死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第30話『教官からの贈り物』

「さてショウスケ。これで君も晴れてEランク冒険者になったわけだが、君の戦いを見ていて少し思うところがある」


「えっと、何でしょう?」


「君の剣術は、型といいそれを応用した動作と言い、なかなか見事なものだ。この短期間でよくぞここまでものにしたな」


「はぁ、どうも」


「だが、君は筋力に頼りすぎているな」


「筋力……ですか?」


「そうだ。このままだと、君の剣術はここらで頭打ちになるだろう」


 実はちょっとした悩みを言い当てられたようで、少しだけうろたえてしまった。


 俺の<細剣術>だが、訓練の段階で既にLv4まで上がっていた。


 後は実戦経験を積めば順調にレベルアップすると思っていたのだが、いくら狩りに精を出しても一向に上がる気配がなかったのだ。


 試しにSPを使って見ようと確認したところ、Lv4→5には20,000pt必要だということがわかった。


 スキルってのは、まず習得するときに多くのSPを必要とする。


 これはおそらく、本来持ち合わせていない才能を開花させるためだろう、と予想される。


 しかし習得したスキルのレベルアップとなると、一気に必要SPが減るのだ。


 <細剣術>のLv1→2や3→4に必要なSPを確認しそびれたので正確なことは言えないが、それでも習得に必要なSPの倍のptが必要ってのは異常だと思う。


 つまり、ここには大きな壁があるに違いないのだ。


 SPを使ってその壁を乗り越えることも可能だが、現在ようやく10,000の大台に乗ったばかり。


 もしこの壁を乗り越える何らかのヒントを教官から教えてもらえるなら、それに越したことはない。


「私はほとんど魔術を使えん。もちろん魔法なんぞ使えるわけもない。だが、魔力は操れる」


 ふむう、魔術や魔法は使えずとも魔力操作は出来るってこったな。


「武術においてもな、魔力というのは重要なのだよ」


 つまり、魔力操作が鍵ってことか?


「君は魔力を感知できるか?」


「はい」


 一応<魔力感知:Lv4>ですから!


「では、見てもらうのが早いか」


 そういうと教官は鞘からレイピアを抜き、構えた。


 俺は<魔力感知>を意識し、その様子を見る。


 教官の体内を緩やかに流れていた魔力が、全身に広がっているように感じられる。


 魔力で身体能力を上げる『自己身体強化』に似ているが、それとは少しに違うように思える。


 『身体強化』系の魔術は外側から内側に働きかけるような感じだが、カーリー教官のそれは内側から体全体、しかもかなり細部に至るまでに魔力が行き渡っているように見える。


「このように、体中に魔力を巡らせることで、身体能力を引き上げることが可能だ。この状態で『身体強化』系の魔術を使えばさらに能力は強化される。私自身は魔術を使えんので実際見せてやることは出来んがな」


 なるほど。


 おそらく、いまカーリー教官がやってる体内に魔力を巡らせる技術ってのが<細剣術>限らず、各武術共通でLv4→5の壁と見た。


「重要なのは全身に満遍なく魔力を巡らせること。たとえば速く踏み込みたいからといって下半身を意識し過ぎたり、剣速をあげようと腕に意識を集中し過ぎるとバランスを崩し、場合によっては単純な動作のみで大怪我をすることもある」


 そう言い終わると、教官は5mぐらいの距離を一瞬で踏み込み、突きを繰り出していた。


「やってみろ」


「はい」


 俺はレイピアを構え、全身にくまなく魔力を巡らせる……。


 毎日の魔力操作訓練では身にまとうことばかり考えていたが、こと武術に関しては体内を巡らせることが大事なのか。


 さっきの教官の様子を思い出し、体の細部に至るまで、毛細血管、末梢神経、筋繊維一本一本に魔力が巡るように……。


「ふむ……。ショウスケ、杖も構えろ」


 意識をそらさないよう、ゆっくりと腰から杖を抜き、左手で構える。


「『魔弾』の詠唱」


 教官の指示通り『魔弾』の詠唱を始める。


 教官は俺から3mほど距離を取り、レイピアを構えた。


「殺す気で来い」


 教官がそう言い終えると同時に俺は踏み込む。


 どう考えても間合いの外だが、なぜか楽に届くことが分かる。


 教官の喉をめがけて突きを繰り出し、時間差で胴を狙った『魔弾』を放った。




《スキルレベルアップ》
<細剣術>




 放った突きは教官の剣であっさりとそらされ、魔弾は左手で受け止められてしまう。


 っつか素手で魔術って受け止めれんのかよ?


