死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第79話『それは世界の命運を変える重要な出会い』

「さてと、勝負もついたし、俺はそろそろ消えるわ」


「おい、ここにあるものは全部置いていってくれるんじゃろうな?」


「ああ、そういう約束だもんな」


「ならば良い。復活にはどれくらいかかる」


「さて、普通なら10年以上はかかるけど……」


 そこで野中は俺の方をちらっと見た。


「1年以内にまた会えるかもな」


「なんじゃそりゃ」


 野中には使命のことをちゃんと話しているからな。


 失敗すればその時点で復活するってわけだ。


「じゃ、俺はそろそろ行くわ」


「おう。またの」


「山岡くんも、頑張ってな」


「ああ」


 野中はフッと微笑んだ後、消えた。


「ふう……。しかし儂以外にここを攻略できる奴がおるとはのう……」


 そう言って、じいさんは初めてこちらへ振り向いた。


 その顔に俺は、俺たちは見覚えがあった。


「……エリック・エイタス?」


「ん?」


「アンタ、薔薇の戦士エリック・エイタスだよな?」


「おう、若いのにお前さん儂を知っとるのか?」


 彼の生家でみた肖像画からは少し老けているが、確かにこのじいさんは、あのエリック・エイタスだ。


「いや、冒険者やっててアンタのこと知らねー奴なんでいないっしょ!!」


「そうかそうか、儂ゃそんなに有名か」


「っていうか、アンタ生きてたのかよ!?」


「儂が死ぬわけなかろうが。失礼な奴じゃ」


「いやいや、アンタの親族はもうアンタが死んだと思って家の整理とか始めてるよ!!」


「なんと!? ……いや、別にええか。儂ゃ当分ここから出るつもりはないからの」


「いやいや、家族に無事を知らせるぐらいのことはしようよ!!」


「んー、面倒くさいのう。……はぁ、よっこらせっと」


 エリックじいさんは面倒臭そうにソファから立ち上がると、こちらに歩いてきた。


「ほれ、儂のダンジョンカードじゃ。これに生存記録が残っとる」


「えっと……帰る気はない?」


「愚問じゃな。あれを見てみい」


 エリックじいさんが示した先には大量に積まれたゲームソフトがあった。


「あの積みゲーを消化するまで、儂はここを離れるわけにはイカンのじゃよ」


「なんだよそれ……」


 呆れてものも言えないって、こういう事かね?


 ちなみにデルフィはさっきから能面みたいな顔で紅茶をすすっている。


「ふむ……」


 ふとエリックじいさんが真顔になって俺の顔をじっと見てきた。


「……なに?」


「よし、ええことを思いついたぞ」


 そういうと、エリックじいさんが右手を出してきた。


「ほれ」


 ……握手ってこと?


 よくわからんけど出された手を握り返す。


 すると、手のひらにピリっと軽い刺激が走った。




《スキル習得》
<薔薇の戦士連隊・隊員任命権>




 は?


「ちょ……じいさん何した?」


「うむ。お主を薔薇の戦士連隊・連隊長代理に任命する。今後とも気張って隊員を増やすように!!」


「はぁ!? 何勝手なことしてんの!?」


「ふっふっふ。こりゃ名誉なことじゃぞ? まずは隊員100名を目指して邁進するのじゃ!!」


「いやワケわかんねぇよ!!」


「モタモタしとるヒマはないぞ!! さあ行った行った、儂ゃこれから忙しいんじゃ!!」


「いや、てめぇゲームするだけだろうが!!」


「重要な事じゃろうが!! さぁ、その転移陣に乗ったら出口までは出れるらしいから、さっさと行けぃ!!」


 いつの間にか現れた転移陣の方へ、ぐいぐいと追いやられる。




《スタート地点を更新》




 気になることがあるので、とりあえずスタート地点を更新しておく。


「先、帰るわよ」


 デルフィは、無表情のまま立ち上がりさっさと転移陣に乗ってしまった。


「おうおう、物分りのええ嫁さんじゃの。お主も見習ってはよ帰れ」


「ありゃ呆れてものが言えんだけだ!!」


 結局そのまま押し切られ、転移陣に乗せられてしまった。


 気がつけば入口近くに飛ばされていたが、幸い周りには先に飛んだデルフィ以外誰もいなかった。


「で、どうするの? とりあえずギルドの出張所に行く?」


「いや、その前に気になることがある」


 さっき習得したスキルだ。


 <薔薇の戦士連隊・隊員任命権>てなんだ?


 握手した時に感じた刺激も気になり、改めて手のひらを見てみると、そこには小さな薔薇の形に見える痣があった。


 とりあえずステータスを確認したところ、職業が『魔法剣士』から『薔薇の戦士連隊・連隊長代理』になっていた。


 そしてその『薔薇の戦士連隊』の所に意識を集中すると、隊員名簿が現れた。




【薔薇の戦士連隊】
連隊長:エリック・エイタス
連隊長代理:山岡勝介
以上




 そしてエリック・エイタスの名前に意識を集中する。


「……見えた! マジかよあのジジイ!!」


 レベル:378って化けもんかよ!!


