【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第2話『おっさん、金策について考える2』
ロロアとともに帰ってきた場所は、いつものガレージだった。
工場をリノベーションした広いガレージを見て、敏樹は思わずため息をつく。
「トシキさん、どうしたんですか?」
ロロアが心配そうな視線を向けてきたので、安心させるべく微笑んではみたが、その笑顔は少しぎこちなかったかもしれない。
「いや、ここを維持するのにも金がいるんだなぁと思ってさ」
国道にほど近く、広さも設備も整っている優良物件である。
それでもひと桁万円台に収まっているのは、ここが田舎ゆえか。
しかし、異世界のポイントを元にした資産に翳りが見え始めたいま、水道光熱費に通信費を含め毎月それなりにまとまった額の支出があるのはつらいところである。
「あの、お金でしたら私、あんまり使ってないから」
「あー、うん。ありがとう。でもあっちで稼いだ金はこっちじゃ使えないから」
「あ、そっか……」
おずおずと申し出てくれたロロアだったが、敏樹の言葉を受けて恥ずかしそうにうつむいた。
「せっかく気を使ってくれたのにごめんな」
「いえ、私のほうこそ差し出口を……」
「いやいや、そんなことないって。その心遣いはうれしいよ、ほんと」
さらに萎縮しつつあるロロアの肩に、ポンと手を置く。
「だからさ。いまからどうすればいいか、一緒に考えてくれる?」
「あ……、は、はい!」
笑顔の戻ったロロアにひと安心しつつ、敏樹はどうやって日本円を稼ぐかということに頭を悩ませるのだった。
**********
「やっぱり、こちらと異世界とを行き来できることを活かさないとだめだよなぁ」
もしこちらの世界だけでなにかをやりくりして金を稼げるのであれば、敏樹はもっといい暮らしをしていただろう。
しかし例の15億円を得るまで敏樹は実家での質素な生活を余儀なくされていたのだから、この男には金儲けの才能はない、と考えるのが妥当だ。
となれば、日本と異世界とを行き来できるという特殊な環境を活かす以外に、金を稼ぐ手はないと考えたほうがいいだろう。
「向こうで稼いだお金をこちらのお金に変える方法を考える、ということでいいんですよね?」
「まぁ、そうなるかな」
異世界で冒険者として活動している敏樹は、その気になればかなりの額を稼ぎ出すことができる。
実際、向こうではほとんどホテルぐらしに近いそこそこ贅沢な暮らしをしていながら、すでに数年は遊んで暮らせるほどの貯蓄があるのだ。
それを日本円に効率よく変換できるシステムを構築できれば、こちらでの生活も安泰になるだろう。
「そういうのは、ファランちゃんが得意なんでしょうけど……」
「だよなぁ。でも、ファランもいまはいろいろ大変そうだから」
ファランはいまランバルグ商会の騒動を収束させるために奔走しており、とても助力を頼めるような状況ではない。
ならば一連の騒動がある程度落ち着いてから彼女に相談するという手もなくはないのだが……。
「一段落ついたとき、うまくねぎらってあげたいんだよなぁ。こっちの温泉に連れて行ってやるとかさ」
「温泉!? いいですね、それ!!」
「だろ?」
忙しくしているのはなにもファランたちだけではない。
シーラたちも憲兵隊の依頼を受け、別方面で起こった、あるいは起こりつつある騒動を収めるのに尽力しているのだ。
無論敏樹らも日本でのんびり過ごすつもりはない。
日本と異世界とを行き来し、向こうではシーラたちとともに商都治安維持に務め、こちらでは金儲けの算段を考えるつもりである。
そして事がある程度収まったところで、慰安旅行のひとつでも企画してやれればいいな、といったところか。
「あー、そうなるとひとつ問題があるんだよなぁ」
「問題ですか?」
