【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第16話『おっさん、作戦会議に参加する』
テレーザとともに商都エトラシへ同行したのは、敏樹、ロロア、シゲル、シーラたち3人とファラン、ベアトリーチェの8人となった。
ドハティ商会が用意した足の速い馬車を使ったため、本来3日かかる行程を1日半に短縮し、ヘイダの町を出た翌日昼には商都へ到着した。
そのまま一行は憲兵隊の詰め所を訪れる。
そこには天監のマーガレットと、州都憲兵隊長だったドラモントがいた。
「あれ、ドラモントさんどうしてここに?」
「例の件でこちらへ異動になってな」
例の件が憲兵隊にとってどのような位置づけとなり、州都から商都への異動というのがどんな意味を持つのかよくわからない敏樹は、どうやら微妙な表情を浮かべていたらしい。
ドラモンとはふっと表情を緩め、自嘲気味に口を開いた。
「降格みたいなものだな」
王都→各州の州都→その他の街と格が下がっていくらしく、州都での副隊長天網違反に対する監督不行き届きという名目での異動らしい。
憲兵隊としては「なぜ隠蔽できなかったのか?」といいたいところであろうが。
主要メンバーが揃ったところで、マーガレットが状況説明を始める。
「過日、ケシド州都セニエスクにて拘束したレンドルト・バースからの情報をもとに、このひと月ほど多くの天網違反者を捕縛することができました。そしてついに、ここテオノーグ王国における精人を対象とした人身売買組織の中核となる人物を特定するに至りました」
そこでマーガレットは一度言葉を切り、集まった者たちを見回す。
ここにはファランたちを含む敏樹ら一行と天監のテレーザ、憲兵隊長ドラモントの他に、他州の天監が数名と商都憲兵隊の幹部が十名ほど出席していた。
ただし、敏樹ら一行のうちシゲルだけは不参加であり、彼は相変わらず訓練場に詰めていた。
「ドレイク・ランバルグ。彼の率いるランバルグ商会こそが、この王国における人身売買の中心となっているのです」
商都では知らぬ者のない大物であり、商会である。
憲兵の幹部たちからはどよめきがおこるも、それ以外のメンバーは事前に知っていたため落ち着いていた。
そもそもランバルグが人身売買の中心にあることを突き止めたのは敏樹である。
突き止めたと言っても、ある程度の情報を得たところで管理者用タブレットPCの『情報閲覧』を使って調べればすぐに判明したのだが。
なので、このひと月はその裏取りを兼ねて、違反者を摘発していたのだった。
相手は商都イチの商会長である。
都合の悪いことを隠蔽する能力には長けており、最初からドレイク・ランバルグを対象として調査していなければ、とてもひと月でこの結果は出せなかったはずだ。
「情報提供者によりますと、ドレイク・ランバルグは奴隷商館の地下に特殊な施設を作り、そこに精人の方々を監禁しているとのこと。そしてここ最近の我々の動きを警戒してか、いまは取引を控えているようです」
情報提供者と聞いて、この場にいる多くのものは内通者だと思ったようだが、これまた敏樹である。
何度か目当ての奴隷商館に潜入し、できるかぎり内部の状況把握に努めていたのだ。
「その監禁施設ですが、無理に侵入しようとしたり、ドレイクが指示を出すなりすると、即座に崩落し証拠隠滅が出来るようになっているとのことなので、行動は慎重を期す必要があります」
つまり、先日副隊長邸を襲ったときのように、正面から派手に攻めることはできない。
「しかしドレイクは身の危険を察知しているでしょうから、もたもたしているとやはり証拠隠滅を図る可能性もあります。なので、作戦実行までの猶予はあまりありません」
かなりの数の精人を捕えており、それには相当な金を出しているだろうが、自身の身と商会存続の危機が迫っているとなると、躊躇なく損切りできるだけの判断力をドレイクほどの商人であれば持ち合わせているだろう。
「というわけで、作戦の決行は明日とします」
草案は既にできており、それについて敏樹らは移動中に告げられている。
天監、憲兵隊長も事前に知っていたが、他の憲兵隊員からすれば寝耳に水だろう。
しかし作戦実行を決めてから実行までに時間を空けてしまうと、情報が漏れる危険性もあるのだ。
とくにここ商都の公的機関と商会との間には、癒着が横行している。
実際憲兵隊の中にはランバルグ商会に便宜を図っていた者も多くいたのだ。
まぁ敏樹の『情報閲覧』によってそういった連中の存在は既に明らかとなっており、一部は罷免や左遷をされ、一部は与える情報を制限し、監視つきで泳がされているのだが。
ちなみにこの商都に天監が数名集まっていることを知っているのは、ここにいる者だけである。
無論、この場の憲兵隊員に関しては『情報閲覧』での身辺調査済みだった。
「では明日の作戦決行に向けて、さっそく打ち合わせをしましょうか」
**********
マーガレットを中心とした会議はそれほど揉めることなく終わった。
なにせ憲兵隊員以外は事前に作戦を知った上でその場にいたのだ。
あとは作戦の説明後、ドレイクが隊員たちに言い聞かせるだけだった。
今回の作戦だが、正面から商館を訪ねて内部に入り精人救出する部隊と、精人を確保した後に商館を制圧する部隊とに分かれて動くことになる。
精人の監禁場所へ入るには敏樹のスキルが必要だし、相手に警戒されずドレイクと対面するにはドハティ商会の名が必要である。
「オーシタさんはドハティ商会のお得意さまということで、ファランさんに同行してください。そちらには護衛の戦闘奴隷という名目でテレーザをつけます」
「よろしく頼むぞ、トシキよ」
「ええ、よろしくお願いします」
ここ最近の動きで天監を警戒しているため、テレーザの面が割れている可能性もあるが、ドレイクを捕縛するには天監の同行が必須となる。
といって今日会ったばかりの人員を同行させるのもなにかと都合が悪い。
そこで、テレーザは認識阻害の魔道具を身に着けて同行することになった。
その魔道具は別に顔を変えたりするわけではないのだが、身につけた者を上手く認識できなくなるという不思議な効果があった。
(相手に相貌失認を引き起こさせる、とかかな?)
