観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
クトゥルー6
「うわ……」
ホラーだ。自分が優勢だと思ったら突然の死。血の気が退く現場を目撃してしまった。ううん、そうじゃない。早く私も逃げないと!
私は気を取り直し階段を上り始めた。茫然となんかしていられない。今度は私がああなるかもしれないのに。
私は階段を上り終え廊下に出る。三階の教室。廊下はやはり長い。それでも走らないと。
私は走った。背後に感じる恐怖に急かされて。殺される。殺される。怪物は私を追っている。死ぬ。死ぬ。足を少しでも止めてしまったら。だから走る。だから逃げる。生きるために。負けないために。
廊下は依然と長いままだ。先はまだ遠い。このまま渡りきるよりも先に大型のメモリーに追いつかれたら。走る速度はメモリーの方が早い。
一本道のここでは逃げ切れない。私は考える。このまま走り続けるか、それとも隠れるべきなのか。
二つの選択肢が私に迫る。みるみると近づいてく。背後に迫るメモリーの気配を感じる。もう考えている余裕はない。
どうする。どうする。もうそこまで来ている。すぐにでも現れそう。私は、
――走り続ける。
――教室に隠れる。
私は走った。生きるために。だが、振り向き背後にメモリーが来ていないことを確かめてから、私は教室へと逃げ込んだ。
扉を急いで閉める。壁に背を預け自分を落ち着ける。大丈夫、メモリーはいなかった。ばれてない。そのはず。
内側から聞こえてくる脈動がバクバクと音を立てている。荒い呼吸をなんとか整えて、私は息を潜ませる。
メモリーは来ているだろうか。それともまだ? 期待と不安が胸の中で鬩ぎ合う。心が乱れる。駄目、余計なことは考えちゃ。
身が縮まる思いだった。いつメモリーが襲いにくるのか。いつになったらホワイトは来てくれるのか。最悪の予想はいつも頭にへばりついて離れない。走っていた足が、疲労とは別に震え出す。
早く、早く来て。
私は目を瞑り、祈るように願った。この状況から一刻も早く解放されたい。強く強く、私は願った。
そして瞼をそっと開いてみる。心臓のリズムはまだ激しいままだけど、呼吸はだいぶ落ち着いてくれた。
気分も、うん、パニックにはなっていない。私は異変が起こっていないだろうかと教室を見渡してみた。
そこには小型のメモリーどころか無人の静けさが佇むだけで、私を除けば誰もいない。机が並び窓からは暗闇ながらも校庭と敷地を囲う桜の木が見える。
「…………あれ」
その時だった。その風景。懐かしさを覚える見慣れた場所だと思ってしまう。ううん、教室なんてどれも似たような作りだし、だからそう思うのかもしれないけど……、でも。
「ここ、もしかして」
見覚えがある。この机の配置。そして窓から見下ろす学校と街の景色。ここからしか見えない街並みを、私は覚えている。
まさか。もしかしてと思いながらも、私はある種の確信を抱きながら黒板に目を向けてみた。
「三年、二組……」
私の表情が緊張で固まっていく。身体が、強張る。そこに書かれていたのは三年二組の文字。
トラウマの記憶、いじめの現場。
ここは、私がいじめられていた教室だった。
ホラーだ。自分が優勢だと思ったら突然の死。血の気が退く現場を目撃してしまった。ううん、そうじゃない。早く私も逃げないと!
私は気を取り直し階段を上り始めた。茫然となんかしていられない。今度は私がああなるかもしれないのに。
私は階段を上り終え廊下に出る。三階の教室。廊下はやはり長い。それでも走らないと。
私は走った。背後に感じる恐怖に急かされて。殺される。殺される。怪物は私を追っている。死ぬ。死ぬ。足を少しでも止めてしまったら。だから走る。だから逃げる。生きるために。負けないために。
廊下は依然と長いままだ。先はまだ遠い。このまま渡りきるよりも先に大型のメモリーに追いつかれたら。走る速度はメモリーの方が早い。
一本道のここでは逃げ切れない。私は考える。このまま走り続けるか、それとも隠れるべきなのか。
二つの選択肢が私に迫る。みるみると近づいてく。背後に迫るメモリーの気配を感じる。もう考えている余裕はない。
どうする。どうする。もうそこまで来ている。すぐにでも現れそう。私は、
――走り続ける。
――教室に隠れる。
私は走った。生きるために。だが、振り向き背後にメモリーが来ていないことを確かめてから、私は教室へと逃げ込んだ。
扉を急いで閉める。壁に背を預け自分を落ち着ける。大丈夫、メモリーはいなかった。ばれてない。そのはず。
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メモリーは来ているだろうか。それともまだ? 期待と不安が胸の中で鬩ぎ合う。心が乱れる。駄目、余計なことは考えちゃ。
身が縮まる思いだった。いつメモリーが襲いにくるのか。いつになったらホワイトは来てくれるのか。最悪の予想はいつも頭にへばりついて離れない。走っていた足が、疲労とは別に震え出す。
早く、早く来て。
私は目を瞑り、祈るように願った。この状況から一刻も早く解放されたい。強く強く、私は願った。
そして瞼をそっと開いてみる。心臓のリズムはまだ激しいままだけど、呼吸はだいぶ落ち着いてくれた。
気分も、うん、パニックにはなっていない。私は異変が起こっていないだろうかと教室を見渡してみた。
そこには小型のメモリーどころか無人の静けさが佇むだけで、私を除けば誰もいない。机が並び窓からは暗闇ながらも校庭と敷地を囲う桜の木が見える。
「…………あれ」
その時だった。その風景。懐かしさを覚える見慣れた場所だと思ってしまう。ううん、教室なんてどれも似たような作りだし、だからそう思うのかもしれないけど……、でも。
「ここ、もしかして」
見覚えがある。この机の配置。そして窓から見下ろす学校と街の景色。ここからしか見えない街並みを、私は覚えている。
まさか。もしかしてと思いながらも、私はある種の確信を抱きながら黒板に目を向けてみた。
「三年、二組……」
私の表情が緊張で固まっていく。身体が、強張る。そこに書かれていたのは三年二組の文字。
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