スキルイータ

北きつね

第百二十五話


 シロと洞窟に戻ると、スーンが面会を求めてやってきた。

「どうした?珍しいな」
「お休みの所申し訳ありません」
「別に構わない。それで?」

「はい。スキルカードの産出の事でご報告があります」

 今、スキルカードは主にチアルダンジョンから入手している。
 獣人と魔蟲が一緒にダンジョンに入って魔物を狩っている。

 やっと50階層の半ばに到達できる者たちが現れ始めたという事だ。それは喜ばしいことなのだが、取得できるスキルカードが変わってきたという事だ。低レベルのカードの上位版が多くなってきているという事だ。
 簡単な礼でいうと、レベル6火種とかだ通貨価値としては問題ないのだが、スキルカードとしては”ハズレ”だと認識できる。

 特に、レベル6眷属化や融合や分解や鑑定や石化や索敵や探索や目印や隠密や変体や分析といった俺がよく使っている物がここ暫く出てきていないという事だ。

「魔核は大丈夫なのか?」
「はい。魔核の産出には問題はありません。スキルカードもスキル道具の作成に使う物も今の所は問題にはなりません」

 在庫でそれぞれ50枚程度あるのでスキル道具を作ったりするのに、急に困ったりする事はなさそうだが、この流れが今後も続くと、スキル道具の機能調整をする必要が出てきてしまいそうだ。
 今使っているスキルカードはまだ低階層で産出するので問題にはなりそうもない。レベル6のスキル道具は主に実験的な要素が強い物が多いのが救いだ。

「わかった、念頭に置いておこう。レベル5のスキルカードには問題は無いのだな?」
「はい。隷属化が出にくい傾向にはありますが、それ以外は問題はありません」
「・・・そうか、隷属化ももしかしたら上限が有るのかもしれないな」
「大主様。違うと思います。もともと、隷属化は出にくい傾向にあります。念話や氷弾や雷弾や爆炎や爆岩や爆水と言ったスキルカードが出やすい傾向にあります」
「そうか、結界や防壁や障壁や耐性は変わらないのだな」
「はい。全部を調べていませんが、チアルダンジョンに潜っている者たちの申告ではそうなっています」
「わかった・・・他には?」

「大主様。実験区なのですが、今後どう致しましょうか?」
「そうか、実験する事が減ってきているのだな?」
「はい。ほとんどが、既に解っている事の追認でしかありません。あとは、大主様の推測を立証しているだけです」
「解散は無理だろうな・・・」
「・・・性質上難しいかと思います。それに、必要になったときに、ある程度の実験体が残っていませんと困ることになってしまいます」
「わかった、現状維持。実験体が壊れないようにしておいてくれ」
「かしこまりました」

 スーンが洞窟からログハウスに戻っていく、向こうで指示を出すようだ。

 シロとフラビアとリカルダの従者を探して、魔の森の探索を行わないとな。

 でも、今日は寝よう・・・。
 エリンも一度おきて、シロと風呂に入ったようだったが、もう寝てしまってるようだな。エリンもいつの間にか俺ではなくて、シロになついているように思えてくる。

 ユーバシャール区に行くか・・・。
 いいや、明日考えよう。

---
「パパ!おきて!パパ!」
「あ・・・エリン。おはよう」
「エリン。シロは?」
「上に行くと言っていたよ」
「わかった。よし、起きるか」
「うん」

 エリンを抱きかかえて、ログハウスの執務室に行く。

「シロ」
「カズト様」
「どうした?」

「いえ・・・少しだけ、クリス殿が羨ましくて・・・それで・・・あの・・・」
「シロ。フラビアとリカルダを連れて、ユーバシャール区に向かうつもりだ。お前たちの従者を探さないとな」
「・・・わかりました」
「どうした?何かあるのか?」
「いえ、大丈夫です。それでは、フラビアとリカルダを呼びますか?」
「そうだな。予定を聞いてくれ、2週間くらい宿区を離れる事になるけど、大丈夫かと一緒に聞いてくてくれ」
「わかりました」

 あっ念話で聞けばいいと言おうとした瞬間に、シロが身体を動かしてしまっていた。
 まぁいいか・・・。やることは沢山あるからな。

「だれか、ヨーンを呼んできてくれ」
「はっ」

 隣室に控えていた執事エントの1人が俺の指示に応える。

 部屋に入ってきた
「すぐに来られるそうです」
「ありがとう。あっもし、シロがフラビアとリカルダを連れてきたら、少し待っていてもらってくれ」
「かしこまりました」

 10分後に、ヨーンが執務室に入ってくる。

「ツクモ様。お呼びとのことですが、何か有りましたか?」
「悪いな。暫くユーバシャール区に行こうと思ってな」
「護衛はどうしましょうか?」
「カイとウミとライとエリンが居るからな」
「わかりました。でも・・・」
「なんだ?」
「見た目に、”護衛です”という雰囲気を出した方が良いかと思います」
「・・・そうだな。サラトガ方面から向かおうかと思っているけど、居たほうがいいと思うか?」
「はい。できれば・・・」
「わかった。サラトガに護衛を手配しておいてくれ」
「かしこまりました」

