観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

お泊まり4

 同じ布団を被りながら私たちは向かい合う。顔の位置はけっこう近くて、普段はなかなか見れない大きな笑顔がすぐ前にある。久遠のはにかんだ笑みは可愛らしい。

「それじゃ電気消すわよ?」

「はい」

 私は点けておいたスタンドライトを消し布団に潜る。部屋は真っ暗になるが、すぐ近くで彼女の息遣いが聞こえてくる。

「いよいよ明日ですわね。緊張していませんか?」

「ううん、大丈夫。久遠がいろいろ気を遣ってくれたから」

「そんな、私はなにも」

「謙遜しないで。分かってるわよ、今日に限って妙にテンション高いんだから」

「……分かりますか?」

「バレバレよ」

 目が慣れてきて久遠の顔がうっすらと見える。恥ずかしそうな表情も。私はそんな久遠に勝ち誇った顔で言うが、すぐに表情を戻した。

「ありがとね、久遠。久遠がいなかったら私、今頃すっごく落ち込んでたと思う。ううん、ずっと泣いてたに違いない。本当にありがとう」

「わたくしはただ。アリスさんが笑っていてくださればそれでいいですわ」

 久遠が小さく笑う。白くきれいな髪をベッドに好きにさせ、小さな口元を持ち上げて。そんな久遠を前に、私も小さく笑った。

「私ね、いじめられてた時、なにも出来なかったんだ。悔しくても、辛くても、それをどうにかしようとしなかった」

「それは――」

 言いかける久遠の口に私は人差し指を当てる。彼女が言おうとしていることは分かる。それは嬉しいけど、でも、今は私の言いたいことを言わせて欲しい。

「私は無力だった。それを思い出したの。そしてそれは今も変わってない。一人で塞ぎ込んで、閉じこもってた。でもね、久遠が来てくれた。こうして私を励まして、傍にいてくれて。だから、私は無力かもしれないけど、久遠がいるならやろうって思えた」

 私は久遠の口から指を離す。そして、彼女の瞳を覗き込みながら、明日への意気込みを語った。

「明日、頑張ろうね」

「はい」

 私たちはそう言って、笑顔のまま眠りについていった。明日にはほんの僅かな希望と、大きな不安と恐怖しかないはずなのに。それでも。私は久遠に感謝した。

 そして、次に考えていたのはホワイトのことだった。彼にも出来ればありがとうと、今度こそちゃんと言いたい。

 ごめんなさいと、今朝のことを謝りたい。もう彼と会うことは出来ないのだろうか? それは、寂しいことだけど。

 彼のことを考えて私の顔が少しだけ暗くなる。ううん、駄目だ。今はこのことを考えるのは止めておこう。今は明日のことだけを、出来ると信じて寝よう。

 私は明日、久遠と小学校へと行く。忘れている記憶を思い出すために。そこで、今度こそ悪夢を終わらせる。隣にいる久遠とならそれが出来ると信じて、私は瞼を閉じていった。

 が。

「くふぅ~!」

「きゃああ! ちょっと久遠、なに抱きついてんのよ!?」

 いきなり久遠がい抱きついてきた!

「わたくし、抱き枕がないと眠れないんですわ~」

「私は枕じゃないぃいいい!」

 久遠との夜はもう少しだけ長くなりそうだ。

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