「ほう、君の『魔弾』は中々の威力だな」


 まだまだ教官には敵わないようだが、とりあえず壁はひとつ越えたようで。


「やはり君は才能があるな」


「どもっす」


 まぁ、お稲荷さんにもらったチート肉体のおかげだけどね。


「Eランク昇格ということは、ダンジョンに潜る気か?」


「ええ、まぁ」


「ソロか?」


「そのつもりです」


「エムゼタシンテか?」


「はい、一応」


「ソロで10階層を攻略出来たらまた来い。Dランクにあげてやる」


「ありがとうございます」


「ああ、そうだ」


 礼を言って訓練場を出ようとすると、教官から呼び止められた。


「ランクアップの記念に良い物をやる。受付にことづけておくから受け取っておけ」


「えーっと、それはEランクになると貰える特典か何かで?」


「いや。私は君が気に入った。というか期待しているのだ。なにせ細剣術は人気がないからな。君が高ランク冒険者に成長することを期待した上での先行投資だと思ってくれ」


「はぁ」


「だから、もし高ランクになって収入が増えた暁には、なにかごちそうでもしてくれよ」


 そういうと、教官は今まで見せたことのない笑顔を向けてくれた。


「え、あっ……わ、わかりました。ご期待に添えるよう頑張ります」


 危うく惚れるところだったぜ。




**********




「ショウスケくん、ランクアップおめでとう」


 俺のカードでなにやら手続きを終えたフェデーレさんから、ギルドカードを返してもらう。


「それとカーリーさんから預かりものだよ」


 そいうとフェデーレさんは、一振りのレイピアを渡してくれた。


 装飾のない革の鞘、最低限の鍔とナックルガードが付いたシンプルなデザインだ。


 試しに抜いてみる。


 持った感じや剣身を見る限り鋼鉄製のように思えるが、ギルドで借りているのとは何となく雰囲気が違う。


 ある程度使い込まれているようではあるが、ギルドのレンタル品も中古だしな。


 何が違うんだろ?


「おお、ミスリルコーテッドだね」


「ミスリルコーテッド?」


「ああ。刃の部分にだけ薄ーくミスリルをコーティングしてあるんだよ。コストの割に切れ味は上がるし刃こぼれなんかもしづらくなる」


 おお、いいことづくめじゃないか。


「ただし、使い込んで研いでいくうちにミスリル部分はなくなっちゃうんだけどね」


 ああ、そういうデメリットもあるのね。


「これは随分使い込まれているようだけど、まだまだコート部分は残ってるね。ミスリルレイピアを購入するまでの繋ぎにはいいんじゃない?」


「これってギルドで借りてるのとどっちが性能いいですかね?」


「さて、僕は武器に関してそこまでの鑑定眼を持ってるわけじゃ無いからねぇ……って、いい人見っけ。おおーい! フランツさん!!」


 フェデーレさんが声をかけた方を見ると、キリッとした男性がいた。


 どっかで見たことあると思ったら、俺が解体用ミスリルナイフ売った武器屋の人だな。


 いや、まぁループで無かった事にはなったんだけど。


 フランツさんはキリッとした容姿にたがわずスマートな足取りでこちらに歩いてきた。


 なんかこの人、存在だけで絵になるねえ。


「どうした?」


「これ、ちょっと見てよ」


 フェデーレさんがフランツさんにレイピアを渡す。


「ほう、ミスリルコーテッドか」


 レイピアを受け取ったフランツさんは、ひとしきりいろんな角度から剣身を見た後、軽く振ったり剣身をしならせたりしている。


「ふむ。芯に純鉄を仕込み、鋼も上等。ミスリルコートもまだ充分に残っているし、手入れもしっかりされているな。それに……魔術紋も施されているか。5,000Gでどうだ?」


「いやいや、売りに出すわけじゃないからね。ちなみにいくらで店頭に並べる?」


「1万ぐらいかな」


「1万!?」


 おおっと、つい大声を出してしまった。


「ん? 君は」


「ああ、彼がこの剣の持ち主」


「そうか。よし、6,500Gまで出そう。どうだ?」


 この人、前も思ったけどすぐに値段上げるよね。


「ああ、えーっと、それはさっき恩師から頂いたばかりのものでして、売る気は……」


「そうか、残念だな」


「これってそんなに高価なものなんですか?」


「新品だと2万ぐらいだろうな。いや、魔術紋の分を考えればもっとか」


 おおう、マジか。


 でも解体用ミスリルナイフは買取額が25,000Gだったよなあ。


 ミスリルってそんなに高いのか?