 やっぱり最低限の護衛は必要だよな。
 俺も戦闘力がないとは言わないけど、見た目が弱そうだからな。シロたちを連れていると言っても、見た目では護衛に見えないからな。

 ヨーンが執務室から出ていくと、入れ替わりでシロが入ってきた。
 シロが1人だけだ。

「シロ。フラビアとリカルダは?」
「はい。二人なのですが、神殿区から従者を探す事したいようです」
「・・・そうか、二人がそう決めたのなら、それを尊重しないとな。ん?どうした?シロ?顔が赤いぞ?」
「なんでもないです。カズト様」
「そうか、何も無いのならいいのだけどな」

 シロを見つめるが、何もいいたくないようだ。
 まぁ別に隠し事をされているというわけではなさそうだし、気にしてもしょうがないだろう。

「シロ、サラトガ経由でユーバシャール区に向かう」
「わかりました」
「サラトガからは護衛が付くからな」
「え?護衛ですか?」
「あぁヨーンから見た目で護衛だとわかる者を連れて行って欲しいって言われたからな」
「そうですか・・・わかりました。準備をします」
「頼む」
「はい!」

 支度も何も無いのだけどな。
 それでも、馬車の手配とかいろいろ雑務ができてしまう。

 俺の雑務は、執事エントメイドドリュアスが喜んでやってくれるので助かっている。洞窟やログハウスに居るときには、身の回りで困る事がないのも事実だ。今回の様に遠征に出かける時でも、リーリアとオリヴィエが付いてくれば問題はない。
 今回は、シロだけを連れて行く事にしようと思っているので、シロが雑務を行っているのだが、これも考えなければならないだろう。

 暫く、留守にしてユーバシャール区に向かう事を、ミュルダ老とシュナイダー老に告げた所
 ミュルダ老やシュナイダー老からの懇願もあり、出立を明日に延期する事になった。
 そして、身の回りの世話をする名目で、リーリアとオリヴィエがついていく事になった。馬車1台で行くつもりだったのだが、2台になってしまった。俺とシロとエリンとカイとウミとライが乗る馬車と、リーリアとオリヴィエが乗って帰りにシロの従者が乗る事になる馬車。
 そして、俺の馬車の方は、ギュアンとフリーゼが御者としてノーリをあやつる事になった。

 仰々しい状態になってしまったんだが、もうしょうがないと諦めよう。
 皆が納得する形が一番いいのだろう。

 ざっと行って、ざっと帰ってくるつもりだったのだが、ユーバシャール区までの道の視察の様になってしまっている。

 ペネム-サラトガ街道を通って、サラトガで一泊する。

 サラトガで護衛と合流する事になっているが・・・護衛は、イサーク達だった。ヨーンが手配したという辺りで気がついておくべきだった。イサーク達だけでは迫力が足りないので、2パーティーほど追加された総勢12名が護衛としてユーバシャール-サラトガの往復を護衛する事になっている。

 お決まりの盗賊や山賊のイベントが回避された瞬間でもある。
 サラトガ-ユーバシャール街道も、なんの問題もなく進む事ができた。護衛が付いた事で、移動速度が明らかに落ちたが、SAやPAに立ち寄りながら無事到着する事ができた。

 ワイバーン便で、出迎えは必要ないと伝えていたので、通常のプロトコルに従って区の中に入る事になる。

 帰りは3日後にして、ユーバシャール区で一旦護衛をバラす事にした。
 護衛には、1人を除いて、レベル6スキルカード1枚の特別ボーナスを渡した。ユーバシャール区でゆっくり過ごしてもらう事にした。

「さて、ナーシャ!」
「えっ・・・ツクモく・・・様。なんでしょうか?」
「お前なぁ”なんでしょうか?”じゃないよ。イサーク!」
「はっ」

「お前も調子いいよな。まぁ別にいいけど・・・ナーシャの分の特別ボーナスはなし!理由はわかるよな?」

「・・・はい」「当たり前だ!ナーシャ。俺は、話を聞いて・・・びっくりしたぞ?」

 ナーシャは、ポンコツだったという話だ。
 別にいいちゃぁいいけど、けじめを付けてもらう事にした。

 ナーシャは移動中に、リーリアに甘味をねだってきたのだ。今回は、護衛で来ているのではっきりと分けて、リーリアとオリヴィエには俺の身の回りの世話を頼んでいる。最初は我慢していたようだが、ユーバシャール区に到着する寸前で、リーリアにこそっとお願いしてきたのだ。
 それを、リーリアが俺に報告してきたのだ。護衛任務じゃなければ大目に見ることもできたのだが・・・。今回はダメって事で、罰としては甘いかも知れないが、ナーシャだけ特別ボーナスなしにする事にした。

