死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第74話『やり直し』

 おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。


 1年前に戻るってことは、この1年やってきたことが全部なかったことになるのかよ?


 冒険者になったことも?


 ダンジョンを制覇したことも?


 ゴーレム倒しまくったことも?


 ガンドルフォさんたちとハリエットさんを助けたことも?


 世界中を旅して回ったことも?


 SSランク冒険者としての名声も?


 ……デルフィと……出会ったことも……?


「待って! 嫌だ!! お稲荷さん!! ちょっと待って!!!」


「おう、そうじゃったそうじゃった。お主の妹の呪いな。あれ消えたからの」


「は? 妹……?」


 いやいや、そんなん今はどうだっていいんだよ!!


「元の世界ではお主も無事病院に運ばれての。知らせを聞いた妹さんがお主を呪ったことを後悔しとるんじゃよ。呪いが消えたということは、基本パックのひとつを追加してやれるな」


「いや、妹の事なんてどうだって……!!」


 え……? あれ……、声……が……?


「言わせんよ」


「あ……が……」


「お主がなぜここにおるのか、もう一度よう思い出してみい。なにもせずダラダラ過ごして、家族に心配と迷惑をかけて、そのうえしょーもない理由でしょーもないバチ当たりなことをして」


 わかってるよそんなこと……。


 でも……でも……!!


「お主の妹はの。今お主が救急搬送されたことを知って、泣きながら病院に向かっておるわ。自分が”兄なぞいなくなればいい”などと思ったせいで、お主が死にそうな目に会っとるのではないかと思うての。とにかくお主に謝りたい一心で病院へ急いでおるんじゃよ」


「あ……う……」


「父や母も同じじゃ。自分たちの育て方が、接し方が間違っていたのではないか。もっと出来ることがあったのではないかと、後悔しておるわ」


 うう……そんなこと、今言われたって……。


「良い家族じゃな。それを言うに事欠いて”どうでもいい”じゃと? 甘ったれるのも大概にせぇよ、この痴れ者が!!」


 でも……、俺だってこの1年頑張ってきたじゃんか……!!


「よいか、お主にとって何よりも重要なのは、元の世界に残してきた家族と、元の世界でのお主自身の人生じゃ」


「うう……うぐ……」


「まあ、こちらで使命を全うするまでは、元の世界のことを一時忘れるのもいいじゃろう。じゃが、”どうでもいい”とは二度と思わぬことじゃ。よいな?」


「うう……ふぐ……。ごめん……な…さい……」


 あれ……喋れる……?


「涙に鼻水……よだれまで撒き散らしおって……。全く情けないやつじゃの」


「だ……だっでぇ……。じぇんぶ……ながっだ………ごどにぃ……」


「あらあら、ショウスケはん、お顔がぐしゃぐしゃやないの」


 コンちゃんがどこから出したのか、手ぬぐいで俺の目元やら鼻やらを拭ってくれる。


 ……情けねぇなぁ。


「まったく……。シャキッとせんかシャキッと。やり直しと言うてもお主が思うておるほど、厳しい事にはならんからの」


「で……でも……。最初から……やり直し……って……!!」


「あらぁ? イナちゃんあのこと言うてはらへんの? なんやいけずやねぇ」


「いんや。ワシャきっちり伝えたはずじゃぞ?」


「えっと……伝えたって? 何を……」


「世界の救済に失敗した場合はどうなるかじゃ」


 ああ……そういえば。


「つよくてニューゲーム、じゃな」




**********




 気がつけば、森の中だった。


 懐かしいな……。


 シェリジュの森だよな。


「……ってことは」


 後ろを振り返ってみる。


 おお、懐かしき、ホーンラビット。


「って、逃げんのかよ!!」


 俺と目が合った瞬間逃げたよ。


 まさに脱兎のごとく……いやごとくじゃなく、そのまんま脱兎だな。


 そっか、つよくてニューゲームってことは、相当な戦力差ってわけだから、そりゃ逃げるよな。


 でも、ステータスがそのまま引き継がれてもなぁ……。


 服は安っちい麻の服にペラッペラの革の靴。


 所持品なし、もちろん文無し。


 前回はSSランク冒険者とかいってブイブイいわしてたのに、ザマァねぇな。


「……デルフィ」


 二周目だけど、ちゃんと出会えるかな?


 いきなり馴れ馴れしく話しかけたら嫌われるかな?


