異世界冒険EX
日常と
「おいっ! 起きろ!」
声が聞こえる。おっさんの声だ。おかげで目覚めは最悪。なにかいい夢見ていた気がするというのに。
「おい! 神木!」
「起きてます! 先生!」
あーそうだ。今は日常パート。簡単に言えば授業中だった。
つまり起こしてきたのは教師の張本。そして教科は英語。
眠りから覚醒したばかりの呆けた頭が徐々に冴えていく。
「ほーう。なら俺が五分前に話した内容を英訳してみろ」
張本は内心が透けて見えそうな歪んだ笑顔でそう言った。
全く無茶をおっしゃる。その頃俺は夢の中だったというのに。先月、学生時代から付き合っていた婚約者に振られたからと言って俺に当たらないでほしいものだ。
普通は授業で習ってないような問題を出し、それを俺が解いて天才アピールするのがお決まりだろうに。
……ま、別に問題ないけれど。
「I went to the park……」
「ちっ、正解だ。相変らず不気味な奴だな……寝たふりとも思えなかったが」
俺は五分前に張本が話したであろう内容を英訳し、答える。内容はくだらない話、雑談の一種だ。
ちなみに、俺は頭も良くないし話も聞いていなかった。ならば、なぜ答えることができたのか。
それは……魔法を使ったから。
何を馬鹿な、と思うかもしれない。それはそうだ。この世界では魔法なんていうのはファンタジー、物語の世界だけの話だ。
だが、俺はそのファンタジーの世界に行って戻ってきたのだ。最近の小説やら漫画やらで有名な異世界転移って奴だ。
その結果チートな魔法や、ステータス、アイテムを持ったままこの世界で生きてるって訳だ。
その中でも良く使うのが確定未来。
たとえば今回、昨日の時点で俺は明日の英語の授業中昼寝をしようと決めた。そこで確定未来を発動する。
すると昼寝をした結果、張本に起こされ問題を出される未来……まあ、昼寝した結果が見える。
その俺が答えられなかった未来で張本がドヤ顔で何を話したのか教えてくれる。あとは簡単。翻訳サイト。
ただし、確定未来を使ってしまうと決めたことは変更できない。今回なら絶対に昼寝しないといけない。
もし、決めた行動を変えてしまうと大変な事が起こるらしいが、変えた事がないので何が起きるかはわからない。
それに決めたことは可能なことじゃないといけない。不老不死になる、スタ○ド能力に目覚める等の不可能な事では確定未来は発動しない。
他にもいくつか制限はあるが、未来の一部を知れるというのはとても便利だ。
「そろそろ時間だな。号令」
「起立、礼、ありがとうございましたー」
「「ありがとうございましたー」」
苦痛の時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、休み時間になる。
俺は大きく背伸びすると、机に突っ伏した。とても眠いのだ。それに休み時間というぐらいだし構わないだろう。
「悠斗くん、今日は寝てばっかりだね」
「……あー。ちょっと色々あってね」
机に突っ伏した俺の髪を撫でながら、話しかけてきたのは……隣の席にして、家もお隣さんであり、もちろん幼馴染で、黒髪ショートの美少女且つ、俺の自慢の彼女でもある、森羅茜だ。
「また行ってきたの?」
「ああ。今日の朝方に呼ばれた」
そう。実はそんは彼女も異世界からの帰還者だ。
三度目の転移の時、巻き込んでしまったが何とか二人揃って元の世界に戻ってきた。
……ぶっちゃけ最後は、ほとんど茜がヤってくれた。絶対に茜を怒らせてはいけないとその時学んだ。
「次があったらボクもついて行くよ」
「いや、大丈夫だよ。……もう茜には危険な事はしてほしくないから」
「……そっか。でも、本当に危ないときは呼んでね。悠斗くんより大事なものなんて、ボクにはないんだから」
「っ!? ……ありがと」
あああああ! もう! 可愛い! ほんと大好きだ!