 他にも移動のための馬車とかに些細な問題は出たが、ユーバシャール区で宿屋に泊まる事ができた。発生した問題は、今後解決していけばいい。

 宿は、代官が手配してくれていた。
 表立っての歓迎は必要ないと伝えたが、宿屋や奴隷商の手配は頼んだ。何もなしでは、代官の立場が無いと言われてしまったからだ。

 宿には、俺の隣の部屋にシロとエリンが泊まる。その隣に、ギュアンとフリーゼが泊まる。俺の部屋付きには、リーリアとオリヴィエが控える事になる。

 奴隷商には、明日会う事になったので、今日は宿で過ごす事になった。本当は、ユーバシャール区を見て回りたかったのだが、時間的にも厳しいと言われたので、諦める事にした。明日以降の楽しみにしておく。

 宿でも、定番のイベントが発生する事もなかった。誰かが夜這いにかけてくる事や、俺の事を狙っている一味が夜襲をかけてくるようなこともなく、平穏無事に過ごす事ができた。

 翌朝、リーリアに起こされる。
 奴隷商には、俺は行かない事にしている。シロとリーリアで行ってもらう。俺は、エリンとオリヴィエを連れて街の散策に出かける事になっている。昼には一度宿屋で合流する事にした。

「さて、エリン。どこか行きたい所はあるか?」
「うーん。パパはどこか有るの?」
「オリヴィエ・・・どこか有るか?」
「マスター・・・それを言われても・・・・宿屋にいてくれると、安全の確保ができるので嬉しいのですが・・・」

「エリン。屋台や店を見て回ろう!」
「うん!」
「はぁ・・・お供いたします」

 俺とエリンとオリヴィエで、ユーバシャール区の武器屋やスキル道具を扱っている店や屋台を見て回った。
 珍しい食材がないか見ていたが、植生がそれほど違わないのか、商業区で取り扱っているものと代わり映えはしなかった。店主に話を聞いたが、昔から食材などは変わっていないという事だ。

 料理に関しても違いは無かった、味付けが少しだけ濃かったのは、地域的な特徴なのだろう。
 宿屋の料理もはっきりとした塩味を感じたので、そういう物だと思っておく事にした。

「パパ。屋台の食べ物美味しいね。でも、エリン。パパの料理が好き!」

 なんて可愛い事を言われると、帰ってからガッツリ何か作ってあげたくなる。
 卵の入手ができるようになっているし、そろそろ”ふわとろオムライス”の出番かな?

「わかった、洞窟で何か作ろうな」
「うん!エリンも手伝う!」
「頼むな」

 結構な店を冷やかしている認識がある。

「マスター。そろそろ、お時間だと思います」
「ありがとう」

 オリヴィエは、執事の様に振る舞ってくれている。

 前のユーバシャール区を知らないけど、屋台のおちゃんや食材を売っていたおばちゃんの言葉を信じれば、ユーバシャール区はいい方向に変わってきているという事になる。
 物資や情報が街に出てきて、牛耳っていた商会が粛清されて、活気が戻ってきたと話していた。バカ二人が争っていた事で、街はギクシャクしていた状態が収まったと、感謝の言葉も聞くことができた。
 以前は、手数料だとか、場所代だとか、難癖付けて売上を搾り取っていた奴らが一掃されたおかげで、商売がやりやすくなったと言ってもらえた。

 まだまだ手を付けなければならない事は有るだろうが、緩やかな衰退でなくなったと実感してくれている人が増えてきているのはいい事なのだろう。俺たちがやろうとしている事は、今この時点では間違っていない。

 宿屋に戻ると、シロとリーリアが待っていた。
 シロの後ろには、二人の女の子がオドオドした状態でこちらを伺っていた。

「カズト様」
「従者を決めたのだな」
「はい。リーリア殿に協力してもらった。鑑定が使えるので、相談しながら決める事ができた」

「そうか、リーリアありがとうな」
「いえ、ご主人様」

「リーリア。子供はいないという話だけどどうだった?」
「大丈夫なようでした」
「そうか、それなら良さそうだな」
「はい」

 本当は、奴隷商は潰してしまいたいが、セーフティネットの役目も持っているので、行政が上手く回り始めるまでは、子供を扱わない事を条件に奴隷商の営業を許そうと思っている。

 シロが連れている従者を見るが、年齢は俺の少し上といったところか?
 特徴的な耳を見ると、エルフと猫の獣人か?まぁあとで詳しく話しを聞けばいいよな。

 まずは・・・

”レベル4スキル体調管理”

 続いて
”レベル4スキル清掃”

 で、いいかな?
 二人以外はびっくりも何もしていない。本当は、風呂に入れたいが、あいにく風呂は・・・さすがに作れないな。宿区に戻ってからだな。

「さて、腹が減っているだろう。軽く何か摘みながら話を聞こうか?リーリア。宿の部屋でいいよな?」
「はい。準備してきます。二人を使っても?」

 シロを見るがうなずいている。

 リーリアとオリヴィエに続いて、二人がついていく。準備ができるまで、宿の食堂で待っている事になった。

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