観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

食事2

 きた。きっとコース料理、ううん、そうに違いない。私の期待が高まる。コース料理は初めて目にする。いったいどんな料理が運ばれてくるのだろうか。

「失礼します。サーモンとマグロのマリネ、カクテル仕立てになります」

 料理名を告げられながら、ついに私の眼前にお皿が置かれる。きたきたきた~! ちょうどお腹空いてきてんだよね! そこに盛りつけられた一品目。それは!

 ちっさ! あ、でも綺麗。

 大きく丸い形をした白いお皿。そこに小さなブロック状のサーモンとマグロがドレッシングと一緒に混ぜられ盛りつけられている。

 お皿のわりには小さな山が中央に乗せられ、他にはウニやタイ? のカルパッチョもある。ウニの上に乗っているのはもしかしてキャビアだろうか。

 そんな、どうして名前に入れてあげないの、可哀想じゃない! こんなにも立派な子なのに。

「い、いただきます」

 緊張しながら、私はフォークでサーモンとマグロのブロックを持ち上げる。ドレッシングで光り輝くそれらはまるで宝石のようで、酸味のある香りがまた食欲を刺激する。

 私はゆっくりと、それらを口へと運んだ。

「ん、おいしい~」

 舌の上を転がるサーモンの甘味とマグロの濃厚な味、二つを包む酸味のあるドレッシングが後味爽やかでくどくない。

 ちょっと待って、本当においしんですけど。それにマグロってこんなに味した? 私が買う閉店間際の半額マグロは味しないわよ!?

「おかしいわ、この世界が私の知識でできているなら、マグロはこんなに味しない。そんなの私知らないもの」

 動揺する私をよそにホワイトは静かに食事を進めている。憎たらしいけど、そんな彼は本当に似合っていた。優雅さと気品があって。彼は口の中のものを呑み込み、手を止めた。

「それもお前の常識だ。安いものの味はそれなりにしかない。また、高いものは美味い。そういう無自覚な認識が両者の味を分ける。とはいえ、観測者にも好みはあるがな。それと、常識的に自分と他人では味の好みが違う、という認識もまた世界に反映されている。お前が美味いと思うものでも、嫌いな人間がいるのはそのためだ」

「でもさ、気にはなってたんだけど、やっぱりおかしくない? 世界にそれが存在しているから私が知っているんじゃなくて、私が知っているからそれが存在しているなんて、矛盾してるわ。私が知らないものを、どうやって私は知ったの?」

 たとえば目の前にあるフォークだってそう。生まれたばかりの私は当然だけどフォークなんて知らない。だけど、フォークはここにある。どうして?

「必要がなかったから省いていたが、観測者というのはお前が初めてではない。代々継承されるもので、観測者が亡くなると同時に新たな観測者が生まれる。表層世界を引き継いでな」

「なるほど」

 私がフォークを知らなくても世界にフォークがあるのは、先代が知っていたからか。

「じゃあさ、次の質問だけど、飛行機ってあるじゃない。なんであれは飛べるの? 私飛行機の構造なんて知らないし、歴代の観測者は飛行機の作り方まで知ってたの?」

「小娘にしてはいい質問だな」

 どういう意味よ? こいつ時代錯誤の男尊女卑主義者?

「表層世界観測理論における不確定性原理によれば、原因と現象は必ずしも相互関係していない。重要なのは飛ぶという知識だけだ。原因、この場合における構造は観測する時になって初めて存在することになる。ただし全てのものが正確に測定できるわけではなく、観測者効果による世界の僅かながらの改変も認められている」

「…………」

 日本語でオーケー。

「ようするにだ」

 意味不明な言葉の羅列に茫然としていると、ホワイトは顔を少しだけ顰めた後説明を付け加えてくれた。

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