声とは少し違い、震えている気がする。
何かまたやらかしたのか……。
(魔王の位置は把握できてるんだよな? だったらその位置情報を茜さんにもリンクして、茜さんが結界で魔王達を拘束。後は悠斗が結界内の魔力を使用し、エンド)
流れるような早口での説明だが、概ね理解出来た。
アイギスが茜に脅されているのも。
「じゃあ、そんな訳だからアイギスさん。よろしく」
(はい。思考リンクですね)
震えたアイギスの声が脳内に響く、その瞬間から茜にもこちらの考えが伝わるようだ。
(悠斗くん! 魔王達の位置情報を教えて?)
まあ、ここからなら安全は確保されている。仕方ないか。
関係ないが、茜の声が脳内に響くと何だか興奮する。
(えーと……)
マップをもう一度発動し、それぞれの位置情報を茜へと伝える。
(じゃあ……うん、捕まえたよ)
茜は事も無げに言っているが、複数の結界を遠距離に発動し、更に魔王クラスを捕獲するなどはっきりいって不可能だ。
(あはは。暴れてる。本当に虫みたいだね)
しかし、茜にとっては何でもないようことのようだ。恐ろしいような、頼もしいような。
(それで、あの、茜さん、そろそろ私の方の結界を解除して頂きたいのですが……)
(え? うーん……今回の事ってアイギスさんが原因なんだよね? だったらさ……罰が必要だよね?)
どうやらアイギスも捕まっているようだ。残念な事にアイギスの空間には俺の魔力はない。
……どんまい。アイギス。
俺ならまだ軽く燃やす位で済ませてあげたが……。
と、俺は俺の仕事をしないとな。茜が魔王達を閉じ込めてる結界内部に、それぞれの弱点に対応した魔法を発動させる。
頭の中でアイギスの悲鳴と懇願と嗚咽が響いているが、気にしては駄目だ。
(あはは。もっと激しくなった)
茜の無邪気な声がとても怖いが、そんな所も大好きだ。
あ、そうだ。
(茜、大好きだよ)
(な、何、急に? えーと、ボクも大好きだよ! 悠斗くん!)
(……なかなか思考リンクなんて珍しい状況はないからさ、ちょっとやってみたくて)
目の前には少しだけ顔を赤くした茜が居る。多分、俺の顔も同じだろう。
(茜の顔、名前の通り茜色になってるぞ)
(えー? 悠斗くんだってそうだよー)
見つめ合いながら心の中で会話する。照れたり、笑ったり、少し怒ったり、拗ねたり。
ああ。幸せだ。
そう、そうだ。こんな幸せな毎日が続くこと。それが、俺のたった一つの願いなんだ。
(茜、いいよね?)
(……うん……)
次第に小さくなるアイギスの声を聞きながら、俺と茜は唇を重ねる。
そしてどちらからともなく離れると、お互いに照れ笑いで目を逸らす。
ああ。幸せだ。ほんの一瞬でこうも幸せになれることが他にあるだろうか。いや、ない。
あ、あと魔王達は死んだ。
◆◇◆
「だからね? ボクが言いたいのは飲み口が広くなったコーンスープの缶は邪道だよねって事なんだよ」
「でも、あれのお陰で缶の口の所で舌を切ることがなくなった訳だし……」
あれから数時間程、茜とのトークを楽しんでいる。ちょっと前に思考リンクが切れた為、普通に口頭で。
アイギスが力尽きたのだろう。
やっぱり耳で聞くのもいい。茜の可愛くて澄んだ声がたまらない。
「いや、缶に残ったコーンとパピコの先っちょを同列視するのは……」
「でも、あれだってコーンスープを最後の一粒まで飲む事と一緒の行為でしょ」
「まあ、確かに外であの小さい先っちょを吸ってるの見ると少しうわぁって思うけど」
「でしょ? でも、あそこが一番美味しい訳じゃん! コーンスープも同じだよ! 最後の一粒が一番美味しいんだ! だからみっともなくともボクはやる!」
言いながら缶のコーンスープの最後の一粒を何とか取ろうと、舌を動かす茜。
ああ、俺は缶になりたい。
「っ痛い!」
「大丈夫か!?」
舌を切ったようで、茜は舌を出したまま缶を離す。
「まったく……」
俺はすぐに回復魔法を使用し、茜の怪我を癒やす。
「缶の下まで落としたら後は吸った方が早いよ」
「えー? んー……」
さてと。俺はそろそろ行かないとね。