 うう……、なんか泣けてきた……。




 いかんいかん!


 もう巻き戻っちまったもんはしょうがないんだから、気合入れていかんとな。


 ダメならまた1年頑張ってやり直せばいいじゃないか。


 1人でも充分やってけるだけの強さは持ってるはずだからな。


 1人でも……。


 うう……。




 ……ああ、だめだ。


 ウジウジ考えず、とりあえずステータス確認しよ。


 <アイテムボックス>か<鑑定>のどちらかを0ptで習得できるようにしてあるって、確かお稲荷さん言ってたよな。


「よーっし、んじゃあ、ステータスっとぉ!!」




----------


名前:山岡勝介
職業:魔法剣士
レベル:193
配偶者:デルフィーヌ
従魔:テキロ


HP:35619
MP:80867(2495631)


物攻:S+
魔攻:SS-
物防:SS-
魔防:SS
体力:S+
精神力:SSS-
魔力:SSS-
賢さ:SS
素早さ:SS
器用さ:S
運:A


【所持金】
現金:0G


【称号】
薬草採取士:薬草判別効率UP /薬草採取効率UP
魔道士:魔術効率UP /魔法効率UP /魔攻UP /魔力UP
魔道剣士:攻撃系戦闘付与魔術効率UP
解体講座修了者:解体効率UP
基礎魔道講座修了者:魔術効率UP
攻撃魔術基本講座修了者:攻撃魔術効率UP /攻撃魔術詠唱短縮
基礎戦闘訓練修了者:戦闘術系スキル習得率UP /戦闘術系スキル成長率UP
竜の天敵




【スキル】SP:107,596,324
稲荷の加護
古竜の加護
言語理解
細剣術:Max
・・・・・
・・・
・・



【習得可能スキル】
アイテムボックス:0pt
鑑定:0pt
・・・・・
・・・
・・



【スタート地点】
シェリジュの森
572/06/22
06:078:27


----------


 なんだこれ……?


 配偶者!?


 従魔!?


 他に気になることはあるけど、これはもしや……!!


《おい、テキロ! テキロ!! 聞こえるか!!》


 ダメ元で念話を使ってテキロに話しかけてみる。


 くそっ……。


 普段は気にならない木々が風にそよいだりする、ちょっとした物音がやけにうるさく感じる。


 ダメか……?


 ……………………。


 ………………。


 …………。


 ……。








《……ウェーイ!! あるじぃー!!》


《テキロ!! 俺がわかるか!?》


《もちろんッスよー!! っつーか、なんでオイラってばエベナにいるの?》


《お前、今エベナにいるのか!?》


《そッスねぇー。なーんか、ウカム山の頂上で我慢できずに寝たとこまでは覚えてんスけどねぇ》


《おお! そうか!! 全部覚えてるか!?》


《いやだからぁ、寝たとこまでしか覚えてねーんスよー。どうやってエベナに帰ってきたんスかねぇ? っつーかあるじ今どこッスか?》


《よしっ!! とりあえずだな、ウカムの頂上で寝たとこまで覚えてたらそれが全てだ。それ以降はない》


《意味わかんねーんスけど》


《とにかくだ、今はあの時から1年時間が戻ってんだわ。ワケわからんと思うが、とりあえず馬車馬の仕事しといてくれ》


《まー、あるじがそういうんならいーッスよー。いやというほど空駆けたんで、当分はテキトーに仕事こなしときますわー》


《悪いな。近いうちに会いに行くから、待っといてくれ》


《ウェーイ!!》


 テキロは従魔のまま、記憶も残っていた!!


 これは……、これは期待できるんじゃないか!?


 そもそも死に戻りってのは所持金と所持品のステータス以外は維持されるんだよな。


 つまり、ステータスに記載されてる以上、それは維持されるってことだ。


 冒険者ランクやダンジョン関連あたりの一部称号もなくなってるけど、それは後で考えよう。


 それより大事なのは




配偶者:デルフィーヌ




 これだよ!!


 しかし、配偶者っていつからあった?


