【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第6話『おっさん、詳しく確認する』

「さて、ひと眠りしたことだし、いろいろ確認しとこうか」


 数時間ほどで目を覚まし、かなり頭がすっきりしてきたので、敏樹はタブレットPCで『情報閲覧』を起動した。


「で、結局背中の傷が消えたのはなんでだ?」


 すると、画面上にその回答が表示された。
 意思を反映して動くタブレットPCである。音声認識ぐらいはあってもおかしくないだろう。


《スキル〈無病息災〉の効果により回復したため》


「ああ、やっぱり。ってか、あの説明ざっくりしすぎてわからんのだけど、俺にわかるように説明出来る?」


《……HP、MPを自動回復し、あらゆるステータス異常を無効化する》


「わかりやすっ!! んで、やっぱ効果すごいな。一応確認しとくけど、HPは“ヒットポイント”、MPは“マジックパワー”って認識でいい?」


《問題ない》
「それぞれ0になるとどうなる?」


《HPが0になると死亡、MPは0になると気絶する。ただし、減少に応じて身体および精神に異常をきたす。HP、MP減少に由来する状態異常に関しては〈無病息災〉のステータス異常無効化の対象外》


 HPが減少するというのは怪我をしたり疲れたりしたときであろう。
 であれば怪我や疲労に応じて体調が悪くなるのはごく自然のことであり、MPにおいても同様のことが起こると考えておけば問題あるまい。
 瀕死の重傷を負っていながら、死んでさえいなければ万全の状態で行動できるなどということは現実的ではないのである。
 その他いくつか判明したことだが、〈無病息災〉での回復に必要なエネルギー源は、まず食事で摂取したエネルギーが優先的に消費され、続いて身体に蓄積された余分なエネルギーが消費される。
 ただし、オートファジーが発動するような飢餓状態はステータス異常に相当するので、そこまでくるとあとは空間を漂う魔力を取り込み、エネルギー源とするようである。
 なら最初から魔力を取り込めば食事も不要であろうと思われるが、《活動エネルギーは食事からとるのが望ましい》というのが『情報閲覧』による回答であった。また《空腹時に空腹感を覚えるのは“正常”な状態》とのことで、食事をとらなくても活動に問題はないが、空腹感は永遠に消えないのがデメリットといえばデメリットだろうか。


「あ、HP、MPの回復のペースってどんな感じ?」


《通常時は1分に1パーセント、空腹時は2~3分に1パーセント、飢餓寸前の状態で5分に1パーセント》


「なるほど、食事量が少ないと回復のペースがおちるのか……。それもデメリットっちゃあデメリットだな。じゃあ他のことも確認しとこうか」


 〈格納庫〉で『調整』や『修繕』を使用した際に疲労感を覚えた件だが、これに関してはやはりというべきか〈格納庫〉でのものの出し入れや、『調整』など収納物に対する各作業にはMPが必要らしい。
 物理的に困難な作業ほどMP消費量は増えるようで、分子レベルで汚れを除去するなどという行為に一体どれほどの魔力が消費されたのか、確認するのも恐ろしいところである。
 〈影の王〉を発動した状態でやたら疲労を覚えたのも同じような理由であり、〈格納庫〉と違ってこちらはHP、MPとも消費するようであった。


「まぁあの至近距離でまじまじと見られても気付かれないスキルだもんな。そうほいほい使えるようなもんじゃないか」


 また、スキルレベルを2から変更できなかったのは、そのスキルレベルに応じた能力や経験を得ていなかったからだということも判明した。
 〈影の王〉をレベルアップ出来たのは、おそらく必死でゴブリンから身を隠したことが経験となったのだろう。
 しかしレベル3に至るほどの経験はまだないということで、レベルを3以上に変更できなかったというわけだ。
 最初からレベルマックスでスキルを習得できるなどという都合のいいことはないらいしい。


「とりえずいくつかスキルを覚えといた方がいいのか?」


 そう思いつつ、敏樹はタブレットPCにて『スキル習得』の画面をだした。


「ってか、俺ってあとどれくらいスキルを習得できんの?」


 そう考えると、スキル一覧の左上のほうに表示されている数字が明滅した。


「……もしかして、これがスキルポイント的な?」


 そう考えた時点で明滅が止まったので、どうやらその認識で間違いないようである。


「いちじゅうひゃく……うへぇ」


 15億の初期ポイントが、ベリーハード選んだことで100倍になり、そこからいくつかスキルを習得したせいで減ってはいるが、それでも1300億ポイント以上のこっていた。


 それが多いのかどうかを判断するために、いくつかのスキル習得に必要なポイントを確認したところ、基本スキルで1万~10万ポイント必要であることが多く、上位スキルと思われるものは100万を超えることもあるようだ。
 むろん、膨大なポイントが必要なレアスキルとでもいうべきものもいくつかあり、敏樹が習得しているものでいうと、〈影の王〉が1億ポイント、言語理解は10億、〈格納庫〉〈無病息災〉はそれぞれ100億であった。


