スキルイータ

北きつね

第百七十五話


 72階層に降りた俺達は笑顔に包まれている。
 階層がまた森フィールドなのだ。

 それも、植生が違うようだ。
 リーリアとステファナとオリヴィエが確認したので間違いはない。

 そして、カイとウミとエリンからは魔物が71階層と同じだと報告が上がってくる。

 そうなると、やる事は変わらない。
 根こそぎ採取する。

 シロが積極的だ。
 今回はシロに任せる事にした。恥ずかしい思いをした事への鬱憤を晴らしたいのだろう。生理現象だししょうがないとは思うけど、やはり恥ずかしいのだろう。そんな事もあり、シロとウミとエリンとリーリアとステファナとレイニーとアズリとエーファとライで森の中を縦横無尽に駆け巡っている。

 俺とオリヴィエは、拠点づくりをしている。
 トイレは少し離れた場所に設置している。近づいてくる魔物は、カイに率いられたレッチェとティアとティタとレッシュとエルマンとエステルが対応している。

 拠点の位置は、4日目には73階層の階段前に移動している。
 これでいつでも下層に移動できる。

 72階層には結局合計7日ほど滞在した。
 かなり珍しい物が採取できたと、リーリアが喜んでいた。

 俺も、シロたちが採取してきた物を確認した時に、俺としても嬉しいと思えた。
 内容を聞けば、ナーシャが泣いて喜びそうな物だ。多分、カトリナ辺りからもいろいろ言われそうな物だ。取り扱いには注意が必要だけど、サトウキビが見つかった。

 そして、多分だけど・・・サンシュユの木が有ったようだ。
 似たような物だと思うけど、赤い実には見覚えがある。生前?に、ジャ○ボエン○ョー(サイレントヒル県に住んでいないと知らないだろうから解説しておくと、DIYホームセンターである)で見た事がある。
 枝を持ってきてもらって、シロたちが探索に出かけている間にヨーグルトを作ってみた。作るためのスキル道具も開発した。
 ダンジョンの中で行う必要はないとは思っていたが、なんとなく帰ってくるのを待っているだけなのも退屈に思えてきたので、材料が用意できる間にやっておこうと思ったのだ。
 無事にヨーグルトができた。サンシュユとは違ったが、サンシュユと認識して、持って帰る事が決定した。

 ヨーグルトができた事で、デザートだけではなく、料理の幅が広がる!

 また香辛料も見つかっている。知らない種類もあるので、都度確認していく必要があるが、これでカレーに手が届くかもしれない。

 どんどん攻略が遅くなる。
 結果的に、街に帰るのがどんどん遅くなる。

 73階層と74階層と75階層でも同じ状況になってしまっている。
 そして、すでに1ヶ月以上が経過している事になる。たった15階層を降りるのに1ヶ月掛かっている。全部自分たちが悪いのだけど頭が痛くなる成果だ。整理が大変になる。食べられる魔物で、味が良かった魔物を隷属して、家畜化するための準備もおこなっている。ライに眷属を呼び出してもらって、隷属した魔物を低階層まで移動してもらった。

 さすがに、皆がまずいと思い始めたが、階層ごとに植生を変えるにくい演出のために、76階層からも同じことになってしまっている。

 夜になって採取から戻ってきた、シロと一緒に風呂に入る。

「カズトさん。僕」
「どうした?」
「・・・。あの、その・・・」

 また便秘か?
 違うよな。トイレは作ってあるからな

「どうした?」

 恥ずかしそうに告げられたのは確かに言いにくいだろうな。
 小さいナイフが欲しいという事だ。気にしていなかったのだが、こちらの女性・・・違うな、アトフィア教の女性は、髪の毛以外の毛は剃るか抜くのが当然だと教えられているそうだ。人族至上主義なために、人族とエルフ族以外は体中に毛が生える。そのために、特に女性は髪の毛以外の毛が生えるのを忌避するのだという事だ。気にしてもしょうがないとは思うが、染み付いた価値観なのだろう伸びてくると剃りたくなってしまうそうだ。
 シロは種族が変わってから、髪の毛以外の毛の伸びが鈍化したが少し伸びてきているので剃りたいという事だ。
 剃ってやろうかとはいえないので、シロの要望を聞いてナイフを作る事にした。

 ステファナとレイニー以外の者は必要ないと言われた。擬態とは違うが人化しているので、その辺りも自由自在だと言っていた。便利だな。

 ステファナとレイニーにもシロと同じナイフを渡している。意匠の違いはあるが同じ物だ。
 翌日の風呂で先に出て欲しいと言われて、風呂にシロを残した。俺が出たタイミングで、ステファナとレイニーが風呂に入っていく、シロを手伝うようだ。30分くらいしてから満足した表情でシロがテントに入ってきた。

「カズトさん!」
「おかえり。満足したみたいだな」
「はい!それから、ステファナとレイニーにもナイフをありがとうございます」
「いいよ。必要なのだろう?気が付かなくてごめんな」
「いえ、僕たちのためにありがとうございます」
「シロ。俺は、お前が大事だ」
「・・・。はい」
「そんな大切な人からのお願いを叶えただけだからな。お礼は必要ないよ」
「うん!」