 いや、ナイフの方は本体だけじゃなく鞘も凄かったんだっけか。


「ねえねえ、ウチのレンタル品とどっちが上かな?」


 フェデーレさんが興味深げに問う。


「あれも悪くはないが、ミスリルコーテッド分こっちが上だな。あと、魔術紋施工済みだから付与魔術を使える魔術士がパーティーにいるならこっちの方圧倒的に良い」


「だってさ、ショウスケくん」


「どもっす」


 なんかいいモノもらっちゃったなぁ。


 こりゃお返しはギルドの食堂とかじゃダメだなぁ。


「さて、剣を売る気がないなら依頼を受けてもらいたいのだが」


 フランツさんは持っていたレイピアを俺に渡すと、懐から写真を取り出し、カウンターに置いた。


「尋ね人だ」


 写真の男に見覚えがある。


「あ、ヘクターさん」


「ほう、知っているのか?」


 フランツさんが驚いたようにこちらを見る。


「ええ、魔術士ギルドで何度か」


「そうか。最近見たか?」


「昨日魔術士ギルドのハリエットさんになにか贈り物と……手紙か何かを渡していたようですが」


「……今日は見ていないか?」


「ええ、はい」


「そうか……」


 フェデーレさんがヘクターさんの写真を手に取り、まじまじと見ている。


「昨日ショウスケくんが見たっていうんなら、今日いなくなったってこと? 大の大人が半日姿を消したぐらいで大げさじゃない?」


「いや、昨夜な。私とアクセサリー屋のフレデリックとヘクターの3人で飲んでいたのだよ。ヘクターの奴が妙に落ち込んでいるようだったのでな。ヘクターは普段そこまで悪酔いするほうじゃなかったんだが、昨夜はかなりひどくてな。最終的にはフレデリックと2人で担いで家に放り込んできたのだが、ふと心配になって今朝様子を見に行ったら部屋におらなんだのよ」


「酔覚ましに銭湯にでもいったんじゃない?」


「だといいのだが……。もともと気はいい奴なのだが、最近は童貞をこじらせて面倒なことになってなぁ。早いうちに妓楼にでも連れて行って発散させてやれば良かったのだが、ここの魔術士ギルドの受付嬢に一目惚れしてからは”初めては彼女に捧げるんだ!!”とかなんとかわけのわからんこと言い出しおって……」


 ああ、童貞こじらすとなるよね、そんな風に。


「まあ取り越し苦労ならそれでいいんだが、なにやら嫌な予感がするので、すまんが依頼として受けてくれ」


「うーん、わかった。ショウスケくん、どう?」


 いやー、あのヘクターって人ほんと目つきがヤバかったんだよねぇ。


 童貞こじらせたストーカーとかあんま関わりたくねぇや。


 ちょっと、フランツさん、そんな期待した眼差しを向けないで……!!


「すんません、俺ダンジョン探索したいんで……」


「そっか。まぁ内容的にGランク依頼だし、Eランクのショウスケくんに頼むのは失礼だよね」


「いや、まぁもし見かけたら報告しますよ」


「そうか。すまんな」


 いや、ホントたまたま見かけたら~ぐらいだけどね。


 接触はせずに報告だけ。


「時に、君はダンジョンに潜るということだが、武器はそれでいいとして防具は持っているのか?」


「あー、いえ」


「そうか。ここの売店には私の店からも卸している物があるから見ておくといい。鎖帷子だけでもいいから買っておくと生存率はグンと上がるぞ?」


「そうですね。検討してみます」


 そういえば防具のことを全然考えてなかったな。


 とはいえ革の胸甲でも500G、青銅だと1,500Gほどするので、フランツさんが受付から離れたのを見計らって、防具のレンタルを予約しておく。


 レンタルだと、鎖帷子くさりかたびら胸甲きょうこう手甲てっこう脚甲きゃっこうを青銅で揃えても1日50Gだからね。



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