観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
決着3
この時の私は悪夢を終わらせる目的と、メモリーに対する恐怖のことで頭がいっぱいだった。私がいったい何を忘れているのか、メモリーの正体とはなんなのか。
トラウマの記憶。それが、なにを意味するのか、この時の私は深く考えていなかった。
私の覚悟と、彼の言う覚悟が別のものだと、分からなかったのだ。
「始めろ。やり方は分かるだろう」
背中越しの彼に促され、私はアルバムへと視線を落とす。アルバムを正面に持ってくる。
やり方なら分かる。これを開いて、記憶を思い出そうとするだけ。すでに一度はやったこと。
いよいよだ。私は軽く息を吐いてから、意を決してアルバムを開いた。ページをめくる度に記憶の断片が蘇る。切り取られた過去を一枚一枚見つめていき、そして私の目が集合写真で止まる。
ここだ。前見たときはこの写真を見ていたら痛みがやってきた。
が、痛みがやって来る前に異変に気付いた。
「え、どういうこと!?」
前見た時はおかしなところなんてなかった。しかし今は違う。昇降口を背景にクラス全員が並んでいる写真。
そこで皆が私から離れているのだ。集合写真なのに、私だけぽつりと立たされている。さらに、皆が私から顔を背けている。まるで私を見たくないように。
「写真が変わってる! これは……」
「黒い世界の影響だな」
戸惑っている私に、ホワイトは振り返ることなく教えてくれた。
「メモリーが出現したことにより本来交わることのなかった表層世界と深層世界が重なり始めている。このまま放置しておけばこの世界とワンダーランドが融合し、トラウマが表層世界にまで反映されただ事ではなくなる。早くケリを着けるぞ」
「わ、分かったわ」
このままだと、世界がめちゃくちゃになる? その異変の前触れが写真の変化で、放っておけば、こんな変化があちこちで起きるの?
私は危機感に急かされ、すぐに写真に目を落とした。前とは違った光景の写真。けれど。
「うう!」
痛みはまたもやってきた。激しい頭痛が警告のように現れる。
「くっ!」
痛い。片手で頭を押さえる。気づかないだけで、私は頭から血でも流しているのではないだろうか。頭の中を駆けめぐる苛烈な責め苦に眉間に皺が寄る。
でも、これで。これで開くはず。私と、失われた記憶、黒い世界へと。
「来るぞ」
ホワイトの言葉に、私は苦しさを耐えて視線を上げた。
すると私の足下を起点として、周囲が影に浸食されていった。街が黒く染められ空も塗りつぶされる。
人は姿を消して、私たちを除けば無人の黒い街。そして、聞こえてくるスピーカー越しの声。
『助け、て。ザッ、ザー……、タス――ザッ――ケ、テ……』
少女の声だ。助けを求める、あの子の声だ。
そして、それはきた。
ぞわりと、背筋が凍る。予感だった。悪い予感。直後、氷に触れたように心が固まる。
くる。あの怪物が来る。まだ現れてもいないのにこの恐怖。怖くて息も出来ない。頭痛はすでにない。けれどあの痛みがましなほど、これはまずい。
そして、ついに現れた。
「グオオオオ!」
「ひぃ」
私たちの目の前に。まるでサソリとヘビを合わせたような巨大で黒い怪物。大きさは噴水が上げる水に届くほど。全長はそれよりも長い。禍々しく、不気味な巨体を蠢かせ、怪物が再度叫ぶ。
「グオオオオ!」
「あ」
私はアルバムを地面に落とした。目の前の怪物を、見てはいけないと思うのに見てしまう。目が離せない。顔が固定されてしまって、恐怖のあまり動きを止めてしまう。
トラウマの記憶。それが、なにを意味するのか、この時の私は深く考えていなかった。
私の覚悟と、彼の言う覚悟が別のものだと、分からなかったのだ。
「始めろ。やり方は分かるだろう」
背中越しの彼に促され、私はアルバムへと視線を落とす。アルバムを正面に持ってくる。
やり方なら分かる。これを開いて、記憶を思い出そうとするだけ。すでに一度はやったこと。
いよいよだ。私は軽く息を吐いてから、意を決してアルバムを開いた。ページをめくる度に記憶の断片が蘇る。切り取られた過去を一枚一枚見つめていき、そして私の目が集合写真で止まる。
ここだ。前見たときはこの写真を見ていたら痛みがやってきた。
が、痛みがやって来る前に異変に気付いた。
「え、どういうこと!?」
前見た時はおかしなところなんてなかった。しかし今は違う。昇降口を背景にクラス全員が並んでいる写真。
そこで皆が私から離れているのだ。集合写真なのに、私だけぽつりと立たされている。さらに、皆が私から顔を背けている。まるで私を見たくないように。
「写真が変わってる! これは……」
「黒い世界の影響だな」
戸惑っている私に、ホワイトは振り返ることなく教えてくれた。
「メモリーが出現したことにより本来交わることのなかった表層世界と深層世界が重なり始めている。このまま放置しておけばこの世界とワンダーランドが融合し、トラウマが表層世界にまで反映されただ事ではなくなる。早くケリを着けるぞ」
「わ、分かったわ」
このままだと、世界がめちゃくちゃになる? その異変の前触れが写真の変化で、放っておけば、こんな変化があちこちで起きるの?
私は危機感に急かされ、すぐに写真に目を落とした。前とは違った光景の写真。けれど。
「うう!」
痛みはまたもやってきた。激しい頭痛が警告のように現れる。
「くっ!」
痛い。片手で頭を押さえる。気づかないだけで、私は頭から血でも流しているのではないだろうか。頭の中を駆けめぐる苛烈な責め苦に眉間に皺が寄る。
でも、これで。これで開くはず。私と、失われた記憶、黒い世界へと。
「来るぞ」
ホワイトの言葉に、私は苦しさを耐えて視線を上げた。
すると私の足下を起点として、周囲が影に浸食されていった。街が黒く染められ空も塗りつぶされる。
人は姿を消して、私たちを除けば無人の黒い街。そして、聞こえてくるスピーカー越しの声。
『助け、て。ザッ、ザー……、タス――ザッ――ケ、テ……』
少女の声だ。助けを求める、あの子の声だ。
そして、それはきた。
ぞわりと、背筋が凍る。予感だった。悪い予感。直後、氷に触れたように心が固まる。
くる。あの怪物が来る。まだ現れてもいないのにこの恐怖。怖くて息も出来ない。頭痛はすでにない。けれどあの痛みがましなほど、これはまずい。
そして、ついに現れた。
「グオオオオ!」
「ひぃ」
私たちの目の前に。まるでサソリとヘビを合わせたような巨大で黒い怪物。大きさは噴水が上げる水に届くほど。全長はそれよりも長い。禍々しく、不気味な巨体を蠢かせ、怪物が再度叫ぶ。
「グオオオオ!」
「あ」
私はアルバムを地面に落とした。目の前の怪物を、見てはいけないと思うのに見てしまう。目が離せない。顔が固定されてしまって、恐怖のあまり動きを止めてしまう。
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