死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第55話『ゴーレムハンター』

 ヘグサオスク共和国のちょうど中央に位置するフェイトン山。


 様々な石材や金属を採掘するための鉱山としてはるか昔から利用されていたのだが、300年ほど前にダンジョンと化した。


 ところがここは普通のダンジョンと異なり、出現するのはいろいろな素材でできたゴーレムのみ。


 倒しても魔石を落とすことはなく、代わりに体の一部をドロップアイテムとして残す。


 素材採取に特化した非常に特殊なダンジョンだ。


 ここは元々あった坑道をそのままダンジョン化したような形なので、階層という概念が存在しない。


 アリの巣のような複雑に入り組んだ構成で、入り口も25箇所ある。


 どの辺りにどういった種類のゴーレムが出るか、というのがある程度決まっており、素材別に入り口が使い分けられている。


 このダンジョンに出現するゴーレムの種類は以下のとおりだ。




 最弱のストローゴーレム。


 見た目は大きな藁人形って感じで、ドロップアイテムはわら


 ゴーレムの素材は例外なく品質が高く、ゴーレム藁で作られた生活雑貨は多くの人に愛されている。




 次にウッドゴーレム。


 見た目は木人そのまんまって感じで、ドロップアイテムはもちろん木材。


 ゴーレム木材もまた建材や雑貨の材料として非常に好まれている。




 土製のクレイゴーレム。


 粘土細工の人形って感じで、ドロップアイテムの土は建築資材としても美容製品としても優秀だ。




 岩でできたロックゴーレム。


 大小の岩を組み合わせた人型の人形って感じで、ドロップアイテムの石材は建材として多用されている。


 あとは各金属系のゴーレムだな。


 その辺りの見た目は、ポージング用のモデル人形みたいな感じだ。


 ひょろっとしてて、各関節が丸い。


 このダンジョンではアイアンカッパーティン、ミスリル、オリハルコンの五種が出現する。


 オリハルコンゴーレムなんてのはほとんどお目にかかれない上、仮に遭遇しても倒すのは非常に困難らしい。


 出来れば力試しも兼ねて挑戦したいところだけどね。




**********




 夜のうちにテキエダを出た俺たちはフュースを経由して東へ進み、翌朝にはフェイトン山に辿り着いた。


 ハリエットさんたちもフュースまでは俺たちと移動した。


 テキエダはあくまで職人街なので、まともな宿がない。


 待ち時間を少しでも快適に過ごしてもらうため、フュースにそれなりの宿をとっている。


 何かあった時、フェイトン山からだとフュースのほうが近いから、すぐに駆けつけられるしね。




 ここフェイトン山では他のダンジョンで言うところの階層制限を、複数ある入口に設けている。


 各入口に番号が振られており、出発点にある転移陣を使って任意の入口に転移することが可能。


 複数ある入口の内、どこから始めるのかというのは非常に重要だ。


 他のダンジョンだと1階層から順番に攻略していかないといけないが、ここは受付さえ許可すれば最初から好きな番号の入口を選べる。


「へええ、アンタたちエムゼタシンテ・ダンジョンを制覇してるんだね。頼もしいこった」


 入場受付にいたのはドワーフのおばちゃん。


 身長は俺の胸ぐらいだけど、体格はなかなかのもんだ。


 ん~、イメージとして一番近いのは背の低い女子レスリングの選手ってとこかなぁ。


 ドワーフといえば女性でもひげが生えてるって設定の物語も多いが、この世界のドワーフの女性にはひげは生えないらしい。


「ミスリルゴーレムが出る所がいいんですが」


「そいつはありがたいねぇ。だったら19番口を使っとくれ。いま一番安全にミスリルを採取できるのはそこなんだよ」


「多少危険でもたくさん狩れる方がいいんですが……」


「うーん……初めてのモンにあまり危険な場所を勧めるってのはちょっと……。普段ならアンタたちレベルの冒険者相手に規制はしないんだけど、今20番台は結構洒落になんない数の金属系ゴーレムが出るんだわ」