「どうしたのよ?」


「いや、さっき薔薇の戦士連隊の連隊長代理に任命されたんだが、そのせいであのじいさんのステータスが確認できるようになったんだわ」


「ふーん」


 デルフィはあんま興味なさげだけど、これはもしかするともの凄いことじゃないか?


 とりあえず俺は周りに誰も居ないことを改めて確認する。


「デルフィ、とりあえず1回死ぬから」


「はぁ?」


「試したいことがある。というか、試さないといけない」


「……見たくない」


 だよねー。


「あー、じゃあ向こう向いてて」


 デルフィが渋々という体で俺に背を向ける。


 死に戻りについて、頭ではわかってても、目の前で死なれるってのはやっぱ嫌なもんなんだろうな。


 俺はレイピアを抜くと、頸動脈に刃を当て、一気にひいた。


 そして深淵のダンジョンのダンジョンコアである野中の自室に戻る。


「は……?」


 俺の前に立っているエリックじいさんが呆けた顔でこちらを見ていた。


「へぇ、ホントに戻るのね」


 今まさに転移陣に乗ろうとしていたデルフィが踏みとどまり、関心したように俺の方を見る。


 そういえばデルフィって、死に戻りの方は初体験だもんな。


《あるじー!! なんか変だー!!》


《おう、ちょっと時間が巻き戻っただけだ。気にせず仕事続けろー》


《ウェーイ!!》


 どうやらテキロもしっかり記憶を維持しているらしい。


 さて、問題はじいさんだが。


「はて? お主らさっき転移陣で帰らんかったかの? っちゅうか儂さっき新しいゲームのパッケージを……あれ、積んだままじゃな……。もしや儂、ボケたか?」


「よっしゃあ!!」


 じいさん、記憶維持してんな?


「なんじゃ!! 老人がボケたのがそんなに嬉しいんか!?」


「いや、そうじゃねーよ。じいさんは至って正常だって。こっちの事情で時間が巻き戻っただけだから」


「時間が? そういやタケシがそのようなことを時々いうとったのう……。時間が巻き戻って混乱したから負けたとか何とか、しょーもない言い訳かと思っとったが……」


「ところでさ、薔薇の戦士連隊の任命権って、俺の判断で勝手に使っていいの?」


「おう、好きにせい」


「そっか。じゃあ俺らそろそろ行くわ」


「なんじゃ、詳しい説明はナシか?」


「説明してもいいけど、長くなるよ?」


「うーむ、儂としては新しいゲームを一刻も早ようやりたいところじゃし、どうでもええっちゃあどうでもええか」


「うん、だろうと思ったよ。まあたまに時間が巻き戻るかもしれんけど、あんま気にせんでくれよ」


「おう、そうじゃな。儂にとっては積みゲーの消化こそが最優先事項じゃからの」


「じゃ、俺ら行くわ」


「うむ、達者での」




**********




「で、その任命権ってのがそんなに重要なの?」


「ああ、めちゃくちゃ重要だわ。あと5~6回はやり直す必要があると思ってたけど、これさえあれば次回ぐらいで終われるかもしんない」


 改めて転移陣でダンジョンの外に戻った俺たちは、ギルドの出張所へ行き、エリック・エイタスの生存と、彼の手によるダンジョン制覇を報告。


 証拠としてエリックじいさんから預かったダンジョンカードを提出した。


「さ、さすが『ヤマオカズ』のお二人ですなぁ。わずか1ヶ月で最深部に到達し、あまつさえ伝説の冒険者たるエリック・エイタスにも会われたとは……」


「いやー、噂通り変なじいさんでしたよ」


「そうですかそうですか。えーっとですね、申し訳ないんですがウチみたいな出張所じゃ手に余るんで、とりあえずエベナの冒険者ギルドに行ってもらえませんか?」




 というわけで、俺たちはエベナの冒険者ギルドへ行く。


 ある程度情報の引き継ぎはされていたようで、とりあえずAランクへの昇格が確定。


 情報を精査の上、さらにランクアップされるだろうとの事だったが、とりあえず時間がほしいということでエベナで待機することになった。


 残念ながらテキロは仕事で別の場所に行っており、会うことが出来なかった。




 翌日、俺たちに冒険者ギルドから緊急の呼び出しがかかった。


「帝都……ですか?」


「はい。出来れば至急」


「なんでまた急に?」


「いやぁ、皇帝陛下から召喚状が届いただけで、詳しい内容までは……」


「皇帝!?」


 なんだかエラいことになったみたいだ。





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