死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第70話『最後の一撃』

「…………なさい! ……ェッ!!」


 ぼんやりとした意識の中、声が聞こえる。


 デルフィ……?


 じゃあ、またエムゼタの馬車の……


「誓いなさい!! ショウスケェッ!! 早く!!」


 ようやくはっきり聞こえるようになったデルフィの声は、しかしいつもの台詞ではなかった。


「……なに?」


 喉がカラカラで上手く声が出ない。


「誓って!! ”受け入れる”と!!」


 何のことだかわからないが、デルフィが必死に頼んできてるんだから、断る理由はないよな。


 それがどんな内容だったとしても。


「誓……う……。受け……入れ………る……」


 すると、体の底から力がみなぎってきた。


「……おおおお!?」


 なんだこれ? すっげー気分がいいんだけど。


 程なくぼやけていた視界がはっきりとし、色彩が戻ってくる。


 身体中ギチギチと痛く、異常に疲れはあったが、それでもなんとか身を起こすことが出来た。


「はぁ……はぁ……。なに、したの?」


「……パスを通した」


「……はい?」


「魂のパスを通したの!!」


 そう言いいながら弓をひくデルフィは、なぜか恥ずかしそうに頬を染めていた。


「なに……それ?」


「ハイエルフの誓約の効果で私の魔力を共有することが出来るようになったの!」


 おおう、なにやら凄いことが起こったみたいだな。


「顔……真っ赤」


「うるさい!! 魔力は共有できるけど、生命力は共有できないんだから、回復魔術でも使ってさっさと動けるようになりなさいよ!!」


 なんかわからんけど、とりあえずHP/MPだけ確認してみるか。


HP:160
MP:340(1086529)


 ファッ!?


 ()内がデルフィとの共有分だと思うけど、まさかのMP100万超えですか?


 えっと、ここまで魔法やら超級魔術やら使いまくってこれなんだよなぁ?


 さっきから弓1回ひくごとに1000近くMP減ってんだぜ?


 ハイエルフってどんだけMPチートなんだよ……。


 しかし俺自身のMP回復分から見るに、俺が意識を失ってからそれほど時間はたってないみたいだな。


 とりあえず『上級回復』でHP回復を図る。


 別に怪我とかしたわけじゃなく、スキル使用で失っただけだからなのか、HPはすぐに回復したわ。


 ただ、体の芯に残る疲労は消えないけど。


「で、九尾狐は?」


「キュウビ……? ああ、アレなら追ってきてるわよ」


 後ろを見てみると、九尾狐がものすごい形相で追いかけて来ていた。


 失ったはずの片方の前足も、どうやら再生しているらしい。


 たまに前足を振り下ろしてくるが、テキロが上手いことかわしている。


 これを楽々かわせるテキロすげーな。


《あるじぃー! 褒めて褒めてー!!》


「おう、すげーなテキロ!!」


《ウェーイ!! でも、もうそろそろ限界ッスー!!》


「よしよし、もうちょい頑張れ」


 もう一発<決死の一撃>食らわせてやろう。


 HPはとりあえず2,000ぐらいまで回復させた。


 おそらくデルフィの共有分も上乗せできるだろうから、単純計算で100万×10×157で15億7千万!!


