観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

ホワイト3

 私は咄嗟に否定の言葉を出そうとしたけれど、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。そうだ、ここで違う、と言ったところで仕方がない。

 ホワイトは信じるかは勝手にしろと言った。私はそれでも構わないから説明を求めたのに、否定するのは、本当に私の自分勝手なことだから。私はそれだけはしないようにした。

 では信じるかといえばそうではなくて。衝撃に戸惑う私というのもいる。私はどう心の整理をつければいいのか、口を閉ざしたまま僅かに目線を下げた。

 気持ちが重く、暗くなる。どうしよう。否定はしないけど、信じることも出来ない。

「今度からは軽率な行動や感情的になるのは控えるんだな。観測者であるお前が世界に与える影響は大きい」

 だというのに、ホワイトは無遠慮にそんなことを言う。私が考え込んでいるのを知っているはずなのに。

「そんなこと、急に言われても。すぐには納得出来ない。私が、世界の元になっているなんて」

「だろうな。お前は観測者だが、同時にそこいらにいる小娘と同じだ」

「こむッ」

 あまりの言い草に声が漏れてしまった。なによ、そんな言い方しなくてもいいじゃない。こっちは戸惑ってる中でも気を遣ってあげたのに。なんだろう、この感じ。だんだん腹が立ってきた。

「あなたがなんと言おうと、そんなことすぐに納得できる人の方がおかしいわよ。それに私が観測者だと言うけれど、証拠はあるの?」

「今朝の体験が誰にでも起こると思うか?」

 黒い世界で黒い怪物に襲われる経験。確かに、それはそうだけど。あんなこと普通では起こらない。言い返せない不満が私の頬を膨らませる。

「それはその、信じたわけじゃないけど、否定も出来ないから、まあいいわ。でもあなたはなんなのよ。私、あなたのことはまだ何も聞いてない。私を助けてくれたけど、どうして? 私を守る者って、どういうことよ?」

 彼は私を抱えて逃げている途中、私の質問に答えた。お前を守る者だ、と。真剣な表情でそう言った彼の顔を、私は今も覚えている。少しだけ、かっこいいとも思ってしまったことも。なのに、

「言えない」

 彼は答えてくれなかった。

「どうして?」

「どうしてもだ」

「じゃあ名前は? ホワイトってどう考えても偽名でしょ?」

「いや、俺の名だ」

「……嘘つき」

「嘘じゃない」

「なら証明できるの?」

「いや」

「ふぅーん」

「なんだその拗ねた顔は」

 何も答えてくれない彼にだんだん不信感が募っていく。彼には助けてもらったけど謎が多い。少しくらい、教えてくれてもいいのに。

 それに態度も偉そう。きっと人から敬遠されるタイプだと思う。だって素直に喜べないもの。

「言えないこともある。察しろ小娘」

 また小娘。そりゃあ、私は年下かもしれないけど。でも、もっと言葉を選んでくれてもいいのに。

「あなたこそさっきからその、何様なのよ。そりゃ、あなたには助けてもらったし、それは感謝してるけど、だからといって失礼じゃないの? なんで私のこと知ってるのよ、けっきょくあなたは誰なの?」

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