「うん。全員が車に乗れないんだよ」
敏樹がいま日本に連れてきたことのある人物だが、ロロアを筆頭にシーラ、メリダ、ライリー、ファラン、ベアトリーチェ、クク、ココ、ラケーレ、クロエの10人である。
そこに敏樹を加えると11人となり、普通乗用車の定員をオーバーしてしまうのだ。
場所が異世界であれば、大型ワゴン車に少し詰めれば11人乗れなくもないが、さすがに日本で道路交通法を無視するわけにもいかない。
「あの、だったら私は留守番でも……」
「いや、そういうのはナシ」
「あ、はい……。じゃあどうしましょう? 何人かのグループに分けますか?」
「んー、せっかくだから全員でわいわいと行きたいよなぁ……」
現状考えられる手段としては、電車などの公共交通機関を使う、マイクロバスなどをチャーターすると言ったところか。
しかしできれば異世界の住人である彼女たちと、こちらの世界の人間を交わらせたくないというのが本音である。
前回デパートなどを訪れたときのように、3~4人であれば面倒を見れるのだが、10名となると厳しいだろう。
向こうの世界にも温泉などはあるようだし、ならば連れてこなければいいという話になるのだが、どうもロロアも含めて彼女らは日本が気に入っているようなので、どうせならこちらでもてなしてやりたいという思いがあった。
もちろん無理なら諦めるが、なにかいい方法があるのなら日本での慰安旅行は実現したいところだ。
「徹に頼んで車2台で……んー……、でもなぁ……」
いずれパンテラモータースを継ぐであろう徹を、変に巻き込んでしまうのもはばかられるところである。
彼とはいまの距離を保ったほうがいいのではないだろうか。
「……中型免許、とるか」
**********
敏樹はその日の内にロロアを連れて自動車教習所を訪れ、入学の手続きと支払いを済ませた。
留守番をしてもらってもいいのだが、ロロアがこちらの世界を見たがっているようなので連れてくることにした。
20万円近い出費は痛かったが、必要経費だと思うことにする。
「あー、ここのうどん屋閉まっちゃったのかぁ……」
教習所の近くに昔よく通ったうどん屋があったので、ついでに食事をそこで済ませようと思っていたが、久々に来てみれば台湾料理店になっていた。
台湾料理も悪くないのだろうが、いまはうどんを食べたいと思っていたので、国道沿いの有名店へ赴いた。
「ん、おいしいっ!」
箸の使い方が様になってきたロロアが、ぎこちなく麺をすすり舌鼓をうつ。
「この麺、クロエちゃんのお店で出してるパスタとはまた違った食感ですね。太くてコシがあって」
「そういやむこうでまだうどんは見てないなぁ」
スパゲッティに近い麺状のパスタはちらほらと見かけたので、同じ麺類であるうどんを流通させるのは問題ないかもしれない。
野営の際にカップ麺を提供したことがあり、その際は概ね好評だったし、いまのロロアの反応を見るにそこそこヒットする可能性はある。
「いや、むこうで稼ぐ必要はないんだよ、うん」
敏樹の自嘲気味なつぶやきにロロアは軽く首を傾げたが、気にせず食事を続けた。
「さて、手持ちの現金が少なくなってきたし、緊急措置と行きますか……」
うどんを食べ終えた敏樹は、前回と同じ金属買取店を訪れ、“自宅を整理していたらまた出てきた”といって、異世界で仕入れた貴金属製のアクセサリを買い取ってもらった。
「ああいうのは売れるんですね?」
帰りの車の中、ロロアが問いかける。
「金や銀がそこそこ高く売れるんだよ」
「えっと、それじゃあダメなんですか?」
「まぁね。こっちじゃ貴金属の流通量が管理されてるから、出処の不確かなものを大量に売るといろいろ面倒なことになるんだよ」
その日はそのまま家で休み、翌日朝から周辺のリサイクルショップを巡った。
そこでいろいろなものを仕入れた敏樹は、〈拠点転移〉のクールタイムが終わると同時に商都のホテルへと転移した。