女神の指輪から転移結晶を取り出す。
何度かアイギスに通信してみたが、返事がない。ただの屍になっていないことを祈るばかりだ。
「おお! なるほど!」
取れたようで幸せそうに笑う茜を見ながら思う。
この笑顔も俺が回復魔法を持っていなかったら、見れなかった。
だから茜のため、いや、俺の幸せの為に俺は……何でも出来る俺になるんだ。
もう二度と茜が泣かないで済むように、幸せで、いつまでも笑っていられるように……。
「……あれ? もう一粒あった!」
そんな俺の決意を横目に、茜はコンコンと缶を叩き、残ったコーンを缶の口の所に落とすと、一気に吸い込む。
「……んふっ!? っごほっ! ごほっ!」
「おいおい……大丈夫か?」
どうやら喉にダイレクトアタックされたようで、茜は真っ赤な顔で咳き込む。
やっぱりコーンにもなりたい。
「……んふー。大丈夫、大丈夫。……ほら」
「…………」
茜が舌をペロっと前に出すと、その舌の上には一粒のコーンが乗っている。
……全く。
「っうぇ!?」
当然、そんな物を見せられては我慢できようもない。
「んー!? んー!!」
茜の唇にキスすると共に、舌に置かれたコーンを奪い取る。
そして唇を離すと、もの言いたげな視線で見てくる茜に笑みを浮かべて告げる。
「……うん。じゃあまた!」
「……っ……ボクのコーン!」
気にするのそっちかよ! 俺はツッコむと共に転移結晶を砕いた。
◆◇◆
「随分とお楽しみでしたね」
「見てたのかよ……趣味が悪いなぁ」
アイギスの空間に戻ると同時に、ふて腐れたアイギスの声が聞こえる。
アイギスは地球の管理を完全に取り戻したらしく、次はニルギリの世界の管理権を奪おうとしているようだ。
どんな罰を受けていたのか服はボロボロのようだが、体自体に傷はない。回復しただけかもしれないが。
「じゃ、そろそろ戻るよ。茜の為にも頑張らなきゃ……」
「そうだねー。茜さんの為にも頑張ってねー」
「…………」
アイギスは少し拗ねた子供のような声を出してくる。
……アイギスは声帯模写が得意だから、多分これも罠か何かなんだろうけど。
どさくさで聞いた一つの言葉が頭をよぎる。流石にこのままなかった事には出来ないよな。
「あの……アイギス、責任は取るつもりだから。ちゃんと茜にも話すし、その結果も受け止める」
「え? いや、別にそんな……」
「俺は茜が大好きだ。それは未来永劫変わらないと思う。でも、アイギスの事もさ……その……」
当然ながら嫌いじゃない。断然好きだ。でも、茜ほどじゃない……ってそんなクズな事言える訳がないし、でも好きなのは本当だし……。
「…………」
「……えーと……一発ヤッとく?」
「何でだよっ!」
全くアイギスは……。こっちは真剣に話してるってのに。
「そうそう。私達はそれでいいじゃん。お互いボケて、ツッコんで……。まあ、ベッドの上では悠斗だけが突っ込むんだけど」
「アイギスって、意外と下ネタ好きだよな」
「……否定はしない」
はぁ……まあいいか。いつかアイギスにも、そして茜にも言わないといけないな。
俺の願いとその為の計画を。
「……じゃあ、戻るよ」
「うん。今回は女神が敵なだけあって、だいぶ面倒だからね……。何もなければいいけど……」
「フラグを立てるなよ。大丈夫だ。あの少年は俺をどうにかするつもりのようだからな。あそこに罠をはり、待ち伏せしてればだいぶ敵は倒せるはずだ。そうなれば、俺の制限も解除出来るし、仲間を呼ぶことも出来る」
不安要素はないはずだ。相手が女神だろうと、それぞれの空間以外でなら勝機はある。
「ま、無理はしないようにね。念の為、容量が空いたら自動で制限を解除するようにしておくよ」
「ありがとさん」
そういってニルギリの世界へと戻った俺は罠をはり、敵の出方を待った。
見落としはないはずだった。まさか敵が、召喚するとは、出来るとは思わなかったんだ…………俺の何より大切な茜を。
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