 ってか、まだ結婚してないよね、俺たち。


 とにかくだ、まずは会って確かめないと……。


 あ、その前に。




《スキル習得》
<アイテムボックス>
手にしたものを異空間に収納できる。異空間では時間が完全に止まっており、収納品が相互に影響することはない。収納量は無制限。収納品ごとの時間経過設定、魔物の自動解体機能・魔石化機能等、後付けオプションあり。


<アイテムボックス・魔石化オプション>
収納した魔物の死骸を魔石に変換する。同種・同レベルのダンジョンモンスターが残す魔石の80%の大きさ石に変換。




 <鑑定>はステータスにも近い機能あるから、とりあえず<アイテムボックス>にしとこう。


 『収納』は使えても、今は収納庫契約がないからな。


 ついでに魔石化オプションを500万SPで習得出来たのでつけといた。


 街に入るとき、前回ホーンラビットの角を見せたように何かしら資産を見せたほうがいろいろスムーズに進むと思うんだよね。


 だったら素材より魔石のほうが扱いやすいと思ったんだわ。




 街へ行く道すがら、魔物どもを狩って魔石にしとけば、当面の生活費ぐらいにはなるだろうし。


 SP的には<鑑定>も習得できるけど、取るかどうかの検討も含めて後回しにしよう。




**********




 <気配察知><魔力感知><気配隠匿>全開で森を駆ける。


 ホーンラビットを始め、ジャイアントボア、グレイウルフ、シンマスネーク等、お馴染みの魔物どもを片手間に狩り、片っ端から収納して魔石化。


 30分とかからず森を抜け、魔石2kgぐらいにはなったかな。


 そのまま川沿いに走ってトセマを目指す。


 前回は川の水で生き返った覚えがあるけど、今の俺には『製水』があるから、わざわざ川の水を飲む必要もないんだよな。


 結局森を出て30分足らず、やり直しが始まって1時間程度でトセマの街に着いた。


 前回は日暮れ間際だったけど、今回はまだ太陽が高い位置にあるわ。


「すいません、街に入りたいんですけど」


「えーっと、身分証ある?」


 応対してくれたのは、前回同様アディソンさんだ。


「すいません、ないんですよ」


「じゃあお金は?」


「文無しです。でも魔石があります」


 そう言って俺はズボンのポケットに手を入れ、片手に収まる程度の魔石を<アイテムボックス>から取り出したあと、アディソンさんに見せた。


 あと、素性については田舎から出てきたけど迷った、ってことにした。


 簡単な尋問が終わった後、アディソンさんがじっと俺の方を見る。


 どうやら俺の魔力量を探ろうとしているようなので、とりあえず気付かないふりをしつつやりすごす。


 <気配隠匿>を意識したままなので、魔力はほとんど感知できないはずだ。


「魔術の方も危険なものは使えなさそうだね」


 っていうか、前回のあれはこういうことだったのか。


 人の魔力探れるって、この人何気に優秀なんだな。


「よし、じゃあとりあえず門通って街に入って」


「あ、はい」


「おーい、ここ頼むね!」


 アディソンさんは前回同様、門の反対側にいる相方の人に見張りを任せて俺を歩かせた。


 ホントは全力疾走で冒険者ギルドに行きたいけど、我慢してアディソンさんの指示に従って街を歩く。


 ああ、懐かしの冒険者ギルド……。


 ……ってあれ?


 冒険者ギルド過ぎましたけど?


「はーい、そこ入って」


 魔術士ギルド?


 あ、そうか、魔石持ってるからか。


「やっほーエッちゃん」


 ハリエットさん!!


