観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
深層世界にて死せるメモリー、夢見るままに待ちいたり
私はいじめられていた。それを、この日知った。
私はいじめに対してなにも出来なかった。どれだけ辛くても、苦しくても。一人で泣いているだけだった。
そう、なにも出来なかったんだ。その時の私は臆病で、いじめの恐怖に怯えていた。
ずっと、一人で――
*
「忌ミ子ヨ忌ミ子、ドレダケオ前ガ叫ンデモ、声ハ母ニハ届カナイ」
それは深海を思わせる暗闇の空間だった。果てしなく広く、空気は重い、光のない黒の世界。
「アア、忌ミ子ヨ忌ミ子、捨テラレタ哀レナ子。ソレホドマデニ母親ヲ欲スルカ」
生命どころか音も存在し得ない、この世ならざる場所で、しかし、そこには蠢く何者か、湧き上がる怨嗟にも似た叫びが、いくつもあった。
それは声。
それは祈り。
それは本能。
生まれてきたものには意義があり、あるべき場所があるのなら。
叫びを上げる彼らは間違いなく、ここにいるべきではなかったから。
「ナラバヨシ」
叫ぶ彼らとは別の声が、彼らに道を示す。
それは言葉。
それは計画。
それは願望。
存在するものには目的があり、叶えるべき望みがあるのなら。
彼らを導く彼は間違いなく、己の願いを形にしていた。
「道ハ開イタ。母親ハスグソコダ」
そして、彼は、彼らを、この暗闇の牢獄から母の元まで届けるために、この世界から姿を消していった。
それは行動。
それは変化。
それは遊戯。
これはまだ、途中。
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