生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。27話




この頃、どうやら真澄の様子がおかしい。


「麻海さん、なんか知ってます?」
「いや?何も」

予定通り3人で水族館デートへ来たものの、真澄はどこかボーッとした様子で水槽の中を見つめている。俺と麻海さんは少し離れたところからそれを見ていた。

「元気ないっていうか、なにか悩み事でもあるんすかね」
「そうかもしれないね…今日一日で元気づけられたらいいけど、悩みの種が解消しなことには難しいかな」

麻海さんは穏やかに笑ってそう言った。俺らと歳はひとつしか違わないのに、やはりどこか大人びた余裕がある。

「さっき真澄、クラゲの水槽見て、ふわふわしてるって言ってましたね」
「うん、可愛かったね」
「ふわふわしてんのはお前の頭の中だろって言ってやりたくなった」

笑い混じりで俺が言うと、麻海さんはまた、そこが可愛い、と真澄を褒めだす。

俺はそれを軽く苦笑いでスルーして、真澄の隣へ寄った。

「おい真澄?なにボーッとしてんのさっきから」
「えっ…あ、別に何も…」

何もって顔じゃないけどな。

すると真澄は俺の後ろにいた麻海さんに視線を彷徨わせてから、また少し俯いた。麻海さんはそれを見兼ねて、飲み物でも買ってくるよ、と言ってそそくさと俺たちから離れていった。

「……なんか、気遣わせちゃったな、麻海さんに」
「なに、麻海さんには言いにくい話?」

俺が問うと、真澄は水槽の中の色とりどりの魚から視線を落として、ゆっくりと口を開いた。

「…………巧さんに…零央の父さんに、俺と零央の関係がバレた……」

真澄は今にも消え入りそうな声で俯き気味に言った。

「…え………零央くんのお父さんって…おまえの義理の父親ってことだろ?それで、どうしたんだよ」
「……どうも…してない。ただ、零央と巧さんはここ一週間口聞いてないし、俺も、どうしていいか分からなくて…零央と話してない」

今までに無いくらいの暗い表情で、真澄は話す。そんな様子で、よく今日出かける気になったものだ。せっかく麻海さんに誘ってもらったからと、気を遣っているのだろうか。

「………難しいな…特に真澄と零央くんは、義理とはいえ兄弟なわけだし…」
「考え直せって、まるで悪いことしてるみたいに…まぁ、それが普通の反応かもしれないけど…。零央にとっては大切な時期なのに、こんな揉め事で、受験の邪魔なんかしたくない」

根っからの真面目なだけあって、やはり現状を重く受け止めている様子の真澄は、苦虫を噛み潰したような表情をした。

真澄と零央くんの関係に、正解も不正解もはっきりさせるのは難しいけど、今大切なのは、そこじゃない気がする。

「…とりあえず、ひとりで苦しむ前にちゃんと話せよ、零央くんと。それはおまえだけの問題じゃないんだろ?」

真澄はすぐひとりで抱え込む癖があるから、こういう時はもっと周りを見てもらわないといけない。

「……そうだよな、俺の悪い癖だな…。…それに、こんな暗い顔してたら今日誘ってくれた麻海さんにも申し訳ない…!」

真澄は何か切り替えるように、自分の両頬をパシンッと叩いた。

「はは、そこは気にしなくていいんじゃね?あの人おまえの顔見てるだけで幸せな人だから」
「え?」

真澄が間抜け面でこちらを見ると、タイミング良く麻海さんが戻ってきた。気を取り直して3人で水族館内を歩いて回ると、やはり真澄はこの中で一番水槽の中の魚にはしゃいでいた。真澄は小さな子供に並んで水槽を覗き込む。


「…やっぱり可愛いね、真澄くんは」
「はは、ほんと懲りねっすね、麻海さんも」

それを機嫌良さそうにニコニコと見つめる麻海さんは、どこまで寛大な心を持っているのか、計り知れない。

複雑な三角関係が身内で繰り広げられているというのに、それに動じない自分の強靭なメンタルを褒めてやりたい。




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コメント

  • あんこ、

    有難うございます!!今回も凄く良かったです!!!真澄君零央君カップルが一番好きなので毎回楽しみです〜

    1
  • きつね

    真澄くんがんばって!!(。>ㅿ<。)

    2
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