自宅遭難

ねぎたま

第1話 繰り返す夜

遭難1日目。
目が覚めた。あたりは暗かった。
夜中だよな?
遠くで自動車が水溜りを切る音が聞こえる。
ベット脇に携帯電話が置いてあるが、腕が動かない。
全身に痺れがある。
頭の奥がビリビリと痺れている。
熱中症?
連続した思考ができず、眠りに落ちた。



遭難2日目
目を覚ますと夜だった。
トイレに行きたい...
お腹が空いた。
喉が乾く。
まだ体が動かない。
すべてを我慢し、具合の悪さを糧に寝ることにした。
今はベッドの上に居られるだけで幸せだ。


夢を見た。
母親を殺す夢だった。
私は商人の子として産まれ、山中を一家で越えている所で山賊に襲われた。
父は山賊に殺され、母はまだ幼い私を庇い、命乞いをした。
命乞い対し、山賊から出した提案。
私が母親を殺せば、息子は助ける。
私は刀を山賊から渡され、自分の母親に向かって刀を振り下ろした。
幼い私は刀を持つことで精一杯だった。
一度では切れず、何度も母親を苦しめてしまった。
最後は山賊に手を貸してもらい、高いところから剣を母親の首に落とした。
母親が死んだ後も私は刀を何度も叩きつけ、首が落ちた所で山賊に振り向き「これでいい?」と、聞いた。



遭難3 日目。
目を覚ますと夜だった。
肩は動かないが、手首とヒジが動くようになった。
肘を支えに身体をよじり、全身の痛みと格闘の末、携帯電話を手に取る。
着信履歴53件。ふぁ?!
無断欠勤繰り返していたし、そんなもんか。
留守電も入っているが、再生している途中で寝てしまった。
今思えは119番に救助要請をすれば良かったのに、この時はまともな思考が出来なくなっていた。
また、明日には良くなるかもしれない、こんなことで救急車を呼ぶのは恥ずかしいと思っていたのかもしれない。

夢を見た。
母親を殺す夢だった。
母親は殺される前に何かを言っていた。
何を言っていたかは思い出せない。
母親を殺した翌日、死んだ父親の髭が少し伸びていたのは覚えている。
山賊の親方に聞いたら、間違いなく死んでいると言う、



遭難4日目。
飢餓感が強く、焦燥感がある。
木の匂いがするが、理由はわからない。
食べるものが近くに無いか考える。
今思えば、病院で点滴をしていれば状況が変わったんじゃないかと思った。
糖尿病患者の居る病室じゃあるまいし、ベットの周りに食べ物なんかあるはずないよな。うな垂れる様に手をベットから落とした。

カサッ

指先が何かに触れた。
身体の痛みを無視して、手を伸ばしつかみとったものは飴だった。
体が栄養を欲している。
一刻も早くにと、袋ごと飴を口に入れ、噛み砕いた。
袋は多分、吐き捨てたと思う。


夢を見た
母親を殺す夢。
私が母親を殺す直前の映像が見える。

「絶対に生きなさい」

そうだ、生きるんだった。



遭難5日目。
ドアホンのチャイムが鳴った気がした。
眠い。
体がベットと同化したんじゃないかと思うほどに体が動かない。


夢を見た
私は母親を殺した後、山賊の仲間になった。
人を殺し、奪う事で生きた。
生きるため、がむしゃらに訓練をした。
そうだ、生きる為に強くなるんだ。
躊躇なく人を殺すわたしは強くなったつもりでいた。



遭難6日目。
空腹を感じなくなった。
小さな音がよく聞こえる。
遠くで子供が話をしている内容まで聞こえる気がする。
子供がすぐ近くに居るような気がして、声を出そうとしたが、寝てしまっていた。

またチャイムが鳴った様な気がする。
玄関の向こうに向かって声を出そうとしたが、声にならなかった。
疲れと眠気が全てを塗りつぶした。


夢を見た
私の山賊稼業は廃業となった。
山賊を辞め、とある人の護衛になったのだ。
とある人?
誰だったっけ。
大切な人。とてもとても大切な人。
大切な人を守って、私は死んだ。

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