観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

明かされる真実3

「はあー」

 私は自分の部屋に戻るなりベッドへと寝ころんだ。時刻はもう夕方だ。今日はさんざんな一日だった。振り返ればいろいろあり過ぎて困る。

 黒い怪物に追いかけられて、ホワイトに助けられホテル最上階で食事をし、最後にはメモリーを倒して記憶を取り戻した。

 くたくただ。このまま寝てしまおうかしら。

 そんな甘い誘惑がささやくが、私は重い体を起こす。このまま寝るというのはよくない。夕食の準備やお風呂に入らなければ。

 けれど、食事を作るのは億劫だな。昼にあんな豪華な食事をしたばかりだけれど、今日の夕食はなにか買ってくることにしよう。

 私はベッドから降り私服に着替える。ホワイトに買ってもらったドレスをクローゼットに仕舞った。

「……もう、終わったのよね」

 たった一日の出会いだったけれど、特別な時間だった。またこのドレスを着ることはあるのだろうか。そんなことを思いながら、私は静かに扉を閉めた。

 そして近所のスーパーで買い物をし終え再び部屋へと戻る。私は食事を進めるが、そこでふと思い出してしまった。

「観測者、か……」

 今回の騒動、毎日見る夢と黒い世界。メモリーの怪物。それらは全部、私が忘れていたトラウマの記憶が原因だった。

 きっと、夢で助けを呼んでいたのは幼い頃の私だったのだろう。そう思い、不意に顔が暗くなる。

「私、いじめられてたんだ……」

 やはり、というか、改めて思うと傷つくことだ。ホワイトの前では気丈に振る舞ったつもりだけど、やっぱり。

 今まで順調に人生を歩んでいたと思っていたのに、実はいじめられていたなんて。どうしてそんなことをするんだろう。…………私可愛いのに。

 でも、ううん、分かる。私は記憶を取り戻した、だから分かる。どうしていじめられたのか。

 きっかけは些細なことだった。声を掛けられたのに気づけなくて、私はその子を無視してしまった。

 それに腹を立てた相手が友達と一緒に私を無視し始めたんだ。机に悪口を書かれたこともあった。トイレに入ったら上から水をかけられたこともあった。

 私は先生にも親にも相談出来なくて、一人でずっと、泣いていたんだ。

 私はいじめに対してなにも出来なかった。どれだけ辛くても、苦しくても。一人で泣いているだけだった。

「…………」

 食事の箸が完全に止まっている。問題は解決したはずなのに、心は晴れない。ううん、晴れるはずがない。ホワイトは教えてくれていた。答えは私にとって毒だと。

「ああ、もう!」

 真実は私にとって辛いものだった。けれど、私はそれでも決意した。うん、私は覚悟してこれを選択したはずだ。なら落ち込んでても仕方がない!
 
「こうなったらヤケ食いよ!」

 私は乱暴に箸を動かして、残りのお刺身とごはんを食べていった。

 食事は終わり、私はお風呂に浸かる。肩まで湯船に沈めて、からだ全体をお湯に浸す。今日はいろいろあったから疲れをいつも以上に出したくて。

 私は普段よりも長風呂に身を預け、のぼせる前にバスルームを後にした。

 髪をかわかし、お気に入りの純白のネグリジェに着替えてベッドに横になる。時刻は九時。まだ寝るには早いけど、今日はもう寝てしまおう。

 今日くらい勉強はお休みだ。学校も休んでしまったのだし。

 私は布団の中で天井を見上げる。あとは寝るだけ。瞼を閉じて、何も考えず、体をベッドに預けていればそれは出来る。

 けれど、その後はどうなるのだろう。私はいったい、どんな夢を見るのだろうか。

「あ、考えてなかった」

 悪夢は終わった。記憶を取り戻したことで。なら、私は新たな夢を見ることになる。

「……ふーん」

 私は上機嫌に声をもらす。だって、仕方がないというものじゃない。新しい夢が見れる。そう思えばなかなか楽しみなことだ。

 今まで悪夢ばかり見せられてきたのだから、今度は楽しい夢がいい。夢のような夢を見させて欲しい。

 もし夢を見るのなら……、そうね、甘いものを食べる夢がいいわ。今まで散々頑張ってきたのだから、ご褒美くらいあってもいいわよね。

 ホールケーキを独り占めとか。夢なんだから遠慮しないわ。

「ふふ」

 なんだか楽しくなってきた。どんな夢が私を迎えてくれるのか、期待に胸が躍ってしまう。

「おやすみなさい、私」

 私はまぶたを閉じて、そんな甘い願いを抱いたままゆっくりと眠りについていった。

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