やばいやばいやばい。
今の俺、顔真っ赤だろうなぁー。よかったー。机に突っ伏してて。
あーでも、茜の顔が見えないのはちょっと残念かなぁ、なん――
「おい! 神木!」
死ね。
幸せな気分だった所に無粋な声が響く。もしも横に茜がいなかったら、即座に声帯を取り出してやるところだ。
「おい! 無視するなよ!」
声の主は、田沼護。人間の世界に迷い込んだ豚だ。
嘘だ。ただのデブだ。
「なに?」
「いい加減教えろよ」
「やだ」
田沼が知りたがってるのは、俺の成績が上がりまくった理由だ。
この学校では試験結果が貼り出される。上位五十名だけとはいえ、このご時世にいかがなものか、と思っていたが今は少し嬉しい。
一年目の中間テスト。一位は田沼だった。
二年目の中間テスト。田沼は三位になった。
俺と茜が、同点一位だ。
結果として古い教師なんかがアベックで一位だなんだと、今の子供にはわからない言葉で囃し立ててくるのが少しうざったいが、学校中にアピール出来ると思えばそれもアリだ。
だが、それからというもの何故急に成績が上がったのかしつこく聞いてくるのだ。
この豚と――
「僕も知りたいな。運動試験の方もね」
……めんどくせぇ。こいつまで来やがった。
現れたのは新城司。悔しいけれどイケメンだ。俺ほどではないけれど。でも彼女がいない為、あっち系ではないかと噂されている。
この学校は運動の方も試験がある。文武両道を目指す教育、ということらしい。
そして、新城は田沼と同じという訳だ。
まあ、男女別だから二位だが。
「…………」
仕方ない。そろそろ面倒だし、答えてやるか。
毎度毎度、茜との語らいを邪魔されてはたまらない。そのうち殺してしまいかねない。
異世界へ行っているせいか、どうにも命の価値を自分との関係性で計る癖がついている。今の俺にとってクラスメイトという関係性はそう重要なものではない。
「わかった。そこまで言うなら教えてやろう」
「「「!?」」」
俺が顔を上げ、そう言うと二人はともかく、茜まで驚いている。
まぁ、今まで適当にはぐらかしてきたからなぁ。もちろん本当の事を言うつもりはないから安心してほしい。
……いやまぁ、ある意味本当のことだけれど。
「俺と茜の学力と運動能力が上がった理由はな……」
そこで一旦溜めると、ゴクリと喉を鳴らす二人。そしてこっそり聞き耳を立てるクラスメイト。
急に静かになれば俺でも気づくっつーの。全くいい根性してるよ……。
そして、充分に溜めた所で答えを口に出す。俺達の成績が上がった理由――それは。
「……愛、だよ」
「「殺すぞ」」
田沼と新城。二人の目に言葉と同じ、明らかな殺意が混ざっている。まさかこっちの世界でもこんな目を向けられるとは。
「いや、本当だって。俺は茜の為に努力したんだよ。そして茜も俺の為に努力した。その結果が成績に現れたって訳だ。わかったらお前らも彼女作れよ。はい終わり、解散」
「「…………」」
散れ、と手で払う仕草を行うが二人は動かない。
それどころか殺意を帯びた視線が今度はあちらこちらから突き刺さる。
というか、田沼はともかく新城は彼女位すぐ作れるだろうに。
まあ、そりゃ茜の様な女性を見つけようと思ったら全宇宙、全世界、全異世界探しても見つからないだろうけれど。
「な、なに言ってるのさ、悠斗くん!」
「ん? 何かおかしな事言ったか? 俺は茜の事愛してるし、茜も俺のこと愛してるだろ?」
「そうだけど! そりゃそうだけどさー!」
俺の発言からずっと、固まった表情をしていた茜が、今度は顔を真っ赤にして照れている。
さっき自分で似たような事を言った時は、照れていなかったのにおかしなやつだなぁ。
ああ、可愛い。
「おい、席戻れー。チャイム鳴るぞー」
ガラリと教室のドアを開け、数学の佐藤が教室に入ってくる。
良かった。俺の顔も真っ赤になりだしていた頃だ。ナイスタイミング。数学はこれ以上なく嫌いだが、褒めておこう。
だがまあ結局、眠れなかった俺は数学も寝よう、と決めて確定未来を使った。
……今回は発見されないようで、俺は安心して眠りについた。
やっぱり便利だ。確定未来。
◆◇◆
「やっと終わったー」
「結局今日一日、寝てばっかりだったね」
そして放課後。茜と一緒に下校する。いろいろと事情があり、部活に入ることが出来ない俺たちは真っ直ぐに家に帰る。
