スキルイータ

北きつね

第百四十七話


「ツクモ様」
「ファビアン。待たせてしまったようだな」
「いえ、大丈夫です」

 辺りを見回すが、つけられている様子はない。
 俺たちだけではなく、ファビアンも誰にも後をつけられていないようだ。

「マスター!」

 オリヴィエが俺の前に剣を持って飛び出す。
 肩に手をおいて
「大丈夫だ。だろう?」

「怖い。怖い。これでも俺の全力だったのだけどな」

 そう言って建物から男が出てきた。
「ファビアン。この弱そうな男は?」

「言ってくれるな、坊や!」
「全力でその程度なら、怖くもなんともないからな。これなら、55階層のギガントミノタウロスの方が強そうだからな」
「はぁ?何言っている?ギガントミノタウロス?おま、馬鹿じゃないのか?あんな化け物と比べるな。そもそも、人で勝てる者が居るとは思えないぞ?」
「簡単だったぞ?」
「おい。ファビアン。コイツ、頭がオカシイのか?」

 オリヴィエとライから確かな殺気が漏れる。
 シロも剣に手をかけている。

 3者を落ち着かせるために、一歩前に出る。
「ファビアン。コイツは?」

「ツクモ様。すまない。こいつはグラート。スラム街の本当の顔役です」
「ほぉそうなると、今回の案内人ってところか?」
「そうです。グラートも話をしただろう。この方が、ツクモ様だ。今日は連れていないが、とんでもない・・・え?そのスライムは?」
「あぁライか?見た鑑定のか?」

 ファビアンが少し頬をひくつかせながらうなずいている。

「どうした。ファビアン。確かに、ただのスライムには見えないけど、そんなになのか?」
「あぁグラート。お前、以前キングスライムと戦って生き残ったのが自慢だったな」
「今ならキングスライムなら倒せるぞ?」

 グラートが自慢そうに言っている。
 力こぶでも作りそうな印象だ。

「そうか、それじゃ、ライ殿に絶対に手を出すなよ」
「だから、なんでだよ?強そうだから進化後のスライムだろう?カラー持ちか?」
「ツクモ様。よろしいですか?」

「あぁ馬鹿グラートに教えてやれよ。あぁ今、スキルも見えるようにしたからそれを見てからでもいいぞ」
「え?隠蔽ではなかったのですか?」
「スキル偽装だな」
「え?」

 ファビアンの目が何かを諦めた人の目になっている。
 それほどでも無いと思うけどな。

「おい。ファビアン。教えろよ」
「後悔するぞ?」
「このまま教えられないほうがモヤモヤする」

// 名前:ライ
// 種族:イリーガル・グレート・キング・スライム
// 固有スキル:超巨大化
// 固有スキル:次元収納
// 固有スキル:融解
// 固有スキル:分裂
// 固有スキル:物理攻撃吸収
// 固有スキル:スキル攻撃半減
// 固有スキル:状態異常無効
// スキル枠:念話
// スキル枠:スキル弾
// スキル枠:眷属化
// スキル枠:治療
// スキル枠:呼子
// 体力:B
// 魔力:C
// 眷属:イリーガル・グレート・フォレスト・スパイダー(ヌラ)他35,792匹
    イリーガル・グレート・フォレスト・アント(ゼーロ)他314,791匹
    イリーガル・グレート・フォレスト・ビーナ(ヌル)他73,811匹
    イリーガル・グレート・フォレスト・エルダーエント(スーン)他5,921体
    イリーガル・グレート・バトルホース(ノーリ)他2,153体

「はぁ?」

 眷属がすごい事になっているな。眷属も、親やリーダを眷属化していると、自然と増えるようだ。増えているのは知っていたが、数をしっかりと確認すると恐ろしいな。ライだけで街どころか、大陸を攻め落とせそうだよな。

「ツクモ様。その、安全なのですか?」
「なにが?」

 ゲラートが大きく口を開けて呆然としている。

「なにが・・・?そうですよね。ツクモ様の眷属なのですよね」
「そうだよ。ライが、俺の意に沿わない事はしない。それに可愛いだろう?」
「可愛い?ですか?」
「あぁ。それよりも、それグラートはいいのか?」

