生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。8.5話


「待たせちゃってすみません、麻海さん」

そう言って待ち合わせに来た真澄くんは、いつもと違う雰囲気を纏っていた。服装もいつもより力が入っている。

彼は、似合ってないか、と不安そうにしていた。すごく似合ってるからそんな心配いらないのに。

久しぶりだと言っていたお祭りではしゃぐ真澄くんはとても可愛くて、見ているだけで元気をもらえる。

屋台に並べば、真澄くんは当たり前のようにお金を出そうとした。けどもちろん、そんなわけにはいかない。

「好きな子にはお金出させたくないんだ、俺が誘ったんだし、ね?」

ただのかっこつけでそんなこと言うと、真澄くんは恥ずかしそうに顔を赤くして静かに財布をしまってくれた。俺が真澄くんのことを好きだということを、彼の中に焼きつけたい。3年以上、遠慮は十分してきた。


「おにーさんのコーディネート、俺がしたんですよ」

屋台で偶然会った義弟くんには、そう牽制された。俺の考えすぎかもしれないけど、俺には牽制にしか聞こえなかった。平然は装ったけど、もちろん悔しかった。何より、今日の服装は真澄くんによく似合っている、それが一番悔しい。

「生意気なだけです」

真澄くんは、コーディネートを義弟にしてもらったということを明かされて、不服そうにしていた。そんな真澄くんを見て俺は、誰が今日の真澄くんを飾った、とか、どうでもよくなってしまった。でも少し、言動ひとつでここまで真澄くんの感情を動かせる彼が、羨ましく感じてしまった。


かき氷を買ってから行く、と言った真澄くんと別れて、俺は花火を見るための場所を先に取っておくことにした。周りを見回していると、誰かに話しかけられた。

「ねぇお兄さん、ひとりなの?良かったら一緒にどお?」

派手な見た目で着飾った同い歳くらいの女の人が、俺の腕を掴んだ。

「…えっと、すみません、一応連れがいるので…」
「もしかしてカノジョ?」
「いや、違いますけど…」
「じゃあいいじゃん、向こうに友達といるの、行こお??」

そう言って、俺の腕を強引に引っ張る。

どうやらお酒を飲んでるらしい。強い香水の匂いと酒の匂いが混じって、最悪だ。逆ナンパはたまにされるけど、こういう強引なのは本当に面倒だ。かと言って力づくでねじ伏せるのも、女性相手には良くないだろう。

どうにもできずに連れていかれるがままでいると、突然ピタリと立ち止まってこちらを振り向いた。

「…はぁ、ちょっと気分悪くなってきちゃった〜。ねえ、どこか休める場所いかない??」 
「…神社の方に医務室あると思いますけど、なんならそこまで送りましょうか」
「やだそうじゃないじゃん?わかってるでしょ、ホテル行こうよ〜」

やりすぎだ、ナンパの域を越えてるんじゃないか。俺は嫌気がさして、強引にも掴まれていた腕を取り払った。

「悪いけど、ほんとにそういうのいいですから。気分悪いなら医務室まで行って、そうじゃないなら普通にお友達と楽しんできたらどうですか。あなたの体にもよくないですよそういうの」

冷たく言い放つと、女はそれでもまだ詰め寄ってきた。

「ノリ悪いなぁ、でも優しいんだねキミ〜名前教えてよ」

…………どこがだ、十分嫌悪の意を込めて言ったつもりなんだけど。

「…人と待ち合わせてるから、他当たって」

早くしないと、真澄くんが俺のこと探しちゃうな…。

「カノジョじゃないんでしょ?なら、」
「恋人じゃないけど、大好きな子だから」
「……なぁにそれー、つまんないの、ちょっとくらい遊んだっていいじゃない。どうせ実らないわよその恋」

女は諦めたのか俺の腕をすっと離して文句を垂れた。俺はそれを無視して来た道を早足で戻る。

待ち合わせてた場所に戻っても真澄くんの姿はなくて。

…………最悪だ、やっちゃったな…きっと俺のこと探してる。

花火がもう少しで始まる、という合図を片耳に聞いて、俺は真澄くんのスマホに電話をかけた。けれど繋がらなくて、不安になる。

変な人に捕まってたりしなきゃいいけど……、いや…もしかしたら、あの義弟くんと一緒にいたりして。

考えれば考えるほどあまり良くないことが思い浮かぶ。

スマホ、もしかして落としたのかな…電源入ってないみたいだし、壊れちゃったのかも。

とりあえず俺は神社の方に向かって走った。
神社の傍まで来ると、とうとうドンッと一発目の花火が上がった。俺はようやく着いた神社で、真澄くんと義弟くんらしき人が境内の奥へ入っていくのを見た。
嫌な予感がして、俺はゆっくりそのあとを追う。

ふたりは途中から様子が変で、どうやら義弟くんが真澄くんに迫っているように見えた。その瞬間俺の中に黒い感情が湧いてくるのを感じて、思わず飛び出しそうになる。けれど、一歩留まった。

今、俺が出ていったところで何も出来ない。真澄くんが俺を好きなわけじゃないし、止める権利は俺には無い。

とことん自分が嫌な奴だということを自覚する。誰のものでもないはずの真澄くんが、自分の手の中に欲しいと思ってしまう。こんな俺を見たら、きっと真澄くんは幻滅するだろう。

俺はそれ以上は見ていられなくて、その場を静かに立ち去った。どうにか気を紛らわそうと、ガヤガヤとした会場の方へゆっくり向かった。


















祭りのあと、真澄くんにははっきりと告げられた。なんとなく予想はしてたけど、思ったよりもダメージは大きくて、精一杯いつも通りを装うことしかできなかった。

けれど、それでも友達として俺といてくれるという真澄くんには、本当に甘えてしまっている。少しくらい、その優しさにつけ込むことを許して欲しい。




コメント

  • Coro

    めっちゃ面白いΣ>―(灬⁺д⁺灬)♡―――>続き待ってます!!!

    5
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