仲間との熱い友情や勝利の喜び、そんなものに憧れる気持ちもない訳ではないけれど、こうして長い時間、茜とぶらぶら出来るのも捨てがたい訳で……。
はぁ……幸せだ。
でも、この幸せを守る為にも頑張らないといけない。睡眠を犠牲にしてでも。
そう心の中で意気込む俺の隣で、茜は難しい顔で呟く。
「でもさー、実際ちょっとずるいよね」
「何が?」
「悠斗くんの、えーと確定未来だっけ?」
辺りをキョロキョロと見回す茜。小動物みたいで可愛い。普通にしてても可愛いけれど。
「あー……まあね。でもこのチート貰えたのもさ、俺が努力したからな訳だし。別にいいでしょ。嘘は言ってないよ」
「ま、そうだけどさ。クラスでめちゃくちゃ浮いちゃってるよ? ボク達」
「んー、まあしょうがない。茜と居ればそりゃ浮かれちゃうよ」
「うーん……それはあんまり上手くないかな」
正直に言うと、確定未来を使わなかったら運動能力はともかく学力は……見栄を張って中の上といったところだろう。先程の茜からの非情な突っ込みからもわかるだろう。
だがそれじゃあ、茜の隣に名前が載れない。
しかし確定未来を使い、お互い満点ならほぼ100%隣同士だ。
まさかその為にチート使ってるなんて誰も思わないだろうなぁ。
「俺は茜さえ側に――」
(悠斗きゅーん! たすけてー! )
……はあ。
俺が次こそまた茜をあの夕日よりも赤く染めようとしたその時、頭の中に声が響く。
俺にとっては災いの、そして幸いの女神様のようだ。この声に返事をすれば、自動的にその女神様の元へ連れて行かれる。
「…………」
「? とうしたの?」
他の異世界や女神のところへ行っている間、この世界は時間が止まっている。
だから、こっちの生活に影響はほとんど無い。本当は睡眠不足も自業自得……とはいえ、隣の茜を見ていると行きたくねえなぁと思う。だって幸せなんだもの。
だけど、行かねばならない。
この幸せな日々を続けるために。
「何でもないよ。茜」
(はいはい、女神さま)
茜に返事をしながら、頭の中では女神に返事をする。
その瞬間、視界が揺らぎ、そして変わる。敷き詰められた住宅地から、真っ白でだだっ広い空間へと。
はぁ……もう見飽きたな。正直。
声が聞こえる。おっさんの声だ。おかげで目覚めは最悪。なにかいい夢見ていた気がするというのに。
「おい! 神木!」
「起きてます! 先生!」
あーそうだ。今は日常パート。簡単に言えば授業中だった。
つまり起こしてきたのは教師の張本。そして教科は英語。
眠りから覚醒したばかりの呆けた頭が徐々に冴えていく。
「ほーう。なら俺が五分前に話した内容を英訳してみろ」
張本は内心が透けて見えそうな歪んだ笑顔でそう言った。
全く無茶をおっしゃる。その頃俺は夢の中だったというのに。先月、学生時代から付き合っていた婚約者に振られたからと言って俺に当たらないでほしいものだ。
普通は授業で習ってないような問題を出し、それを俺が解いて天才アピールするのがお決まりだろうに。
……ま、別に問題ないけれど。
「I went to the park……」
「ちっ、正解だ。相変らず不気味な奴だな……寝たふりとも思えなかったが」
俺は五分前に張本が話したであろう内容を英訳し、答える。内容はくだらない話、雑談の一種だ。
ちなみに、俺は頭も良くないし話も聞いていなかった。ならば、なぜ答えることができたのか。
それは……魔法を使ったから。
何を馬鹿な、と思うかもしれない。それはそうだ。この世界では魔法なんていうのはファンタジー、物語の世界だけの話だ。
だが、俺はそのファンタジーの世界に行って戻ってきたのだ。最近の小説やら漫画やらで有名な異世界転移って奴だ。
その結果チートな魔法や、ステータス、アイテムを持ったままこの世界で生きてるって訳だ。
その中でも良く使うのが確定未来。
たとえば今回、昨日の時点で俺は明日の英語の授業中昼寝をしようと決めた。そこで確定未来を発動する。
すると昼寝をした結果、張本に起こされ問題を出される未来……まあ、昼寝した結果が見える。
その俺が答えられなかった未来で張本がドヤ顔で何を話したのか教えてくれる。あとは簡単。翻訳サイト。