 急に子供っぽくなって抱きついてきた。
 こいつまた下着を付けてないな。突っ込んだら負けになるような気がしているのでスルーするが、足に当たる感触がはっきりとしている。

「そうか、シロ。そろそろ、誕生の日だよな」
「僕?うん。だけど・・・。イヤだな・・・」
「え?」
「だって、今はカズトさんと同じ年齢だけど、誕生の日を過ぎたら年上になっちゃうから」
「ハハハ。シロ。気にしなくていい。今は確かに1歳は大きいかもしれないけど、これから一緒に居て、70年後には86歳と87歳だし、これが100年後ならもう誤差の範疇だろう?」
「え?あっそうです!僕。カズトさんと一緒に・・・」
「そうだな。これからも一緒に年齢を重ねていこうな」
「はい!」

 最近なにやら考えていたのはこれだったのかもしれない。

 今日は、負けるのを覚悟で聞いておくか?
「なぁシロ」
「はい?」
「なんで、下着を付けていない?」
「え?あっあの・・・僕、いつでもカズトさんが・・・。あの・・・」
「シロ?」
「だって、触ってもくれないから、僕、魅力が足りないのかと・・・。それで・・・」
「リーリアか?ステファナという事は無いだろう?レイニーも違うだろうからな?あっアズリか!」

 ビクッとシロが身体を強張らせる。
 アズリで正解な様だ。

「僕・・・」
「シロ。俺は、シロが嫌いで抱いていないわけじゃない。それはわかってくれるよな?」

 コクンとうなずく。
 あざといくらいに可愛い。

 シロが着ている、すでにかなりの部分がはだけてしまってる、温泉浴衣の帯を外す。

「こんなにも綺麗な身体をみたら我慢できなくなる」

 シロの透き通る肌が目の前にある。
 俺の身体を跨いでいる格好になっている。全部見えているが、今日は恥ずかしそうにしない。

「僕」
「シロ」

 腰に手を廻して、シロを抱きしめる。
 腕で手で肌でシロを感じる。シロの甘美な匂いが鼻孔を擽る。

「カズトさん。僕、ごめんなさい」
「いいよ。どうした?何を焦っている?」
「僕、焦って・・・。うん。多分、焦っている」
「どうして?」

 うーん。
 こればっかりは、俺にはわからない。
 シロの言い分をそのまま信じると定期的に不安定になって、俺が欲しくなってしまうのだと言っていた。自分の気持ちに気がついてから毎月この衝動が有るのだと泣きそうな声で告白してきた。

「シロ。いいよ。俺が全面的に悪かった」
「違う。僕、カズトさんから必要とされたいだけ、僕の気持ちを、カズトさんに押し付けただけ」
「シロ。それは俺も同じだ。だから、折衷案になるかわからないけど、俺の提案を聞いてくれるか?」

 簡単な事だ。
 俺がシロを慰める。それだけの事だが、シロが今まで隠していた事でもあるし、受け入れるのは難しいかもしれない。

 と、思ったがシロはすんなりとこの提案を受け入れた。
 ただ、テントには結界と障壁と防壁を展開して欲しいと言われた。声を気にしたのかと思った。正しかった。シロが俺に触られながら身体をくねらせて、大きな声を出している。今まで、俺の横で自分でしていた時とは違うようだ。

 声を感情を快楽を我慢しなくてよくなったのだと感じてくれているようだ。
 そして触られる事で、必要とされていると感じる事ができるようだ。

 果てるまで触った。シロは腕の中で寝るのを好んだ。毎日ではなく、数日起きに行うことになった。
 こうして徐々に既成事実が積み重ねられていくのだろう。不快な感じはしない。ただ、俺の精神力が持つのかが心配なだけだ。

 腕の中で全裸で寝るシロを抱きしめながら眠る。

 やっと80階層の階層主の前までたどり着いた。
 ”やっと”という表現が正しいか正直わからない。すでに予定していた2ヶ月を超過している。そろそろ3ヶ月近くなる。
 あまりにも、森ステージが採取の場として優秀だった。当初、ライの眷属達を呼び出して採取をお願いしようと思ったのだけど、リーリアに止められた。理由は簡単だった。植生がわからないので、明確な指示が出せないという事だ。

 まぁ気にしてもしょうがないだろう。
 それに、洞窟の部屋ほどでは無いが、移動式の拠点も改良が進んでかなり快適に過ごせるようになってきている。キッチンも充実させた。せっかく森の恵みを採取しているのに使わないのがもったいないからだ。

 キッチンの充実が攻略速度の低下の一因なのだ。
 採取した物で食べられそうな物に関しては、料理をしたり確認したりしている。確認の結果で必要だと認められれば採取乱獲が始まる。必要ないだろうと判断した物でもサンプルとして、ある程度の量が必要になってしまう。使いみちがない物はなさそうだ。サンプルとして持ち帰って、研究したり、実験したりする必要がある。