「桁違いってのはまさにこのことだな」


〈言語理解〉に関してはいまだお世話になる機会はないものの、その他のスキルに関してはその効果に鑑みると納得の消費ポイントである。


「しかし、1000億あって習得できないスキルってあるのかね」


 そう思った敏樹は、スキル一覧を所要ポイントの多い順で並べ替えてみた。


10兆
□ 死に戻り


1兆
□ 復活
□ 国士無双


5000億
□ 武神
□ 賢神
□ 王者の風格


1000億
□ 管理者用タブレット


100億
□ 格納庫ハンガー
□ 無病息災
□ 拠点転移
□ 座標転移
□ 全魔術


10億
□ 言語理解
□ アイテムボックス


「10兆って……。どうやってためればいいのやら」


 一通り高ポイントスキルを確認した敏樹は、スキル一覧を通常画面に戻したあと、この先この森で生き抜くために必要なスキルをいくつか習得し、携行食で簡単な食事を済ませた。


**********


 敏樹は肩に担いだトンガの柄に右手をかけ、左手にタブレットPCを持ちながら森の中を慎重に歩いていた。
 この森で生き延びるにあたり、非常に重要となるであろう拠点を手に入れた敏樹は、さらに必要なものを手に入れるために森を歩いている。ちなみにあの洞穴だが、あのあたりの岩や地面に魔物がを寄せ付けないいくつかの鉱石を含んでおり、さらに魔物が嫌う植物がうまい具合に生えているというなんともありがたい仕様であった。
 なので、あの洞穴を基点として森を探索し、必要なものを集めたり習得したスキルを鍛えたりするというのが今後の彼の基本方針となるだろう。


 敏樹が考えるに、最低でもあとふたつ、必要なものがあった。


 まずは食料。
 〈格納庫〉内にはまだかなりの携行食があるものの、それだけでしのいでいけるとは考えられない。
 〈無病息災〉のおかげで疲れ知らずな上、万一の怪我もすぐ治るのだが、そのぶん消費カロリーがとんでもないことになっているのだ。
 今後どれほどの食料が必要になるのか、いまのところまだ見当がつかない状態である。


 もうひとつは魔物との戦闘である。
 あの洞穴周辺が例外なだけで、この森にはかなりの数の魔物が生息していることを、敏樹は『情報閲覧』で確認していた。
 ここから最も近い集落であっても徒歩でひと月はかかりそうな距離があり、森を出て平原に出るにしてもおなじくらいの距離があった。
 平原に出たからといって魔物の脅威が消えるわけでもないので、まずは近くの集落を目指すというのが最初の目標になりそうではあるが、そのためには魔物がひしめくこの森を進む必要がある。
 〈影の王〉を使いながら逃げ隠れしてたどり着ける距離ではなく、となればここはある程度力ずくで通り抜けるしかないのであった。


「この山菜は……お、食えるな。あ、こっちの木の実はさっき見たやつで……オッケー」


 敏樹は片手に持ったタブレットを時たま起動し、目についた植物や木の実、果物を見つけては『情報閲覧』を立ち上げ、カメラ―モードで食用に足るものかどうかを確認していた。
 タブレットPCを『情報閲覧』モードで起動したまま歩き回ったほうが効率が良さそうに思えるが、残念ながらバッテリーの問題があり、そのバッテリーは、敏樹のHPとMPに連動しているのだった。
 通常起動している場合はHPのみが消費され、『情報閲覧』を起動した場合、さらにMPが消費されるという仕様である。
 これに関しては『このタブレットについて』という項目から確認しており、〈無病息災〉の効果とは関係なく、1分に1パーセントのHP、およびMPが消費されるということだった。
 ただし、HPが30パーセントを切ったところで起動不可となるらしく、『情報閲覧』もMPが30パーセントを切ったところで使用できないということがわかった。
 一応1時間強の連続使用は可能だが、そこまで行くと何らかの体調不良が発生している可能性が高いので、30分以上の連続使用はできるだけひかえるよう心がけていた。
 消費したHP、MPに関してはタブレットPCを閉じさえすれば〈無病息災〉の効果で自動回復するので、ある程度インターバルを置けば行動に支障はない。


 肩に担いだトンガであるが、それは先ほどまで持っていた物と形状が変わっていた。
 先ほど無我夢中で繰り出したトンガでの突きだが、それなりのダメージを与えられはしたものの、倒すには至らなかった。


「槍みたいに出来ないかなぁ」


 柄の先端に槍ののような刃がついていれば、刺突や斬撃といった攻撃が出来るのではないかと、敏樹は考えたのである。
 そして試行錯誤した結果、調理道具の中に含まれていた刺身包丁をトンガの柄の先端に取り付けることで、槍のような機能を持たせようと思いついたのだった。
 〈格納庫〉内に結束バンドや両面テープ、接着剤があったので、それらを使って刺身包丁を固定し、試しに素振りをしたり、近くの草を切ったり木を突いたりしてみたところ、なんとか使用に耐えそうだったので、げきに見えなくもない形状から敏樹はそれをトンガ戟と名付け、携行していたのだった。



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