【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第1話『おっさん、集落を出る』
ロロアを集落に連れ戻して1日が経過した。
敏樹は日本に残してきたシーラたちを連れ戻すため、ガレージに転移した。
今回、ロロアはついてこなかった。
集落のみんなとゆっくり過ごしたいのだそうな。
「連れてってー! ボクも町に行きたーい!!」
ガレージを訪れた敏樹の背中へおぶさるように、ファランがしがみついてくる。
「連れてけー!」
「ウチらも連れてけー!!」
さらに、左右の足にはククココ姉妹がしがみついていた。
ことの発端は、ロロアの穿いていたレギンスである。
「なぁ兄やん、ロロアんが穿いとったあの黒いのんなに?」
「あれ? あれはレギンス……だったかな?」
「ふーん。ロロアんあんなん持ってたっけ?」
「あー、こっちじゃ生足だとちょっと目立つんだよ。だから買ってやった」
「……っちゅうことは、ロロアんニホンの街中歩いたんか?」
「まぁ、買い物を手伝ってもらったからな」
「なんやて!?」
「せやったら、ウチらも行きたいわ―!!」
というわけで、一部メンバーからの連れてけ大合唱が始まったのである。
「ほな、ウチらがみんなの服、買うてきたるからな」
「兄やんがくれたファッション誌で勉強済みやから、心配せんといてや」
第一陣に選ばれたのはククココ姉妹とクロエの3人。
大下家が所有しているのは軽自動車なので、運転手である敏樹を加えれば定員いっぱいとなる。
できれば実家から離れた場所に行きたかったが、何往復もとなるとしんどいので、まずはこの3人で近所のショッピングモールへいくことになった。
ククココ姉妹もクロエも〈世渡上手〉の影響をほとんど受けておらず、外見はほぼ異世界のままである。
服装も地味めなので、日本には馴染みそうだった。
ドワーフであるククココ姉妹は一見すれば少女のようであり、メンバーの中では一番日本人に近い容姿の持ち主であるクロエと敏樹の4人が並べば、家族か親戚の集まりには見えるだろう。
「これがシーラので、これがメリダんの」
「お、これやったらベーやんも着れそうやな」
まずは衣料店をはしごし、メンバーの洋服を買っていく。
洋服の購入が一段落ついたところで、和食をメインに出す飲食店で定食を食べ、「ウチらまだまだ食えるでっ!!」と息巻くククココ姉妹の要望を受け、さらにフードコートでラーメンやたこ焼き、焼きそばなどを食べた。
「なるほど……粉モノというのも面白いですね……」
と、クロエはククココ姉妹から少しずつ分けてもらいながら、日本の料理を勉強していた。
およそ2時間ほどでガレージへ戻る。
「えー、これ着なきゃダメ?」
「さすがにシーラのファッションはこっちじゃ攻め過ぎだな。東京でも厳しいわ」
「だったらあたしはいいよ」
と、シーラは外出を拒否。
「わたくしも、この続きが気になるので……」
「ん、コイツを倒すまで動けない」
漫画とゲームに熱中しているメリダとライリーも外出をしないということなので、残るファランとベアトリーチェ、ラケーレの3人を連れていくことになった。
今度は実家から少し離れた繁華街にあるデパートへと向かう。
「すごーい! ひろーい!! きれー!!!」
デパートに着くなりファランは大はしゃぎである。
そんな彼女をなだめつつ、雑貨屋を中心に回っていく。
「ねぇねぇ、これいっぱい仕入れて父さんの商会で売っちゃダメ?」
「だめ」
「ちぇー。絶対儲かると思うんだけどなぁ」
ファランの要求を敏樹はバッサリと却下する。
敏樹にろくなスキルも潤沢な資産もなく、ただ異世界と実家を行き来するだけの能力があったのなら、ファランの思うような世界間貿易のようなことを考えたかもしれない。
しかし敏樹には山賊を相手にしても余裕で生き残るだけのスキルに、日本の平均的な生涯賃金を遥かに上回る資産があるので、無理をして金を稼ぐ必要がない。
下手に日本製の物品を異世界に流通させて変に目立つようなことはしたくないのだ。
「欲しいものがあるなら常識の範囲内で買ってやるから、自分なりに研究しろよ」
とはいえ、日本製の物を異世界に一切持ち込まない! という固い意志があるわけでもない。
実際、すでに生活用品の類いは集落にいくつも持ち込んでいるのだ。