 これでダメなら勝てねぇだろうな。


「デルフィ! 君の魔力を全部使っていいか?」


「いいわよ! どうせそれしか方法はないんでしょ?」


「まあね。それで勝てなかったらどう頑張ってもだめだから」


「正直まだ生きてるってことが不思議なぐらい、絶体絶命な状態が続いてるわよ。やるなら早くやって。ホントもう限界なんだから」


 さっきから俺と話しつつも、迫ってくる雑魚を掃討しているデルフィ。


 いやホント助かります。


「うーん、でも魔力にはまだ余裕あるっしょ?」


「体力が限界なの!! ウダウダ言ってないで早く!!」


《あるじぃー! オイラからもお願いしゃッス!! ガチ急ぎで!!》


「おう、もう準備はできたぞ!!」


 なにも無駄話してたワケじゃないんだけどね。


 スキルの準備にちょっとだけ時間がかかるんだけど、ようやく準備も整ったわ。


 後ろから追ってくる九尾狐を見据える。


 腹立たしいことに、風になびく金色の体毛がすげーキレイで、つい見惚れそうになる。


 まぁ、それでも奴の顔を見ればそんな夢見心地も一気に冷めるんだけど。


 なんというか、すげー怒ってるんだろうけど、口元がつり上がって笑ってるようにも見えるんだっよね。


 狐の口ってのは笑うような形にはならないはずなんだけど、そもそも妖怪に動物の常識あててもしょうがないか。




 俺は前回同様腰を落とし、狙いを付ける。


 ちょうど奴の正面に立つことが出来たので、今度は脳天をぶち抜いてやるぜ。


 剣を中段に構え、切っ先を奴の頭に向ける。


「喰らえ! 決死の一撃ィィッ!!!!」


 俺の生命力と魔力、そしてデルフィの膨大な魔力を乗せた、最後の一撃が九尾狐の頭を捉えた。


 奴は結界を張って防ごうとしたようだが、防御無視の攻撃にそれは悪手だぜ?


 おそらく相当強力な結界だったのだろうが、水鉄砲が半紙を破るように<決死の一撃>はそれを貫通する。


 一瞬驚いたような表情を見せた九尾狐だったが、次の瞬間には完全に消し飛んだ。


「……やったか?」


 あ、生存フラグ……。


 咄嗟に口から出てしまったが、しかし6千万で前足一本奪えたんだから15億っつったらその25倍なワケだろ?


 しかも頭に直撃食らわせたんだから、いくらなんでも倒せたと思うんだが……。


「ショウ……スケ……」


「デルフィ!!」


 一気にMPを失って意識を失ったデルフィが倒れそうになったのをなんとか支えた。


 正直俺の方もそろそろヤバい。


「……デルフィ?」


 どうやら気絶してしまったらしい。


 俺はレベルマックスの<気絶耐性>があるからなんとか意識を保ててるけど、普通は一気に99%ものMPを消費したら気絶一直線ですよ。


 デルフィをテキロの背に横たえ、俺も膝を着いた。


 九尾狐を倒したせいか、あるいは<決死の一撃>の巻き添えを食らいでもしたのか、さっきまで周りを飛び回っていた飛行系の妖怪がいなくなっていた。


《あるじぃー、ちょっと休んでいいッスか?》


「ん? 休めるか?」


《うーん、なんか地上の連中も頂上付近にはいないみたいなんッスよねぇ。新手も出てきてないっぽいんで》


「……ああ、任せる」


《ウェーイ!!》




 とりあえず油断大敵ってことで、常備していたMPポーションで雀の涙程度のMPを回復させた後、《上級回復》でHPを回復。


 だるさマックスだったが、それでもなんとか意識は保てそうだったので、テキロがウカムの頂上に降り立つまで気合で目を開けておく。


 特に何事も無く地上に降り立ったテキロは《もう限界ッス。おやすみッスー……》と言って、膝を折って眠ってしまった。


 境界の罅こと暗闇の方をみるが、さっきまでアレだけワラワラと続いていた妖怪どもの排出が、ピタリと止まっている。


 ただ、西の方に目を向けてみると、餓鬼の群れやら飛行妖怪やらの姿は見えるので、すべてがいなくなったわけじゃないようだ。


 新規に排出されるのが止まっているだけだが、これだっていつまた新たな妖怪が現れるかわからない。


 本当ならすぐにでもこの場を離れた方がいいに決まっているんだが、いかんせん移動の頼りであるテキロが疲れて眠ってしまったのだからしょうがない。


 かくいう俺ももう限界で、HP/MPはそこそこ回復したものの、体の芯に残る疲労は如何ともしがたく、視界はぼやけ、まぶたが異常に重くなってきた。


 とりあえず座っているのもしんどいので仰向けになる。


 まぶたの重さに耐え切れなくなり、目を閉じた。


 続けて意識を手放そうとしたところ


『残念やったねぇ』


 ……と、何か声が聞こえたような気がした。


 このまま眠ってしまいたいところを何とか耐え、仰向けのまま全身の力をまぶたに集中して目を開く。


 すると目に映ったのは、美しい金色の毛を風になびかせながら俺を見下ろす狐の顔だった。


 ずいぶんとサイズが小さくなっているが、間違いなくあの九尾狐だろう。


「クソッ……生存フラグ……」


 ほとんど声にならない声で、誰にともなくボヤいた。


『ふふ……おつかれはんでした』


 俺を見下ろす狐の顔が、何故か優しく微笑んでいるように見えた。



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