「俺ら的にはそっちの方がいいんですがねぇ」


「そうさねぇ……じゃあとりあえず19番口から入って適当にゴーレムを狩ってくんないかね? それで問題がなさそうなら20番台を開放しようじゃないか」


 ここで粘っても時間の無駄だし、とりあえず行ってみるか。


「ここも帰還玉はもらえますか?」


「もちろんさね」


 そう言って受付のおばちゃんは帰還玉を渡してくれた。


「使ったら100Gだよ」




 受付を終えた俺たちは、出発点の転移陣から19君番口へ飛ぶ。


 見た目はいわゆる廃坑ってやつだな。


 坑道はしっかりと補強されているが、これはあくまでダンジョン化する前の名残だ。


 ダンジョンである以上たとえ坑道の補強が不十分でも落盤の心配は全く無い。


 坑道を進んでいくと、まず最初に現れたのがアイアンゴーレムだった。


 見た目はポージングモデル人形のようなひょろっとした人型で、身長は2mほど。


 思ってたよりも小さいな。


 弱点である胸のあたりの装甲はかなり厚くなっているようだ。


「どいて」


 その一言で、俺は後ろにいるデルフィの射線から外れる。


 次の瞬間、魔弓から放たれた透明の『魔矢』が、アイアンゴーレムの胸を穿つ。


 一撃で核を破壊されたアイアンゴーレムは音もなく消滅し、その後には肘から先だけが残っていた。


「これがゴーレムのドロップアイテムか」


 手に持ってみるとずっしりと重みを感じることが出来る。


 これで同じ大きさのインゴットと同等の価値ってんだからすげーよな。


 鉱石から金属を精製する手間を考えれば断然こっちのほうが楽だわ。


 とりあえず鉄工ギルドで契約した納品専用収納庫の、俺たち専用区画へ『収納』。


 これで納品は完了なので、明日になれば報酬が加算される形となる。


 さらに進むと、さっそくゴーレムが集団で登場。


 みたところアイアンゴーレムが2体とカッパーゴーレムが1体か。


 ゴーレムはどれも動きは遅いが、力はめちゃくちゃ強い。


 1体だけならそれなりのパーティーでも倒すことは可能だろうけど、2体3体と増えれば、いくら動きが遅かろうが倒すのは困難になってくる。


 さっきのアイアンゴーレムも、デルフィのデタラメな火力があったから一撃だったが、通常は装甲を根気よく少しずつ削って核を壊すのだ。


 アイアンゴーレムだと平均2時間ぐらいかけてコツコツ倒すらしい。


 ミスリルゴーレムに至っては複数パーティーで2~3日交代で、ってのもよくある話だ。


 そうやってコツコツと装甲を削っているところに、脇から別のゴーレムが仕掛けてきたんじゃたまらんだろうなぁ、と思うわ。




 とりあえずいま眼の前にいる3体については、俺の力試しを優先させてもらうことにする。


 まずは一番手前にいるアイアンゴーレムに『魔突飛剣』を放つ。


 何とか一撃で核を壊せたらしく、アイアンゴーレムはその場で消滅した。


 それとほぼ同時にカッパーゴーレムもデルフィの『魔矢』を受けて消滅。


 続けてアイアンゴーレムへ向けて一気に踏み込み、『魔纏剣』をぶち込む。


 ちょっと敵の背が高いが、恐れずしっかり接近すれば核に届くようだ。


 ちなみに威力は『魔突飛剣』より『魔纏剣』の方が高いとだけ言っておこう。


 その後も1時間ほどかけて10体の金属系ゴーレムを倒した。


 アイアン、カッパー、ティンに関しては、デルフィの『魔矢』一撃で倒せる。


 俺の場合、カッパー、ティンは『魔突飛剣』と『魔槍』で問題なく倒せるが、アイアンゴーレムに関してはちょっとでも角度がずれると装甲を抉るにとどまるので、確実に倒すなら『魔纏剣』が必要だ。


