観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
ありがとう
ホワイト。見上げる彼はいつも無愛想で冷たくて。何を考えているのか分からない。なのに彼は私を守ってくれる、本当は優しい人。
「どうして、助けに来てくれたの?」
私は彼になにもしていない。それどころか、私は彼にひどいことを言ってしまった。せっかく助けに来てくれたのに、彼のことを考えず。そんなの誰だって嫌なはずなのに。なのに。
「助けに来てくれたあなたに、私はひどいこと言ったのに。なのに……」
私は嫌な人間だ。それが自分でも分かる。彼を傷つけるなんて、私にそんな資格ないのに。
「なんで? どうして? どうしてあなたは私を助けてくれるの?」
私は彼に嫌われても仕方がない。そんな私を、けれど助けてくれるあなたのあり方に、私は泣きそうだった。
彼に泣いてる顔なんて見られたくなくて、私はホワイトの服を掴んで額を当てた。
「答えてよ、どうして私を助けてくれるのか。そりゃ、……私は可愛いけど、でもあなたになにもしてない。助けてもらう理由なんて、なんにもない! 私は……」
あなたに助けてもらうばかりで、何も出来なくて、ひどいこともして。なのに私は、
「あなたに、何も、してあげられない……」
服を掴む両手に力が入る。
「知りたいか」
そこで、彼が口を開いた。
「当然よ」
「……何故だ」
「だって」
私は言う。彼に聞きたいこと、それを。ずっとずっと、胸にあったもやもやを。
「私はあなたに感謝したいのよ! でも理由が分からないんじゃ、素直に出来ないじゃない。あなたに本当の気持ちで言えない。こんなにも、あなたは私を助けてくれるのに、私は、あなたのことを知らないのよ? 何ひとつッ」
それが悔しくて、私の瞼の裏から涙が落ちる。我慢しようとしても、目の端から零れてしまう。
「アリス」
「え」
すると、ホワイトの両腕が優しく私の背中に回された。そしてそっと抱き寄せられて、私とホワイトは触れ合った。
廊下に伸びる二人の影が重なる。私は彼の胸に顔を覆われ何も見えない。でも、彼を一番近くで感じていた。
「泣くな、お前が泣くところは見たくない。ワンダーランドに雨が降る」
彼の声は温かった。声だけじゃない、私を抱き締める両腕も。
「俺はな、アリス。お前が生まれるのと同時に生まれたんだ。守るために」
「同時に?」
「ああ」
彼は独白のように語る。彼の告白はどこか儚くて、触れたら消えてしまう粉雪のよう。けれど私の胸に舞い降り積もっていく、そこに込められている、あなたの気持ちをちゃんと感じてる。
彼が、話してくれた。あんなに聞いても答えてくれなかったのに。
「俺は――」
どうして私を守ってくれるのか。その問いに、ようやくあなたは答えてくれた。
「お前の、防衛本能だ」
その時の、ホワイトの顔を見ることは出来なかった。いったいどんな気持ちで私に告げているのか、今何を考えているのかは、やはり分からない。
でも、声からはちゃんと伝わってくる。
「知識でもない。心でもない。本能、無意識世界の住人だ。お前を守るために、俺は生まれてきたんだ」
そこに込められた、あなたの決意。私の胸に届いてる。
失われた記憶が怪物となって実体化する意識世界なら、他のものが実体化してもおかしくない。
知識も、心も、本能も。そして彼は知識でも心でもなかった。防衛本能が実体化した人。
だから私を守ってくれる。彼は、私を守ろうとする本能そのものだったんだ。
「どうして、助けに来てくれたの?」
私は彼になにもしていない。それどころか、私は彼にひどいことを言ってしまった。せっかく助けに来てくれたのに、彼のことを考えず。そんなの誰だって嫌なはずなのに。なのに。
「助けに来てくれたあなたに、私はひどいこと言ったのに。なのに……」
私は嫌な人間だ。それが自分でも分かる。彼を傷つけるなんて、私にそんな資格ないのに。
「なんで? どうして? どうしてあなたは私を助けてくれるの?」
私は彼に嫌われても仕方がない。そんな私を、けれど助けてくれるあなたのあり方に、私は泣きそうだった。
彼に泣いてる顔なんて見られたくなくて、私はホワイトの服を掴んで額を当てた。
「答えてよ、どうして私を助けてくれるのか。そりゃ、……私は可愛いけど、でもあなたになにもしてない。助けてもらう理由なんて、なんにもない! 私は……」
あなたに助けてもらうばかりで、何も出来なくて、ひどいこともして。なのに私は、
「あなたに、何も、してあげられない……」
服を掴む両手に力が入る。
「知りたいか」
そこで、彼が口を開いた。
「当然よ」
「……何故だ」
「だって」
私は言う。彼に聞きたいこと、それを。ずっとずっと、胸にあったもやもやを。
「私はあなたに感謝したいのよ! でも理由が分からないんじゃ、素直に出来ないじゃない。あなたに本当の気持ちで言えない。こんなにも、あなたは私を助けてくれるのに、私は、あなたのことを知らないのよ? 何ひとつッ」
それが悔しくて、私の瞼の裏から涙が落ちる。我慢しようとしても、目の端から零れてしまう。
「アリス」
「え」
すると、ホワイトの両腕が優しく私の背中に回された。そしてそっと抱き寄せられて、私とホワイトは触れ合った。
廊下に伸びる二人の影が重なる。私は彼の胸に顔を覆われ何も見えない。でも、彼を一番近くで感じていた。
「泣くな、お前が泣くところは見たくない。ワンダーランドに雨が降る」
彼の声は温かった。声だけじゃない、私を抱き締める両腕も。
「俺はな、アリス。お前が生まれるのと同時に生まれたんだ。守るために」
「同時に?」
「ああ」
彼は独白のように語る。彼の告白はどこか儚くて、触れたら消えてしまう粉雪のよう。けれど私の胸に舞い降り積もっていく、そこに込められている、あなたの気持ちをちゃんと感じてる。
彼が、話してくれた。あんなに聞いても答えてくれなかったのに。
「俺は――」
どうして私を守ってくれるのか。その問いに、ようやくあなたは答えてくれた。
「お前の、防衛本能だ」
その時の、ホワイトの顔を見ることは出来なかった。いったいどんな気持ちで私に告げているのか、今何を考えているのかは、やはり分からない。
でも、声からはちゃんと伝わってくる。
「知識でもない。心でもない。本能、無意識世界の住人だ。お前を守るために、俺は生まれてきたんだ」
そこに込められた、あなたの決意。私の胸に届いてる。
失われた記憶が怪物となって実体化する意識世界なら、他のものが実体化してもおかしくない。
知識も、心も、本能も。そして彼は知識でも心でもなかった。防衛本能が実体化した人。
だから私を守ってくれる。彼は、私を守ろうとする本能そのものだったんだ。
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