工場をリノベーションした広いガレージを見て、敏樹は思わずため息をつく。
「トシキさん、どうしたんですか?」
ロロアが心配そうな視線を向けてきたので、安心させるべく微笑んではみたが、その笑顔は少しぎこちなかったかもしれない。
「いや、ここを維持するのにも金がいるんだなぁと思ってさ」
国道にほど近く、広さも設備も整っている優良物件である。
それでもひと桁万円台に収まっているのは、ここが田舎ゆえか。
しかし、異世界のポイントを元にした資産に翳りが見え始めたいま、水道光熱費に通信費を含め毎月それなりにまとまった額の支出があるのはつらいところである。
「あの、お金でしたら私、あんまり使ってないから」
「あー、うん。ありがとう。でもあっちで稼いだ金はこっちじゃ使えないから」
「あ、そっか……」
おずおずと申し出てくれたロロアだったが、敏樹の言葉を受けて恥ずかしそうにうつむいた。
「せっかく気を使ってくれたのにごめんな」
「いえ、私のほうこそ差し出口を……」
「いやいや、そんなことないって。その心遣いはうれしいよ、ほんと」
さらに萎縮しつつあるロロアの肩に、ポンと手を置く。
「だからさ。いまからどうすればいいか、一緒に考えてくれる?」
「あ……、は、はい!」
笑顔の戻ったロロアにひと安心しつつ、敏樹はどうやって日本円を稼ぐかということに頭を悩ませるのだった。
**********
「やっぱり、こちらと異世界とを行き来できることを活かさないとだめだよなぁ」
もしこちらの世界だけでなにかをやりくりして金を稼げるのであれば、敏樹はもっといい暮らしをしていただろう。
しかし例の15億円を得るまで敏樹は実家での質素な生活を余儀なくされていたのだから、この男には金儲けの才能はない、と考えるのが妥当だ。
となれば、日本と異世界とを行き来できるという特殊な環境を活かす以外に、金を稼ぐ手はないと考えたほうがいいだろう。
「向こうで稼いだお金をこちらのお金に変える方法を考える、ということでいいんですよね?」
「まぁ、そうなるかな」
異世界で冒険者として活動している敏樹は、その気になればかなりの額を稼ぎ出すことができる。
実際、向こうではほとんどホテルぐらしに近いそこそこ贅沢な暮らしをしていながら、すでに数年は遊んで暮らせるほどの貯蓄があるのだ。
それを日本円に効率よく変換できるシステムを構築できれば、こちらでの生活も安泰になるだろう。
「そういうのは、ファランちゃんが得意なんでしょうけど……」
「だよなぁ。でも、ファランもいまはいろいろ大変そうだから」
ファランはいまランバルグ商会の騒動を収束させるために奔走しており、とても助力を頼めるような状況ではない。
ならば一連の騒動がある程度落ち着いてから彼女に相談するという手もなくはないのだが……。
「一段落ついたとき、うまくねぎらってあげたいんだよなぁ。こっちの温泉に連れて行ってやるとかさ」
「温泉!? いいですね、それ!!」
「だろ?」
忙しくしているのはなにもファランたちだけではない。
シーラたちも憲兵隊の依頼を受け、別方面で起こった、あるいは起こりつつある騒動を収めるのに尽力しているのだ。
無論敏樹らも日本でのんびり過ごすつもりはない。
日本と異世界とを行き来し、向こうではシーラたちとともに商都治安維持に務め、こちらでは金儲けの算段を考えるつもりである。
そして事がある程度収まったところで、慰安旅行のひとつでも企画してやれればいいな、といったところか。
「あー、そうなるとひとつ問題があるんだよなぁ」
「問題ですか?」
「うん。全員が車に乗れないんだよ」
敏樹がいま日本に連れてきたことのある人物だが、ロロアを筆頭にシーラ、メリダ、ライリー、ファラン、ベアトリーチェ、クク、ココ、ラケーレ、クロエの10人である。