というのがその魔道具に対する敏樹の認識だった。
かなり希少かつ扱い次第では危険でもあるので、使用はおろか所持すら固く禁じられており、使用するには天網府の許可が必要なものだった。
「ロロアさんはオーシタさんのお連れ様、ベアトリーチェさんはそのままファランさんの護衛ということで、同行していただいても問題ありません」
別働隊のほうはマーガレットおよび派遣された天監、そして憲兵隊で構成される。
「シーラさんたちはこちらに合流してください」
「おっけー」
「かしこまりました」
「ん、了解」
シーラたちが今回同行した理由だが、相手が山賊団『森の野狼』の取引相手だと知ったからである。
そして彼女らの参加は、マーガレットにとって嬉しい誤算だった。
というのも、商都憲兵隊はひと言で言えば弱いのだ。
多くの商会や商人がいるこのエトラシの治安は、彼らの護衛や私兵が維持していると言っていい。
なので、この街の憲兵隊には大きな商会の子女が箔付けのために在籍する事が多く、一応訓練は受けているものの、有事の際に動けるかと問われれば否と答えざるを得ない。
となれば、対人戦闘経験のある腕利きの冒険者というのはありがたい存在だった。
「オーシタさん、シゲルさんは……?」
「すいません。コソコソするのは性に合わないとかで、不参加ということに……」
「そうですか……。まぁ彼は少し目立ちすぎますから、今回はそのほうがいいかもしれませんね」
そこから細々とした部分を詰めていき、夜には会議を終了。
――そして、いよいよ作戦決行の日を迎える。
ドハティ商会が用意した足の速い馬車を使ったため、本来3日かかる行程を1日半に短縮し、ヘイダの町を出た翌日昼には商都へ到着した。
そのまま一行は憲兵隊の詰め所を訪れる。
そこには天監のマーガレットと、州都憲兵隊長だったドラモントがいた。
「あれ、ドラモントさんどうしてここに?」
「例の件でこちらへ異動になってな」
例の件が憲兵隊にとってどのような位置づけとなり、州都から商都への異動というのがどんな意味を持つのかよくわからない敏樹は、どうやら微妙な表情を浮かべていたらしい。
ドラモンとはふっと表情を緩め、自嘲気味に口を開いた。
「降格みたいなものだな」
王都→各州の州都→その他の街と格が下がっていくらしく、州都での副隊長天網違反に対する監督不行き届きという名目での異動らしい。
憲兵隊としては「なぜ隠蔽できなかったのか?」といいたいところであろうが。
主要メンバーが揃ったところで、マーガレットが状況説明を始める。
「過日、ケシド州都セニエスクにて拘束したレンドルト・バースからの情報をもとに、このひと月ほど多くの天網違反者を捕縛することができました。そしてついに、ここテオノーグ王国における精人を対象とした人身売買組織の中核となる人物を特定するに至りました」
そこでマーガレットは一度言葉を切り、集まった者たちを見回す。
ここにはファランたちを含む敏樹ら一行と天監のテレーザ、憲兵隊長ドラモントの他に、他州の天監が数名と商都憲兵隊の幹部が十名ほど出席していた。
ただし、敏樹ら一行のうちシゲルだけは不参加であり、彼は相変わらず訓練場に詰めていた。
「ドレイク・ランバルグ。彼の率いるランバルグ商会こそが、この王国における人身売買の中心となっているのです」
商都では知らぬ者のない大物であり、商会である。
憲兵の幹部たちからはどよめきがおこるも、それ以外のメンバーは事前に知っていたため落ち着いていた。
そもそもランバルグが人身売買の中心にあることを突き止めたのは敏樹である。
突き止めたと言っても、ある程度の情報を得たところで管理者用タブレットPCの『情報閲覧』を使って調べればすぐに判明したのだが。
なので、このひと月はその裏取りを兼ねて、違反者を摘発していたのだった。
相手は商都イチの商会長である。
都合の悪いことを隠蔽する能力には長けており、最初からドレイク・ランバルグを対象として調査していなければ、とてもひと月でこの結果は出せなかったはずだ。
「情報提供者によりますと、ドレイク・ランバルグは奴隷商館の地下に特殊な施設を作り、そこに精人の方々を監禁しているとのこと。そしてここ最近の我々の動きを警戒してか、いまは取引を控えているようです」
情報提供者と聞いて、この場にいる多くのものは内通者だと思ったようだが、これまた敏樹である。
何度か目当ての奴隷商館に潜入し、できるかぎり内部の状況把握に努めていたのだ。
「その監禁施設ですが、無理に侵入しようとしたり、ドレイクが指示を出すなりすると、即座に崩落し証拠隠滅が出来るようになっているとのことなので、行動は慎重を期す必要があります」