大規模に流通させるつもりが敏樹にはないだけで、こちらの製品や料理などから何らかのインスピレーションを受けたファランやクロエが、その知識や知恵を使って異世界で何をしようと、そこまで干渉するつもりもなかった。
「じゃあ終わったら店内で待たせてもらえよ、迎えに来るから」
「あぃー、わかりまひたぁ……」
ヘッドスパをやってくれる美容院にベアトリーチェを放り込んだ敏樹らは、ホームセンターへと移動する。
「ふおおおっ!? これ全部洗剤ですかぁ!?」
洗剤コーナーで大興奮のラケーレであった。
美容院オリジナルのお高いヘアケア用品を買ってホクホク顔のベアトリーチェを拾い、デパートのそこそこ高いレストランで食事を終えた4人は、シーラたちのためにガレージへと戻った。
「よーし、じゃあ帰るぞー!!」
そして翌日、日本の街や娯楽を堪能した女性たちを連れて、敏樹は集落へと無事帰り着くのだった。
**********
出発を間近に控えたその日、敏樹はグロウとともに森の野狼アジト跡地へ来ていた。
敷地内のテントや家はすべて解体され、集落に持ち帰られており、ほとんど更地になっている。
その何もない敷地の中央部に、身ぐるみを剥がされた山賊たちの死体が積み上げられている。
「わざわざ付き合ってもらわなくてもいいんですけどね」
「いや、儂も立ち会うべきだろう」
山賊団の壊滅に関してはできるだけ秘匿するという方針なので、この死体も人目につかないほうがいいのだが、いつまでも〈格納庫〉に保存しておくのはあまり気分のいいものではない。
森の奥地に置き去りにすればいずれ魔物が処理してくれるのだろうが、日本人として“死んだらみんな仏さま”という考えが染みついている敏樹としては、いくら最低最悪の人間だったとしても死体に鞭打つようなことはしたくないのである。
しかし、家族を奪われた住人や、人生をめちゃくちゃにされた女性たちの前でその死体丁重に葬るわけにも行かず、人目につかず処理しようとアジトを訪れていた。
念のため長であるグロウにだけ許可を取るつもりで話したところ、彼も同席すると言い出したのだった。
「では、はじめます」
「うむ」
そう宣言したあと敏樹が軽く念じると、死体の山に青白い炎がぼうっと現われ、あっという間にすべての死体を包み込んだ。
この世界で死んだ者は一定の割合でアンデッドとして起き上がるので、基本的に死者は荼毘に付される。
火葬が一般的であると言うことは、それに特化した魔術もあるわけで、敏樹がいましがた使ったのは【葬火】という死体処理専用の魔術だった。
生きている者はに使っても生温かく感じられる程度のもので、アンデッドにすら効果がない青白い炎は、だがそうやって効果を限定することで、効率を大幅に上昇させることができるのだ。
生者にほとんど熱を感じさせない青白い炎は、ものの数分で約200体もの死体を灰に変えてしまった。
「ふぅ……。さて、ここをどうするかですが」
集落よりもひと回り広い土地である。
森の野狼はこの場所を裏でつながっている人物たちにも秘匿していたようで、いまのところこの場所を知るものは敏樹たち以外にはひとりもいない。
しかしいずれ街と集落の交易が再開され、人があの交易路を通るようになると、深い森を抜ける必要があるとはいえ交易路から半日の距離にある土地なので、誰かに見つかる可能性は高いだろう。
そしてまたよからぬ連中に占拠でもされようものなら、やっかいなことこの上ない場所だった。
「ふむう。まぁ集落から2日程度の距離だし、儂らでうまく使わせてもらおう」
「ああ、それがいいかもしれないですね」
後年、ここには集落と街とを行き来する人々のための宿場町ができることになる。
――そして出発当日。
集落を離れる敏樹とロロア、9人の女性たち、そして彼らを見送りに来た住人が、入り口近くに集まっていた。
「お祖父ちゃん、いってくるね」
「うむ。ロロアよ、気をつけてな」
「はい。伯父さん、それにみんな」
グロウの手を取って挨拶を済ませたロロアは、集落の入り口に集まった住人たちのほうを向いた。
「お世話になりました! 私、この集落で過ごせて、とても幸せでした」
住人たちの間から歓声が上がる。
「気をつけてなー」
「ロロアちゃん、怪我と病気に気をつけてね」
「たまには帰っておいでよ―」
住人たちからの激励を受けながら、ロロアは目に涙をためて深々と頭を下げるのだった。
