観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

這い寄る混沌6

 ホワイトの言葉に瀕死のクトゥグアが身を震わす。全身を叩かれた体をなんとか立たせ、起き上がると狼の形を解き炎となってホワイトの元へと向かっていった。

 炎は宙を走りながら小さくなっていき、ホワイトの手に収まる時には赤い銃弾となっていた。

 同時にアンチマテリアルライフルが変形し、ボルトアクションのように薬室、銃弾を装填する場所が露わになる。

 そこへクトゥグアが変身した銃弾をセットした。

「深層世界に帰れ、ニャルラトホテプ!」

 ホワイトとニャルラトホテプの距離が近づく。ホワイトは敵を見上げ、地面を蹴った。

「来ルナァアアア!」

 身動きが取れない無貌の王が叫ぶ。しかし、

 宙を駆け、クトゥグアそのものを装填した銃口を、ニャルラトホテプの体に叩き付けた。

「これが欲しかったんだろうッ!?」

 ホワイトはトリガーを引き絞る。瞬間、圧縮された炎の弾丸が放たれた。

「グオオオオオ!」

 ニャルラトホテプの悲鳴が広がる。ニャルラトホテプを襲う大火力、クトゥグアが誇る炎熱を一点に絞った一撃はニャルラトホテプの体に穴を開けていた。銃口から噴出する業火が邪神を穿つ。

「オ、ノレェ……!」

 胸に巨大な穴をあけられニャルラトホテプが揺らめく。そんなニャルラトホテプの正面にホワイトは着地した。白い兵は消しており、彼一人だけが見上げている。

「覚エテイロ、私ハ死ナン。イツカ、必ズヤアリスヲワンダーランドヘト連レ込ンデヤル……!」

 そう言うとニャルラトホテプの体が薄くなっていった。存在感も消えていく。

 邪神が言い残す不吉な言葉を前にして、しかしホワイトは冷厳に、ニャルラトホテプを見上げていた。

「来るなら何度でも来い。その度に俺が排除してやる」

 それは宣言だった。役目を全うする、それは本能のあり方そのもの。

「俺は防衛本能。あいつに死が訪れるその時まで」

「グッ、ガアアアアア!」

 断末魔を残しニャルラトホテプが消えていく。その様を厳しい顔つきで見届けた後、ホワイトは踵を返した。

「アリスは、俺が守る」

 体育館の中央にただ一人、ホワイトは立つ。傍には誰もいない孤独な王のまま。けれど彼の瞳に宿った意志は、鋭いまま残っていた。

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