異世界冒険EX
結界
「な、何故だ?」
体中を無数の弾丸で貫かれながらも、カールは生きているようだ。
虫のように這いつくばり、まさに虫の息だが、何とか回復魔法を使い少しずつ治しているようだ。
もちろん見逃す気はない。
「……説明する訳が無いだろう」
俺は刀を振り、首を飛ばす。あっけないが、これで終わりだ。
(アイギス!)
(りょー)
それと同時に確定未来の制限の解除をアイギスに頼む。
もう遅れは取らない。茜成分は補充出来た事だしな。
一応……カールには言わなかったが、ケイト達がカールを襲ったのにはもちろん理由がある。
ケイト達が俺とカールを逆に記憶しているなら、更に反転してやればいい。
空間に幻術を掛けることで何が起きるか?
答えは俺を含めた全員に同じ映像を見せる事が出来る。
自分もそう見えるからあまり使い勝手は良くない上に、魔力もそれなりに消費する。
だが、今回はそれで充分だった。
俺とカールの姿を入れ替えた映像を見せるだけで、あとは憎しみを煽られたケイト達がやってくれる。
問題は……
「あれ? ユ……ユウトさん! ユウトさん!」「て、てめえ。まさかまた……」
「もう嫌ぁあああ!」
幻術を解くと、記憶はそのままだから俺が敵のままだという事だ。
だが解かないと穴だらけの自分の体を見続ける事になる。それはちょっと精神衛生上良くない。
もちろんケイト達は後で魔力無効で記憶操作を無効化する予定だが、この数だからなぁ。魔力的にも労力的にも面倒だ。
「…………」
殺すか。それが一番楽だし、メリットも充分だ。容量は空くし、殺そうとしてきた奴らだから心も痛まない。
だがケイトは…………ちっ。
「《炎帝》」
炎の渦が俺を中心に部屋中を暴れ回る。ソファーがテーブルが机が、全て燃え、炭化していく。
無詠唱でケイトにだけは強化魔法を使い、炎に対する耐性を上げている。耐えれるはずだ。
「……なるほど」
しかし、炎の渦がケイト達を飲み込む寸前、部屋からケイト達の姿が消えた。
  ……誰かわからないが邪魔な奴がいるようだ。もしかすると、カールの豹変もそいつの仕業か……?
(確定未来の制限を解除したよー)
(わかった)
アイギスから待ち望んだ報告が来る。いいタイミングだ。
まずはドルゲからコピーした固有魔法、欠点消去。
魔法におけるデメリットを消す魔法だ。
例えば相手を殺す代わりに自分も死ぬ魔法があったとして、この欠点消去を先に使っておけばメリットである相手を殺すの結果だけが起こるという訳だ。
確定未来なら……一度決めた行動は変えられない、という点だろう。
ちなみにドルゲは魔法の魔力消費すらデメリットだと考え、消費無しで魔法が使えたようだ。
俺はそこまで思い込めない。何かしらの現象を起こす以上、魔力消費は当然で、デメリットとは考えられない。ある意味凄いやつだ。
欠点消去と確定未来、二つの魔法を使えば流石に魔力切れ寸前だが、仕方ない。
《欠点消去》
《確定未来》《王都へと向かう》
(……ん? 発動しない?)
(不可能って事じゃない?)
(いや、そんなはずは……まさか)
とりあえず外に出ないと。嫌な予感がする。
窓を開け、外へと飛び出る。先程までいた部屋は思ったよりも高い場所にあったようで、少し足が痺れる。だが、今は気にしている場合ではない。
この場所は村からは少し離れているが、それでも来るときはチラホラと人影が見えた。
だが、今は誰の姿も見えない。
「これは……不味いな」
慌てて村へと走り出す。もしも俺が考えている通りなら面倒なんてものじゃない。
最悪だ。
◆◇◆
「っ! やっぱりか」
村には人どころか家畜すらいない。完全にやられたなこれ。
(もしかして閉じ込められた?)
(だな。しかも、対象指定の難易度の高い結界みたいだな)
(結界能力自体レアなはずなんだけどなぁ……どうするの?)
(そりゃ壊すさ。今の制限掛かった状態でもそれ位は出来るはずだ)
結界は便利だが、何かしらの条件を加えると途端に脆くなる。……まあ、例外もあるが。茜の固有魔法とか。
そう思い、村の外れまで歩く。
目の前にはいつもと変わらない風景が写っている。だが、
「これは……」
壁がある。しかもこれは……
『よりによって、神木悠斗、まさか君が来るなんてね』
壁の向こうから声が聞こえる。声変わり前の少年の声だ。しかし、どこか大人びた印象を感じる。
……目の前に見えるのははただの荒れ地。だが、確かに何者かがそこにいる。
『結界は壊せないよ。もうわかったと思うけど、これは二重結界だよ』
「対象指定の結界で俺だけを閉じ込め、それに重ねるように結界を張ったのか」
『うん。加えて、もう一つ増やしてるよ』
……なるほど。完全に閉じ込められたな。俺一人ならな。
「わざわざご苦労様だな。何が目的だ?」
あえてすぐには脱出せず、目の前の相手の目的を尋ねる。
人は優位に立つと口が軽くなるからね。
『……僕以外にとっては価値がないことさ』
「…………」
だが答えられた目的は曖昧なものだ。もしも叶えられそうなら叶えてやっても良かったんだが。戦うのも面倒だし。
それにしても異世界人で俺を知っているという事は女神の関係者か? となると、女神黒幕説の可能性が高くなるんだが……。
『まあ、そんな事より残念だったね。君はもうこちらの準備が整うまで、ここから逃げられない。先に見つけた僕の勝ちだ』
「そうだなぁ……」
(アイギス!)
頭の中でアイギスに呼びかける。アイギスに転移してもらえば脱出なんて簡単だ。
そう考えたのだが……。
(…………? あれ?)
返事がない? というよりも、届いていないのか?
(無駄ですよ)
アイギスとは違う、別の女性の声が聞こえる。
(……誰だ?)
(もうわかっているでしょう? この世界の女神であるニルギリです)
はい。確定。もう最悪。本当もうやべえ。
詰んだ。一度地球に戻り、また別の地点に転移して貰おうと考えていたのに、それも出来ないようだ。
……どうしよう……使うか?
『今はまだ君を倒せる算段がついてない。だから、しばらくは閉じ込めさせて貰うよ。倒せると確信したらまた来るよ』
そう言い残し、結界の外の気配は消えていった。
「ちょっとやばい……な」
どうやら俺の事を少しは知っているようだし、俺が万全の状態でも倒せる程の戦力で来られては、今の俺ではひとたまりもない。
……ふー。どうしたものかね。
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