敏樹は日本に残してきたシーラたちを連れ戻すため、ガレージに転移した。
今回、ロロアはついてこなかった。
集落のみんなとゆっくり過ごしたいのだそうな。
「連れてってー! ボクも町に行きたーい!!」
ガレージを訪れた敏樹の背中へおぶさるように、ファランがしがみついてくる。
「連れてけー!」
「ウチらも連れてけー!!」
さらに、左右の足にはククココ姉妹がしがみついていた。
ことの発端は、ロロアの穿いていたレギンスである。
「なぁ兄やん、ロロアんが穿いとったあの黒いのんなに?」
「あれ? あれはレギンス……だったかな?」
「ふーん。ロロアんあんなん持ってたっけ?」
「あー、こっちじゃ生足だとちょっと目立つんだよ。だから買ってやった」
「……っちゅうことは、ロロアんニホンの街中歩いたんか?」
「まぁ、買い物を手伝ってもらったからな」
「なんやて!?」
「せやったら、ウチらも行きたいわ―!!」
というわけで、一部メンバーからの連れてけ大合唱が始まったのである。
「ほな、ウチらがみんなの服、買うてきたるからな」
「兄やんがくれたファッション誌で勉強済みやから、心配せんといてや」
第一陣に選ばれたのはククココ姉妹とクロエの3人。
大下家が所有しているのは軽自動車なので、運転手である敏樹を加えれば定員いっぱいとなる。
できれば実家から離れた場所に行きたかったが、何往復もとなるとしんどいので、まずはこの3人で近所のショッピングモールへいくことになった。
ククココ姉妹もクロエも〈世渡上手〉の影響をほとんど受けておらず、外見はほぼ異世界のままである。
服装も地味めなので、日本には馴染みそうだった。
ドワーフであるククココ姉妹は一見すれば少女のようであり、メンバーの中では一番日本人に近い容姿の持ち主であるクロエと敏樹の4人が並べば、家族か親戚の集まりには見えるだろう。
「これがシーラので、これがメリダんの」
「お、これやったらベーやんも着れそうやな」
まずは衣料店をはしごし、メンバーの洋服を買っていく。
洋服の購入が一段落ついたところで、和食をメインに出す飲食店で定食を食べ、「ウチらまだまだ食えるでっ!!」と息巻くククココ姉妹の要望を受け、さらにフードコートでラーメンやたこ焼き、焼きそばなどを食べた。
「なるほど……粉モノというのも面白いですね……」
と、クロエはククココ姉妹から少しずつ分けてもらいながら、日本の料理を勉強していた。
およそ2時間ほどでガレージへ戻る。
「えー、これ着なきゃダメ?」
「さすがにシーラのファッションはこっちじゃ攻め過ぎだな。東京でも厳しいわ」
「だったらあたしはいいよ」
と、シーラは外出を拒否。
「わたくしも、この続きが気になるので……」
「ん、コイツを倒すまで動けない」
漫画とゲームに熱中しているメリダとライリーも外出をしないということなので、残るファランとベアトリーチェ、ラケーレの3人を連れていくことになった。
今度は実家から少し離れた繁華街にあるデパートへと向かう。
「すごーい! ひろーい!! きれー!!!」
デパートに着くなりファランは大はしゃぎである。
そんな彼女をなだめつつ、雑貨屋を中心に回っていく。
「ねぇねぇ、これいっぱい仕入れて父さんの商会で売っちゃダメ?」
「だめ」
「ちぇー。絶対儲かると思うんだけどなぁ」
ファランの要求を敏樹はバッサリと却下する。
敏樹にろくなスキルも潤沢な資産もなく、ただ異世界と実家を行き来するだけの能力があったのなら、ファランの思うような世界間貿易のようなことを考えたかもしれない。
しかし敏樹には山賊を相手にしても余裕で生き残るだけのスキルに、日本の平均的な生涯賃金を遥かに上回る資産があるので、無理をして金を稼ぐ必要がない。
下手に日本製の物品を異世界に流通させて変に目立つようなことはしたくないのだ。
「欲しいものがあるなら常識の範囲内で買ってやるから、自分なりに研究しろよ」
とはいえ、日本製の物を異世界に一切持ち込まない! という固い意志があるわけでもない。
実際、すでに生活用品の類いは集落にいくつも持ち込んでいるのだ。
大規模に流通させるつもりが敏樹にはないだけで、こちらの製品や料理などから何らかのインスピレーションを受けたファランやクロエが、その知識や知恵を使って異世界で何をしようと、そこまで干渉するつもりもなかった。