 今日シロたちが帰ってきたら、階層主の部屋に明日入る事を宣言する。

 オリヴィエが作った夕飯を食べながら、階層主への対応を協議する。
 話せる事は少ない
「それじゃ、明日は、俺とシロとカイとウミとエリンとアズリが先に入る。その後は、ステファナとレイニーが続くで問題ないな」

 スキルの詠唱が必要な眷属は新しく眷属になった者だけで、それ以外は実は詠唱の必要性はない。スキル名を唱えれば発動する。前回は、あえて詠唱してみた。これで対策を取られたら、何らかの方法で俺達の事を監視していると思って間違いがない。

『カズ兄。明日だけど、オリヴィエとリーリアを先に連れて入って!?』

 珍しく、ウミから話しかけられた。

「ん?ウミ。どういう事?」
『主様』
「ん?カイ。何か知っているのか?」
『はい。ウミが言うには、オリヴィエにも戦わせておくほうがいいという事です』
「あぁそういう事か?オリヴィエ。カイとウミがそう言っているけどどうする?最初に入っても、途中で入っても同じかもしれないけど、先に入る?」
「ご命令ならば」
「違う。違うよ。オリヴィエの考えを聞いているの?」
「・・・はい。カイ兄様とウミ姉様のおっしゃっている様に、戦っていませんので、戦いたく思います」
「そうか、わかった。それじゃ明日は、俺とシロとオリヴィエとリーリアとエリンとアズリが先に入るでいいよな」

 皆がうなずく
 基本方針はこれで決まりでいい。これ以上は決める事ができないのも事実だ。

 階層主で何の魔物が配置されているのかがわからないからだ。

「よし、明日に備えて解散。各自しっかり休むように!」
 ”はっ”

 返事が帰ってくる。
 夕ご飯を食べたばかりだから、少ししてから風呂に入って寝る事にしよう。

「旦那様」
「ん?」

 今日は珍しい。
 ステファナから話しかけられた

「奥様の事なのですが?」
「シロがなにかした?」
「いえ、違います。また、無理をされ始めていまして、旦那様から言っていただければと思います」
「無理?・・・・・。あっそうか、わかった。気が付かなかったよ。ありがとう」
「いえ、私は奥様の従者です」
「そうだな。でも、ありがとう」
「はい」

 ステファナが風呂の準備に戻っていく。
 洗い物を手伝っていたシロが戻ってきた。

「シロ」
「はい?」
「また、スキル体調管理を使っているだろう?」
「え?」
「シロ!」
「ごめんなさい」

 ふぅ
 少し落ち着こう。

「シロ。次に同じ事をしたら、しばらくは風呂にも一緒にも寝ないからな」
「え?はい」

 うなだれるシロの髪の毛を”ワシャワシャ”する。

「シロが何を考えて、スキル体調管理を発動したのかわからない。わからないけど、無理だけはしないで欲しい。俺は、シロを失いたくない」
「はい」
「可愛い。可愛い。俺の奥様。理由は、お風呂か布団の中で聞きますからね」
「え?・・・・。はい」

 予想通りの事を、顔を真赤にして、耳まで・・・どころではなく、身体中が真っ赤になっているのではないかと思えるくらいに赤くなって、一言だけ
「触ってほしかった」

 と言われたときには、不覚にも押し倒したくなってしまった。押し倒しても、シロは受け入れてくれるだろう。
 この状況ダンジョン内では俺もシロも歯止めが効かない状況になってしまうのは問題がある。
 セーフエリアにしていると言っても何が発生するかわからない。こんな状況でやろうとは思わない。

 明日の事もあるので、今日はキスだけして抱きしめて眠る事になった。

「旦那様。旦那様」
「お、レイニーおはよう」
「おはようございます」

 俺のことを起こす役目が、オリヴィエからステファナかレイニーに変わった。
 シロが全裸で寝る事が多くなったのも理由なのだが、オリヴィエが全体の仕切りをするようになったために、自然と朝はステファナかレイニーに頼ることが多くなっている。

 シロは下は履いているが、温泉浴衣の帯だけの状態になって、俺に抱きついて寝ている。
「シロ」

 シロの頭を軽く触る。

「うぅーん」
「おはよう。朝だよ。服着て、食事にしよう。レイニーが来ているから、ステファナが朝食を作っているのか?」
「旦那様。奥様。朝食は、リーリアがアズリに教えながら作っています」
「そうか、ありがとう。シロ。目が覚めたのなら起きろよ」
「うーん。あと少しだけ・・・」
「レイニー。シロの服を持ってきてくれ、強制的に起こすからな」
「はい!」

 こうして、俺達は80階層の階層主に挨拶をする。
 最終準備に取り掛かる。まずは、朝食をとってから、お腹を落ち着かせて、武器の確認を行って、手順を確認する。
 慣れては居るが、手を抜かない。自分の命ではなく、仲間の命がベットされるギャンブルなのだ。
 万全だと思った状態から、さらに確認してから挑む事にする。

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