 ファビアンは、グラートを軽く殴る。

「おい。グラート。しっかりしろよ。お前が知りたいと言ったのだぞ?俺は止めたからな」

「あ・・・え。あっ」

 グラートが跪いた。
 あっだめなやつだ。

「ツクモ様。俺。いや、私は」
「はい。ストップ。それ以上は必要ない。いいか、グラート。ライは、ライだし、俺は俺だ。この街に永住するつもりも無ければ、できれば関わりは少なくしたいと考えている。その意味はわかるよな?」
「はい。俺を連れてかえっていただけるのですね」
「おい。ファビアン。コイツ、馬鹿なの?」

「いえ、至って真面目です。ヨーゼフの時にもこんな感じでした」
「そうか」

 頭を下げたままあげようとしたグラートの肩に、シロから渡された剣を置いた。

 グラートは身体を少しだけ強張らせたが、言葉を紡いだ
「ツクモ様。数々の非礼お詫びいたします」
「許す」
「願わくは、臣下の末席にくわえさせてください」
「それはできない」

 ガバっと頭を上げる

「なぜですか?」
「俺は、臣下を欲しているわけではないからだ」

 ここで、剣をシロに返す。
 グラートを立たせてから手を差し出す。

「グラート。お前は、ヨーゼフを主とするのではないのか?」
「そ・・・それは」
「いい。俺は、さっきも言った通りに、臣下がほしいわけではない。グラート、俺の友になってくれるか?」
「え?」
「俺の友になってくれるか?」

 差し出した手を下げないでもう一度同じセリフを紡ぐ。

 グラートは俺の目を見ながら
 大きくた息を吐き出しながら俺が差し出した手を握った。

「どうして、皆、俺を臣下にするのを拒絶するのですかね?」
「え?」

「ツクモ様。グラートの奴は、ヨーゼフに今と同じ事をして、ツクモ様と同じ事を言われたのですよ。”友達になってくれってね。僕が目指すゼーウ街は皆が平等な街だ”ってね」
「そうか、共和制を目指しているのだったな。それじゃ臣下よりは”友達”を欲するのだろうな」

「え?ツクモ様は、ヨーゼフの言っている事が解るのですか?」
「ん?共和制の事か?」
「その”きょうわせい”なのかわかりませんが、領主ではなく、住民がみんなで話し合って物事を決めるとか言っていました。だから、スラム街も関係なくなるとか夢物語を散々聞かされた」
「そうか、それじゃその夢を実現するために、ヨーゼフには生きて戻ってきてもらわないとダメだな」
「あぁ」

 俺は、グラートとファビアンの両者を見る。

「さて、ヨーゼフ救出に向かうにしても、俺とオリヴィエとシロとライには理由が乏しい。命を懸ける理由だ。わかるよな?」

 ファビアンは、何かいいたいような雰囲気を出しているが無視して、グラートを見つめる

「あぁ報酬だな」
「わかりやすいところだとそうなる」
「女は、必要なさそうだし、スキルカードも必要ないだろう」
「シロがいればいい。それに、俺以上にスキルカードを集めているのなら話は別だが無理だろう?」
「あぁ奥方以上の女を見つけるのは不可能だろう。スキルカードも無理だ」
「それで、どうする?」
「わかった、俺の忠誠を」「それこそ、一番いらない。友達の忠誠なんて必要ない」
「なら何が欲しい言ってくれ」
「ヨーゼフを助け出して、ヨーゼフとファビアンとグラートが実権を握ってからでいいから、俺にスラム街をくれ」
「はぁ?」「な?」

「説明は、ヨーゼフを交えてでいいよな」
「ちょっと待てよ。スラム街ってなんで?住民は?」
「住民は、残る者は残っていい。スラム街を開発したいだけだからな。ヨーゼフには説明するから、お前たちもそのときに聞いていればいい」
「わかった」「わかりました」

 それから、オリヴィエとシロを交えて作戦を話した。
 侵入はやはり地下通路を使うようだ。ただ、屋敷内にはまだ入れてないという事だ。

「わかった。それは、オリヴィエとライでなんとか出来るだろう。オリヴィエ。出来るよな?」
「マスター。容易い事です。ライ兄さまにアントを呼び出してもらえば”すぐ”です。あとは、私が調整します」
「だってよ?どうする?」

 二人共おまかせしますという雰囲気だ。
 それで、塞がれている場所までは、グラートとファビアンが先頭で進んで、その後はオリヴィエとライが先を進んで、俺とシロが続く、最後尾をファビアンとグラートが進む形になる。