つまり、先日副隊長邸を襲ったときのように、正面から派手に攻めることはできない。
「しかしドレイクは身の危険を察知しているでしょうから、もたもたしているとやはり証拠隠滅を図る可能性もあります。なので、作戦実行までの猶予はあまりありません」
かなりの数の精人を捕えており、それには相当な金を出しているだろうが、自身の身と商会存続の危機が迫っているとなると、躊躇なく損切りできるだけの判断力をドレイクほどの商人であれば持ち合わせているだろう。
「というわけで、作戦の決行は明日とします」
草案は既にできており、それについて敏樹らは移動中に告げられている。
天監、憲兵隊長も事前に知っていたが、他の憲兵隊員からすれば寝耳に水だろう。
しかし作戦実行を決めてから実行までに時間を空けてしまうと、情報が漏れる危険性もあるのだ。
とくにここ商都の公的機関と商会との間には、癒着が横行している。
実際憲兵隊の中にはランバルグ商会に便宜を図っていた者も多くいたのだ。
まぁ敏樹の『情報閲覧』によってそういった連中の存在は既に明らかとなっており、一部は罷免や左遷をされ、一部は与える情報を制限し、監視つきで泳がされているのだが。
ちなみにこの商都に天監が数名集まっていることを知っているのは、ここにいる者だけである。
無論、この場の憲兵隊員に関しては『情報閲覧』での身辺調査済みだった。
「では明日の作戦決行に向けて、さっそく打ち合わせをしましょうか」
**********
マーガレットを中心とした会議はそれほど揉めることなく終わった。
なにせ憲兵隊員以外は事前に作戦を知った上でその場にいたのだ。
あとは作戦の説明後、ドレイクが隊員たちに言い聞かせるだけだった。
今回の作戦だが、正面から商館を訪ねて内部に入り精人救出する部隊と、精人を確保した後に商館を制圧する部隊とに分かれて動くことになる。
精人の監禁場所へ入るには敏樹のスキルが必要だし、相手に警戒されずドレイクと対面するにはドハティ商会の名が必要である。
「オーシタさんはドハティ商会のお得意さまということで、ファランさんに同行してください。そちらには護衛の戦闘奴隷という名目でテレーザをつけます」
「よろしく頼むぞ、トシキよ」
「ええ、よろしくお願いします」
ここ最近の動きで天監を警戒しているため、テレーザの面が割れている可能性もあるが、ドレイクを捕縛するには天監の同行が必須となる。
といって今日会ったばかりの人員を同行させるのもなにかと都合が悪い。
そこで、テレーザは認識阻害の魔道具を身に着けて同行することになった。
その魔道具は別に顔を変えたりするわけではないのだが、身につけた者を上手く認識できなくなるという不思議な効果があった。
(相手に相貌失認を引き起こさせる、とかかな?)
というのがその魔道具に対する敏樹の認識だった。
かなり希少かつ扱い次第では危険でもあるので、使用はおろか所持すら固く禁じられており、使用するには天網府の許可が必要なものだった。
「ロロアさんはオーシタさんのお連れ様、ベアトリーチェさんはそのままファランさんの護衛ということで、同行していただいても問題ありません」
別働隊のほうはマーガレットおよび派遣された天監、そして憲兵隊で構成される。
「シーラさんたちはこちらに合流してください」
「おっけー」
「かしこまりました」
「ん、了解」
シーラたちが今回同行した理由だが、相手が山賊団『森の野狼』の取引相手だと知ったからである。
そして彼女らの参加は、マーガレットにとって嬉しい誤算だった。
というのも、商都憲兵隊はひと言で言えば弱いのだ。
多くの商会や商人がいるこのエトラシの治安は、彼らの護衛や私兵が維持していると言っていい。
なので、この街の憲兵隊には大きな商会の子女が箔付けのために在籍する事が多く、一応訓練は受けているものの、有事の際に動けるかと問われれば否と答えざるを得ない。
となれば、対人戦闘経験のある腕利きの冒険者というのはありがたい存在だった。
「オーシタさん、シゲルさんは……?」
「すいません。コソコソするのは性に合わないとかで、不参加ということに……」
「そうですか……。まぁ彼は少し目立ちすぎますから、今回はそのほうがいいかもしれませんね」
そこから細々とした部分を詰めていき、夜には会議を終了。
――そして、いよいよ作戦決行の日を迎える。
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