ただし、確定未来を使ってしまうと決めたことは変更できない。今回なら絶対に昼寝しないといけない。
もし、決めた行動を変えてしまうと大変な事が起こるらしいが、変えた事がないので何が起きるかはわからない。
それに決めたことは可能なことじゃないといけない。不老不死になる、スタ○ド能力に目覚める等の不可能な事では確定未来は発動しない。
他にもいくつか制限はあるが、未来の一部を知れるというのはとても便利だ。
「そろそろ時間だな。号令」
「起立、礼、ありがとうございましたー」
「「ありがとうございましたー」」
苦痛の時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、休み時間になる。
俺は大きく背伸びすると、机に突っ伏した。とても眠いのだ。それに休み時間というぐらいだし構わないだろう。
「悠斗くん、今日は寝てばっかりだね」
「……あー。ちょっと色々あってね」
机に突っ伏した俺の髪を撫でながら、話しかけてきたのは……隣の席にして、家もお隣さんであり、もちろん幼馴染で、黒髪ショートの美少女且つ、俺の自慢の彼女でもある、森羅茜だ。
「また行ってきたの?」
「ああ。今日の朝方に呼ばれた」
そう。実はそんは彼女も異世界からの帰還者だ。
三度目の転移の時、巻き込んでしまったが何とか二人揃って元の世界に戻ってきた。
……ぶっちゃけ最後は、ほとんど茜がヤってくれた。絶対に茜を怒らせてはいけないとその時学んだ。
「次があったらボクもついて行くよ」
「いや、大丈夫だよ。……もう茜には危険な事はしてほしくないから」
「……そっか。でも、本当に危ないときは呼んでね。悠斗くんより大事なものなんて、ボクにはないんだから」
「っ!? ……ありがと」
あああああ! もう! 可愛い! ほんと大好きだ!
やばいやばいやばい。
今の俺、顔真っ赤だろうなぁー。よかったー。机に突っ伏してて。
あーでも、茜の顔が見えないのはちょっと残念かなぁ、なん――
「おい! 神木!」
死ね。
幸せな気分だった所に無粋な声が響く。もしも横に茜がいなかったら、即座に声帯を取り出してやるところだ。
「おい! 無視するなよ!」
声の主は、田沼護。人間の世界に迷い込んだ豚だ。
嘘だ。ただのデブだ。
「なに?」
「いい加減教えろよ」
「やだ」
田沼が知りたがってるのは、俺の成績が上がりまくった理由だ。
この学校では試験結果が貼り出される。上位五十名だけとはいえ、このご時世にいかがなものか、と思っていたが今は少し嬉しい。
一年目の中間テスト。一位は田沼だった。
二年目の中間テスト。田沼は三位になった。
俺と茜が、同点一位だ。
結果として古い教師なんかがアベックで一位だなんだと、今の子供にはわからない言葉で囃し立ててくるのが少しうざったいが、学校中にアピール出来ると思えばそれもアリだ。
だが、それからというもの何故急に成績が上がったのかしつこく聞いてくるのだ。
この豚と――
「僕も知りたいな。運動試験の方もね」
……めんどくせぇ。こいつまで来やがった。
現れたのは新城司。悔しいけれどイケメンだ。俺ほどではないけれど。でも彼女がいない為、あっち系ではないかと噂されている。
この学校は運動の方も試験がある。文武両道を目指す教育、ということらしい。
そして、新城は田沼と同じという訳だ。
まあ、男女別だから二位だが。
「…………」
仕方ない。そろそろ面倒だし、答えてやるか。
毎度毎度、茜との語らいを邪魔されてはたまらない。そのうち殺してしまいかねない。
異世界へ行っているせいか、どうにも命の価値を自分との関係性で計る癖がついている。今の俺にとってクラスメイトという関係性はそう重要なものではない。
「わかった。そこまで言うなら教えてやろう」
「「「!?」」」
俺が顔を上げ、そう言うと二人はともかく、茜まで驚いている。
まぁ、今まで適当にはぐらかしてきたからなぁ。もちろん本当の事を言うつもりはないから安心してほしい。
……いやまぁ、ある意味本当のことだけれど。
「俺と茜の学力と運動能力が上がった理由はな……」
そこで一旦溜めると、ゴクリと喉を鳴らす二人。そしてこっそり聞き耳を立てるクラスメイト。
急に静かになれば俺でも気づくっつーの。全くいい根性してるよ……。