 地下通路の中は、スキル火種で明るくして進む。

「なぁこの通路って、領主の館が襲われたときに、逃げるために作った通路か?」
「え?わかるのですか?」

 やっぱりな。
 それなら罠の心配はなさそうだな。

「あぁ想像しただけだけどな。それで、お前たちが最後に通路を別の場所につなげようとしているのだろう?」
「もう。俺は驚きませんよ」

 なんか、グラートから変な信頼を得てしまったようだ。この位、少し考えれば解るだろう?
 横を歩いているシロを見ると、何か誇らしげな顔をしている。口角が緩んでいるので、少し頬を引っ張る。

 シロをからかいながら歩いていると、5分位で行き止まりにたどり着いた。

「ここです」
「わかった。ライ。オリヴィエ。頼むな」

 ライがアントを数体呼び出して、オリヴィエと何か話している。
 実際には、ライだけでもいいのだが、ライと眷属に任せると、建物まで破壊してしまうかも知れない。オリヴィエが指示を出しながら慎重に掘り進める。

 10分ほどして、オリヴィエが戻ってきた。
「マスター。屋敷に繋がりました。結界が有りましたので、迂回しております」
「わかった。ありがとう」

 2人を見ると、明らかにドン引きしていた。
 それほどおかしな事をしたつもりは無いのだけどな。

「行かないのか?」
「え?あっ行きます」

 ここからは、ファビアンが先頭を歩く事になる。
 来たことがあるのが、ファビアンだけなので、当然の事だ。

 出た場所を確認してから、戻ってきた。

「問題なかったです。ツクモ様行きましょう」
「わかった。シロ、ライ、オリヴィエ。行くぞ」

 領主の館の地下室は、時間も関係しているかも知れないが、静まり返っていた。
 俺たちの歩く音が少し響いてしまう位だ。床が石畳になっているので、しょうがない。

『ライ。少しだけ大きくなって、俺たちを乗せられるか?』
『できるよ』
『頼む』

「ファビアン、グラート。ライに乗ってくれ、そうしたら足音も気にならない。ファビアン。ライは言葉がわかるから、言葉で指示を出してくれ」
「え?あっわかった」「了解」

 2人が乗った事を確認して、俺たちもライの上に乗る。
 さすがはスライム、静かに移動できる。何回か曲がって、地下牢らしき場所にたどり着いた。

 監視している者が居るが居眠りをしているようだ。。

(レベル4睡眠)
 少し魔力を多めに込めてスキルを発動する。監視している者の眠りをより深くする。

 よし、落ちたな。

 やはり、鍵をかけているな。
 探して解除してもいいが時間がもったいないよな。

(レベル6分析)
 ふむぅ普通の鍵だな。
 簡単に壊せそうだ

(レベル6分解)

 鍵が壊れる。
 地下牢に繋がる扉が開かれる。

 よし!

「ツクモ様。今何を?」
「ん。スキルを発動しただけだぞ?」
「え?スキル?無詠唱?」
「あぁそのくらい出来るだろう?」
「・・・。それで、スキルは何を?」
「あぁ分析と分解だな。鍵の内部を壊した」
「え?レベル6?」
「そうだな」

「はぁ?」
「うるさい!それよりも、行くぞ!」

 通路の両脇に頑丈な扉が付いた部屋が有る。
 全部が牢屋になっているのだろう。

「ファビアン。どこに、ヨーゼフたちが居るのかは解っているのか?」

 影から人が出てきた。
「主様」

 ヤニックとアポリーヌだ。
 やっぱり、自分たちで出てこられたのだな。出てこなかったのには何か理由があると思って良さそうだ。理由は、後で聞くとして

「それでどこだ?」
「ご案内致します」

 ヤニックが案内をしてくれた。

「ここです。ライ様の眷属の気配を感じまして、皆を起こしまして、いつでも抜け出せるようにしてあります」

 いい判断だ。

 鍵を壊すと細工が難しいと思っていたら、アポリーヌが鍵を取り出した。
 すでに、屋敷の人間を買収して鍵を借り受けて、スキル複製で作った鍵だという事だ。

 鍵が一本しかなかったが大丈夫なのか?