「じゃあ終わったら店内で待たせてもらえよ、迎えに来るから」
「あぃー、わかりまひたぁ……」
ヘッドスパをやってくれる美容院にベアトリーチェを放り込んだ敏樹らは、ホームセンターへと移動する。
「ふおおおっ!? これ全部洗剤ですかぁ!?」
洗剤コーナーで大興奮のラケーレであった。
美容院オリジナルのお高いヘアケア用品を買ってホクホク顔のベアトリーチェを拾い、デパートのそこそこ高いレストランで食事を終えた4人は、シーラたちのためにガレージへと戻った。
「よーし、じゃあ帰るぞー!!」
そして翌日、日本の街や娯楽を堪能した女性たちを連れて、敏樹は集落へと無事帰り着くのだった。
**********
出発を間近に控えたその日、敏樹はグロウとともに森の野狼アジト跡地へ来ていた。
敷地内のテントや家はすべて解体され、集落に持ち帰られており、ほとんど更地になっている。
その何もない敷地の中央部に、身ぐるみを剥がされた山賊たちの死体が積み上げられている。
「わざわざ付き合ってもらわなくてもいいんですけどね」
「いや、儂も立ち会うべきだろう」
山賊団の壊滅に関してはできるだけ秘匿するという方針なので、この死体も人目につかないほうがいいのだが、いつまでも〈格納庫〉に保存しておくのはあまり気分のいいものではない。
森の奥地に置き去りにすればいずれ魔物が処理してくれるのだろうが、日本人として“死んだらみんな仏さま”という考えが染みついている敏樹としては、いくら最低最悪の人間だったとしても死体に鞭打つようなことはしたくないのである。
しかし、家族を奪われた住人や、人生をめちゃくちゃにされた女性たちの前でその死体丁重に葬るわけにも行かず、人目につかず処理しようとアジトを訪れていた。
念のため長であるグロウにだけ許可を取るつもりで話したところ、彼も同席すると言い出したのだった。
「では、はじめます」
「うむ」
そう宣言したあと敏樹が軽く念じると、死体の山に青白い炎がぼうっと現われ、あっという間にすべての死体を包み込んだ。
この世界で死んだ者は一定の割合でアンデッドとして起き上がるので、基本的に死者は荼毘に付される。
火葬が一般的であると言うことは、それに特化した魔術もあるわけで、敏樹がいましがた使ったのは【葬火】という死体処理専用の魔術だった。
生きている者はに使っても生温かく感じられる程度のもので、アンデッドにすら効果がない青白い炎は、だがそうやって効果を限定することで、効率を大幅に上昇させることができるのだ。
生者にほとんど熱を感じさせない青白い炎は、ものの数分で約200体もの死体を灰に変えてしまった。
「ふぅ……。さて、ここをどうするかですが」
集落よりもひと回り広い土地である。
森の野狼はこの場所を裏でつながっている人物たちにも秘匿していたようで、いまのところこの場所を知るものは敏樹たち以外にはひとりもいない。
しかしいずれ街と集落の交易が再開され、人があの交易路を通るようになると、深い森を抜ける必要があるとはいえ交易路から半日の距離にある土地なので、誰かに見つかる可能性は高いだろう。
そしてまたよからぬ連中に占拠でもされようものなら、やっかいなことこの上ない場所だった。
「ふむう。まぁ集落から2日程度の距離だし、儂らでうまく使わせてもらおう」
「ああ、それがいいかもしれないですね」
後年、ここには集落と街とを行き来する人々のための宿場町ができることになる。
――そして出発当日。
集落を離れる敏樹とロロア、9人の女性たち、そして彼らを見送りに来た住人が、入り口近くに集まっていた。
「お祖父ちゃん、いってくるね」
「うむ。ロロアよ、気をつけてな」
「はい。伯父さん、それにみんな」
グロウの手を取って挨拶を済ませたロロアは、集落の入り口に集まった住人たちのほうを向いた。
「お世話になりました! 私、この集落で過ごせて、とても幸せでした」
住人たちの間から歓声が上がる。
「気をつけてなー」
「ロロアちゃん、怪我と病気に気をつけてね」
「たまには帰っておいでよ―」
住人たちからの激励を受けながら、ロロアは目に涙をためて深々と頭を下げるのだった。
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