観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
残酷な真実4
そこには久遠がいた。クリーム色の髪は白のリボンで結ばれて、身体のどこにも怪我はない。無事な姿で、久遠が立っていたのだ。
私は会えたことに嬉しくなるが、反対にホワイトは怖い顔で振り返った。
「白うさぎ!?」
ホワイトはまたも銃を出して久遠に向ける。銃口を向けられ、久遠の顔が怯えた。
「ホワイト! 私の友達に銃なんて向けないでッ!」
「しかし!」
私はホワイトを睨む。ホワイトは苦い表情のまま久遠に銃を向けていたが、しばらくしてから、そっと銃を下ろしてくれた。
「……へんな動きを少しでもしてみろ、敵対行動とみなしすぐさに攻撃する」
射線から外れたことにより久遠の怯えた顔が戻る。私は立ち上がり、久遠と向き合った。
「久遠、その」
「はい、言いたいことは分かります。そこのホワイトさんは正しいです。私は白うさぎの変わり身であり、ニャルラトホテプという無数の顔の一つです。ニャルラトホテプというのは言わばネットワークのようなもので、私はその端末なんです。ですので常に接続していますし、すぐに乗っ取られることもあります。今も、本当に私の意思で喋っているのか、その保障はありません。ただ、今ニャルラトホテプは弱っているので、その隙に会いに来ました」
そう言う久遠は躊躇いがちに笑っていた。まるで悪戯をばらすように。けれど表情をすぐに暗くして、久遠は伏し目がちに口を動かした。
「ごめんなさい、アリスさん。私はアリスさんを知らず裏切っていました。出会ったその時から……。けれど、どうしても言っておきたかったことがあるんです!」
久遠が顔を上げる。手を胸に当てて。必死な瞳が、私に向けられる。
「楽しかった! あなたと一緒にいられて。共に過ごした学校生活を私は忘れません。この気持ちももしかしたら操られた気持ちかもしれない、それでも。私は確かに、アリスさんと一緒にいられて楽しかったのです、それだけは、嘘じゃないということを。私はアリスさんのことを、本当にお友達だと思っていました」
「それは私もだよ! 久遠としゃべって、遊んで、私だって楽しかった!」
「恨んで、いないのですか?」
「そんなこと、あるはずないじゃない! だって友達でしょ?」
不安そうな久遠の表情に言ってやる、私も同じだと。久遠に負けないくらい真剣に。
「ありがとうございます、アリスさん」
それを聞いて、安心したように久遠は表情を柔らかくした。優しい目つき。それはいつもの久遠だった。
「アリスさん、あなたはとても優しい人です。私を許してくれた、友達だと言ってくれた。そんなあなたなら、大丈夫です。お友達も分かってくれるはずです」
「久遠……?」
久遠の言い方は私を論じているようだった。どこか距離のある、遠い言い方。
「アリスさん。あなたが罪だと思うなら、それを抱えるのではなく、清算してください。トラウマの記憶、いいえ、メモリーを本当の意味で克服するのです。優しくて、強いあなたならそれが出来るはずです」
落ち着いた雰囲気で、久遠は穏やかにそう言った。自責に苦しむ私を救おうと、私を優しいと言ってくれる久遠。けれどううん、私なんかよりも、久遠。あなたの方がずっと優しいよ。
ずっと一緒にいたい。また学校に通って、遊びたい。お泊りだってまたして。そう思う。あなただってそうでしょう? なのに。
「それでは、これでお別れです」
「久遠!? 待って、待って久遠!」
私は走った。久遠が消えてしまう。危機感があるのだ、ここで止めないと、もう会えないという予感が。そんなのは嫌。だってそんなの辛いじゃない、せっかく友達になったのに。
私は会えたことに嬉しくなるが、反対にホワイトは怖い顔で振り返った。
「白うさぎ!?」
ホワイトはまたも銃を出して久遠に向ける。銃口を向けられ、久遠の顔が怯えた。
「ホワイト! 私の友達に銃なんて向けないでッ!」
「しかし!」
私はホワイトを睨む。ホワイトは苦い表情のまま久遠に銃を向けていたが、しばらくしてから、そっと銃を下ろしてくれた。
「……へんな動きを少しでもしてみろ、敵対行動とみなしすぐさに攻撃する」
射線から外れたことにより久遠の怯えた顔が戻る。私は立ち上がり、久遠と向き合った。
「久遠、その」
「はい、言いたいことは分かります。そこのホワイトさんは正しいです。私は白うさぎの変わり身であり、ニャルラトホテプという無数の顔の一つです。ニャルラトホテプというのは言わばネットワークのようなもので、私はその端末なんです。ですので常に接続していますし、すぐに乗っ取られることもあります。今も、本当に私の意思で喋っているのか、その保障はありません。ただ、今ニャルラトホテプは弱っているので、その隙に会いに来ました」
そう言う久遠は躊躇いがちに笑っていた。まるで悪戯をばらすように。けれど表情をすぐに暗くして、久遠は伏し目がちに口を動かした。
「ごめんなさい、アリスさん。私はアリスさんを知らず裏切っていました。出会ったその時から……。けれど、どうしても言っておきたかったことがあるんです!」
久遠が顔を上げる。手を胸に当てて。必死な瞳が、私に向けられる。
「楽しかった! あなたと一緒にいられて。共に過ごした学校生活を私は忘れません。この気持ちももしかしたら操られた気持ちかもしれない、それでも。私は確かに、アリスさんと一緒にいられて楽しかったのです、それだけは、嘘じゃないということを。私はアリスさんのことを、本当にお友達だと思っていました」
「それは私もだよ! 久遠としゃべって、遊んで、私だって楽しかった!」
「恨んで、いないのですか?」
「そんなこと、あるはずないじゃない! だって友達でしょ?」
不安そうな久遠の表情に言ってやる、私も同じだと。久遠に負けないくらい真剣に。
「ありがとうございます、アリスさん」
それを聞いて、安心したように久遠は表情を柔らかくした。優しい目つき。それはいつもの久遠だった。
「アリスさん、あなたはとても優しい人です。私を許してくれた、友達だと言ってくれた。そんなあなたなら、大丈夫です。お友達も分かってくれるはずです」
「久遠……?」
久遠の言い方は私を論じているようだった。どこか距離のある、遠い言い方。
「アリスさん。あなたが罪だと思うなら、それを抱えるのではなく、清算してください。トラウマの記憶、いいえ、メモリーを本当の意味で克服するのです。優しくて、強いあなたならそれが出来るはずです」
落ち着いた雰囲気で、久遠は穏やかにそう言った。自責に苦しむ私を救おうと、私を優しいと言ってくれる久遠。けれどううん、私なんかよりも、久遠。あなたの方がずっと優しいよ。
ずっと一緒にいたい。また学校に通って、遊びたい。お泊りだってまたして。そう思う。あなただってそうでしょう? なのに。
「それでは、これでお別れです」
「久遠!? 待って、待って久遠!」
私は走った。久遠が消えてしまう。危機感があるのだ、ここで止めないと、もう会えないという予感が。そんなのは嫌。だってそんなの辛いじゃない、せっかく友達になったのに。
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