「あらぁ、アディソンさんいらっしゃい。……そちらの方は?」


 ああ、聞き慣れたハリエットさんの声……。


 やっぱあの後元気なかったんだなぁ。


 声の張りが全然違うや。


 笑顔も輝いてるなぁ……。


 やべ……涙でそう……。


「えーっとね、田舎の人で迷ってここに来たんだってさ。名前は……聞いといてよ! じゃ!!」


 そう言うとアディソンさんは魔術士ギルドを出て行った。


 尋問の時ちゃんと名乗ったと思うんだけどなぁ……。


「はいはい。お疲れ様。じゃあ簡単な質問を……って、どうしたのかしら、泣きそうな顔して?」


 おっと、やべ……。


「ああ、いえ、道中いろいろあって、やっと人里にたどり着いたと持ったら気が抜けちゃって……」


「そう、大変だったのねぇ……」


 その後、魔術士ギルドの簡単な説明を受けた俺は、早速ギルドカードを発行してもらい、魔石を買い取ってもらった。


 2kgに満たなかったけど、とりあえず20Gくれたよ。


 今回は事前貢献も何もないから、登録料は発生するんだけど、それは後払いにしてもらった。


 一応魔石納品の功績でFランク魔術士からのスタートってことになった。


「あの、この街にデルフィーヌというエルフの冒険者がいると思うんですが」


「あらぁ、デルフィちゃんのお知り合い?」


「ええ、まぁ……」


「ウチにはあまり来ないから、冒険者ギルドの方に行ってみたらどうかしら?」


「はい、わかりました」


「もし泊まるところに困ってるのなら、10Gでウチに泊まれるし、冒険者登録すれば冒険者ギルドの寝台を無料で使えるからね」


「はい、わざわざありがとうございます」


 ハリエットさんマジ天使だわ。


 いや、そんなことより今はデルフィだな。


 すぐに隣の冒険者ギルドに行ってみたが、残念ながら今日はデルフィを見た人はいないとのこと。


 冒険者登録は後回しでいいだろう。




 たしか宿をとってるって話だったな。


 とりあえず宿屋が並んでる通り向かおう。


 雑談の中で2~3回名前が出てたような……。


 確か……


「これだ。『森の止まり木』」


 早速中に入ってみる。


 なんというか、いかにも安宿って感じで、あんまりいい雰囲気じゃないな。


「あのー」


「なんだい。泊まりかい?」


 応対してくれたのは恰幅のいい、しかし愛想はあまり良くないおばちゃんだった。


「いえ、知り合いがここに泊まっているんで、訪ねてきたんですが」


「名前は?」


「デルフィーヌというエルフの冒険者です」


「ああ、あのコね。身分証あるかい」


「あ、はい」


 ギルドカードを見せる。


「ショウスケ……ね」


 おばちゃんは台帳になにか書き込んでいた。


「じゃ、302号室だよ」


 部屋番号教えてくれるんかい!!


 セキュリティ甘々だな。


 まぁ今回は助かるけど。




 はやる気持ちを抑えて階段を上る。


 最初は早足で歩いていたが、いつの間にか駆け上がっていた。


 そして3階に辿り着き、302号室の前に立つ。


 ヤバい、緊張してきた……。


 高まる鼓動を深呼吸でおさえる。


「ふぅ……。よし」


 意を決し、ドアをノックする。


 ………………。


 不在か?


「……はい」


 いた……!!


 どうやって声掛けよう……。


 俺のこと忘れてたら?


 名乗るのはやめとくべきか?


 不審者だと思われたら……。


 ……いや、逃げてもしょうがない。


「俺……ショウスケ……だけど」


 すると、なにかドタドタと音がした後、こちらへ駆け寄ってくる音が聞こえた。


 そして勢いよく扉が開かれる。


 そこには、ラフな部屋着姿のデルフィがいた。


「あ……」


「デルフィ! 俺のこと、覚えてるか!?」


 なにか言われる前に被せたった!!


 これで知らんとか言われたら……、とりあえず逃げよう!!


「……何いってんの?」


「えっと、俺のこと……覚えてない?」


「覚えてるも何も、さっきまで一緒に闘ってたじゃない。っていうか、何がどうなって……」


「デルフィー!!」


「ちょ……なに?」


 よかった……、覚えててくれた……。


「うう……よがっだぁ……デルフィ……」


「ちょっと、こんなとこで抱きつかないでよ……」


 情けないことに俺はデルフィの胸に顔を埋め、泣き崩れてしまった。


 そのままデルフィに引きずられて部屋の中に入れられる。


「うう……よがっだぁ……よがっだよぉ……」


「なんなのよ……もう……。こっちはいきなり昔の部屋に戻って混乱してるっていうのに……」


 そうだよなぁ。


 ちゃんと説明しないとなぁ。


 でも、もうちょと、このままで……。


「まったく……大の男が情けないわね……」


 なんて言葉とは裏腹に、デルフィは優しく俺の頭をなでてくれた。


「うう……ぺったんこだぁ……いてっ!!」


 拳骨くらったよ……。


「調子に乗らない!」


「いでぇ……いでぇよぉ……うへへ」


 なんか知らんけど笑いがこみ上げてきた。


「へへ……あははは」


「なんなのよ……もう……。バカじゃないの……ふふ」


 なんかデルフィも釣られて笑い始めた。


 なぜそうなったのか自分でもよくわからないが、その後ふたりで馬鹿みたいに笑い転げてしまった。




 でも確信したよ。




 彼女がいれば頑張れる。




 この先何回やり直しになろうが、デルフィさえいれば、俺は何度でも戦える。



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