 ただ、『魔纏剣』だとかなり接近しなければ核に届かず、いくら動きが遅いとはいえ、予備動作が終わった後にぶん回される腕や脚の速度はかなりの速さになる。


 重さと速さを合わせたえげつない攻撃なので、たぶん一撃で死ねる。


 そこで編み出したのが『魔纏剣』からの『魔突飛剣』。


 <多重詠唱>で両方を重ねがけしておくと、『魔纏剣』である程度装甲を抉り、突きが伸びきったところで『魔突飛剣』が発動するので全く同じ場所を連続して突けるんだわ。


 『魔纏剣』の射程不足と『魔突飛剣』の威力不足をそれぞれカバー出来る上手い攻撃方法を思いついたもんだと我ながら感心するね。


 とりあえず『二段突き』と名付けよう、ベタだけど。




 さらに30分ほど探索したところで、ようやミスリルゴーレムに遭遇。


 しかも一気に3体。


 まずはデルフィの『魔矢』。


 しかし、さすが魔道耐性のあるミスリル製だけあって、装甲を1cmほど抉るにとどまった。


 続けて同じ箇所をめがけて『二段突き』を放つが、核には届かず。


 ちょっと嫌な手応えだったので、このまま『魔纏剣』を使うと多分剣が折れる。


 一旦間合いを取りつつゴーレムの攻撃をかわす。


 その後、デルフィが2発続けて『魔矢』を放つ。


 いや、その距離でよく寸分たがわず当てられるもんだと感心するよ。


 もう一押しって所まで来たので、詠唱を長めにとった『魔突飛剣』を食らわせたところ、無事核を破壊できた。


 あと2体。


 さっきの1体は少しだけ突出してたので他のゴーレムから攻撃を仕掛けられることはなかったが、残り2体は比較的近い位置にいるな。


 さてどうするか、と思案していたところ、背後から異常に大きな魔力の流れを感じる。


「ショウスケ、ちょっと離れて」


 その魔力の中心にいたのは弓を構えたデルフィだった。


 やがて魔力だけでなく、風も起こり始め、彼女の周りに集まっていく。


 なかなかの強風が流れ始めたが、数秒後にはピタリと止み、その直後、デルフィは引き絞った弦を離した。


 直後、1体のゴーレムの胸に風穴が空き、ほどなく消滅した。


「もしかして、魔法?」


 そう言ってデルフィの方を見ると、しんどそうに膝を着いていた。


 そりゃあんだけの魔力を一気に放出したら疲れるわな。


「ごめんなさい、加減がわからなくて……。あと1体ね」


「あ、ちょっと俺やってみるから休んでて」


 魔術が効かないなら魔法を使えばいいじゃない! ってことなら俺にだって出来るはずだ。


 俺の場合はデルフィの風魔法と違って純粋な魔力をつかう無魔法だ。


 まずは剣に魔力を纏わせる。


 『魔纏剣』を使いまくってるおかげか、なんとなくうまくいったわ。


 このままじゃコスパの悪い『魔纏剣』か『魔突飛剣』にしかならないので、纏わせた魔力を凝縮し密度を上げる。


 MPがどんどん減ってるのはわかるが、まだまだ余裕はあるな。


 さて、このまままっすぐ魔力を飛ばしてもいいが、なんとなく威力が足りないような気がする。


 といってこれ以上魔力を込めるとなるとコスパが悪い。


 となるとアレだな、回転を加えるのが吉だな。


 魔力の流れに高速回転を加え、突くというより抉り穿つというイメージで、魔力をぶっ放す!!


「よしっ!!」


 デルフィみたくゴーレムの胸に風穴を空けるという程ではないが、核を破壊するには十分な威力が出たようだ。


 今の一撃でMPを100以上消費したが、慣れてくれば半分ぐらいには出来そうだ。


「なるほど……回転ね」


 背後からデルフィの声が聞こえる。


 もう調子は取り戻してるようなので、さっきのはただの魔力酔いだろうな。


 確かボウガンなんかだと矢に回転を加えるタイプの物があるらしいので、今の俺の攻撃は参考になったかもしれない。


 威力を上手く制御しつつ、効率化を図ればミスリルゴーレムももっと楽に倒せるようになるはずだ。


「じゃあこの調子でもう2~3体狩ってみようか」


「うん」





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