観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

お泊まり3

 久遠はなにやら期待した目つきで私を見てくるが、私としてはその期待に応えられそうにない。

「かっこいい方でしたものね、羨ましいですわ~」

「いえ、違います」

 きっぱりと、私は断言を以て久遠の期待を葬った。

「え、そうなんですか?」

「彼はその、そういうのじゃないわ」

 彼のこと、ホワイトのことが話題になり僅かに顔が暗くなる。今朝のことを、思い出してしまうから。

「久遠はその、ホワイトのこと怒ってないの?」

「それは……、正直に言えば怖かったです。でも、あの人がアリスさんのことを本気で心配しているのは分かりましたわ。彼は、優しい人です」

 優しい、か。

 突然銃を向けてきた彼をそう言える久遠もすごいけど。でも、そうね。ホワイトのことを思い出すと、いつもあんなに無愛想なのに、不思議と怖くない。

「私が怪物に襲われた時ね、彼が助けてくれたの。彼だけはメモリーを倒すことが出来て、私を守ってくれるって」

「そうだったのですか」

 私は久遠との会話中、意識を少しだけずらしてホワイトのことを考えた。彼は今どうしているだろう。私の言葉に怒っていないか、呆れていないか。

 できれば謝りたい。気が動転していたあの時では言えなかったことを、伝えたい。

 また会えたら、今度こそは正面からお礼を言いたいと、思っているんだから。

「頼もしい方ですわね。ですけれど、何故そのホワイトという方はメモリーを倒せるのでしょうか。それにアリスさんを守ってくれる理由はなんなのですか?」

「それは、実は聞いても教えてくれなかったのよ。そこはすごく頑固で。ただ、彼は表層世界の人間じゃない。それだけは確かだわ。そうじゃないとメモリーは倒せないもの」

 メモリーは失われた記憶が実体化した怪物だから、物理的な攻撃は利かない。幽霊みたいなものと、なんとなくだけど同じだと思う。

「なるほどですわ。では、あのホワイトさんもアリスさんの何かが実体化した存在なのですね」

「え!? あ、そっか」

 言われて思いつく。そうか、メモリーが失われた記憶が実体化した存在のように、表層世界の者でないなら、ホワイトも私の何かが実体化した存在なんだ。

 気づかなかった。メモリーのような怪物ならともかく、彼は一見普通の人間と同じだから。

「アリスさんは彼の正体に心当たりはないのですか?」

「うーん」

 私は腕を組んで頭を捻る。ホワイトの正体、気になるけれど、でもどれだろうか。意識世界は知識と心と本能でできていて、知識でないのなら心か本能になる。

 本能というのはよく分からないけれど、心ならば、どうだろう。

 勇気、とか? あんな怪物と戦うくらいだし。でも、どうにもピンとこない。

 私を守ってくれる理由もはっきりしないし。じゃあ、私を守ってくれる心ってなんだろう。…………友情とか? それとも、愛、とか? いや、それは絶対にない。

「うーん、難しい」

 彼について知っていることも分かることも少ない。そもそも、あんな素性不明な男のことなんか分かるわけないわよね。

「明日もあることだし、そろそろ寝ようか」

「はい」

 私は立ち上がりベッドに横になる。その後久遠も入ってくるので体を隅に寄せた。それでもシングルベッドの上ではぎりぎりで、もちろん同じ布団を被る。

「なんだかまた窮屈。ごめんね久遠、こんなんで」

「そんな。むしろわたくしは楽しいですわ」

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