観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

明かされる真実2

 白衣を身に纏い、銀髪を風に揺らし、私を守る者だと躊躇いもなく言ったあなた。彼と、別れなくてはならない。

「ねえ、最後まであなたのこと、教えてはくれないの?」

 私はホワイトを見上げながら、再度彼のことを知ろうと聞いてみた。往生際が悪いと自分でも思う。

 でも。私のことを助けてくれた人を知ろうとするのが、そんなにもいけないこととは思えないから。

「ああ」

 彼は一言、ああと、冷たく呟くだけだった。
「これで、会うのが最後かもしれないのに?」
「ああ」
「あなたはそれでいいの?」
「ああ」
「……ああしか言えないの?」
「いや」
 胸に芽生える不満。苛立ち。やっぱり彼は変わらない。初めて会った時となに一つ。
「まったく、冷たい人」
 風船から空気が漏れるように、膨らんだ不満が口に出る。命を助けてくれた間柄なのに、私と彼は最後まで、けっきょく他人のままなのだ。
「なんだ。いじめにでもあった感傷を慰めに来て欲しかったのか?」
「そ、そんなことないわよ!」
 私は腕を組みフンと顔を背ける。なんでもないことのように。むしろ自慢気な顔すら浮かべてやる。
「なによ、たかが小学生の時の記憶じゃない。あんなの昔のことよ。それに今の私は充実してるもの。友達だっているし? あんたは知らないでしょうけど、この前なんか三人の男の人に声かけられたんだからあ~」
「ああ、知っている」
「なんで知ってんのよ!」
 名前といい、住所といい、本当はストーカーなんじゃないでしょうね!
 私は睨み上げるがホワイトはすまし顔だ。それがますます腹立たしい。
「もういい、あんたなんてどっか行っちまえ。二度と私の前に現れるなこのストーカー、 もし出てきたらすぐに通報してやるんだからね! さっさとどこかに消えちまえ!」
「まったく、うるさい小娘だ。そうするよ、耳がもたん」
 そう言うとホワイトは歩き出して行った。「じゃあな」と、一言残して。
 コンクリートの地面を歩く乾いた足音がなり、彼の後ろ姿が遠ざかる。歩調に合わせてコートが揺れて、彼は真っ直ぐと歩いていく。
 一陣の風が吹き私の髪が視界を遮った。風はすぐに止み、私は急いで髪を元に戻して前を見る。だが、そこに彼の姿はいなかった。右を見ても左を見ても。この広場に彼の姿を見つけることは出来ない。まったく、けっきょくこんな別れ方。最後まで寄りが合わなかった彼。だけど私は不満を引っ込めて、柔らかな笑みを浮かべた。
「ありがと、ホワイト……」
 私にしか聞こえないように、いなくなってしまった彼へ思いを呟く。ありがとうと。もうここに彼はいないのに。でも何故だろう。まだどこか、身近に彼がいる気がしてる。だから私はせめてお礼を言っておいた。きっとこれが最後なのだから。
 そうして、メモリーはいなくなり、ホワイトも私の前から消えていった。いつもと同じ世界には私一人だけが残される。私の日常の中にあった特別が今日、終わる。
 見上げれば、昼の柔らかな青空がいっぱいの光と共に、世界に広がっていた。

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