そこに敏樹を加えると11人となり、普通乗用車の定員をオーバーしてしまうのだ。
場所が異世界であれば、大型ワゴン車に少し詰めれば11人乗れなくもないが、さすがに日本で道路交通法を無視するわけにもいかない。
「あの、だったら私は留守番でも……」
「いや、そういうのはナシ」
「あ、はい……。じゃあどうしましょう? 何人かのグループに分けますか?」
「んー、せっかくだから全員でわいわいと行きたいよなぁ……」
現状考えられる手段としては、電車などの公共交通機関を使う、マイクロバスなどをチャーターすると言ったところか。
しかしできれば異世界の住人である彼女たちと、こちらの世界の人間を交わらせたくないというのが本音である。
前回デパートなどを訪れたときのように、3~4人であれば面倒を見れるのだが、10名となると厳しいだろう。
向こうの世界にも温泉などはあるようだし、ならば連れてこなければいいという話になるのだが、どうもロロアも含めて彼女らは日本が気に入っているようなので、どうせならこちらでもてなしてやりたいという思いがあった。
もちろん無理なら諦めるが、なにかいい方法があるのなら日本での慰安旅行は実現したいところだ。
「徹に頼んで車2台で……んー……、でもなぁ……」
いずれパンテラモータースを継ぐであろう徹を、変に巻き込んでしまうのもはばかられるところである。
彼とはいまの距離を保ったほうがいいのではないだろうか。
「……中型免許、とるか」
**********
敏樹はその日の内にロロアを連れて自動車教習所を訪れ、入学の手続きと支払いを済ませた。
留守番をしてもらってもいいのだが、ロロアがこちらの世界を見たがっているようなので連れてくることにした。
20万円近い出費は痛かったが、必要経費だと思うことにする。
「あー、ここのうどん屋閉まっちゃったのかぁ……」
教習所の近くに昔よく通ったうどん屋があったので、ついでに食事をそこで済ませようと思っていたが、久々に来てみれば台湾料理店になっていた。
台湾料理も悪くないのだろうが、いまはうどんを食べたいと思っていたので、国道沿いの有名店へ赴いた。
「ん、おいしいっ!」
箸の使い方が様になってきたロロアが、ぎこちなく麺をすすり舌鼓をうつ。
「この麺、クロエちゃんのお店で出してるパスタとはまた違った食感ですね。太くてコシがあって」
「そういやむこうでまだうどんは見てないなぁ」
スパゲッティに近い麺状のパスタはちらほらと見かけたので、同じ麺類であるうどんを流通させるのは問題ないかもしれない。
野営の際にカップ麺を提供したことがあり、その際は概ね好評だったし、いまのロロアの反応を見るにそこそこヒットする可能性はある。
「いや、むこうで稼ぐ必要はないんだよ、うん」
敏樹の自嘲気味なつぶやきにロロアは軽く首を傾げたが、気にせず食事を続けた。
「さて、手持ちの現金が少なくなってきたし、緊急措置と行きますか……」
うどんを食べ終えた敏樹は、前回と同じ金属買取店を訪れ、“自宅を整理していたらまた出てきた”といって、異世界で仕入れた貴金属製のアクセサリを買い取ってもらった。
「ああいうのは売れるんですね?」
帰りの車の中、ロロアが問いかける。
「金や銀がそこそこ高く売れるんだよ」
「えっと、それじゃあダメなんですか?」
「まぁね。こっちじゃ貴金属の流通量が管理されてるから、出処の不確かなものを大量に売るといろいろ面倒なことになるんだよ」
その日はそのまま家で休み、翌日朝から周辺のリサイクルショップを巡った。
そこでいろいろなものを仕入れた敏樹は、〈拠点転移〉のクールタイムが終わると同時に商都のホテルへと転移した。
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