 鍵を受け取って、扉を開ける。

 俺だけではなく、ファビアンとグラートが膝から崩れ落ちる光景がそこには広がっていた。

 一番最初に正気に戻ったのは俺だったが、続いて立ち上がった。ファビアンが中央に居た男に掴みかかって
「おい。ヨーゼフ。余裕の様に見えるけど、説明してくれるよな?」

「やあ。君が、ヤニック殿とアポリーヌ殿の主人のカズト・ツクモ殿だね。僕が、ヨーゼフです。このファビアンとグラートの友だと言えばいいかな?」
「聞いてた話しとは違うが、楽しそうな生活をしているのだな」
「そうでもないよ。食事が最悪だからね。それを除けばまぁまぁ快適になったよ」

「上に居る奴らは知っているのか?」
「知らないと思うよ。そもそも、僕と妻・・・あぁファビアンの妹だけどね。僕と妻が閉じ込められていたのは、別の部屋だからね」
「そうだろうな。こんな部屋が牢屋だとしたら、グレゴール辺りが怒り出すだろうな」
「おっグレゴールにも会ったのか?彼は真面目だろう?僕、彼の相手するのが面倒なんだよね。ツクモ殿あげるから連れて帰ってくれない?優秀な男だよ?」
「いらない。それよりも、お前は、脱出するつもりはあるのか?」

 部屋を見回す。
 鍵が一本しか必要なかった理由もわかった。
 いくつかの壁を取り払って、一部屋にしているのだ。多分だが5つ位の牢屋をつなぎ合わせた形だろう。

 それから、宿に置いてあるよりも高級なベッドやソファーがある。
 ダッシュボードのような物には、多分酒だろう、そんな物まで置いてある。

 あと、チアル街で売り出した、リバーシーやチェスまでも置かれている。

 ヤニックを見ると、肯定の意思を見せる事から、お願いされて用意したのだろう。張り付いている眷属にお願いすれば用意できそうな物が多い。

「もちろんだよ。でも、僕がここに居ないと解ると大変な事になるかも知れないけど、それはどうするの?」
「あぁ?そんな事、俺が知ったことじゃない。さて、シロ、オリヴィエ。帰るぞ。馬鹿らしくなってきた。ファビアン。グラート。別にいいよな?」

「ちょっちょっと待った」
「なんだよ」
「ツクモ殿は、戦争を終わらせるのでしょ?終わった後で、僕が居るほうが統治が楽だよ?」
「ん?それは、お前がトップになると言っているのか?」
「うん。うん。僕がトップになるのなら助けてくれる?」
「そうだな。スラム街を俺の好きにしていいのなら、ここから助け出す手助けをしてやるよ」
「わかった。いいよ。スラム街に、ワイバーンの発着場を作って、冒険者用の建物を作るでしょ?後は、宿屋と商隊の休憩場かな?」

「・・・どこまで知っている?」

 つい殺気を出して、ヨーゼフを睨んでしまった。そんな殺気を感じているのか居ないのか、表情を動かさないでこちらを楽しそうに見ている。

「うーん。その質問は難しいかな。ツクモ殿が作った街の情報を聞いて、僕なりに考えた事を伝えただけだから。ツクモ殿ならこの街に何を作るかな・・とかね。それで、スラム街という言葉を聞いたから、スラムの住民を冒険者にするつもりじゃないかと思ってね。でも、戦えない者も居るから、その者たちへの仕事としては宿屋や商隊相手の休憩所。あと、チアル街との連絡用のワイバーンは必須でしょう」

「あぁ概ねそんなところだ。わかった。交渉成立だな」
「うん」

 始めて、ヨーゼフが立ち上がって、握手を求めてきた。

 それを無視して、ライに眷属を呼び出させてから、3素体を呼び出した。
 操作する眷属に変体スキルを使わせて、3人と瓜二つの偽物を作った。あとは、もともといた牢屋に入ってもらう事にした。

「ツクモ殿。いたずらが好きなんだね」
「イヤか?ならやめるぞ?」
「ううん。僕も、好きだよ。でも、すごいね。今だけで、どれだけのスキルカードを使っているの?」
「さぁな」
「怖い怖い」

 目が笑っていない所を見ると、怖いといいながらいろいろ考えているようだな。
 そのくらいの方が丁度良さそうだな。

 さて、これで脱出するか?
 牢屋にあった物は、一時的にライに収納させた。

 予想とは違ったが、捕らえられていた者たちの脱出作戦は成功した。

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