そして、充分に溜めた所で答えを口に出す。俺達の成績が上がった理由――それは。
「……愛、だよ」
「「殺すぞ」」
田沼と新城。二人の目に言葉と同じ、明らかな殺意が混ざっている。まさかこっちの世界でもこんな目を向けられるとは。
「いや、本当だって。俺は茜の為に努力したんだよ。そして茜も俺の為に努力した。その結果が成績に現れたって訳だ。わかったらお前らも彼女作れよ。はい終わり、解散」
「「…………」」
散れ、と手で払う仕草を行うが二人は動かない。
それどころか殺意を帯びた視線が今度はあちらこちらから突き刺さる。
というか、田沼はともかく新城は彼女位すぐ作れるだろうに。
まあ、そりゃ茜の様な女性を見つけようと思ったら全宇宙、全世界、全異世界探しても見つからないだろうけれど。
「な、なに言ってるのさ、悠斗くん!」
「ん? 何かおかしな事言ったか? 俺は茜の事愛してるし、茜も俺のこと愛してるだろ?」
「そうだけど! そりゃそうだけどさー!」
俺の発言からずっと、固まった表情をしていた茜が、今度は顔を真っ赤にして照れている。
さっき自分で似たような事を言った時は、照れていなかったのにおかしなやつだなぁ。
ああ、可愛い。
「おい、席戻れー。チャイム鳴るぞー」
ガラリと教室のドアを開け、数学の佐藤が教室に入ってくる。
良かった。俺の顔も真っ赤になりだしていた頃だ。ナイスタイミング。数学はこれ以上なく嫌いだが、褒めておこう。
だがまあ結局、眠れなかった俺は数学も寝よう、と決めて確定未来を使った。
……今回は発見されないようで、俺は安心して眠りについた。
やっぱり便利だ。確定未来。
◆◇◆
「やっと終わったー」
「結局今日一日、寝てばっかりだったね」
そして放課後。茜と一緒に下校する。いろいろと事情があり、部活に入ることが出来ない俺たちは真っ直ぐに家に帰る。
仲間との熱い友情や勝利の喜び、そんなものに憧れる気持ちもない訳ではないけれど、こうして長い時間、茜とぶらぶら出来るのも捨てがたい訳で……。
はぁ……幸せだ。
でも、この幸せを守る為にも頑張らないといけない。睡眠を犠牲にしてでも。
そう心の中で意気込む俺の隣で、茜は難しい顔で呟く。
「でもさー、実際ちょっとずるいよね」
「何が?」
「悠斗くんの、えーと確定未来だっけ?」
辺りをキョロキョロと見回す茜。小動物みたいで可愛い。普通にしてても可愛いけれど。
「あー……まあね。でもこのチート貰えたのもさ、俺が努力したからな訳だし。別にいいでしょ。嘘は言ってないよ」
「ま、そうだけどさ。クラスでめちゃくちゃ浮いちゃってるよ? ボク達」
「んー、まあしょうがない。茜と居ればそりゃ浮かれちゃうよ」
「うーん……それはあんまり上手くないかな」
正直に言うと、確定未来を使わなかったら運動能力はともかく学力は……見栄を張って中の上といったところだろう。先程の茜からの非情な突っ込みからもわかるだろう。
だがそれじゃあ、茜の隣に名前が載れない。
しかし確定未来を使い、お互い満点ならほぼ100%隣同士だ。
まさかその為にチート使ってるなんて誰も思わないだろうなぁ。
「俺は茜さえ側に――」
(悠斗きゅーん! たすけてー! )
……はあ。
俺が次こそまた茜をあの夕日よりも赤く染めようとしたその時、頭の中に声が響く。
俺にとっては災いの、そして幸いの女神様のようだ。この声に返事をすれば、自動的にその女神様の元へ連れて行かれる。
「…………」
「? とうしたの?」
他の異世界や女神のところへ行っている間、この世界は時間が止まっている。
だから、こっちの生活に影響はほとんど無い。本当は睡眠不足も自業自得……とはいえ、隣の茜を見ていると行きたくねえなぁと思う。だって幸せなんだもの。
だけど、行かねばならない。
この幸せな日々を続けるために。
「何でもないよ。茜」
(はいはい、女神さま)
茜に返事をしながら、頭の中では女神に返事をする。
その瞬間、視界が揺らぎ、そして変わる。敷き詰められた住宅地から、真っ白でだだっ広い空間へと。
はぁ……もう見飽きたな。正直。
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コメント
爆益ファーウェイ
とても読みやすい作品で、ドキドキしながら読んでいます!